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島に続く月の路

その日早めに店を閉め日向子(ひなこ)(あかり)は夕食を食べていた。


「ねえ灯、前に見ていた夢って最近よく見るの?」


日向子が聞くと灯は


「うん、ここに来てからほとんど見なくなっていたんだけど一週間前からまた…」

「大丈夫なの?」


心配して日向子が聞くと


「大丈夫だよ、昔と違ってそんなに怖くないし…それにね最近は綺麗な月が見えたり色々なものが写真みたいに見えるの」


写真みたいに…


「わかった、でも何かあったら必ず言うのよ。それと…」


日向子は自分の左耳を指さし


「この間買った補聴器の具合どう?」


と日向子が灯りに聞くとにっこりほほえみ


「うんいい感じ、前より小さいから付けてるの周りからも分からないし」

「それなら良かった」

「日向子さん、いつもありがとう」


と灯が言うと、日向子は照れくさそうに立ち上がり


「そんなの、家族なんだから当たり前でしょ」


と言いながら食べ終わった食器を流し台に持っていった。

ふふふと笑って灯もあとから持っていき一緒に洗い出した。

ふと思い出した日向子が


「そう言えば私と灯が初めてあった日の事覚えてる?」


と言うと灯はなんとなく覚えていると言った。


「本当にビックリしたんだから、いきなり真っ赤な光に包まれて浮き上がるんだもの我が目を疑ったわよ」


すると灯はフッと笑った。日向子は続けて


「あの時は見間違いかもしれないって信じられなかったんだけど、何時だったかな夜中に呻き声が聞こえて灯の部屋にいったら出会ったときと同じように赤い光に包まれて浮いていたのよ、あれは本当だったんだヤバイってビビったわ」


と言うと灯は


「何となく夢の中みたいな感じで覚えてる、日向子さんが何度も名前を呼んでくれてた」

「そりゃあもう必死だったわよ」


灯は洗い終わった食器が入った乾燥機のスイッチを押し


「もしあの時日向子さんに会えなくて引き取ってもらえなかったら、私はこんな風に笑えなかった」


自分が何者なのかなぜ存在しているのか、どこまで行っても霧のなかにいるようで生きているのか死んでいるのかも分からない。そんな私を日向子さんが見付けてくれた。


「ありがとう日向子さん、大好き」


好きと言われ日向子はワシワシと灯の頭を撫で


「灯ったら私も大好きよ、まったくこの子はもう」


と灯を抱き締めた。そして日向子は


「だから心配しなくていいのよ、何かあったら私も新治も時夫もいるから大船に乗ったつもりでいなさい」


と言った。灯は申し訳なさそうな顔をして


「二人には申し訳ないけどお願いする」


と言うと日向子は笑って


「灯ったら、そこは助ける気ないのね」


と言い顔を見合わせて笑った。


青白い月明かりが島に降り注ぐ。まわりには多くの舟が静かに佇み、その灯が波の合間に浮かび揺らめきながらゆっくりと月に昇っていくように見える。

その光景を入り江の岩場の上からコトリとミドリが見ていた。コトリが


「綺麗だね」


と言うとミドリが


「うんミドリね毎年この景色が好きなんだ」


と言う。コトリも嬉しそうに


「コトリも好き、それにね今日は特別なことが起こるんだって」


と言うとミドリが


「特別なこと?」


と聞くとコトリは嬉しそうに


「歩いて渡れるようになったら分かるって村長(むらおさ)が言ってたよ」

「本当?楽しみだなぁ」


ミドリが喜ぶとコトリが


「いつかコトリもミドリも道を渡って何処かに行けるといいね」


と言った。ミドリはビックリしたあと


「何処かって何処にでも行けるの?」


と聞くとコトリが


「うん何処にでも行けるよ」

「すごいやぁ」


と言い2人の姿は薄れていった。その島の中でうごめく人影があった。

島の中腹は深い森に覆われその中に隠れてひっそりと建っている屋敷に村長(むらおさ)志乃(しの)がいた。


「もうすぐ潮がひくのお、おそらく去年よりも多くの者がやって来るであろう」


と言う村長(むらおさ)に志乃は


「なんと嘆かわしい、どの者も財宝目当てとは…村長どうなさいますか今回も追い返してよろしいですか?」


と言うと


「志乃よ、今年はあの子が来るはずじゃ暫く様子を見ようではないか」

「そうですかあの子が…ではそうしましょうか」


志乃はそう言うと部屋から去っていった。


この日をずっと待っておったどうか無事に参られよ。


と村長は開いている襖の間から外を眺めた。


島の向かいを見るといくつも松明がともされている。

そのそばには財宝を手にいれようとたくさんの人々が塩が引くのを待っていた。

砂浜には祭壇が用意されそこにはお酒と塩が奉られ、両端には長い蝋燭が灯されている。そのまわりの四隅には竹がさしてあり紙垂をつけた縄がはられている。

そこに神輿(みこし)を担いだ白装束の氏子(うじこ)達がやって来てその神輿を担いだまま海に入っていく。それと同時に2人の神職が不思議な響きの祝詞を読みはじめた。


オーオーオー


不思議な声の響きにあわせて蝋燭(ろうそく)の火が激しく揺らめきながら立ち上った。

暫くして海から御輿を担いだ氏子達が上がってきて、祭壇の横に用意されてある神輿を置く台の上に神輿をおき下がっていった。

灯と日向子と新治はその光景を神々しく見ていた。

その時隣から玉井(たまい)(なつ)の声がした


「やだあ本当にけっこう人がいるわよどうする涼子」


と夏が言うと野々宮(ののみや)涼子はざっと回りを見て


「軽く見て100人は越えてるわね、昔は島に近づくと良くないことがあるって忌み嫌ってたのに、財宝があるって噂がたったとたんにどんどん増えてるからね」


と言うと日向子と夏の目があった。夏は涼子に


「ちょっとあの人達に声かけてくるわ」


と言い日向子に近寄ってきた夏が


「ねえねえ、あなた達も財宝目当てでここに来たのよね?」


と言ってきた。隣にいた新治が


「俺たちは財宝なんて探していませんよ」


と言った。涼子は納得がいかず


「財宝が目当てじゃないなんて可笑しいわ、まさか財宝よりもっと凄いものがあるって言うの?」


と言って来た。日向子はなんだこの人はと思いながら


「私達は島にいってみたいだけだけど」


と言うと時夫が話に割り込み


「ほらここって島渡りがテレビに取り上げられて有名になったでしょ、だから面白そうだなって見に来た野次馬だよ。そう言うあんたたちは財宝目当てな訳ね」


と時夫がいう。そんな時夫を新治は見つめ


時夫さんの目的も財宝だったはずなのに誤魔化すなんて…


新治は時夫からはじめに聞いた話と違うことに違和感を感じていた。


時夫の質問に涼子は大きく頷き


「当たり前でしょ私と夏は財宝目当てで来たに決まってるわ、ここにいるほとんどの人がそうよ。だから神事なんてどうでもいいの」

「そうそう、でもさ財宝を取り合う人数は少ない方がいいわね」


と夏が言った。そのとき何処からか


「始まるぞ~」


と言う声が聞こえた。勢いよく潮が引いていく、時夫が


「本当に、すごいいきおいで潮が引いていく」


と驚き呟いた。


青い月明かりの中でザザーという音と共に風が吹き始めると、みるみる潮が引いていく。しばらくすると沖にある島に続く道が白く浮き上がって現れた。(あかり)は息をのみ


「これが…これが月の路」


と言うと日向子が


「そうよこれが月の路なのよ動画より実物の方がすごいわね、ソロソロ行くわよ2時間したらもとに戻っちゃうから」


まわりをみると皆が駆け出すように歩き出していた。すると夏と涼子かやって来て夏が日向子たち4人に


「じゃあ私たち先に行くんで」


と言い涼子も


「もし財宝をみつけたら教えてね」


と言って歩いていった。


「ゲンキンな人たちね」


と日向子が言うと時夫が


「俺達も急ごうぜ」


と言い歩きだした。

もう少しで中間地点という所まで来た頃、新治がスマホを見ると40分以上かかっていた。新治は


「やっぱり思ったより遠いな、すぐそこに見えてるのに」


と言うと時夫が


「そうだな、けっこう時間かかってるけどここで立ち止まったら大変なことになるぞ」


と言うと日向子が沖の方を指差し


「そんな脱落者のためにああやって沖の方に舟があるのよ」

「あれってその為だったのか」


と時夫が言うと日向子はスマホを見ながら


「毎回、途中で断念して舟に乗っていく人が大勢いるからなんだって。島渡りの日以外に船で行こうとしたら入り江が複雑で潮の流れも荒くて船が揉まれて沈没したりして辿り着けないけどこの日だけは船でも行けるんだって」


といったあとスマホをしまった。すると時夫が


「でもさ船だと裏側につけないからな」


と言うので新治は不思議に思い時夫に


「何で表じゃダメなんだ?」


と聞くと時夫は焦って


「ほら表は人が一杯でごった返すから歩きにくいと思って」


と言った。灯はそんなやり取りを気にせず


「だから、みんなこの日に渡るのか」


と言うと突然眩しいライトがあたり4人は驚き目をつむりしばらくして目を開けると島のなかにいた。

灯が驚き


「ここって何処」


と言うと新治が


「島の中だ…呼ばれたってことか」


と言うと戸惑いながら時夫が


「呼ばれるってなんにだよ。突然島んなかなのに何で新治は不思議がらないんだよ」


と言うと日向子が


「私もそんなに驚いてないけど」


と言った。そんな日向子に時夫は


「日向子さんもかよ」


と言うと日向子は


「だって不思議な事はこれが初めてじゃないもの。世の中には訳のわからない事は山ほど有るのよ」


と言う。時夫は


「初めてじゃない?」


と言い黙りこんだ。そんな皆に新治が


「とにかく皆はまだ入り江が少し入ったところなのに俺たちは島の中で小さい広場にいるようだ。呼ばれたとしか思えないしな」


と言うと日向子が


「そうね新治の言う通りね。問題は何に呼ばれたかって事よね」

「私の…私のせいなのかな」


と灯が心配して言うと日向子は


「バカね、こう言うのは灯のせいじゃなくてお陰って言うのよ分かった」


と言うと灯は頷いた。そんな四人を見ていたコトリとミドリがやって来てコトリが時夫の服を引っ張り


「ねえねえ、あなたは誰?」


と言うとミドリも引っ張り


「ねえねえ誰?」


と言う。その声に驚いて皆が見ると白い服を着た小さな子供が時夫のそばにいる。


「ウワッ!どっから湧いて出てきたんだ」


と時夫が驚き言うとコトリが


「ねえねえ皆で何をしてるの?」


ミドリも続けて


「何してるの?」



と言う。灯は二人に近付き


「あなた達はここの島の子なの?」


と聞くとコトリとミドリは


「ここの子だよ」


と言った。時夫はまだ信じられずに


「早速この島で起こった事が子供と出会うってか‼️」


と言うと新治が微笑んで


「それもありだろな」

「新治お前な俺の身になれよ突然引っ張られてこれだぞ。もっとこう神秘的なって言うか凄いことがあると思うだろ」


と言うと後ろで


「それは申し訳なかった」


と声がした。

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