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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

一般兵が生き抜く滅びかけの世界

作者: よと

え? 連載の更新はどうしたって? 頼む見逃してくれ。

 辺りには硝煙の匂い。

 撃鉄が落ちる音と、火薬が弾ける破裂音。

 

 平時ではとても聞かないような音や匂いが人気(ひとけ)を嫌う森の中を支配する。


 「ラアアアアアァァァ!!!」


 木々が青々と茂る中、ぽっかりと空いた切れ目を目指して俺は走る。


 「チックショウ何て数だ!! こんなことになるんならテントでもっとコーヒー飲んどくんだった!!」


 「愚痴言ってないで足を動かしてください。私はどうとでもなりますけど、センパイはそうじゃないんですから」


 「解ってるよ! だからこうして蒸し暑い森ン中駆けずり回ってんだろうが!!」


 息を切らして必死に足を動かす俺――――――いや、俺達を雪崩の如く追いかけてくるのは、トカゲを数十倍に大きくして、更に犬のようにしっかりとした足を足して二で割ったような生き物。

 口からは(よだれ)を垂らし、健脚によって猛スピードで地を駆る姿は人の恐怖を存分に引き出す。

 その数、目視だけでおおよそ五十を軽く超える。


 霊獣、『テリオン』。

 

 多くの群れを成し、強さ(レベル)で言えば最底辺の一角。だが同時に、その被害も最多。多くの部隊が、多くの隊士が、多くの民が、この霊獣に食い荒らされている。


 そう、今俺達二人は控えめに言って絶体絶命の窮地に立たされているのである。


 「レイ、そこを左だ!」


 「えっ、あ、はい!!」


 いきなりの指示で慌てふためきながらも透き通るような白髪を揺らしながら、共に左へ曲がる。

 追いかける勢いは依然として衰えず、寧ろ更にその速さを増しているようにも見えるテリオンを引き連れて、俺とレイは走る。


 やがて――――――。


 「開けた!!」


 誰が言ったか、手足顔と枝をぶつけながら走り回った森にオアシスの様にポツンと開けた場所に踊り出る。


 「よし、レイ!!!」


 「わかってますよ!」


 瞬間、落雷が奔った。


 耳を貫くような轟音と共に、俺の体はその衝撃によって宙を舞う。

 丁度百八十度、体が回転した俺の目に映るのは、豹変したレイの姿。


 透き通るような白髪は逆立ち、鎧のように纏うのは青白い光を放つ莫大な電気。

 血を呼び起こしたレイは正に天災と呼ぶに相応しい。


 ただ呼び起こすだけで、追いかけてきた群れの二割はこれによって感電死した。


 「さあ、殲滅だ」


 受け身を取って着地し、手に持っていた銃と片手剣が一体化したような武器の、引き金を引く。

 ガチンとシリンダーが回り、響いたのは火薬の破裂音と硝煙の匂い。


 そしてその刃には、炎が通っていた。


 「グラアアアアア!!!」


 レイの電撃を逃れ跳びかかるテリオンを、そのまま懐に飛び込みながら横に一閃。

 まるでバターの様に胴体を真っ二つに切り捨てたのを合図に、俺達は反撃の狼煙を上げた。


 殴る蹴るで電気を放出して数匹を殺すレイと違い、俺の武器は手に持つこの銃剣ただ一つ。威力こそ段違いだが、それも長くは持たない。


 「クギャッ!!」


 十体程度切り裂いた所で、剣身を纏っていた炎が消える。時間切れだ。


 「グラァァァ!!!」


 その隙を逃さず、テリオンはレイを無視して三匹程こちらに向かってくる。


 「センパイ!」


 「問題ねぇ!!」


 けれど、それに慌てる必要は無かった。

 俺は冷静に足を前に出し、半身となって剣を下段に構えて引き金を引き、シリンダーを回す。

 そして響くは、破裂音。


 「ハアアアアア!!」


 剣身を纏うのは、閃光よりもなお瞬く(いかずち)

 それをそのまま、横なぎに振るう。


 瞬間、追い打ちをかけるように奔るのはレイの放つものよりも高圧な電撃。それによって、本来は届かない剣の間合を離れてテリオンを薙ぎ払う。


 「すご――――――って、それ使っちゃうんですか!!?」


 「状況が状況だ、仕様がねえ。後でまた補充頼む」


 「ええぇーーー……自分で補充してくださいよ。一々血を抜かれるこっちの身にもなってください」


 「その方が効率いいだろ……っと、余所見すんなって」


 「心配無用です」


 とか言いつつ、レイはお喋りの片手間で十数匹を相手取って無双していた。適合者というのはつくづく規格外だ。

 その実力は剣と弾に依存する俺と比べれば正に雲泥の差。

 適合者であるレイは霊獣の能力をその身に宿す。故にその腕を振るうだけで、足を踏み込むだけで、能力を行使するだけで、俺達が技を駆使し限りある弾丸を消費してやっと倒せる存在を容易く屠る。


 それぞれの行為一つをとっても、それは必殺の一撃を生み出す。


 「ほんと、エッグイな」


 その姿は正に一騎当千。戦場を飛び回り電撃を放つ彼女はその容姿も相まって妖精の様で、周りの光景とは不釣り合いに見える。だが確かにこの戦場の中で一番の脅威は彼女だ。

 

 体の一部のように電気を操り、その一挙一動で数体のテリオンを殺す。そんな中俺の仕事と言えば、激しい電撃を潜り抜けて来た討ち漏らしを相手取り、レイの邪魔をさせないこと。


 こちらに来るのは精々が三匹そこら。隙と見ればもう少し来るかもしれないが、それを許す程レイの電撃は甘くない。


 「これだけの数がいて統率者が居なくてラッキーですね。攻撃が直線的で読みやすいです」


 「あぁ、確かにそうだが……妙だな」


 「よっと、妙って何がです?」


 話の片手間でも警戒を緩めずに討伐数を稼ぐのは流石適合者というべきか、この分じゃそろそろ俺の仕事も無くなりそうだ。


 「この数で統率者が居ないとなると、群れから逸れた野良か若しくは――――――」


 「寄せ集めとかですかね?」


 「いや、それは無い。テリオンは確かに群れを作るが、それでも仲間でもないよそ者を迎え入れることは少ない」


 「じゃあ一体……」


 「偵察だよ、考えたくもないが本隊の方は軽く五倍はいるな」


 「えっ……?」


 余りの事実に驚いたのか、レイは戦闘そっちのけでこちらに顔を向ける。それをすかさずテリオンはその凶牙を振るおうと跳びかかる。

 

 「馬鹿余所見すんな!!」


 「やばっ!?」


 「チッ」


 流石にやばいと思ったその時、俺の心配は杞憂に終わった。


 「ふっ!!」


 レイは纏う電気の出力を上げ、跳びかかるテリオンを感電させる。そしてそのまま飛び上がって体を捻り、後ろ蹴りの要領でもう一匹を吹き飛ばして後方に控えるテリオンをも打ち砕く。

 流れるようにしてトドメに電撃を飛ばして残りを片付ける。


 「全くヒヤヒヤさせる」


 当の本人はスッキリとした顔でブイサインを寄越しているが、残りの数は十匹と少し。何も無ければこのまま問題なく殲滅できるはずだ。


 「流石に警戒してますね」


 「ま、そりゃあれだけ大立ち回りすればな」


 「逃げてくれると楽でいいんですけどねぇ……」


 確かにその通りだが、どうも奴らにその気は無いらしい。偵察だということを加味してもここで俺達二人を――――――。


 そこまで考えて、違和感を覚えた。


 長のいないテリオンの群れが多種多様な生態系を抱える森を闊歩(かっぽ)していた理由は、偵察であるはずだ。

 森のどこか、それかもっと他の場所にいる長とその群れに危険が無いかを知らせるためであるはずのその役目はそこで得た情報を持ち帰ることが絶対だ。


 いくら野生の霊獣とて、それを考えるだけの頭脳はある。

 なら、何故テリオン達は撤退を選ばず、圧倒的強者であるレイを、俺達を襲い続けるのだろうか。


 「おいレイ。この広間に出てから一匹でもここから離れたか?」

 

 「え? いや、それは無いはずです。例外なく完全に獲物として襲ってきてますから」


 よっ、と声を出してレイは一匹屠りながら答える。これで残り十三匹。

 遂には戦闘中に数えられるくらいの数にまで減らしたが、テリオン達は一向に退かず、依然としてこちらの隙を覗っている。


 「もしかすると、群れの本隊はずっと近くにいるかもな」


 「どういうことです? だってこのテリオンは偵察なんですよね……?」


 「間違い無くな。ただ、一匹として退かないとなると、話は変わってくる」


 困惑した表情を見せるレイに俺は更に説明を続ける。


 「偵察の役目は情報を持ち帰ることだ、なのにこいつらはそれをしない。とすればこいつらの役目は偵察兼敵の危険度調査。まぁ、つまりは前座だな」


 「え、待ってください。霊獣ってそんなに頭良いんですか!?」


 「ただの獣よりずっと賢いぞ。加えて、多分この広場はこいつらの狩場だな」


 「どうして分かるんですかそんなこと」


 「レイは気づかなかったろうけど、こいつら追い込んでる時に左を選びやすいように右側に数を集中してやがったんだよ」


 「えぇ……」

 

 というところで、レイが更に数匹を屠り最早十匹を切る。

 状況的に考えればそろそろだ。


 「周囲を警戒しておけ! 今に本命の攻撃が来るぞ!」


 数を減らし、もう少しと油断した瞬間に必ず隙が生まれる。そう確信しているからこそ、この場にいるテリオン達は退かない。

 それは群れの長、統率者に絶対服従を示している証。自らの命をも顧みない捨て身の特攻だ。

 裏を返せば、この群れの統率者の強さ(レベル)はテリオンの比ではないということ。


 「っ!? センパイ!!!」


 テリオンの数は残り六匹となった時、一筋の線が森の奥から伸びる。

 狙いは――――――。


 「俺か!!」


 体を左に捻って何とか避け、線の元を辿るが見えるのは木々の群れ。統率者の全容は見えない。

 

 「クソッ! どんな距離から狙撃しやがったあの野郎!!」


 「あ、ちょっセンパイ!!」


 「いい!! それ直ぐ倒して追って来い、どの道その方が速い!!」


 それだけ言い残して、俺は先も分からない森へと再び足を踏み入れる。

 先ほどの攻撃で方向は解っている。移動していたとしてもそこに居た痕跡を消すことはできない。群れの本隊が相手だとしても、統率者さえ討ち取れば後は放っておいても問題はない。


 「今のうちに……」


 森を駆けるその間、先ほどの戦闘で使い切った弾を補充するために剣のシリンダーを外す。

 腰につけたポーチから取り出した弾の数は三発。いずれも採集の難しい弾だが、その内一発はレイの血で代用できる。


 その時、左右の木々が揺れる。


 「クッソマジかよ」


 どうやら、統率者は思ったよりも臆病で、そしてずっと慎重な性格らしい。

 そこら中に生えた木々から現れたのは先ほどのテリオンよりも一回り大きな個体。正しく異常であった。

 育ちやすく数の多いテリオンだとしても、その大きさは精々が人と同程度の大きさだ。だと言うのに今現れたテリオンはそれよりも大きい。


 「やっぱ変異個体がお前等のボスか」


 だが、だとしても基本は変わらない。

 統率者さえ倒せば何とかなるが、それでもこの異常個体を相手取るには弾数が足りない。


 「ないものねだりしても仕様がねぇ。通らせてもらうぜ雑兵」


 補充の完了した銃剣を構え、走り出すと同時に引き金を引こうとしたその時、電雷が奔る――――――。


 「センパイ!!」


 見れば、こちらに駆けるレイの姿があった。早くも異常個体達はレイを脅威と見たのか、その意識が俺から逸れる。


 「行ってください、露払いは私がします!!」


 「言われなくても」


 剣を携え木々をかき分けて森を進む。そろそろ息も切れてきたが目当ての敵は見当たらない。

 そしてまた――――――。


 「ぐっ!!?」


 方向が変わらなかったことが救いか、何とか目視できたそれを今度は地面を転がって避ける。

 枝で頬が切れてもお構いなしに立ち上がり、走り出すと同時に奴と目があった。


 「そこか!!」


 「グアアアアア!!!」


 咆哮、そしてそれに呼応するようにして後ろに控えたカリオン達が飛び出す。その数は五匹。

 

 「見つけられて焦ってんのか、いやに直線的な行動するじゃねえか。そりゃつまりさっきのやつを連発で吐き出せねえって事だろうが」


 統率者を守るように前に出たテリオン達の動きは統率された軍隊のソレだった。

 常に五匹であることを意識し、その陣形を崩さずに俺へと襲い掛かる。


 「うざってぇ」


 引き金を引き最初の一匹と接敵した俺はそのまま刃を振るう。

 剣身を纏うは、爆炎。


 「キャン!!」


 テリオンを切りつけた直後、追撃に来た二匹を巻き込む程の爆発が起こる。それは目くらましとなって残りの二匹はたじろいだ。瞬間、俺は走り出す。


 この明確な隙を逃すまいと、俺は再び引き金を引き重ねて付加を施す。


 「チャンス!!」

  

 剣を横なぎに振るい残り二匹に傷をつけると共に、電気が迸る。遅れて爆発が起こり、残すは変異個体のみ。

 だが――――――。


 「うっ!?」


 そこには、大口を開けた変異個体。その喉奥には記憶に新しい『線』の正体である大量の水。


 「まずった!!?」


 今まで何とか避けてきたが、それもこの至近距離ではどうしても間に合わない。

 この剣をぶつけるにも、距離的にはあと数歩足りない。避けようにも剣を振りぬいた後ではそれも難しい。

 ――――――詰みか。


 「――――――センパイ!!」


 その声にハッと気が付いた俺は、大口を向ける変異個体を前に()()()()


 「レイ!!!」


 「はい!!」


 最早そこに指示はいらなかった。

 阿吽の呼吸のように俺達は互いを信じ、行動に映る。


 まず一番に行動したのはレイ。


 「ハッ!!」


 空中へと飛び上がり、その身に纏う電撃を変異個体目掛けて放つ。それは変異個体が水を放つ直前、丁度俺の目の前で命中しそして――――――。


 「グアアアア!!?」


 「終わりだ」


 攻撃を中断された変異個体を目掛けてその剣を思い切り突き刺した。

 その直後、引き金を引いてシリンダーを回し、最後の弾を使い尽くす。


 「グオオオオアアアアアア!!!!」


 先に現れたのは変異個体の全身を覆う電気そして直後に爆発を起こし、その最後に――――――極光が貫いた。


 終わってみれば正に呆気なく、変異個体は疑惑の余地なく完全に絶命を果たした。

 後に残るのは、生き物を殺した独特の間と静寂。統率者を失った群れはいずれ散り散りとなり、束の間の平穏がこの森に訪れるだろう。


 「お疲れ様でした」


 体力を使い果たしてへたり込む俺に対して、レイは殆ど疲れてすらいなかった。近寄って見下ろすように声を掛けてくるくらいには余裕があるようだ。


 「はぁ……はぁ……ほんと、適合者はつくづく……」


 「センパイもセンパイですよ。本当ならあの場面でセンパイじゃなく私が行くべきですよ。戦力的にも、そっちの方がずっと安全でした」


 「馬鹿言え、お前の場合は力があっても知識がない」


 「そりゃあ、センパイの方が知識も経験も私何かよりずっと豊富なのは百も承知です。けど、先輩は適合者じゃありません」


 にべもなく言い放つそれは、単なる事実だった。それが俺とレイの違いであり、どれだけ努力しても決して埋まることのない差だ。適合者であるレイと一般兵の俺では、戦力の規模が違う。


 「そんなことは解ってる。けど、だからってお前が危険に晒される理由にはならねえだろうが」


 「十分理由になります。私は武器を持たなくとも霊獣を殺せますけど、センパイはそれがないと攻撃もままならないですよね?」


 そう言って指すのは、俺の手にある銃剣だ。


 「だからって、後輩にリスクは背負わせないさ。そこに適合者も何も関係ねえよっと」


 寝ていた体を起こし、レイの話を遮るようにして支度を済ませるとポーチの中から信号弾を取り出して空へと掲げて撃つ。


 「もー! それで死んだら元も子も無いじゃないですか!!」


 「死なないさ。何があっても、霊獣を滅ぼすまで俺は死なない」


 もう少しすれば、信号弾を見たベースキャンプに駐屯している部隊が変異個体を回収しに来るだろう。銃剣の弾としても使えるだろうし、数少ないリソースは確保するべきだ。


 「さ、部隊が到着するまで待機だ。なるべく休んどけ」


 レイはまだ納得いかないのか頬を膨らまして抗議の意を示すが、スルーだ。一々構っていれば逆にこっちが疲れる。

 

 目を瞑り、寝たふりをして流すことに決めた俺の頭に浮かぶのは、今は滅びた故郷の国。

 穏やかだった霊獣が豹変し滅ぼした、今は亡き最盛の国。


 その理由を突き止めるまでは、死ぬことは許されない。


 だから俺は、アレス・ノードは今日も霊獣を狩るのだ。

連載作品あります。興味あれば作者ページから。

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