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崩壊した世界でそれでも僕らは生きる  作者: ひぐは
第一章 ショッピングセンター立てこもり編
1/3

第1話 「日常の終わりは突然に」

2023/05/23 08:00


なにか面白い事ないかな。



学校に向かう電車に乗る間、ふとそんな事を頭に思い浮かべた。決して学校が楽しくないわけではない。寧ろ楽しい。幸いこの学校では友達にも恵まれ楽しい学校生活を歩んでいる。


しかしここで言う“楽しい”とはその意味では無い。災害が起きた時に非常時のテレビ特番を見てちょっとワクワクした気持ちになるとか、急いでない時の駅のホームで人身事故が発生してドキドキしながら決してグロい様子が好きな訳でも無いのにブルーシート越しに運ばれる遺体を写真で撮る時のような、所謂“非日常的な楽しみ”である。

当然平和なこの世界においてそのような事は稀にしか発生しない。しかもその望んでいる非日常において自分は必ずその非常事態の傍観者である事が前提となっている。

そのようなちょっと不謹慎な事を思いながら学校に向かう。

電車の車窓からはいつもの街並みが広がっている。いつもの、


いや、今日はちょっといつもの様子とは少し違うかもしれない。パトカーや救急車の音が高頻度に聞こえてくるような。

ここで少しスマホを確認。ニュースを見ると『博多で傷害事件が多発』という速報が入ってきた。なんだ、いつも通り流石福岡は治安が悪い。


家から学校までは約1時間、JR鹿児島本線の博多方面に向かう電車に乗る事40分間ずっと電車に乗っていると非常に暇である。入学を決めた当時、家から電車一本で行ける場所にある高校に進学できるなんて最高だ!なんて言っていた自分を叱ってりたい。


そんなこんなで学校に到着。


「よぉ、司!」


教室についた途端話かけてきたのは伊野剛史、僕の仲のよいクラスメイトだ。


「今日の放課後、中間テストの打ち上げとしてカラオケいかねーか?」


昨日まであった中間テスト、結果はあまり芳しくはないだろうが徹夜して勉強した為(実際には徹夜して勉強するつもりで大半をゲームの時間に充ててしまったが・・・)、昨日もこいつにカラオケに誘われたのに眠いといって断ってしまった。


「まさか、今日も眠いから無理なんて言わんだろーな?」


と剛史に念を押された


「もちろん。いけるよ。行こうぜ」


と返す。


「おっけぃ!じゃあ放課後、場所は例のデパートのカラオケ屋にしよう。和也あたりも誘っとくわ!」


例のデパートとは学校から電車で10分ほどで行ける場所にある所だ。そこの館内にカラオケ屋は存在している。以前剛史が職員室に忍びこんで教師の放課後見回り場所リストにこのデパートが入っていない事を確認している。


そうして授業が始まる。朝のHRが終わり、次は1時間目。科目は数学だ。きっと昨日の中間テストの解説でもするのだろう。数学は特に出来なかったので気が重い。授業なくならないかなと思いながら教室に先生が入って来るのをビクビクして待つ。


授業開始を5分過ぎても先生がやってこない。


クラス内が徐々にざわざわしてくる。

実際こういう事はまぁそこそこな頻度である事だろう。先生が授業開始時間を忘れるとか、プリントの印刷に時間がかかっているとか。そう、特に今日は中間テスト明け最初の授業だしきっと中間テストの解答解説でも配る為に大量に印刷しているのだろう…


授業開始時間から20分が経過、これは先生が授業時間を忘れていたに違いない。クラスの誰も先生を呼びに行きたがらないし、僕だって出来れば中間テストの解説なんて聞きたくは無いので先生を呼ばれては困る。今日はせっかく打ち上げがあるのにこんな所で気分を害したくは無い。


その時学内放送が聞こえる。


「───えー、皆さん。本日、博多にて傷害事件が多発している状況でございます。」


教頭の声だろう。朝ニュースでやっていた博多の連続傷害事件の件だ。


「学生を狙った傷害事件も発生しているという事で、学校としてはこの事態を重く受け止め本学校の生徒にも危害が及ぶかもしれないということから本日、臨時休校にします。」


「うおおおおおおおおおおおおお!」


「いえええええーーい!」


クラスからは歓声が沸き上がる。他のクラスの歓声も聞こえた。例えどんな理由であろうと、学生にとって臨時休校というのは嬉しいものである。台風が通過する時、大雨警報が発令された時、インフルエンザウイルスが流行っている時、どんな時も学生にとって心待ちにしているのは臨時休校である。


「なあなあ、聞いたか。臨時休校だとよ。」


剛史が陽気な声でそう言う。


「これは“フリータイム”でカラオケに行けということですね!」


和也も喜んでそう言う。彼も僕のクラスのクラスメイトであり友達だ。


「お、おう。そうだな。」


困惑しながらも学校が休校になった事、カラオケに行く時間が増えた事は嬉しい事である。


そうしている間に教室の扉が開いた。


「はーいはいはい席に着けー!」


担任がいつもの調子で教室に入ってきた。

教室では今日どこに行くか。ここでお昼ご飯を食べよう。などという話題で持ち切りであった。


「いいかー?さっき放送でもあった通り博多で連続傷害事件が多発してるみたいなんだ。そこで今日は臨時休校、ということで寄り道せず真っ直ぐ家に帰るように。決して今日は休日じゃないからなー?」


「と言っても今のいいつけを守らない人は守らないと思うので──」


こうやって本音を言ってしまう所がうちの担任の甘い所だ。


「例え遊びに行くにしても、福岡市、特に博多には絶対に行かないように!博多は今、本当に危険らしいからな。特に博多付近に家ある人は暗くなる前に必ず帰る事。じゃあみんな気を付けて帰れよ~!」



────────────────────────────────────────────────────────────────────────



とても早い時間に帰れる事が決定し心はウキウキしている。時刻はまだ9時半だ。


「じゃあまぁフリータイムでカラオケ行くことは決定だな!あそこのフリータイムコースってドリンクバー付いたっけ?」


「確かついたはずですよ。この前2時間で行ったときにもドリンクバーついてましたし。」


「おう!じゃあ一番カラオケで点数低かった奴は罰ゲームドリンクな!」


罰ゲームドリンクとはドリンクバーの機械でコーラとお茶を混ぜて作る飲み物だ。一度飲んだ事があるがかなり不味い…


「ところで本当に行って大丈夫かな。博多の事件もあるし・・・」


実際問題少しその点が気がかりだった。博多の方がかなり物騒な事になっているようでテレビ局の報道用のヘリ、いや自衛隊のヘリ..?がさっきから博多の方向に向けて飛んでいる。かなり物騒な事になっている事が分かる。


「なーに。心配してるのかー?、例のデパートは博多とは反対方向にあるわけだし犯人だってまさか筑紫野の方まで逃げては来ないだろ~」


と剛史はあしらう。


まあ実際彼の言っていることは的を得ている。福岡市博多からデパートのある筑紫野市までは南に20キロも離れている。警察に追われているであろう今、ここまでやってくる可能性は正直かなり低いだろう。


「心配しすぎだと思いますよ。きっと犯人ももうすぐ捕まるよ。」


和也もそれに続く。和也、金田和也は成績も優秀で判断力も優れていて僕らみたいなバカとなぜ付き合ってくれるかわからないような人だ。彼がそういうならまあ信じておこうか。



───────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────



道中何事も無く、というのは嘘で、博多駅で“お客様トラブル”が発生したとの事で徐行運転を行っていたおかげでショッピングセンターにつくのに大分時間がかかった。


お客様トラブルとは、車内もしくは駅構内での乗客同士の喧嘩や駅員への暴行、もしくは痴漢などによって電車の運行に支障が出る時に言われる文言だ。まぁ大抵は痴漢によるトラブルらしいが。


まあ学校が早く終わった訳だし多少の時間のロスは気にならないので許そう。


そうして僕らはショッピングセンター内のカラオケ屋に入りカラオケを楽しんだ。



────────────────────────────────────────────────────────────────────────



異変に気が付いたのはカラオケを始めてから30分くらいが経過したころであろうか。

防音部屋であるはずのカラオケ部屋からでも分かる程の大声で悲鳴が聞こえた。


「なあ今のって博多の…」


僕は少し心配になって来た。あの事件のニュースが頭をよぎる。


「なんだよー司はマジで心配性だよな~大丈夫大丈夫。どうせ誰かがふざけて叫んでるんでしょ。」


たまにカラオケ屋では断末魔みたいな叫び声で叫ぶ奴らが表れる。部屋が防音な事をいい事に日ごろのストレスを発散しているのだろう。せめて叫ぶにしてもマイクをONにして叫ぶのは止めてほしい。

しかし悲鳴は一度きりではなかった。ポツポツと、それから段々と断続的に悲鳴が聞こえてくる。


「ちょっと流石に様子がおかしいんじゃない?様子くらい見ておいた方がいいかもよ。火事なのに、火災警報がならなくなってる可能性だってある訳だし。」


和也がそういったので僕もそれに同調する。


「えー、んーそうかぁ?二人がそういうならついてってやるよ。」


と渋々ながら剛史も席を立ちあがったので三人で部屋の外の様子を見に行く事にしたのだ。


カラオケ屋に入った地点で客はまだ僕たち以外居なかったのだが、外に出てみると受付にいたはずの店員も居なかった。


だが、そんなことより信じられない光景が三人の目の前に広がっていた。




倒れている人と、


───床に広がる血だ。












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