12.まあまあ不味い
ついさっきまで。カスタも僕のことを礼儀正しい人間と思っていただろう。僕も僕なりに、精一杯の良い人を演じていた。
その評価が一変した――!!
クッソ不味いものを食べてしまったばっかりに!!
ドン引きどころの騒ぎではない。根本から人間性を疑われるレベル。自分たちが美味い美味いと食べていたお菓子を、転げ回りながら不味いと吐き捨てたのだから。絶対ヤベー奴だと思われてるよ! コイツに自分の娘をよろしくお願いしちゃダメだって!
そう、これが一般人の正常な反応。もう二度と関わりたくない。
慣れてしまったクリムの感性が異常――!! スゴイよ! やっぱりクリムはスゴイッ! 最初に出会ったのが彼女で良かった!
目を白黒させながら、カスタは僕を問い詰める。いつもの落ち着きは、宇宙の彼方へと消え去っていた。
「あっ、え……あの、グルメさん。これは、その……どういうことですか!?」
……僕が聞きたいくらいだ。
どうして世界が不味いのか。この世界の創造者に問い詰めたい。
そして、僕は何と答えるべきだろう。もっと別の美味い世界から来たと言って――信じてもらえるか? 「自分でも良く分からないけど、昨日この世界に流れ着きました。別世界の人間です。どうぞよろしく」。うーん……益々怪しい。
こんな素性も得体も経歴も知れない人間、僕なら追い出す。
このままでは! 家を追い出されてしまう! まだ食べてないのに!! 美味い晩ごはんを! 一口すら食べてない! それだけは! それだけは絶対に避けねばならない――!!
僕の脳は強かに計算を始めた。どう言い訳すれば、全てが丸く収まるか。美味い飯に有り付けるか。意を決して、神妙な面持ちのカスタへ言い放ったのは――
「のっ、呪いです! そういう呪いの魔法に掛けられているんですっ!」
「えっ? 呪い、ですか……?」
「何を食べても不味いと感じてしまう! 究極に美味いものしか食べれない! 舌が肥えてしまう禁断の魔法――禁呪・クソ・マーズ!」
「クソ・マーズ……?」
うむ。我ながら、酷い魔法があったものだ。
一体、何のために!? 誰が何のために作った! こんなクッソみたいな魔法! 嫌がらせとしか思えないっ!
果たして、信じてもらえるだろうか。ちなみに、僕だったら信じない。
緊張の一瞬。からの――カスタの表情が、ふっと緩んだ。
「はぁ……そういう呪いの魔法でしたか。それは、とても大変でしたねぇ……さぞかしお辛かったでしょう」
信じちゃった! すんなり信じちゃったよ! いや、チョロ過ぎるって! やっぱりクリムの母親だ!!
嘘を吐くのは、少々心苦しいが。美味い晩ごはんを食べられなくなるよりはマシ! 背に腹は代えられぬ! 今の僕は、美味いものを食べるためならば悪魔に魂だって売る――!!
「うえっ!? グルメさん、呪いに掛かってたんですかぁ~!? 私、聞いてないですよっ!」
「そりゃあ、言ってなかったからね。聞かれてもないし」
「そういう大事なことは、先に言ってくださいよぉ!」
「うん。君には言われたくない」
何はともあれ、一件落着。
これでやっと美味い晩ごはんに――
「あっ、あれっ……? なんか、焦げ臭くない……?」
束の間、3人で見詰め合う。くんくんと嗅ぐまでもなく、焦げた匂いが辺りに漂っていた。その一秒後。
「あっ! 忘れていましたぁ!」
ぴょんと飛び跳ねて、キッチンへ猛然と駆け出すカスタ。この光景、前にも見た! さすがは親子! クリムの母親で間違いない――!!
っていうか! どうして火を使っている最中に! キッチンから離れるかなぁ!? ここ完全木造住宅! ちょっとでも火事になったら手遅れっ!
おや、何でだろう。急に今日の晩ごはんが心配になってきたぞ……?
最後に、クリムがポツリと呟いた。
「もぉー。おかーさん、おちょこちょいなんだからぁ~」
「どの口が言う!?」
☠
大惨事には至らなかった。火事にもならず、僕たちも無事。
ただ、料理が無事かは分からない。
カスタは「大丈夫、大丈夫」って、言ってたけど……。不安だ。
「ほらぁ、グルメさんの番ですっ! よそ見しちゃダメですよぉ!」
「あっ、ごめん」
僕とクリムはゲームで遊んでいた。一仕事を終えたクリムは、暇そうな僕を見兼ねて一緒に遊ぼうと提案してきたのだ。これは願ったり叶ったり。晩ごはんが完成するまで、暇を潰せる。
もちろん、テレビゲームではない。この集落の遊戯。木の板を使った……カードゲームに近い気がする。
「で、さっきクリムはどこで終わったの?」
「私はポペペンですっ!」
「じゃあ、僕は……ポポンを伏せて、ペポンを出す」
「ふっふーん! 甘いですねぇ! 私のターン! ポン・ペン・ポペンを生け贄に捧げ――降臨せよっ! ポペポポン! 行っけぇ! グルメさんをぶっ飛ばせぇ!」
「はい、モジャ」
「モジャ――!? このタイミングでモジャ!? 嘘でしょう! ズルイですよぉ! 有り得ないってぇ!」
「また僕の勝ち。これで5連勝」
「負ーけーたぁー!! グルメさん、強過ぎですよぉ! ルール覚えたての初心者なのにぃ~! ええっ、本当にポペン・ゲーム初めて?」
「ねぇ、これ面白い?」
「面白いじゃないですかぁ!」
誰だ! こんなゲームを考案した奴は! これ全部、実在の植物か果物なのか!? 絵札から名前が判別しにくい! 似たような名前ばかりで紛らわしい! そして、モジャを出せば大体勝てる――!!
ポペンだとか、ポペペンだとか、ずっと遊んでいると頭がおかしくなりそう。これが本当の闇のゲーム。微妙に面白いのがまたムカつく。
雪辱を果たそうと、改めて絵札を配るクリム。そして、6戦目――
「二人とも、晩ごはんですよ~!」
それを遮ったのは、カスタの一声だった。
「むぅ~! 良いところだったのにぃ~!」
「また遊んであげるから」
「次こそ! 次こそリベンジしますからっ! 逃げちゃダメですよぉ!」
「どこにも逃げないって」
なんてこった。謎のゲームのライバルに認定されてしまったぞ……。
こうして、僕たちは手を洗ってから、足早にリビングへ移動するのだった。
「あっ、スゴイ……今度は良い匂いが。ここまで届いてる。そう、これは……混ざり合ったスパイスの香り! えいやと適当に入れてないと断言できる。香りの時点で、調和が取れている――!!」
「くんくん。今日の晩ごはんは、もしかして……」
からの、到着! 満を持して、リビングへ到着!
大きな古樹を切り出した、広いテーブル。その上には既に、いくつかの料理が並んでいた。
「あら、もう来たの? 珍しい。あっ、ごめんなさいねぇ。ちょっと色々とあって。作り直したから、料理の数が少なくなってしまって……」
「いえ、とんでもありません! 三品もあれば十分ですっ!」
「ほらほらぁ、グルメさん。座って座ってぇ~」
クリムに言われるがままに、席へと座る。おっ、なかなか硬い木の椅子。長時間座っていたら、お尻が痛くなること請け合い。座布団は敷かないのか。硬さが気になるのは僕だけらしい。
視線をテーブルの上へ向ける。最初に思ったのは豪華。料理の乗ったお皿が、2枚以上あるだけでも異常。そう、思い返せば。異世界に来て、真面な料理を食べるのはこれが初めて――!!
果物、スライム、スープ、焼き魚、目玉焼き。どれも単品でしか食べていない! 今回の料理は、フルコースという訳ではないが……料理3種類+飲み物。もう、豪華絢爛。
「うおおおぉ……!! 夢じゃないよな……!?」
一品目。見るからにふんわりとしたパン。エルフはパン派だったのか。例えるならば、薄く斜めにカットしたフランスパン。現実世界のスーパーで売られているものと比べれば、形こそ歪であれ。真ん中の白い部分は、絶対に柔らかい。フランスパンっぽくないな。加えて、パリッとした食感が楽しめそうな、茶色いパンの耳。もしや、一からここで焼き上げたのか。
二品目。カラフルな彩りを前面に押し出した、旬の野菜をふんだんに使ったサラダ。緑を主体として、赤と黄と紫がバランス良く散りばめられている。毎日食べれば健康体になれそう。野菜の上には半透明のジェルみたいなソースが揺らめいている。多分、味を付けるためのドレッシングかと。面白い。サラダで食指が動くなんて、今までに一度もなかったけど……。これはそそる。
三品目。表面がトロリとした、不透明で赤茶色のスープ。色は濃い味噌汁だが、口当たりは中華あんかけスープと予想。この世界にも片栗粉があるのだろうか。お椀の中には、何かがゴロゴロしている。正体はまだ分からない。ただ、確実に手間が掛かっている。僕がよく食べていたインスタントスープの比ではない。じっくりと火を通して、食材の味がスープへ染みているはず。
飲み物は、シンプルに透き通った水。これが飲める水か。貴重と聞いていたが、スープに使える程度には確保できるようだ。何はともあれ、有り難く頂こう。
この時点で、僕のお腹はペコペコ。今にも涎が垂れそうな。
早く、早く食べたいっ――!!
しかし、気付いた。気付いてしまった。
どの料理からも、スパイスの香りはしてこない。そして、テーブルの中心に置かれた平たい物体。これが鍋敷きだと仮定すれば、まさか……!?
「うふふっ。誰が三品なんて言いましたか? さて、こちらがお待ちかねの――メインディッシュです」
「よっ、よよよ……四品目――!?」
もう、幸せっ! 幸せ過ぎて涙が出そう! これで終わりじゃなかった! まさかの四品目! 感慨無量! もしや、ここは天国か――!?
クリムもまた、この料理を待っていたようだ。
「ああっ! 来た来たぁ~! これこれっ!」
カスタは少し大きな鍋を、テーブルの上にドンと置く。蓋を開ければ、立ち昇るスパイシーな湯気。コイツは来た。確実に来た。一瞬でガッと胃袋を鷲掴みにされた! あぁ……堪らないっ! 堪らなく愛おしいっ! 今なら喉から手が出せる――!!
「お、おおおぉ……あぁ……何という、何という料理……」
脳裏を掠めたのは、僕の母さんが作ったカレー。期待して鍋を覗き込めば。衝撃。
違う! 普通のカレーじゃない! だって、これ……黄緑色だもん! 魚が丸々一匹、鍋の中で浮いているし! でも、このスパイシーな芳ばしさは、カレーとしか――そうか! 食べたことはないけど、知っているぞ……アレだ! タイ料理のグリーンカレーか!
まさか、異世界が起源だったなんて。というのは、さすがに偶然だろう。グリーンカレーほど汁っぽくない。やはり、魚の入った黄緑のカレーという表現がしっくりくる。
そして、断言しよう! カレーとは、「概念」の時点で美味い――!! 誰でも簡単に美味く作れる料理の代表格! それがカレー!
僕の様子を眺めながら、クリムはニヤニヤとする。心底仰天している僕を、完全に面白がってるな。
「グルメさん。まだです。まーだ、『待て』ですよぉ?」
「くっ……くうううぅ……!! 早く、早く許可を――!!」
「そもそも、知らないでしょう? この料理の名前だって」
「しっ、知らない! 何なのだ!? これは一体、何なのだァ!?」
教えてくれるのかと思いきや。口を開き掛けて、また閉じた。こんなところで! 勿体ぶらないでくれぇ!
「ふふっ。しょうがないなぁ。これは、メシマズの村の伝統料理で――」
「おおう。急に不味そうな紹介」
「たっくさんの香辛料を使って味を調えた、今も老若男女から愛されている料理!」
「おっ、美味そうに戻った」
「たった一口で、誰もが癖になっちゃうコクのある辛みが自慢! ただ、うちのはそんなに辛くないですがねぇ。小さい頃の私が食べられるくらいだから。その『辛さ』から由来して。みんなから、こう呼ばれています」
「まっ、まさか!?」
辛い料理。辛さが由来となった名前。こんな偶然の一致があるのか。
「そうですっ! この料理名は……」
「料理名は――!!」
「カラシです」
「カラシ。待って! 思ってたのと違う! カラシなの!? えっ、カレーじゃないの!?」
「カレー? あぁ、辛い調味料のことですねっ!」
「いやいや、逆でしょ!? 逆だって! カレーがカラシで、カラシがカレー!」
「また訳の分かんないこと言わないでくださいよぉ~」
僕が悪いのか。その通り。
この世界では! カレーがカラシで、カラシがカレー!
……受け入れるまで時間が掛かりそうだ。
「じゃあ、二人とも。準備は良いですね」
そう宣言して、カスタが着席する。全ては整った。クリムが両手を合わせたのを見計らって、僕も両手を合わせる。
これだけは。これだけは、異世界も共通なのだ。
「では、今日も食材に感謝を込めて。いただきます」
「いっただきまーすっ!」
「いただきます!」
真っ先に鍋へ手を伸ばしたのは、クリム。
「あっ! ズルイ! 僕も狙ってたのに!」
「へっへーん! 今回の勝負は私の勝ちですぅ~」
「もぉー。食い意地だけは張っているんだから。グルメさんも、安心してください。まだまだ一杯ありますよ」
「あ、はいっ!」
「うえっ!? 失礼なぁ! 私の食い意地が張ってるんじゃなくて! グルメさん、食べ方が分からないでしょう? だから、お手本を見せるの! あっ、あと! 私がみんなに取り分けてあげるんだからぁ!」
「はいはーい」
クリムは3つのお椀にカレー、もといカラシを並々とよそう。僕の前にも配ってくれたが――はて、どうやって食べるのか。大体の予想は付いている。
「ほらぁ、これが通な食べ方ですよぉ~」
あっ、思った通り。クリムはお椀にパンを突っ込んで、浸してから食べている。まぁ、パンとカレーが揃ったら、そうなるだろう。ところで、ホントに通なのか……?
僕も彼女の真似をして、黄緑色のカレーの中へとパンを浸す。あぁ、ここに真っ白なホカホカのご飯があれば……。だが、文句は言うまい。
重くなる。浸した瞬間、パンがぐんぐんとカレーを吸収し、重くなる――!! これは、ただのパンじゃないっ! このカレーと合わせて食べるために生まれてきた料理! まさに、カレーとナン関係!
滴り落ちるほど、たっぷりとカレーを染み込ませたパン。それでもなお、中はフッワフワ、外はカッリカリ。スプーンで具材を少々乗せて。突くと崩れるほど柔らかく煮込まれた、白身魚を添えて。
色合いは不思議な感じだけど。不味そうではない。むしろ、鮮やか過ぎず、美味そうなグリーン。一流シェフによる、本格タイ料理ですと言われて出されたら――100%の人間が信じる!
香りは強いが、ここまで近くで嗅いでもキツくない。やはり、完璧に黄金比が取れて刺激的。僕の食欲を的確に刺激する。食べるのが勿体ないくらいに。少し前とは打って変わって、肺まで美味い!
できたてのアツアツ。カレーとは、寝かせても美味いが! 作った直後も確実に美味い! おやっ? いつの間にか、脳内からアジアンテイストな音楽まで聞こえてきた。
最後の問題は、味である。
クリムはメシマズかもしれないが、果たしてカスタは……?
料理を焦がしちゃったのは、うっかり。不味いと叫んだ僕のインパクトが強過ぎて、忘れてしまった。
そして、これは飽くまで僕の勝手な持論であるが……。
多種多様なスパイスを使う人に! 料理下手なんていない――!!
以上より、カスタは料理が得意と断言できる! 絶対に美味い料理を作れる! それは、クリムが絶賛するほどに! 愛情だって十分に込められているはず!
もし、この料理が不味かったら! どう考えても有り得ないことだが……万が一、この料理が不味かったら!
他に美味いものなんて考えられないっ! もう死ぬしかない! もしくは世界を滅ぼす!
クリムとカスタが心配そうに見守る中。
僕はゆっくりと、だが迷いなく真っ直ぐに、口の中へと運び――
――はむっ
………
……
…
「んびゃあああああああああああああああぁ!? うっ……ウガアアアッ!! ゴオオオォ! ひいいいいいいいッ!! はあああああああァー!! マッズ!! まあまあ不味いッ!! っていうかァ! かれえええええええええええええええええぇ!! どこが! どこが辛くないッ!? 辛さを10段階評価で表すならば! 優に20は超えているぅ――!! 痛いッ! 舌が痛い!! 口の中から喉の奥まで痛いッ! さらに極め付けが! こんなに辛くても味覚が麻痺しない――!? 舌の上にて不味さは健在! コイツ……ただ辛いだけじゃねえ! ちゃんと不味いぞぉ!! コクのある不味さ! 深みのある不味さ! 混ざり合ったスパイスが各々の味を自分勝手に主張して! 口の中がしっちゃかめっちゃか! 調和してたのは香りだけ――!! 結論を言おうッ! やっぱ、かれええええええええええええええええええええぇ!! 水! 水ぅ~!!」
慌てふためく僕を前にして、平然とするクリムと、おろおろとするカスタ。いや、構図がおかしい。普段の二人を鑑みれば、恐らく立場が逆だろう。これも慣れの影響か。
「あれぇ? 新しいリアクションが来ましたねぇ。これが辛い? そんなに辛いですぁ? グルメさんの舌は子供ですねぇ」
クリムに子供と言われて、何だか釈然としない。言い返したいのは山々だけど、今は無理――!!
「水ぅ~! 水ぅ~!!」
テーブルに置かれていた、水の注がれたコップ。竹のような植物を割って作ったのだろう。それを勢いよく掴み! 口の中へ猛然と水を流し込む!
――ゴクンッ
………
……
…
「ゴゲエエエエエエエエエエエエェ!? アッゲええェ! のがぁ……!! マッッッズ!! これも不味いッ!! 確かに辛さは和らいだが! 不味くて不味くて、まだ辛い方がマシだったァ! うえっ! 飲めるはず水なのに、僕にはもう飲むことができない――!! あのヤベー川の水よりはマシだろうが! それを考慮してなお余りある不味さ!! 許すまじ! この水もまた許すまじ――!!」
すぐにでも! 早急に、口直しが必要!
僕は何を思ったのか。今度はサラダを手に取り、かっ込む!
――シャキッ
………
……
…
「ノベラアアアアアアアアアアアアアアァ!! アイエエエエエエェ!? ンゴオオオォ! マッッッズ!! なんて不味いッ!! 生で食べてはいけない野菜を! 寄せ集めて作った殺人的なサラダァ!! この青い苦さは――レベル999のパセリ! まさに凝縮された森ッ!! 加えて不味さを引き立たせるは! 妙にネバネバしたドレッシング! 酸味のあるキッツイ不味さで、優しく舌を包み込みやがった――!!」
ダメだ! 我慢できねえ!!
最後に残されたのは、具沢山の味噌汁のようなスープ。
これに我が生涯の一縷の望みを懸けて――
――ズッ
………
……
…
「アベエエエエエエエエエエエエエェ!? ゴハァ!! はっ、はがあああああぁ!? おうううぅ~!! マッッズ!! 最後まで不味いッ!! こんなに料理が並んでるんだから! 最後くらい美味いのが当たり前ッ!! 不味い不味いと分かっていても! 美味くあるのが世の情け――!! 食べても具の正体は謎のままっ! 口当たりはめっちゃドロドロしてるぅ~!! 何これぇ!? 突然、知らない人から! ボディに鋭い一撃を喰らったかのような衝撃的な不味さ! 誰か分かってくれぇ! 世界の中心で不味いと叫びたい――!!」
これで一通り、食べてしまった。
もう何も残っていない。
「待って、嘘でしょ!? 全部不味いッ!! 不味い料理のフルコース! 野菜に、汁物から、メインまで! 一切の隙を見せぬ四段構えの! 鉄壁の不味さの布陣――!! 現代人は誰一人として攻め落とすこと不可能ッ! チャンピオン! この料理がチャンピオン! うええぇ……!!」
どうして斯くも世界は不味いのか。
もしや、メシマズの村には……メシマズのエルフしかいないのか!?