34.よくよく不味い
某日、某所にて。
そうそうたる顔ぶれが一堂に集結した。
「えー、本日は僕のためにお集まり頂きありがとうございます」
――『神の舌を持つ者』グルメ!
「どういたしまして~。ただ、私は別に集まっていないんですけどねぇ」
――『メシマズの良心』クリム!
「グルメ様のためなら、火の中、水の中、A級エリアの中っ!」
――『恋する乙女公務員』ミキサ!
「俺は飽くまで契約を履行するだけだ。きちんと約束は果たそう」
――『嘔吐系エリート兵士』ブレン!
「はい、どうぞ。ジュースとお菓子です。ここに置いておきますね」
――『料理上手な美人母』カスタ!
「ブモォ~!」
――『なんか住み着いた魔獣』初代グルメ!
僕が言うのもアレだけど、なかなかカオスな状況だと思うよ。みんなキャラが濃いというか、一癖も二癖もあるというか……。
ただ、混沌レベルの上限を引き上げているのは完全に僕。
クリムは早速、出されたお菓子に手を伸ばす。ミキサは僕の方を眺めながら、恍惚の表情で溜め息を吐いている。対照的に、ブレンは落ち着いているように見えて、完全に目が据わってるぞ。吐かないことを祈ろう。
そして、みんなの様子を温かく見守るカスタ。わざわざクリムのお母さんまで集まってもらった訳ではない。最初からここにいるのだ。つまり、某所とはクリムの実家。より正確に言えば実家の庭。
会議の内容を他の誰かに聞かれたくない。故に、機密保持の観点で最も安全なこの場所が選ばれたという寸法である。大丈夫。今日はちゃんと手土産も持参した。
カスタはお菓子とジュースを出したら、そそくさと退散――するかと思いきや。
「うふふっ。クリムが家にお友達を連れてくるなんて、何年振りかしらねぇ。感極まって、涙が出ちゃいそう」
「うえっ!? おかーさんっ! そーゆーのいいからぁ~! ほら、会議の邪魔だから出てって~!」
「皆さん。どうぞ末永くクリムと仲良くしてあげてくださいね」
「はいっ! お任せくださいっ!」
「あわわ……こっ、公認された……!? 無論、この命に代えても」
「おかーさんっ!!」
クリムの気持ちは分かる。ただ、カスタの気持ちもよく分かる。自分の娘が心配なのは、母親として当然のこと。久々にクリムがお友達なんて連れてきたから、少し舞い上がってしまったのだろう。
……あれ? もしや、僕はお友達としてカウントされてないのか!?
やっぱりペット扱いだった――!!
さて、カスタを見送ったところで話を進めよう。
「今日の議題は、どうやって僕がA級エリアへ侵入するか。その作戦会議になります。これ以上の詳しいことは僕も分からないので、本当にご協力お願いします」
「はい、グルメ様っ! 本題の前に一つ質問です! どうしてこの人がこの場にいるんですかっ!?」
ミキサが勢いよく指差したのは、ブレンだった。そりゃあ、そうなるか。二人は初対面なんだから。これからあまり宜しくない話をするのに、兵団の関係者がいたら誰だって驚く。
しかし、彼女の口から飛び出したのは予想外の言葉だった。
「どうしてブレン先輩がいるんですか!?」
「えっ、先輩なの!? そもそも、知ってるの? あっ、二人は初対面ではない」
「……いや、俺は知らん」
「もちろん、知っているに決まっていますっ! ブレン先輩といえば、学び舎でも有名でしたから。私たちの一つ上の学年で、トップクラスの秀才。いつも寡黙で冷静沈着。卒業試験では最高成績を収めて、一番指名で兵団に採用されたエリート兵士ですよっ!」
「待って。コイツが!?」
「そうです! ブレン先輩がですっ!」
「おい、グルメ。コイツとは何だ。コイツとは」
確かにエリート兵士って自己紹介してたけど! 自称だと思ってた!
それが、ガチのエリートだったなんて……侮れない。人は見掛けによらない。いや、誰もブレンの本性を知らないから、噂が独り歩きしてしまったのだろう。
その実態は、胃腸が弱くて、すぐ吐いて、ちょっとポンコツで、困ったことは物理的に解決する、クリムと喋れない片想い中の兵士。やっぱり、エリートとは信じられない。
同時に、いくつかの謎が解けた。クリムと面識があったのは、同じ学校だったから。そこまで親しい仲ではないクリムのことを、さん付けじゃなくて呼び捨てにしていたのは、先輩だったから。
「ふえぇー。そんなにスゴイ人だったんですねぇ」
「クリムは知らなかったのか。まぁ、知らなそうだよね」
「ガーン……クリム、知らなかったのか……。一番知って欲しかったのに……」
「えっと、本物のブレン先輩ですよね?」
「当然だ」
「あれっ? 突然キャラが変わりました? 私はミキサです。クリムの同期。よろしくお願いしますっ!」
「あぁ。よろしく頼む。くれぐれも足を引っ張るんじゃないぞ」
「むむむ……その言葉、そっくりそのままお返ししますっ!」
「ふっ。威勢がいいな」
「舐めないでくださいよ。私だって成績優秀だったんですからね」
二人はバチバチと睨み合う。初対面なのに。
待って待って。なんで一転して険悪ムードなの? お互いに成績優秀だから、ライバル視しちゃってるの?
「はい、ストーップ! 喧嘩ダメッ! これから一緒に作戦を立てるんだから! どうぞ仲良くして! お願いっ!」
「分かりましたっ! グルメ様のお願いとあらば!」
「問題ない。ちょっとした挨拶だ」
「ふふっ。ミキサちゃんも、ブレンさんも、仲良く仲良く~」
「くっ、クリムが……仰るならば……承知っ……!」
うん。何とも不思議な力関係だな。まぁ、無事に丸く収まって良かった。
ブレンとミキサは、改めてお互いの顔を見合わせる。僕は瞬時に理解した。二人とも「何だコイツ」って思ってるよ。僕に言わせれば、どっちもどっち。
ただ、それ以上に。とても気になることが二点ある。
「そういえば、ブレンはミキサと普通に話せるんだね」
「は? 当然だろう?」
「じゃあじゃあ! どぉーして私と喋れないんですかぁ~?」
「ひっ……あわわ……クリム、その……」
「うーん。やっぱりクリムアレルギーの説が濃厚ですねぇ」
「クリム、架空のアレルギーを確立しないで。学会に怒られるよ」
「ふぅん。そういうこと……」
あっ、察した。
相変わらずミキサは察しが良い。とりわけ、そっち方面に関して。
ついさっきまで、あんなに険悪だったのに。今はニヤニヤしながらブレンの方を眺めている。
そして、もう一つの気になること。
「てっきり、ミキサはブレンに食い付くと思ったんだけど……。ほら、僕よりもブレンの方がイケメンの部類じゃない?」
「へっ? どこがですか? 普通ですよ、普通! グルメ様の方が断然イケメンですっ! ねぇ、クリムもそう思うでしょ?」
「うえっ? そうですねぇ。顔だけ見れば、ブレンは中の下ですかねぇ……」
「ちっ、中の下……!? ガーン……来世でまた会おう」
「早まらないで!!」
僕はとっさにブレンのナイフを叩き落とす。
ほらぁ……だから言ったじゃん。カオスだって。最初から分かっていたけど。これじゃあ、一向に会議が進まないよ……。
しかし、この混沌とした状況を収めたのは――クリムではなく、ブレンでもなく、ミキサだった。
「……ブレン先輩、ちょっと顔を貸してくださいっ!」
「どうした。果たし合いか?」
この場から二人だけ離脱して、ひそひそと何かを話し始める。
よくよく耳をそばだてれば、聞こえないこともない。
「単刀直入に言います。ブレン先輩は、クリムのことが好きですね」
「すっ……!? どうして、それを……!?」
「分かりますよ。だって、クリムにだけ態度が丸っきり違うじゃないですか」
「そんな……盲点だった」
「応援しますよ」
「何だと」
図らずも、僕も同じことを思った。何だと。
ミキサが、ブレンの恋を応援……? 嫌な予感しかしない。
「私、ブレン先輩を応援します」
「……なるほど。大体察した。お前はグルメ狙いだな」
「えっ! いつから気付いていたんですか……?」
「分かるだろう。一人だけ様付けで呼んでいる時点でおかしい」
「あっ、確かに」
「ならば、俺もお前を応援しよう」
「お前じゃなくて、ミキサです」
「ミキサを応援しよう。なに、心配ない。これは単なる利害の一致だ」
「ふん、上等です。じゃあ、いいですね。私がブレン先輩をクリムとくっ付けて」
「俺がミキサをグルメとくっ付ける。交渉成立だ」
握手してる。二人はがしっと固い握手を交わしている。
おおう。複雑な四角関係になってしまったぞ……。もう、矢印があっちこっちに入り乱れてる。
こうして、ミキサとブレンは笑顔を湛えながら戻ってきた。
「グルメ様、失礼しましたっ! でも、ご安心ください。問題は全て解決ですっ! ねぇ、先輩?」
「そうだな。どうやら、お互いに誤解があったようだ。しかし、わだかまりも解けた。これ以上、揉めることはないだろう」
「うえっ!? 二人とも仲良くなってますよ!? 一体、何を話してたんですかねぇ。怪しい……」
「ブモォ?」
クリムは腕を組みながら、うーむと唸っている。
まぁ、僕は全部聞いちゃったけど。それを踏まえて、今後のことが心配で心配でならない。
ただ……これで会議を進められるならば、致し方ない。大事の前の小事には目を瞑ろう。今は二人が仲良くなったことに感謝。そう、体面上は仲良くなったのだ。
呼吸を整えて、僕はやっと思いで本題を切り出した。
「では、作戦会議を始めます」
☠
ブレンは言っていた。これ以上、揉めることはないだろうと。
結論を言おう。
そんなことなかった――!!
「だからっ! 門衛が交代するタイミングを狙うのが常套手段でしょう! 荷車に紛れて中へ侵入するなら、一番隙が生まれやすいっ!」
「いや、全くの逆だ。引き継ぎの時間だからこそ、狙われやすいと自覚している。確実に警戒しているだろう。現に経験した俺が言うんだから、間違いない」
「正面突破という案には同意しますが、南門から侵入するのが気に喰わないですっ! 衛兵の人数的にも北門の方が手薄ですよね!?」
「それくらい分かるだろう。主要道は南側。人や車の出入りも多い。つまり、北から大きな荷物を運んでくるのは、余りにも不自然」
「でも、なくはないでしょう!」
「少ないと言っているんだ」
「どう思いますか、グルメ様っ!」
「グルメ。お前の意見を聞かせてくれ」
「あの、ちょっと僕には……話についていけないというか……どっちの案も一理あるというか……」
「ふふっ。大変ですねぇ」
「クリムは呑気にお菓子食べてないで!」
ミキサとブレンの間で議論が白熱する。両者一歩も譲らない。我の強い者同士が話し合うと、そうなっちゃうよね。
僕も議論に参加したいけれど、いかんせん詳しい事情を全く知らないから無理。一応、必要な資料は揃っているようだ。ミキサがエリア地図と貨物運搬スケジュールを、ブレンが見張り・門衛の配置図と勤務シフトを持参してくれた。
ただ、僕にとってはちんぷんかんぷん。だって、文字が読めないんだもん。
これまで話の流れから察するに、A級エリアの八方には物見やぐらが存在するらしい。そこから武装した見張り番が交代で周囲を監視している。故に、門以外の場所から侵入すると一発でバレる。最悪の場合、容赦なく弓矢で射られるとか。恐ろしい事この上なし。
見張りの目が届かない夜間になってから侵入する案もあったが、結局のところ不可能。夜だけは魔法で周囲に罠が張られている。決められた場所を通過すると、警報が鳴ると言っていた。赤外線センサみたいなものだろうか。無論、夜は門も閉まっている。
以上より、昼間に門から正面突破することだけは決定した。
どうやって突破するかは、絶賛議論中。
「言っておきますけど! 架空の貨物運搬依頼をでっち上げるのは大変なんですからねっ! ミスがあったら手形でバレますし、何か手違いがあれば門で止められるのは確定事項!」
「そうだとしても、時間が掛かり過ぎだろう。そこまで手の込んだものは必要ない。最悪、手形を紛失したと言い張れば、荷物確認だけで通してもらえる」
「ザル警備じゃないですかっ! これだから兵団は!」
「管理局の方がお堅いんだよ。頭も、規則も」
「揉めないで――!! ほら、仲良くなったんじゃないの!? ねぇ!? クリムも何か言ってやって!」
「えっとぉ……どうしてグルメさんには意見を求めるのに、私には意見を求めないんですかぁ?」
「クリム。じゃあ逆に聞くけど、アンタは何か意見あるの?」
「えっ? 特にないですぅ」
「だからよっ!!」
どうやら、クリムは最初から話し合いに参加するのを諦めているようだ。その気持ちは共感できる。もう、ブレンとミキサに任せておけばいいんじゃないかな。二人とも優秀だから。
ただ、お菓子ばっかり食べてないで。さっきからずっと、僕たちをニンマリと眺めながら、ひょいぱくひょいぱく。楽しい見世物じゃないよ?
「待って、クリム。一つだけいい?」
「何ですかぁ、グルメさん」
「今この場で会議に参加してないの、クリムと初代だけだよ」
「うえっ!? 私、初代グルメさんと同レベルですかぁ!? 失礼なぁ!」
「ブモ?」
こんな感じで、会議は踊り続けるのだった。まぁ、着実に進んではいるが。
☠
一時はどうなることかと思ったけれど、無事にまとまった。僕は二人を諌めるだけで、あんまり役に立ってない気もする。
「仕方ないですね。これで勘弁してあげましょう」
「まぁ、及第点といったところだな」
「本番は頼みますよ。くれぐれも足を引っ張らないでくださいね」
「それは、俺のセリフだ。お前はいつも一言余計だな」
「お前じゃなくてミキサですっ!」
「言われなくても分かってる」
「ストーップ! 二人とも、僕のためにありがとうっ! 当日もどうぞよろしく! やれやれ。精神的に疲れた……」
「ふふっ。皆さんお疲れ様ぁ~」
「ブハッ!」
ひとまず、作戦会議さえ終われば仲の良い二人に戻ってくれるだろう。いや、戻って欲しい。戻ると信じたい。そういう契約してたでしょ。
ギスギスした状況下でも、クリムだけは平常運転。いつの間にか、お菓子は欠片もなくなっていた。
「はぁ……当日が心配だな……」
「大丈夫ですよ。喧嘩するほど仲が良いって言いますからぁ。それに、私は夫婦の漫才を見てるみたいで面白かったですよぉ~」
「「夫婦じゃないっ!!」」
「おおっ。息ピッタリですねぇ」
クリムが綺麗に締めたところで、今日の予定は終了。
あとは決行日に向けて準備をするのみ。まぁ、その過程で嫌でも何回か顔を合わせることになるだろう。
「じゃあな、グルメ。今日はクリムの実家に招いてくれて感謝する。できれば、また招待して欲しい」
「分かった分かった。こっちこそ、ありがとう」
「ブレンさん、ばいばーい」
「くっ、クリム……! その……また……」
「あーもう! しゃんとしなさいっ!」
「おい、蹴飛ばすことないだろう! それができたら苦労はしない」
「はいはい。じゃあね」
ブレンはいつも通り、名残惜しみながら去っていく。
そういえば、何か忘れているような……?
「あっ! ナイフが折れたの言い忘れた――!! まぁ、今度でいっか」
そして、ミキサともお別れ。
「グルメ様……今日はうちに来ませんか?」
「それは、御主人様に聞かないと何とも……」
「ダメでーすっ! でもでもっ! 初代グルメさんならいいですよぉ~」
「そっちは、いらないっ!」
「ブモッ!?」
初代、完全にとばっちり。
まぁ、アイツは僕のいる方に付いていく可能性が高い。そろそろ、「待て」を覚えさせたいものだ。
「そうそう、グルメ様っ! お別れの前に渡すものがありましたっ!」
「僕に?」
「はい、どうぞ!」
ミキサから手渡されたのは、一つの小袋。
中を開けてみると――
「これは、焼き菓子。クッキーみたいな。うわっ、スゴイ! カラフルで、色んな形がある! もしかして……手作り?」
「正解ですっ! ほら、自己紹介の時に言いましたよね? 趣味はお菓子作りって」
「確かに言ってた! へぇ~! こんなの作れるんだ! スゴイスゴイっ!」
「そんな……褒められると……でへへ……」
「ミキサちゃん、器用だねぇ~」
「アンタには作れないでしょうね」
「うえっ!? つーくーれーまーすぅー! 頑張れば多分っ!」
あからさまなミキサの挑発に、クリムは頬を膨らませる。こっちの二人もお互いにライバルなのだ。
ただ、僕の見解を言わせてもらえば、クリムにこれは作れないと思う。無論、僕にも作れない。かなり細部までこだわって、手が込んでいる。
「私の自信作ですっ! 是非とも食べてみてくださいっ!」
「あっ、ここで?」
「ミキサちゃーん。私も食べていーい?」
「いいわよ」
僕は青色のクッキーを一つ、手に取る。
食べれる植物で着色しているのだろう。それにしては鮮やかな水色。
そして、この形は何だろう……? 楕円形のような……。
分かった! スライムだ!
いや、なんてものをチョイスしてるの!?
落ち着け、落ち着け。これはクッキー。本物のスライムじゃないから、そんなに不味くない。
果たして、ミキサのお菓子作りの腕はどれくらいなのか。こんなに可愛いクッキーを作れるならば、かなりの腕前だと判断できる。
そして、彼女自身もまた様々な店を食べ歩いている。街で売っているお菓子にも詳しいはず。そんなミキサの自信作とあらば、味も間違いないだろう。もう、絶対に美味い。
「いただきます」
「お口に合うといいのですが」
ミキサを信じて、僕は焼き菓子を頬張った。
――サクッ
………
……
…
「ポケエエエエエエエエエエエエエエエエエェ!? びがッ! ちょげぴィ!? やろぉ……! マッズ! よくよく不味いッ!! ブヘっ! 砂丘――!! 渇くッ! 口の中の水分が消滅するッ! パッサパサ! パッサパサだよ!! 本当に焼き菓子なのか! 原材料は砂!? 一口目はサクッとしたのに! 二口目はサラサラッ! 全部崩れたッ! 砂が口内にへばり付いてる! その一粒一粒が極めて不味い――!! キャラが立ってる! 不味さのキャラが立ってるよ! 喉がカラカラ! 舌が焼ける! まるで砂漠ッ! 飲める水をくださいっ! これ乾燥剤じゃないよね!? あっ、ヤバイ! 破壊光線が出ちゃう――!! ぬおぉ……」
どうにか破壊光線を必死に抑える。なんだこれは。初めての感覚。全てが渇く。人体の砂漠化。口内の大干ばつ。
「グルメ様っ! 大丈夫ですかっ!?」
「アボォ……大丈夫かと聞かれたら、ダメ……そうだ、ジュース! カスタさんが持ってきてくれたジュース! 水分が欲しい! あれっ!? どのコップも空っぽ――!?」
「うえっ? ごめんなさぁい。あのですねぇ。余っていたから、私がみんなの分まで飲んじゃいましたぁ」
「マジかよォ――!!」
いや、確かに会議は終わったけど! 人の分まで飲んじゃう!?
今日もクリムの食い意地に完敗したのだった。




