表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/36

9.スゲー不味い

 いや、不味いでしょ。これはさすがに不味いでしょ。


 一つ屋根の下で男女が泊まるだけでもスゲー不味いのに、同じベッドで一緒に寝るって!? エルフの文化は知らないけど、そういうことに抵抗がないのか? それとも、種族が違うからセーフなのか? はたまた、彼女の感覚がズレてるから?


 そんなことを頭の中で巡らせている内に、着々と就寝準備は整っていった。


 モジャの実の果汁でベチャベチャになった口と手は、汲んであったゲチョリ川の水で洗った。この水は、飲料水としては致命的だが――生活用水として集落の人々は利用しているらしい。


 海外の水道水だって、地域によっては飲んだら腹を壊すけど、手洗いやシャワーに使っているだろう。それと似たような感じ。飲まなきゃセーフ。


 あとは、就寝用のパジャマとして渡された服に着替えて準備万端。丈夫で細長い草を集めて編んだ、ゆったりとした深緑の寝巻。うーん……チクチクはしないけれど、ちょっとごわごわする。病院の安い検査着を纏っているみたいな。慣れるまで時間が掛かりそうだ。


「はいはーい。もう寝る時間ですよぉ~。って、どうしたんですか、グルメさん? ベッドの上で正座なんかしちゃってぇ」

「あのですね。クリムさん」

()()……? また別の人格が出ちゃいました?」

「もう、それでいいから。ちゃんと話を聞いて」


 彼女は、「何か変わったかなぁ~?」という顔で、僕のことをキョロキョロと観察する。いや、何も変わってないから。小首を傾げないで。


「よくよく考えてみたのですが、これは()()()のではないでしょうか?」

「えぇー? なんでー?」

「なんで……いやいや、()()なんで?」

「だって、ベッドは一つしかないんだよ?」

「そうだけど。じゃあ、片方が床で寝るとか」

「私は床で寝たくないなぁ……」

「僕が! もちろん、僕が床で寝る! クリムさんはベッドでどうぞ!」

「どぉーして硬い床の上で寝たがるのさぁ? もぉー、訳の分かんないこと言ってないで」

「訳分かんなくない! むしろ、僕の頭の中が訳分かんない!」

「はいはーい。ふわぁ……もう眠いんだから。ほらぁ、灯り消すよ?」


 クリムは壁際で揺らめく蝋燭の炎をふうーっと吹き消して回り、最後に天井のランプを机へ降ろし――


――フッ


 暗転。


 世界は深淵の漆黒に呑み込まれてしまった。


 何故だろう。急に心細くなる。現代社会の夜とは全く違う。都会は深夜になっても、けっこう明るい。ただ、この世界の夜は――とてつもなく暗い。野宿じゃなくて良かった。そう、心の底から思った。


 完全に真っ暗、という訳ではない。ガラスの嵌まっていない窓の外から、月明かりが差し込む。目を凝らして見れば、モゾモゾと動く影がクリムであると判別できるレベル。


 じゃなくて!!


 説得失敗。完全に押し切られてしまった。


 もう、一緒に寝るしかないのか――!?


 彼女がベッドに入ってくる。


「狭いんだからぁ、もうちょっと詰ーめーてー」

「あの……掛け布団も一枚しかないのでしょうか?」

「とーぜんっ! 私はここに一人で住んでいるんですからぁ」


 近い。よく見えないけれど、とても近い。


 心臓がバクバクしてきた……っていうか! なんで僕の方がドキドキしてるんだ! 普通は立場が逆というか……なんか違うって!


 思わず身体を彼女とは反対側へ向けてしまう。


「はっ、はあっ……鎮まれ……鎮まれ僕の精神……」

「うえっ? それが人間さんの寝る時のお(まじな)い? 変なの~」


 呑気! めっちゃ呑気!!


 ドキドキしてるのは僕だけ!!


「その、クリムは……おかしいとは思わない? 例えば――エルフを食べちゃう肉食のモンスターを拾ってきて、ご飯を与えて、一緒に寝る? 寝ないよね?」

「ふふっ。何ですかぁ、その例えは。まるで、グルメさんが私を()()()()()みたいな」

「誤解だから! 飽くまで例えだって!」

「私は食べても美味しくないですよー? 多分……」

「違うって! あー、もう……そうじゃなくて、何と言うか……」


 狼――と伝えても、通じないだろう。この世界で狼に変わる肉食動物って何なんだ? どう伝えればいいんだ……?


「大丈夫ですよぉ。だって、その子が仮に肉食でも、()()()()私は食べられていないじゃないですかぁ。だったら、私はその子を信じます。夜中に襲うような子じゃないって」

「……そっか」


 これは信頼の証なのか。


 信頼しているからこそ、安心して一緒に寝る……うん。やっぱり理屈がおかしい。ペットと主人の間なら成立するが、男女の間では成立しないのでは。


 ただ、ここまで一方的に信じてるって言われたら。信頼に応えぬ訳にはいかない。どうか、僕の理性よ。一晩だけ持ってくれ。


「じゃあ、おやすみなさ~い」

「うん。おやすみ」

「人間さんの言葉で、しずまれ~」

「違う違う! それは間違いだって! 人間もおやすみ!」


 すると、彼女はぬうっと僕の身体に腕を絡めてきた。


 えっ!? 確かにペットと寝る時は! 抱き枕にして寝ても許されるけど! これは許されざる――!!


 ペットじゃないよ! 人間だよ!? モフモフしてないから! 人間の男! あぁ、クッソ……めっちゃ良い香りがしてきた……!! 美味そうとは、また違った感じの……!!


 ふうっ、ふうっ……平常心、平常心。別のことに集中。


 こんな時、何を数えればいいんだっけ? もう、何でもいいや。クッソ不味いスライムが1匹、メチャ不味いスライムが2匹、ゲロ不味いスライムが3匹――





………





……









 がああああああああッ!! 寝れねえええええええええええええぇ!! やっぱ、不味いって! スゲー不味いッ!! こっそりベッドから抜け出そうにも! 腕が絡まって身動きが取れない――!! 不味いよ不味いよッ!! 目が冴えて冴えてしょうがないっ! っていうか、昼間も寝てたから! 全く眠くない! だあああああぁ! チックショオオオオオオォ!! なんか、柔けええええええええええぇ!!


 心の中で大絶叫!


 どうにか、他のことに意識を向けようと。


 僕はそうっと口を開いた。声を潜めて。


「ねぇ、クリム……もう寝た?」

「寝ましたぁ……」

「寝てる人は返事をしないっ」

「うぇへへ……グルメさん、我がままですねぇ……すぅ」

「いや、これはマジで寝てるな」

「ちょっとぉ……これも食べてみてくださいよぉ……うっわぁ……」

「夢の中で何してんのっ……!?」


 完全に玩具(おもちゃ)にされない? 扱いがペット以下だよね?


 まぁ、そうだよね……。一緒に寝ても、何とも思わないんだから。その程度の認識だよね。一人で勝手にドキドキしちゃって。自分が嫌になってしまう。


 ぐぐっと、首だけクリムの方を向けてみる。そこには、すぅすぅと気持ちよさそうに寝息を立てる彼女の顔が、闇の中にぼんやりと見えた。


 はぁ……僕よりも先に寝ちゃうなんて。無防備ったら、ありゃしない。これは誰かが、彼女のことを守ってあげなきゃダメでしょ。全く。


 そう……誰かが……守って――


 知らず知らずの内に、僕も深い深い眠りへと誘われていた。昼間あれほど寝たのに。そういうことも、あるよね。


「もぉー……グルメさんは、ダメダメですねぇ……私が付いてなきゃ……ぐぅ」



   ☠



 眩しい。眩しくって寝ていられやしない。どうしてこんなに眩しいのか。必死に目を閉じても、光が白く明るく世界を照らし出す。


 すると、今度は奇妙な声が聞こえてきた。


――グエエエエェ~! グエエエエェ~!


 多分。本当に、多分だけど。鳥の声。もしくは、鳥っぽいモンスターの鳴き声。それにしても、ひっでえな……不味いものを食って吐いたように鳴いている。


 同時に、嗅ぎ慣れた木の匂い。森の中とはまた違う、削り出した木の少々しつこい香り。ただ、木の家で半日も過ごせば慣れる。もう気にならない。


「ぐっ……いててっ……」


 何故か、背中が痛い。まるで硬い木の床の上で一晩眠ったかのように、背中から強い痛みを感じる。っていうか、全身がバッキバキ。僕の記憶が正しければ、ベッドで寝たはずなのに……?


 目を覚ますと。


 僕は硬い床の上に転がっていた。


 徐に立ち上がって伸びをする。入念に背中を曲げ伸ばし。


 そして、ベッドの上に視線をやれば。相変わらず、気持ち良さそうに眠りこけたクリムの姿が。


 結論を言おう。


 僕はベッドから落とされた――!!


 確かにベッドは一人用で狭かったけど! それを考慮してなお、寝相が悪い――!! 完全に一人でド真ん中を陣取っちゃってるよ! 布団も蹴っ飛ばして! 道理で落とされる訳だ!


「はぁ……最初から床に寝ても変わらなかったんじゃ……? いてて……」


 一つだけ言うならば。今が寒い季節じゃなくて良かった。


 そっと彼女に布団を掛けてやり、珍しく早起きした僕は、これから何をするか考え始めた。



   ☠



 もちろん、黙って出て行くほど薄情な人間ではない。


 ご飯を頂いて、家に泊めてもらったのだ。恩返しをしなければ、僕の気が済まない。


 さて、何も持っていない僕ができるお礼と言えば? その通り! 定番の()()がある! いや、掃除じゃなくて。部屋は綺麗だから、掃除の余地がない。つまり、もう一つの方。


 朝ごはんを作る――!!


 彼女が目を覚ましたら、朝ごはんが出来ている。どうだろう? なかなか良いアイディアじゃないかな? もう、驚いた顔が目に浮かぶ。


 唯一の問題は、最後に自炊したのが数年前ってことだけど……まぁ、何とかなるでしょ!


 しかし、甘かった。


 料理を作ること自体が久々であるのに加え、ここは()()()である。


 同じ人間同士でも! 人の家のキッチンの勝手が分からないというのに!


 異世界の別種族のキッチンで調理――!?


 この後、僕は現実を知ることとなる。



   ☠



 さて、何を作るか。


 エルフの朝の主食は、ごはん派か、パン派か。まぁ、分からないから後回し。デザートは適当な果実で、飲み物もそれを搾ればいいだろう。簡単簡単。


 ということは、メインの()()()が一番の問題。


「ただ、それはちゃーんと考えてあるんだなー」


 昨日、食糧庫に入った時。目を付けておいた。隅っこに置かれた果物()()()()食べ物。


 僕が手に取ったのは――「卵」!


「へぇ、思ったより大きいな。()()()かは知らないけど……大丈夫でしょ! よーしっ! 今日の朝食は『目玉焼き』だっ! シンプル・イズ・ベスト! 卵を割って、焼くだけ! 楽勝っ!」


 っていうか、それくらいしか僕には作れない!


「ふむ……ここがキッチンか。おぉー、それっぽい。料理に使えそうな、よく分からない道具が並んでる。さてと、フライパン的な物は……?」



~10分後~



 やっと見付けた。この時点で、キッチン周りをけっこう荒らしちゃったぞ……。


「……まぁ、最後に片付ければいっか。さてと。これは石を削り出して作ったフライパン……なのか? えっと、じゃあ――フライパンの上で卵を割ります! せいっ!」


――ベチャ!


「あっ、失敗失敗。殻ごと粉々になっちゃった。仕方ない。これはスライムの餌にするとして――せいっ!」


――ベチャ!


「あれぇ? おっかしいなぁ……? 僕が悪いのか、卵が悪いのか……。よしっ、気を取り直して、慎重に――せいっ!」


――ベチャ!


 こんな感じで、数多もの尊い犠牲を出しつつ。何とか無事に割ることができた。入っちゃった殻は頑張って除去したが……残ってないことを神に祈ろう。


 次に、卵を「焼く」段階に入る訳だけど。もちろん、コンロなど存在しない。現代社会とは違うのだから。


「僕の予想によれば、昨日はここで魚を焼いていたと思われる。大きめの石で囲まれた、お手製の()()()のような一角。ところで、どうやって火を点けるんだ? そうだ! マッチ、マッチ……」



~20分後~



 やっと見付けた。この時点で、キッチン周りが見るも無残な有り様になってしまったぞ……。


「……うん。最後に片付ける! えっと、これが薪で、これが着火用の松ぼっくりみたいな奴で、マッチの代わりに火打ち石! 初めて使うけど。こうか? いや、こうか? ていっ! でやっ! クソッ、難しいな……」



~1時間後~



 やっと火が安定した。一時は火の勢いが強過ぎて、火事になるとこだったけど……咄嗟(とっさ)の機転で水をぶっ掛けて消火! ギリギリセーフ! 全てを新しく取り替えて、再着火して、現在に至る。


 この時点で、キッチン周りがビショビショになってしまったぞ……。


「……料理が完成してから考えよう! あとはフライパンを火の上で熱すれば……あっちぃ!! 取っ手まで熱が伝導する――!! 全部石だから! あっ、ヤバ……」


 フライパンを落としてしまった。燃え上がる炎へ直火で加熱。これはちょっとヤバイ。即座に服を脱いで、それを手に巻き付ける。そう、鍋掴みの要領で。何とかフライパンを救出成功っ!


「あーあ、焦げちゃったな……まぁ、食べれると信じよう! 最後に、皿に盛り付けて……完成っ! どうだっ! 僕だって、やればできる――」

「ふわぁ……朝からうるさいですね……何事ですかぁ?」


 唐突に、眠そうな顔でクリムがキッチンへ入ってきた。


 瞬間。


 彼女の目は一気に覚めた!


「なっ、何ですかぁ!! これぇ――!?」


 その目に飛び込んできた光景は。グチャグチャでビチャビチャになったキッチンと、勢いよく燃え盛る炎と、その前で上半身が裸のまま立ち尽くした僕。


 そりゃあ、誰だって驚く! ほら、思った通りの驚いた表情! いや、こんな感じで驚かせたかった訳じゃないけど!!


「ちょっとぉ! グルメさぁん!! 何やってるんですかぁ!? もぉー!!」

「あ、いやっ! その……あはは……」


 今の僕には。笑ってごまかすことしかできなかった。


 これは……アレだ。イタズラした現場を、母親に見られた時の気分。


 さて、どうやって弁明しようか。



   ☠



 異世界に来て2日目。


 もう既に、何度謝ったのか分からない……。


「ごめんなさいっ! ホントに、こんなつもりじゃなかったから! 申し訳ないっ! お願いだから、信じてください――!!」

「はぁ……もう、分かりましたってばぁ……。元はと言えば、私が見ていなかったのが悪いんです。ちゃんと躾けておかないから……」

「粗相をしたペット!? いや、僕が悪い! 全面的に僕のせい!」

「こんなことなら、ガッチリ首輪を付けておくべきでしたぁ」

「本当にごめんなさい。それだけは勘弁してください」


 二人でキッチン周りを掃除して、散らかした道具を元に戻して、気付けばお昼に近くなってしまった。


 最後に残されたのは――皿の上に乗った目玉焼き()()()


「うーん……あんまり美味しそうじゃないですねぇ……?」

「僕もそう思う」

「じゃあ、頂きますぅ……」

「えっ! 食べるの!? マジで食べるの!?」

「だって、グルメさんが()()()()に作ったんですからぁ……食べない訳にはいかないでしょう……?」


 やっぱり優しい! クリムは優しい! ここまでされて――!! 見るからに元気がなくなっても! それでも、僕の作った料理を食べてくれる! もう、天使か!!


「ただ、()は保証できないよ……?」

「分かってますってばぁ」


 すっかり時間が経って、冷めてしまった目玉焼き。


 グチャッと潰れた黄身が3つ。原形を留めていない。裏返せば、万遍なく焦げ上がっている。どんな初心者が作っても、ここまで酷い目玉焼きはなかなか作れないだろう。僕には才能があるかもしれない。作る料理を片っ端から不味くする才能が。


 彼女は慣れた手付きで調味料を振り掛ける。あっ、そんなとこに置いてあったのか。胡椒ではない。見た感じ、塩っぽいな。なるほど。クリムは目玉焼きに塩派か。気が合いそうだ。


 そのままフォークで一口サイズに切り分け、数秒ほどじーっと見詰める。やがて、覚悟を決めたのか。


 グッとフォークで刺して、ギュッと目を瞑って、口へ運び――


――パクッ





………





……









「――あっ。美味しい。えっ、なんでぇ!? おかしいですよぉ! 見た目はこんなに不味そうなのに――!! 美味しいですっ! ()が作るよりも美味しいっ!! 普段はアツアツしか食べたことなかったけれどぉ! 冷めている方が口当たりがいいっ! 裏側の焦げた部分のホロ苦さが、また絶妙っ! こんな料理、誰も思い付きませんって! 不味そうなのに美味しい! グルメさん、天才ですよぉ!!」


 褒められた――!?


 まさかの。罵倒される準備はできていたのに。絶賛されるなんて。


 彼女の言葉は――嘘ではなさそうだ。今日一番の驚きの表情。それに、さっきまでとは打って変わって、元気が溢れている。本当に美味いのか! えっ、これが!?


「スゴイッ! スゴイです! また作って欲しいくらいっ!!」

「えっと……同じのは、もう二度と作れないと思うけど……」

「うえっ!? ()()()に何を入れたんですかぁ!? 稀にパリッとした食感が素敵なアクセントを出していますっ! 食べたことないっ!」

「……ごめん。それは、卵の殻」

「ほらぁ! グルメさんも食べてみてくださいよぉ!」

「いや、僕はちょっと……」

「美味しいですってばぁ!!」


 無理矢理、僕の口へとグイグイ押し付けてくる。そんなに美味いのか? 他の人にも食べさせたいと思うくらい、美味いのか?


 もしかすると。この世界の食べ物は、()()()が不味そうな方が……美味いのかもしれない。そう考えると、これまでの全てに辻褄が合う。


 美味そうだと不味い。不味そうだと美味い。なるほど。そういうシステムか。納得だ。


 だから、こんなに不味そうな目玉焼きが美味いと絶賛される。ならば、食べざるを得ないだろう。


「じゃあ、あーん……」


――パクンッ





………





……









「ボヘエエエエエエエエエエエエエエエエェ!? ゴホォ! ゲハッ!! ぬわああああっ! あっ、ウエッ……!! マッッッズ!! スゲー不味いッ!! 見た目がクッソ不味そうならばァ! 中身までクッソ不味いのは当たり前ッ!! 統計学的に見積もっても! 美味い確率はかなり低いよっ! なんじゃこりゃああああぁ!! この料理は、目玉焼きじゃねえ――!! 冷めてなお、ぶよぶよした気味の悪い食感! 急にガツンと頭を殴られたような、焦げの絶望的な苦さ! さらには、噛む度に口の中でジャリジャリする不快感――!! 生み出してはいけないッ! 絶対に生み出してはいけない、悪魔の創作料理! 地獄から悪魔を呼び起こしてしまったァ!! もう二度と! 作ることなど有りはせぬ――!! いや、これが! 美味い訳ないでしょ!?」


 ポカーンとした表情のクリム。


 何が言いたいのかは、分かる。彼女にとっては美味かったのだ。ならば、僕が食べても()()()()不味い程度なのでは。そう考えていたのだろう。


 ところが、蓋を開けてみればスゲー不味い。


 まぁ、味覚とは単純な物差しで測れるものではない。人によって味の()()が存在するように。食べ物によっては、僕が美味いと絶賛しても、彼女は不味いと吐き捨てる。そんなものだって、無くはないはず。


 今回の料理が、()()にもクリムの舌に合っちゃったのだろう。


 これは、ただの事故。それも、大事故。


「そんなに不味いですかぁ……? やっぱり、グルメさんは舌がおかしいですよ」

「いや、()には言われたくないなぁ……!!」

「じゃあ、ぜーんぶ私が食べちゃいますよぉ? もう、一口だってあげませんからね~?」

「どうぞ、どうぞ。食べてどうぞ。その料理で宜しければ」

「絶対に美味しいんだけどなぁ……」


 彼女に作ってもらった料理が不味ければ、自分で作った料理はもっと不味い。


 ずっと自炊なんてやってなかったのに! 珍しくキッチンに立つから! こうなるんだ!


 ただ――クリムが喜んでくれただけ、良しとしよう。


 でも、もう二度と料理なんて作らないからな――!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ