先祖返りと山蜥蜴
「山蜥蜴…」
見た通り、炎を纏う巨大な妖怪、山蜥蜴。
じろりとこちらを見た後、さらに浮かび上がって激しい炎に包まれていく
そして、昨日見たチョココロネの姿になって飛んで行った。
「先祖返り…先祖に妖怪や精霊など、祖先に人外の血が混じっている人間に起きる現象」
「そーそ、源川のおっちゃんの先祖にいたじゃん?『火の符術が得意』っていうヤツ」
そいつはおそらく、山蜥蜴の血が入っていたか山蜥蜴そのものだったんじゃね?
灯ちゃんは私の考えを言い当てた。
「先祖の山蜥蜴の血をいまさら色濃く受け継いで、いまさら発現させちゃったーってトコじゃね?」
木々の隙間から火の渦がぐるぐる飛んでいるのが見える。
時々「あっはっはー!」と楽しそうな声が聞こえるので、本人に危険なことは起きていないみたいだ。
「ああやって力が制御できてねーヤツがこうなったら、もー力尽きるまで待ちルート確定だわ」
チョココロネのチョコ部分から、山蜥蜴の顔がひょっこり出ている。
その楽しそうな姿を眺めながら、私たちは源川さんが力尽きるまで夜通し見守ることになった。
その後、源川さんの力が尽きて、落ちた先でぐーぐー寝ているのを発見し搬送したのは翌朝4時のことだった。
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「終わったぜーーー!!」
3日後、7係の執務室で灯ちゃんがうんと背伸びをしながら大声を出した。
今回の報告書は灯ちゃんが作っていたのだけれど、ようやくまとまったみたい。
「お疲れ様」とコーヒーを渡して私は自分のコーヒーに口をつけた。
頭を使った後の甘いラテは体に沁みる。
「そーいや源川のおっちゃん、あれからどーなったの?」
「さっき会ってきましたよ」
「先日はご迷惑をおかけして…ありがとうございました。」
病院で全身綺麗にしてもらった源川さんは、ベットの上で上体を起こしたまま、データ通りの愛想のよい笑顔で感謝をしていた。
2か月ほとんど何も食べてなかったそうで、しっかりと栄養補給をしてからというもの、蜥蜴へ変化してしまう回数は大きく減ったらしい。
「いえ、源川さんはこれからどうされる予定ですか?」
「特殊能力者となってしまいましたので、今の仕事は辞めます。
特殊技術訓練学校で今の力をうまく使いこなして、別の仕事を探そうかと」
セカンドキャリア、ですかね。と私が聞くと源川さんはにこりと笑って頷いた。
「急なことで私も受け入れきれていない部分はあります。
登山も禁止になってしまいましたし…」
「はは…」
「でも、新たな挑戦ができるのは良いことです。
常に挑戦をしていかなければ、仕事も人生も豊かにならないですからね。
今の状況を前向きに捉えてますよ」
どこかで恩を返させてくださいね。ピンク色の髪の女性によろしくお伝えください。
源川さんはどこか晴れ晴れとした顔で私を見送ってくれた。
「おっちゃん、いい人そうだったもんなー!あたしも今度ちょっかい出しにいこっかな」
「うん、きっと喜びます」
灯ちゃんがニカッと笑う。
つられて私も笑顔になった。
それは初夏のある日のこと
とある先祖返りの山蜥蜴の話