11.絶妙に不味い
さらに追加で20分ほど歩いて――もとい、小走りして。
ようやく……ようやく辿り着いた。
「はいっ! とーちゃーく!」
「……はあ」
「あれぇ? 元気ないですねぇ。来る途中で元気を落っことしちゃいました?」
「元気を落とすとは」
「ほらぁ、気を落とすって言うじゃないですかぁ。じゃあ、元気も根気もやる気も落としちゃうものでしょう?」
「……間違ってないように聞こえるけど。多分、間違ってる」
「うーん……ツッコミのキレも悪いですねぇ。もしかして、お疲れですかぁ?」
「もしかしない!」
「うえっ!? 私のセリフをパクらないでくださいぃ~!」
どんな人間であれ、疲れたら元気がなくなる。身体的に疲れても、精神的に疲れても。今の僕は両方。
ロクに休憩も取れず――!! 飲めるのは不味い液体のみっ! それを死ぬ気で我慢して飲み下し、先導するクリムとはぐれないよう走り続ける。
これ、なんてマラソン!? やったことないけど、トライアスロンよりキツイって! こんな競技、他にないよね!?
ならば、僕が命名しよう! マズイアスロンと――!!
「じゃあ、中に入っちゃってぇ~」
「えっ、この家は……? 誰の――」
「いーから、いーから」
そもそも、僕を誰と会わせたいのか。ついぞ、教えてくれなかった。まぁ、僕がそれどころじゃなかったというのもある。
クリムが住んでいた家と同じように、小さな平屋の完全木造住宅。周りが花畑で囲まれている点までそっくり。唯一の違いは、ここ一帯に家が立ち並んでいることか。
言うなれば、エルフの集団定住地。人間風に表現すれば、団地。ちょっと気になるのは、どうしてクリムが離れて住んでいたのか……何らかの事情があるのだろう。エルフの慣例か、風習か。
ノックもせずに扉を開けて、そそくさと土足のまま侵入する彼女。少し遅れて、その後に付いていく僕。
「えっと、お邪魔します」
「はーいっ! どうぞどうぞ~」
「だから、どうして君がどうぞって――」
瞬間。全てを察した。
なんだ、そういうことか。合点がいった。つまり、ここもまたクリムの家なのだ。普段から住んでいる訳ではないが。
平たく言えば、彼女の「実家」!
……待てよ。じゃあ、会わせたい人って……もしかして!?
いやいやいや! まだ早いって! まだそんな段階じゃないし! そもそも僕たちはそんな関係でもない! うっ、ヤバイ緊張してきた……緊張で吐きそう……。
僕の予想を裏切ることなく。クリムは奥に向かって快活に叫んだ。
「おかーさんっ! ただいまぁー!」
やっぱり! これから母親に挨拶する展開っ! だから、先に言ってよ……。手ぶらで来ちゃったじゃないか。手土産もなければ、覚悟も足りない。どうする、どうすれば!?
どうか不在であれ――と、願った数秒後。
落ち着いた女性の声が、どこからともなく聞こえてきた。
「あら、クリム。おかえりなさい。どうしたの? 珍しいじゃない」
「おかーさん! あのねっ、私! 魔物使いになるー!」
「何を言い出すかと思えば、また? 性懲りもないわねぇ。前回の子も、前々回の子もダメだったじゃない。本当に大丈夫なの?」
「今回こそ大丈夫だってぇ! じゃあ、紹介するねっ!」
……ん? 待って。聞いてない。今、初耳の情報があったよ?
色々と引っ掛かるけど、とりあえず一つだけ言わせて?
『魔物使い』って何――!?
えっ、魔物使いになるの!? クリムが!? そもそも! この世界では、人間って魔物に分類されるの!? えっ、嘘でしょ! 僕、モンスター!?
ペット扱いじゃなくて! 名実ともにペットだった――!!
僕は信じられないという表情を浮かべて、彼女の方を凝視するが……早く来いと手招きするばかり。ついで、フードを外せと指示が飛ぶ。マジで? この流れで自己紹介するの? ただ、クリムには無駄に恩があるから、期待を裏切る訳にはいかない。やるしかないのか。
そして、遂に――母親と対面!
「ほらぁ! この子が新しい子だよぉ~!」
「はぁ……ちゃんと世話できるのか心配……って! 人間ンンンンンンン!?」
あっ、そういう反応なんだ。多分、これが正常な反応。うん。そうだよね。人間は魔物じゃないよね。良かった良かった。
「こっ、これ人間でしょう!? 耳が尖ってない! どう見ても人間じゃない! クリムっ! 今度は、なんて物を拾って来たのっ!!」
「えへへー。いいでしょ~」
「良くありませんっ!!」
申し訳なさそうに立っている僕の脇腹を、クリムが小突いてくる。早く自己紹介しろって意味か。分かった。分かったから、そんなに強くグリグリしないで。
「えー、初めまして。僕は『グルメ』と申します。種族は人間です。どうぞ、よろしくお願いします」
「ほらぁ! 見た? 偉いでしょ!」
「偉いけどっ! 魔物基準で考えたら偉いけど! 人間だから当たり前でしょう! もぉー! あの、本当に申し訳ございません。うちのクリムが……。ええと、グルメ……さん? ちなみに、気を悪くされたら申し訳ないのですが……これは本名ですか?」
まさかの! そこを突っ込む!? やっぱり人間の名前じゃなかった! 異世界のネーミングセンスでも無しだった――!!
グルメはペットの名前! そりゃそうか! だって、自分の子供に『美食家』って名前を付ける親が! 世界のどこにいる!?
「あっ! その名前はねぇ~、私が付けたのっ!」
「クリムっ!」
母親は物凄い剣幕で怒鳴るが。クリムは気にする様子もない。
っていうか、スゴイ。家族ですら、ガンガンに振り回す。家族ですら、彼女の暴走を止められない。常々、マイペースだとは思っていたが。僕が言うのもアレだけど、クリムの方が我がままなんじゃ……?
「ねぇ~、おかーさん。この子、飼ってもいいでしょう?」
「ダメですっ! 元いた場所に返してらっしゃい!」
「ちゃんとお世話するからさぁ~!」
「そういう問題じゃないっ!!」
目の前で繰り広げられる親子喧嘩を前に、僕は立ち尽くすしかなかった。
さすがに「僕のために争わないで」なんて言えない――!!
☠
ふぅ……誤解を解くのに時間が掛かってしまった。そもそも、誤解ではなかった気もするが。
「ええと、つまり……あなたはうちのクリムに助けられて、そのまま一晩泊まって、今に至るという訳ですか?」
「はい。その通りです。この節は大変お世話になりました。クリムさんには、感謝してもし切れません。ありがとうございます」
「いえいえ。うちの子がご迷惑をお掛けしていなければ宜しいのですが……」
「……ご心配ありません。クリムさんには良くしてもらっています」
「あれぇ? グルメさん、また別の人格が出ちゃいました?」
「クリムっ!」
これは僕の個人的な意見だが、とても仲の良い親子だと思う。怒鳴られる程度ならば日常茶飯事。クリムもクリムで、それをのらりくらりと受け流す。何だろう。見ていて飽きない。
母親の第一印象は、おしとやか。それでいて、しっかり者。クリムの母親なのに。クリムの母親なのに――!!
親子で性格が正反対なんてことも、無くはないか。見た目は背が高く、金色の長髪で、スラリとしている。キリッとした眉が印象的。「森の美女」という言葉がピッタリだろう。ざっくり言えば、クリムは可愛い系、母親は美人系。
お茶の葉のように濃い緑色の、落ち着いた服装。仕草の一つ一つがゆったりとして、気品に溢れている。茶道の先生みたいだ。着物ではないけれど。
「申し遅れました。私はクリムの母親の『カスタ』です」
「カスタさん。改めまして、よろしくお願いします」
すると、母親に聞こえぬ程度の声量で。クリムがそっと耳打ちをした。
「今、美味しそうって思ったでしょう?」
……なぜバレた。
ニンマリと笑う彼女を、母親がキッと睨み付ける。
「はぁ……全く。それで、クリム。今日は何の予定で来たの? あなたが、これで終わりな訳ないでしょう?」
「あっ、そうだった! 今日はねぇ、美味しいものを食べに来たのっ! 世界でいっちばーん美味しい、おかーさんの料理を!」
なるほど。そういう魂胆だったのか。
多くの人が、美味いものと聞いて最初に思い浮かべるのが――母親の手料理。種族の違いなど関係ない。人間でも、エルフでも、考えることは同じ。
本当に美味い料理を、僕に食べさせたいがために。遥々ここまで連れてきたのか。これは嬉しいサプライズ。
紆余曲折を経て、クリムは彼女なりの結論に辿り着いたのだろう。
愛情のこもった母親の手料理は――!! 絶対に美味い――!!
「もぉー、クリムは大袈裟ねぇ」
「えへへー」
世界一美味しいと言われて。カスタも満更ではないご様子。自分の料理の腕を褒められたら、誰だって嬉しくなる! 僕には縁が無いけど!! もう二度と料理しないから!!
「若干、乗せられている気もするけれど。しょうがないわねぇ。今日はお客さんもいることだし、晩ごはんは腕によりを掛けて作っちゃいますよぉ!」
「そう来なっくっちゃあ~!!」
前言撤回。やっぱりクリムの母親だ。
「たーだーしっ! クリム、あなたには一つ仕事をしてもらうからね」
「うえっ!? 私だけぇ!?」
「当然です!」
見解の相違である。僕という存在が、クリムにとってはペットだが、カスタにとってはお客さん。さすがに、お客さんには仕事を頼めない――!!
「大したことないから。ただの庭仕事。庭の草むしりと水やり。これなら、あなたにもできるでしょう?」
「とーぜんっ! じゃあ、美味しいご飯を作って待っててね?」
「分かりました」
「よーしっ! 行ってきまーす! あっ、そうそう! グルメさんには、勝手にご飯をあげちゃダメだからねっ!」
「はいはーい」
いつの間にやら。僕はクリムが二人に増えたような錯覚に陥っていた。しっかりしたクリムと、ハチャメチャなクリム。やっぱり、親子って似てる。
こうして、ハチャメチャな方のクリムは部屋から飛び出していった。残されたのは、しっかりした方のクリム。もとい、母親のカスタ。
……不味い。ちょっと気不味い。
「全く。あの子は誰に似たんだか……あっ、どうぞ楽にしていて良いですよ。私はこれから、晩ごはんを作りますので。何かあったら、気兼ねなく言ってくださいね」
「ひっ、ひゃいっ!」
そのまま立っているのもなんだから。とりあえず、ソファみたいな椅子に腰掛けたけど……。
この状況! めっちゃ緊張する――!!
友達の母親と二人きりでも息苦しいのに! まだよく知らない相手の母親と二人きり!? さらには、種族まで違うときた!
はっ! まさか、これが噂の……結婚相手の両親に挨拶する彼氏の気分か!
どうやるんだっけ!? 楽にするって、どうやるんだっけ!? 誰か僕を楽にしてください――!!
☠
ガッチガチに固まったまま。どれだけの時間が経過したのだろうか。多分、まだそんなに経ってない。こういう場合は時間の進みが遅いって、僕は知ってるんだ。
「……グルメさん?」
「のわっ!?」
「ふふっ。そんなに驚かなくて大丈夫ですよ」
気付けば、目の前にカスタが座っていた。
そうだった。晩ごはんを作るからと言って、必ずしもキッチンに釘付けでいる必要は無い。料理によっては、空き時間が生じてしまう。煮込んでいたり、冷やしていたり、寝かせていたり。
何を――何を喋ればいい!? ダメだ。何も思い浮かばない。目を泳がせる。唇が渇く。心の中で救援を求める。助けて! 助けて、クリム――!!
「その……良いのですか?」
「良いですっ!」
「あら、まだ何も言っていませんよ?」
「た、確かにっ!」
「面白い方ですねぇ。いえ、名前が……本当に良いのですか? グルメさんのままで」
「あっ! お構いなくっ! 小生、それに慣れてしまった所存っ!」
どれだけネーミングセンスが悪かろうと。この世界で、僕はグルメなんだ。生粋のグルメ。ならば、グルメと名乗って良いじゃないか。ここまでのグルメ、他にいないよ? この世界に一人しかいないレベル。孤独のグルメ。
「では、改めまして……グルメさん。大丈夫でしたか?」
「大丈夫、とは……?」
「そうですねぇ。色々と」
「色々と」
……心当たりが多過ぎて分からないっ!
あれもこれもそれもどれも! 大丈夫じゃないかもしれない!
「ほら、もう既にご察しかもしれませんが……あなたは三代目なんです」
「三代目。ちょっとカッコイイ」
「前にも同じようなことを言っていましてね。つまり、魔物使いになるって。モンスターを拾って来ては、私に紹介するんです」
「えっ! じゃあ、先代と先々代は――!?」
ダメだったのか。一体どんなことになってしまったんだ……!?
「それが、とても申し上げにくいのですが……逃げられてしまったそうです」
「あっ、良かったぁ……料理に異物が混入して中毒死とかじゃなくて。本当に良かった」
「彼らが逃げ出した原因も、何となくは予想が付いています。例えば、出されたご飯が不味かったとか」
「やっぱり料理が苦手だったのか。大丈夫です。僕の味覚は変なので」
「マイペースだから、振り回された挙句に散々な目に遭ったとか」
「あぁー……大抵のことには慣れました」
「寝相が悪いから、一緒のベッドで寝ていたら蹴飛ばされたとか」
「僕は落とされました」
「あの子、全然直ってないじゃないっ!!」
カスタは頭を抱えている。やはり、自分の娘が心配なのだ。だって、会ってまだ2日目なのに、僕だって心配だもん。
それよりも驚いたのは。クリムって料理が下手だった! かもしれないとは思ってたけど、遂に確証を得られてしまった。僕も人のことは言えないが。
メシマズの村のメシマズのエルフ……なんてこった。
「本当にごめんなさい。グルメさんも、さぞかし大変だったでしょう……えっ? 待って。ちょっと待って。寝たの? あなた、クリムと一緒に寝たの――!?」
「ちっ、違いますっ!! そうだけど、違いますっ! 誤解です! 僕は何もしていませんっ! 本当に、神に誓って、同じベッドの上で寝ただけ――!! 朝には落ちてたけど!」
ほらぁ! なーんか、おかしいと思ったんだよ! やっぱ有り得ないじゃん! この世界でも有り得ないじゃん!
ほんの一瞬。
確かに、カスタは怖い顔をしていた。見間違えようもなく。子を想う親ほど、恐ろしい生き物はこの世に存在しない。絶対に敵に回してはいけない。
「はぁ……分かりました。あなたを信じます。いえ、信じざるを得ません。あの子、どこか抜けているところがあるから」
「分かります。僕もクリムと出会って間もないけど。心中をお察しします」
「私としても、早く独り立ちして欲しいものですがね……。グルメさん。これからも、あの子の我がままに振り回されるかもしれませんが。クリムのことを、どうぞよろしくお願いします」
「それは――三代目として、ですか? モンスター扱いはちょっと……」
「ふふっ。人間のお友達として、ですよ」
「あっ、なら良かった。もちろん、そのつもりです。彼女には恩がありますから。精一杯、恩返しをさせて頂きます!」
「あらまぁ。そこまでしなくても……グルメさんも大袈裟ですねぇ」
前に、クリムにも似たようなセリフを言われた気がする。こんなに似ているのに、どうして性格は真逆なのだろうか。父親譲りか。
それにしても――話し出してみれば、なかなか打ち解けてしまった。これも、お互いに共通の話題があったから。そう、クリムという心配事が。本人のあずかり知らぬところで、こんなに盛り上がってしまうなんて。ちょっと申し訳ない。
「そうそう。晩ごはんまで、まだまだ時間がありますから」
カスタが椅子から立ち上がり、手に持って運んできたのは……小さな木の箱だった。目安としては、ティッシュ箱くらい。
中には何が入っているのか。期待半分、恐怖半分。
「良かったら、どうぞ」
あぁ、なるほど。家にお客さんが来た時の定番。お茶請けのお菓子――!!
普通に考えて、出すのが常識だろう。そして、食べるのも常識だろう。
箱の中から現われたのは、皺くちゃのくすんだ黄色い物体。そこそこ薄っぺらい。はて、どこかで見たような……?
「これは、何ですか?」
「あら、ご存知ありませんか?」
「はい。初めて見ます」
「ポペンの実という果物がありましてね」
「あっ! 知ってます! よく知ってます! 身をもって体感しました!」
「つまり、それを干したものになります」
「ポペンの実を干したもの」
「ドライポペンです」
「ドライポペン」
本来は、こうやって食べるものだったのか。天日干しすると、例の毒素が抜けるのだろう。ドライフルーツと化したポペンの実を前に、思わずたじたじとなる。
かつての瑞々しい面影は皆無。水分という水分が完全に蒸発し、老人の肌のように皺くちゃ。若干、見た目は悪いが。それはドライフルーツの宿命。一番の問題は、味が良くなっているのか、悪くなっているのか。
ただ――元の世界にいた頃は、僕もアレが好きだった。誰かがハワイ旅行のお土産としてくれた、ドライマンゴー。うん。それとちょっとだけ似ている。
あれは美味い。下手したら、元のマンゴーより美味い。水分を飛ばして、マンゴーの美味さを圧縮した産物なのだから。さらには長持ちして、気軽に食べれて、持ち運びにも便利。ドライフルーツとは、実に万能な食べ物である。
以上を踏まえて、乾燥させたことにより! ポペンの実の不味さが飛ばされて! 美味さだけ残るのではなかろうか! 元のポペンの実よりも美味くなる! 身体もかゆくならず!
そして、何より。この状況は、食べるしかないだろう――!!
「では、一つだけ……頂きます」
箱から欠片を手に取る。薄くて、小さいが、噛み応えは有りそうだ。
ポイッと口の中へ放り込み、奥歯でぐっと噛み締める。
――モキュッ
………
……
…
「ボベロオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!! オベええェ!! おおッ……ガァ! あっ、ゲエエエェ! マッズ!! 絶妙に不味いッ!! ぬわァああ……!! 元のポペンの実より不味くなってる――!! これが進化した不味さっ! 水分を飛ばした結果! 圧縮されたのは、ポペンの実の不味さだけでしたァ!! 証明終了ッ! ぐほおおォ……!! 噛んだ瞬間! 弾けこそしないが……変にぬちゃっとしてる! ぬちゃっとしてるぅ~!! 噛むと歯がきゅうっとする嫌な感触! 脳髄まで響く、この歯触りはァ! 黒板を引っ掻いた音に近しい――!! コイツはヤベェ! とっさに吐き出そうにも! 奥歯にくっ付いて取れねえ!! クッソ不味い物体が! 歯に引っ付いたああァ!! 僕に死ねと申すか!? もう、やめてくれェ! あっがアアアァ……!! おごぉ……」
急に叫んだかと思えば。右手を口の中に突っ込む僕を前にして。
あんぐりと口を開けるカスタ。確かに、彼は味覚が変と自称していたけれど。これはさすがに想定外――!!
すると、叫び声が外にまで聞こえたのか。ドタドタと部屋に駆け込むクリムの姿が。
「もぉー! ちょっと、おかーさんっ!! 私、言ったよねぇ!? 勝手にご飯をあげちゃダメって!! 聞いてなかったのぉ!?」
「きっ、聞いていたけれど……こういう意味だったなんて……」
「グルメさんもグルメさんでぇ!! どぉーして食べちゃうかなぁ!? 前の子だって、その前の子だって、『待て』くらいできたのにぃ~!!」
初代と二代目がどんなモンスターかは知らないけど。よもや、それ以下と罵られてしまうとは。
先代に顔向けできない。やはり、三代目の襲名には早かった。
じゃなくて! モンスターじゃなくて! 僕は人間のお友達だからね――!?
果たして、クリムにお友達として認めてもらえる日は来るのだろうか。




