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06 補完の動き 前編



「今現在世界的に普及しているプレイ・ターミナル4ではなく、その前世代のプレイ・ターミナル3でブレイブ・ワンのシリーズは始まり、そして三部作で幕を閉じました」

「ですから、プレイ・ターミナル3を今でも所有してネット環境に繋げる事が出来て、尚且つブレイブ・ワンのダウンロードコンテンツを購入していた者にログインの挑戦権利があります」

「そして昨日、水曜日の深夜零時にブレイブ・ワンの通信対戦に繋がるかどうか挑戦しましたが、見事に外れてしまいました」


 ーー来週の水曜日まで何もしないまま座して待つのは面白くないので、ちょっと知恵を絞ってみました。



 警察庁の一室

 机の上に広げられたノートパソコンを前に、都住夏織が喰い入るように見ているのはユーチューブのとある実況生配信のチャンネル。深夜零時を前にネットやSNSをザッピングしていたところ、ブレイブ・ワンのあの事件に関係する話題を提供していたチャンネルを偶然見つけたのだ。


 それは『かつトシちゃんねる』と言う名の動画チャンネルで、男性二人組のユーチューバーが色々と試してみた動画をアップして視聴者の笑いを誘う、何でもあり系の番組なのだが、たまたま出演者が「ブレイブ・ワン」をプレイした過去があったのか、せっかくだからと実況生配信を始めているらしい。


「私のプレイ・ターミナル3には、一作目のブレイブ・ワン、二作目のブレイブ・ワン ガルフウォー、三作目のブレイブ・ワン WWⅢのダウンロードコンテンツが入ったままになっています」

「トシちゃんは昔ゲーマーでねえ、ブレイブワンとかシューティングゲーム好きでやってたよねえ」

「今でも好きですよ。それでこれらのシリーズ以外にも、イマジンファクトリー社の前身時代のシューティングゲーム結構入れてあるので、片っ端からアクセス出来るかやってみようと! 」

「今ちまたで大変な噂になってるブレイブワンの死神、果たしてその死神はブレイブワンに潜むだけなのか? 実験開始と行こうじゃないですか! 」



 この生配信に夏織が惹かれたのには理由がある

 わざわざ夏織がそれを説明しなくとも、五城も自然と自分のパソコンでそれを視聴し始めただけの理由が。


 ーー『ブレイブ・ワンの死神は、本当にブレイブ・ワンだけに宿っているのか』


 もし誰かが呪いのプログラムを仕掛けたとする。仕掛けた者が意図するところは、十中八九不特定多数の人々に向けた悪意の拡散であろう。

 この世界にいる誰かがそのプログラムによって身体に悪い影響が出る事を望んでの行為であり、人々が混乱に陥れば陥るほどに仕掛けた者の溜飲は下がるはずである。


 そこで夏織と五城の共通認識上に浮上するのが件の疑問。

 「拡散させたい! 」「一人でも多くの者たちに呪いあれ! 」と願うならば、何で配信サービスが終わってるような場所に呪いを仕掛けるのかが、二人をいつまでも歯がゆくさせていたのだ。


 ーー全世界に向けて呪いのプログラムを拡散させたいのならば、それなりにアクセスを稼げる場所の方が有効的なはずーー


 つまりは、たまたま日本ではブレイブ・ワンの死神が飛び抜けて話題になっただけで、別のゲームや別のサイトでも同時進行のものがあるのかどうかに二人の焦点は合ったのである。



「見てください。今日はかつトシちゃんねる専用の撮影スタジオにはいません! レンタルオフィスを借りて中継してます! 」

「我々専用の撮影スタジオって言っても俺の部屋なんですけどね」

「あははは! スケールの小さい事は言わない! そして我々の後ろを見てください。スタッフさんに頼んだり友人を呼ぶだけ呼んでチームを結成しました! 」


 カメラが二人を迂回するように背後へと回る

 するとそこにはいくつもの長イスが並べられて十人以上の関係者が席についている。目の前にはノートパソコンやデスクトップパソコン、家庭用ゲーム機にモニターがズラリと並べられており、各自手分けして死神を探し出し、真相を突き止めようと言う気概溢れる空気に満ちていた。


「今、ブレイブワンを管理しているのはイマジンファクトリー社なんですが、吸収合併を繰り返す前のゲームタイトルをズラリ並べてネット接続させました」

「我々二人だけだと探れる範囲が限られます。しかしこれだけのチームで探るならば、何かしらの手掛かりが掴めるのではないか? いよいよ時間は二十三時三十分! 」

「かつトシちゃんねる特別企画、ブレイブワンの死神に迫れ……スタートです! 」



 番組タイトルが画面いっぱいに現れて軽快なBGMがスピーカーから溢れ始めた。

 夏織は一度両手を上げながら背を伸ばし、飲みかけだった炭酸水をゴクリゴクリと飲み干してしばしの休憩。

 目頭を指でマッサージしながらまだ何も感じないと小さく呟くと、クーラーボックスに入れていた炭酸水のペットボトルを掴みながら五城へと顔を向けた。


「どう思う? 噂に便乗した視聴数稼ぎだと思う? 」

「子供の記憶ですが、何かこんなテレビ番組やってましたよね。行方不明者を探し出す特番」

「あはは、FBI特別捜査官や霊能者が出て来るのな。あれは結局見つからないんだけで過程を楽しむバラエティ番組だからな」

「この動画生放送も何か同じ匂いがしますね。夏織さんには何か読めますか? 」

「いんや、まだ何も見えて来ないけど……着眼点は悪くないと思ってるよ」

「全く同感です。不正プログラムがブレイブワンだけに潜むのかそうではないのかで、対策がまるで変わって来ますからね」


 静まり返った警察庁本庁の一室で残業につぐ残業を繰り返す夏織と五城。まだ突破口が見つからずに体力的には疲弊しきっているのだが、だからと言って投げ出す選択肢を選ぼうとするほどに行き詰まってもいない。

 一週間に一度、水曜日の深夜にアクセスのチャンスがあるだけであり二人で操作するには酷く狭い間口なのだが、これらのユーチューバーなどが都市伝説を解決しようとノリノリになっている事自体が、夏織や五城にとって足りない知識量を補完してくれるからだ。


「ポテチ……食う? 」


 自前で用意して来たクーラーボックスから五城の好みだと言うジャスミン茶のペットボトルを取り出して本人に渡しながら、深夜のおやつを食うかと問うと、五城は真剣に腹が減って来たので、この動画を見終わったら本日分の仕事を切り上げる事を宣言。帰りがけに牛丼を食べて帰宅する旨を告げた。


「何一人で良い事企んでるのよ、もちろん私も連れてくんでしょ? 」

「夏織さんさっきからガンガンお菓子食べてるじゃないですか、だから俺一人で良いかなって」

「ほう? はなから見捨てる気だったなお前! 」

「見捨てるも何も、たまには俺の自由時間を尊重してくれても良いと思うのですが」

「いやいや深夜、今深夜よ! 終電の心配もせずに若い女性ほったらかしにする積もりだったんかい」

「いや、夏織さん俺より強そうなんで」


 キーッ! この朴念仁どうしてやろうかしらーー

 もちろん真剣に口論している訳ではなく、辛口の冗談を相手にぶつけてもそれが認められる関係になっていたのである。


 もしかしてお前、つゆだくなんか平気で食う奴じゃないよな?

 いや、むしろ夏織さんがつゆだく頼むような人だったら、今後一緒に捜査するのやめようと思っていますが


 いつまでも止まない毒舌の嵐

 だが深夜でテンションがおかしくなった二人の会話を遮るように、突然パソコンのスピーカーから大声が流れたーー「つながった! つながったぞ! 」

 都市伝説が目の前に現れたのである。




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