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赤き光に浮かぶ少女

ずっと昔あの村には鬼が住んでいるから行ってはいけない。

助けがほしいときは島渡りをするんだよと聞いた覚えがある。

あれは誰だったんだろう何処で聞いたのだろうか

入江の方から赤ん坊の泣き声がする。村人が泣き声の方に近寄っていくとかごが置かれていてその中から聞こえている。中を覗き込むおくるみに包まれたと赤ん坊が泣いていた。

慌てて村人はそのかごを抱え村長(むらおさ)のもとにかけていった。


「捨て子でしょうかね」


と言い女性が赤ん坊を抱えあげると錦で織られた布で作られた巾着がポトリとかごの中に落ちた。

村長が拾いその巾着の中のものを出すと、真っ赤な血の色をした美しい紅玉髄(べにぎょくずい)と手紙が出てきた。

皆が美しい紅玉髄に見いっていると突然紅玉髄は宙に浮き真っ赤な光を放ち赤ん坊の中に吸い込まれていった。


何が起こったのだ


村長はすぐに紅玉髄と一緒に入っていた手紙を読んだ。そこには思いもよらぬことが書かれていた…村長は


「この赤子も今日から我らの仲間だ、新之定(しんのじょう)殿には妹が出来ましたな守って下されよ」


と少年に声をかけた。少年は嬉しそうに


「僕が守ってあげるからね」


と赤ん坊の手を握った。


朝早くパンの焼ける芳ばしい匂いがする。田坂(あかり)はエプロンをつけて一階に降りていった。


「おはよう」

「あら、(あかり)おはよう今日は一段と早いじゃない」


田坂日向子(ひなこ)が気付き声をかけると


「だって今日は新作の日でしょ早起きしなきゃ」


と言い焼きたてのパンの匂いを嗅いだ。日向子は微笑みながら


「後であげるから生地出してきて」


と言うと灯はホイロ(醗酵器)から形成されたパン生地がのった天板を取り出し作業台においた。


「だから行ってみようって二人も誘ってさ、せっかく一年に一度あの島に渡れるチャンスなんだぜ」


と朝から大きな声がした。


また時夫(ときお)だな


と日向子が思っていると


「確かにあそこには有名な水軍の城あったらしいけど危ないって」


(あかつき)新治(しんじ)の声がする。時夫は諦めずに新治に


「鬼が住んでるとかって言うやつだろ!?そんなの昔話に決まってるし、どっちかって言うと財宝を守るための嘘だね」


と言いながら2人は厨房に入ってきた。新治が


「日向子さんおはようございます」


と言うと南条(なんじょう)時夫も


「おはよっす日向子」


と言った。日向子はムッとして


「あのさ時夫、呼び捨てにするのやめてよね」


と言うと時夫は肩を組み


「俺らのなかじゃんいいのいいの」


日向子はその手をつねった。


「いってえなぁ、あかり~日向子がいじめる」

「日向子さんでしょ」


と日向子が言った。灯と新治はまた始まったと自分達の仕事を始めた。


パンも出揃い休憩をしながら試食をしていると時夫がまた新治に


「でさぁ今朝の話なんだけど」


と話はじめた。日向子がなんの話なんだと聞いた。


その島には昔ある戦国武将の右腕といわれた水軍の城があり莫大なお宝が隠されているとの伝説があった。

だがその島は外から人が入るのを拒むようにいくつもの渦と複雑な入江に守られ、たどり着けても誰一人として帰ってくる事がなかったため、人喰いの鬼のすむ島とまことしやかに言われてきた。


現代になってあるテレビ番組にその事が取り上げられ一年に一度の神事でもある島渡りの日ならば島に入れることが知れわたった。

そうなると人間とは図々しくなるもので毎年多くの人々が神事である島渡りの日に押し掛けるようになった。

だが誰もお宝にたどり着けず亡くなるものも多く10年以上が過ぎていた。

話の途中から徐々に強ばった顔になる灯をよそに時夫が


「その島渡りってのが明日の朝3時と昼の1時と夜の7時の3回だけなんだよ」


と言うと


「だからどうしたってのよ」


と日向子が聞いた。時夫は


「だから俺らも行こうよ夜中に出たら朝の2時半頃にはつくし」

「ちょっと待ってそんな急に言う?今夜から行くって言うの」


と日向子が時夫煮詰めよっていると新治が


「灯、大丈夫?」


と灯に言った。日向子が慌てて灯をみると強ばった顔をしている。


「灯、どうしたの?」


と日向子が聞くと


「島渡り…そこって本当に鬼がいるの?だとしたらそこって私の夢の場所と関係が」


と言い口ごもった灯に時夫が


「噂だから大丈夫だって、そんなの昔の話なんだしさ」


と言ったが灯は


「鬼がいるから行っちゃ行けないって夢の中で言われた。でも…」


と言いうつむいた。そんな灯に新治は優しく微笑み


「嫌ならやめる?」


と言った。すると時夫が慌てて


「せっかくなのに何言ってんだよ灯が行かなきゃダメだろ」


と言った時夫を新治は一瞬いぶかしげに見た。時夫は続けて


「行こうって大丈夫俺が守ってやるから」


と言う言葉に新治は


「灯が行かなきゃいけないってどういう事?」


と時夫に聞くと時夫は慌てて


「それは皆で行くことに意義があるって事だよ」


とごまかした。日向子はあきれて


「本当にあんたは調子がいいわね」


と言うとヘヘヘと言い仕事をはじめた。

夕方になって日向子が


「嫌なら断っていいんだよ遠慮なんかしないのよ」


と言うと灯は


「やっぱり行く多分そこに行けばつかめるかも」


と言う灯に日向子が


「何か思い出したの?」


と聞くと灯は首を横にふった。日向子は


「分かった何かあったら言うのよ、私たち縁があって家族になったんだもの」


と言うと灯は頷いた。

日向子は灯が何かを見ることがあり、その見えるものに怯えるのを知っていた。

日向子はそんな灯の笑顔が見たくて引き取ったのだ。

あの頃の日向子は自暴自棄になっていた。そんな日向子が立ち直る切っ掛けになったのは自分と同じような不幸な人を助ける事だった。

偽善と言われようが日向子は同じ思いの人達がいるから頑張れたのだ。

あの日、地震で倒壊した瓦礫の中から救い出され病室で目覚めた日向子は、すぐそばで自分を守るように恋人が亡くなったと、その上お腹の子供も失ったと聞き混乱し泣きわめいた。


何故私は生きているの?

何故あの人はいないの?

あの人が命を懸けて守ってくれたのに私はこの子を守りきれなかった。

そんな私に生きる意味があるの?生きていることになんの価値もないわ…


そう思い心を閉ざした。

日向子は救われたことに感謝も出来ず、かといって救われた命をたつことも出来ず絶望の縁をさ迷っていた。

少しずつ体は癒え退院したが家から出ることも出来ずじっとこもっていた。

そんな時、日向子のおなかがグーっとなった。


やだ、こんな時にでもお腹ってすくのね。


フッと笑いながら恋人が好きだった手作りのあんパンを思い出した。

そして気付くと日向子はパン生地を作っていた。


「上手く出来たらあなたのお墓に供えなくっちゃね」


そう呟きながら涙で目の前が見えなくなりながらもパン生地をこねた。

そんな日々が何日も続いたある日、日向子を気遣った友人の鈴子が被災地にパンの差し入れをしないかと言ってきた。

日向子は戸惑った。


私が行ってなんになるの、なにも守れなかった私が…


と言うと鈴子が


「なにを言ってるのよ、みんなの気持ちが分かる日向子が行かなくてどうするのよ。日向子だから日向子じゃなきゃダメなのよ」


と真剣に鈴子に言われて日向子は


ああそうだ私には未だやれることがある。

救われたことを忘れてはいけないんだ。


「ありがとう鈴子」


そして日向子はできる限りたくさんのパンを作り被災地へ出かけて行った。


私も誰かの力になろう…

勇気付けたい…


と思いつつ現場に行って日向子は気が付いた。

勇気付けられたのは救われたのは日向子の方だったのだ。


なんと言う事だろう。

私は何て甘いんだろう。

こんなに恵まれているのに顔を上げることができなかった。

このままでは彼と産まれることの出来なかった我が子に胸を張って会えない。いつか会える日が来るまで私は諦めてはいけない。


その日の帰り道、日向子は学生時代に夢だったパン屋を開くことを決めた。

学校にかよい資格を取り3年後、念願のパン屋を開いたのだ。

そして店が軌道にのってきた頃、衝撃のニュースが日向子の目にはいった。

誘拐され倉庫に監禁されていた少女。その少女を救うため、一人の警察官が亡くなったというニュースだった。


なんて事どうしたら


日向子はその子が気になって仕方がなかった。

その少女と産まれることの出来なかった子供とを重ねていたのかもしれない。

そして日向子と少女は不思議な出会いをすることになる。


あの日いつものように施設にパンを納品にいったその帰り不思議な光景を目にした。

少女は庭にすえてある椅子に座り誰かと話しているようだった。

日向子が誰と話しているんだろうと見たがそこには誰もいない。

驚いて見ていると少女は赤い光に包まれふわりと浮いたあと気を失った。


危ない‼️


私はあわてて駆け寄り少女を受け止め抱きしめた。


なに今のは…この子はなんなの


目覚めた少女は虚ろな目をしながら


「ありがとうございました」


と言い去っていった。

日向子は施設で働く友人に少女のこれからの事を聞いた。

その少女には戸籍がなく養子縁組をするにも手間がかかりすぎて、なかなか縁組み先が見付からないと言うのだ。


「私が預かってもいいかな」

「え?」

「手続きが大変でもかまわないわあの子を引き取りたいの、あの子の笑顔が見てみたい。」


日向子は身を乗り出して訴えた。友人は呆れた顔をしながら


「本気なのね」


と聞くと日向子は力強く頷いた。


それからの日々は慌ただしかった。

受けられる研修を全て受けながら特別養子縁組に向けて少女と同居する手続きを行い、何度も施設に通い少女と面会をした。

なかなか心を開いてくれない少女と根気強く向き合った。

その甲斐があり少しずつ少女は話をしてくれるようになっていった。

そんな日々が続いてしばらくした頃、少女は施設の人に連れられて日向子の家にやって来た。


「ごめんね今日は急ぎの注文があって迎えにいけなかったの。」


と言うと少女は頷いた。


「さあ、これからはここがあなたの家だからね遠慮しないのよ」


と言うと少女は辺りを見回し店の方を見た。


「ああ、いつも納品に持っていっているパンね食べる?」


と言うと頷いた。

日向子は店頭にある色々なパンをトレーに入れてもって来た。


「どれにする?」


と言うと少女はそっと手をだしメロンパンをとり日向子を見た。


「食べていいのよ」

「…」

「人ってねどんなに辛いことがあってもお腹はすくの、だからどんどん食べて明日は良い日になるって笑ってなくっちゃ、そうじゃないと幸せが逃げちゃうわよ」

「明日は…笑…える?」

「そうよ。ほら食べて」


そう日向子が言うと少女はメロンパンを口にした。


「…美味しい…」


そう呟いて少女は小さく笑った。


今笑った笑ったわよね…見間違いじゃないわよね


日向子は嬉しくなり


「良かった、まだまだたくさんあるからね灯」


と名前を呼ぶと少女驚いて日向子を見た。


「施設でも名前がなかったから田坂 (あかり)ってどうかなって。

本当はね生まれてくる子供につけるつもりだったんだけど、でも嫌だったら良いのよ。」


と言うと少女は


「あかり、田坂 灯」


と呟いた。日向子が


「呼んでもいいの?」


と聞くと少女は日向子のの顔を見て恥ずかしそうに微笑み


「灯です。よろしくお願いします」


といった。

そんな少女を日向子は思いっきり抱き締め


ありがとう、ありがとう灯


と呟いた。


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