第2話 「混乱」
2023/05/23 11:30
目の前には血を流して倒れている人が居た。ドラマでしか見たことの無い光景が眼下で起きている。
血の気が引き、足がすくむ。
さらに奥でも悲鳴が聞こえるので恐る恐る行ってみる。
3人が3人、予測も出来ない事態に恐怖している。
ショッピングセンター内のカラオケ屋、つまり僕達がいる場所は3階だ。3階には倒れている人が何人かいる以外人は見当たらない。悲鳴は2階から聞こえているようだ。
「な、なあ。これはなにかの冗談だろ・・・」
普段は陽気でデカい剛史の声も震えて小さくなっている。
二階へ続く階段を降りる。降りた先では多くの人達が四方八方に向かって逃げまどっていた。
キャアアアアアアという一際大きい悲鳴が聞こえたので振り向いた。
あれはなんだろう。目の前の光景を脳が理解する事を拒む。女の人の断末魔に似た声。その女の人の首に噛みついていたのは人間・・・?
形は人間だ。そこに疑いの余地は無い。しかし動きは人間のそれでは無かった。
第一、人間が人間に噛みつくなんて事があり得てなるものか。襲うにしたってもっと違う効率の良いやり方があるだろう。
衝撃を受けたのはそれだけでは無い。同じような光景が数ヶ所で見られた。その事が異常だ。
その光景はアニメやドラマ、映画でよく見る“ゾンビ”そのものだった。
あり得ない。こんな事あり得る訳が無い。ああきっと僕は夢を見てるんだ。
先ほど襲われている女の人の所にまた視線を戻す。ゾンビは女の人の首の皮を引きちぎり、それに満足したのかまた別の人を襲おうと進んでいる。女の人は倒れたままだ。
ショックと痛みで気絶しているのだろうか。出血をしていて血は出ているものの、死ぬほどの出血量ではない。人間は一リットル以上血を流さなければ出血で亡くなる事は無いはずだ。
と、倒れてた女の人が動きだした。良かった気絶していただけだ。救急車を呼ばなければ。
しかし何か様子がおかしい。まず動作。人間では無いような動き方、姿勢をして歩き始めた。さらにヴガガガなどとどこから出したのかもわからない音を出し始めた。もはや人では無い“ソレ”と目が合った。目が合い、そしてこちらに向かってこようとしている。
「あっ、あの。だ、大丈夫ですか」
理解が出来ない僕は咄嗟にその言葉が出てきた。
呆然としている。こんなのは何かの間違えだ。“ソレ”は一歩一歩、普段歩く速さよりもちょっと遅いくらいのスピードでこっちに近寄って来る。
なんだなんだなんだ。
“ソレ”との距離は5m程になる。依然として相手の応答は無い。こちらに向かってくる、のみだ。
「おい、バカ!なにやってんだ!逃げるぞ!!!」
発破をかけたのは剛史だ。呆然としていた僕と和也の腕を引っ張り反対方向に向かって走る。
腕が引っ張られて我に返った僕は引っ張られている腕を戻しながら
「逃げるってどこに逃げればいいんだ」
と言う。
「馬鹿野郎、とにかく襲ってくる奴らから離れればいいだろ!!!」
「もし逃げるなら、外ですかね…外まで行けばこの混乱から抜けられるはず・・・!」
同じく我に返った和也がそう言う。
外に向かうにはエスカレーターを使って一階に降りてそれから正面入口に進めば!
ここから一刻も早く抜け出したかった僕もその案に賛成、僕達は正面入口を目指して進んだ。
逃げる最中、周りを見渡す。人を襲う“ソレ”、襲われた人がなっている“ソレ”は“ゾンビ”そのものであった。
一階に繋がるエスカレーターまで到達した。どうやらみんな考えてる事は同じらしい。
こんな不気味なショッピングセンターからは抜け出したい。こんな非現実的な場所にこれ以上いるのはもう御免だ。
ここを抜ければいつもの平和な日常が待ってる!という幻想はすぐに打ち破られることになる。
人が余りに集まって来るものだからエスカレーターは上の階で人混みの渋滞を起こしている。そんな時だ。下の方から叫ぶ声が聞こえた。
「下にはもっと沢山ゾンビがいるぞ!!!!こっちに来るな!!上ににげ、、うわあああああ」
人混みになりながらも下に向かって流れてた人の流れはこの叫び声を皮切りに上に向かおうとする人達が表れた。この叫び声は大きかったものの列の後ろまで聞こえる程大きい声ではなかったので後ろの方の人達はいまだに下の方に向かって進んで動こうとしている。
そんな混乱具合だったのでついに僕達はおしくらまんじゅうにあい、ついに動けなくなってしまった。
その時だ。自分らの少し前にいた人だろうか。バランスを崩し下に躓いた。そしてドミノ倒しにエスカレーターに居た人達は下の階に落ちる。
助けてという悲鳴が沢山聞こえる。もはや悲鳴はあちこちに広がりBGMなのではないかという程であった。
下に落ちた人達の様子を見た。下に落ちて意識を失った者、なんとか立ちあがり足を抑えている者。様々であった。
しかしその落ちた人らをゾンビ達は容赦なく襲う。襲う。襲う。
何人かは命からがら上へあがってこられたものの、ほどんどの人は襲われ、噛まれた。
唖然としてる暇は無い。上へ上へ逃げなければ!
上からも何体かのゾンビはやって来ている。もはや絶体絶命だ。
僕と剛史、和也は3人で逃げた。逃げ続けた。
襲われる人、絶望に駆られ立ち尽くす人、泣きだす子供。それらを全て横目にただひたすら、ひたすらに走り続けた。
「おい!兄ちゃん達!これやるから使え!」
逃げ続ける僕らにそう声を掛け、高枝切りバサミを3本こちらに渡してきたのは屈強ながらも優しさの見える顔をした男だった。




