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05 サーチ&デストロイ




1ゲーム実況好き@名無しさん

 噂になっている「ブレイブワンの死神」

 有名実況者たちもオカルトチャンネルもどこも話題にしなくなった。

 噂がガチなのかそれとも自作自演のガゼネタなのか誰か教えてくれ



4 ゲーム実況好き@名無しさん

 結局誰かブレイブワンの検証したの?


8 ゲーム実況好き@名無しさん

 だれが好きこのんでそんなリスキーな事するんだよ?


14 ゲーム実況好き@名無しさん

 >4 その質問がナンセンス

 検証して生還してるなら普通報告するだろ。生還してるならな


17 ゲーム実況好き@名無しさん

 そう言えば前スレで検証してみるって騒いでたやつらは?


20 ゲーム実況好き@名無しさん

 この手の噂は安全な場所から騒ぐやつらがいるだけで自分で結論出そうとしない


21 ゲーム実況好き@名無しさん

 >20 自己紹介乙


25 ゲーム実況好き@名無しさん

 今北、相変わらずこの話題か。だったら俺が検証してみるかな


29 ゲーム実況好き@名無しさん

 俺もすぐ繋がるし試してみるお


33 ゲーム実況好き@名無しさん

 やめとけって! 笑い話で済まなくなるぞ


30 ゲーム実況好き@名無しさん

 某Fラン大の同好会だがみんなで挑戦してみようかと準備始めてる



 ここは日本最大のネット掲示板

 衣食住から趣味からニュースや雑談と様々な種類のスレッドが用意されており、利用者たちは自分の興味を持ったジャンルへとアクセスして閲覧したり書き込んだりと会話を続けている。


 そしてそのゲームのジャンル内に立てられたスレッドがこれーー

 【懐ゲー】ブレイブワンの呪いは果たして本物か? 4スレ目【オカルト】

 まだブレイブワンの謎に迫るような核心を突く情報を提供する者は現れず、噂を楽しんでいる程度に見えるのだが、中には自分で確認しようと意気込む者も現れていた。



「ダメね。前のスレから見直したけど有益な情報が無い」

「ゲームジャンルのスレッド板だけじゃなくて、オカルト板も一応覗いてください」

「了解だよ、そっちはどうよ? 」

「フェイスブックにツイッター、SNS環境を見て回ってますが、噂以上の話は出回ってないですね」

「どうせまとめサイトだってその程度でしょ? ブレイブワンでエゴサーチしても時間だけが過ぎて行きそうね」


 ……あああおうふっ! 目が疲れる!

 都住夏織はそう叫びながら椅子の背もたれにグニャリと身体を預け、両手を上げて背伸びする。

 ここは千代田区霞ヶ関にある警察庁のビルの一室。情報通信局 情報技術解析課 サイバーテロ対策技術室 通称「サイバーフォースセンター」と呼ばれる部局のエリア内にあるこじんまりとしたオフィス。

 警部補の五城雄哉に与えられた専用のオフィスであり、警察庁本庁ビルに立ち入る事を許された都住夏織は、本日朝よりこの五城のオフィスでインターネット環境を駆使した合同捜査を始めたのである。


 そして合同捜査を始めるにあたり、二人の共有認識と役割分担は確率された。

 昨日夕方の事、夏織の猛烈な要求に押し切られて五城との打ち合わせ後半戦が居酒屋で行われた結果、「サーチ&デストロイ作戦」で意気投合したのである。


 あまり酒の飲めない五城に向かって『私が飲むし私が払うから心配するな』と宣言した夏織は、五城が梅サワーをやっとこさ一杯飲み終える間に、驚異のハイペースで生ビールとハイボール二杯を喉に流し、気分がノッて来たところでようやく本題。今現在夏織の認識している「範囲」での私見を述べた。


 『呪いは伝播する。負のプラシーボ(偽薬)効果とも呼ばれるが、脳が呪いの恐怖を認識すると身体にもその影響が現れる事がある。ワラ人形や呪符や呪い箱などのアナログ世界だけだと思ってはいけない、ネットやSNSなどのデジタル世界であっても負の言霊や呪いが存在する以上、通信ゲームで人を呪い殺すケースがあってもおかしくはない』


 つまり夏織は、ブレイブワンの通信対戦でアクセスして来た見ず知らずの他者に対して、画面のグラフィックや光解像度や音を駆使して、体調を悪化させるスキルを持つ者がいるーーそう言うプログラムツールを開発して悪用する者がいるのではと言い切ったのだ。


 『私は読める、写真でも遺物からでも読める。相手の意思や意識が存在するならネットの書き込みやボイスチャットからも読める、それもまた負の言霊だから。五城君あんたが狩り出しなさい、私が正体を暴く』


 週末になってしまったため直接ブレイブワンに乗り込むのは週替わりの水曜日として、それまでに二人が出来る事をやろうと、無限に広がるネットワークから五城が敵を狩り出し夏織がその根源を突き止めるまさにサーチ&デストロイ(索敵と破壊)……その作業が今日から始まったのだ。


「都住さん、ちょっと見て貰えますか? この書き込みなんですが」

「うん? ……パソコン同好会の友人が接続試すと言った日から全くの音信不通になった。心配になって後日友人の家に行ってみたら葬式やってた」

「割と具体的な書き込みかなと思いまして」

「ダメ、これはウソ。注目を浴びたいと言う下卑た欲求しか感じない」


 むう と鼻からため息を放つ五城、ハッシュタグを変えてやり直すかと呟きながら、自分の肩をポンポンと叩く。

 時計を見れば昼の十一時半を過ぎた頃。昨夜の酒が残っているのか食欲はあまり無いものの、あれだけ飲んでおいて朝から信じられないほど元気に頑張る夏織を目の当たりにすれば、昼食の心配もしない訳にはいかないだろうと感じたのか、五城は再び声をかけた。


「都住さん、そろそろ昼ですけどどうします? 出前取るなら早めに……」

「私、肉味噌ラーメンとライス大盛り! 」


 俺なんか塩ラーメンすら食べきる自信無いのに、よくもまあがっつり食べれるよなと呆れ顔の五城。しかし自分の席に戻った夏織はパソコンのモニターにかぶりつき、真剣な表情で掲示板の書き込みをスクロールさせながら見詰めている。


 ーー責任感と言うか目的意識と言うか、この人の中心には揺るぎない筋金入りの柱が立ってる。見た目のイメージと違う信頼出来る人だーー


 そう感じた五城は出前が混雑する前にと、簡易電話帳をパカンと開いてラーメンの電話番号を探し始める。


「……五城君……」


 その時、モニターにかぶりついたままの夏織が五城の名を呼ぶ


「何か見つかりましたか? 」

「五城君……これ当たりだ」


 五城に振り向いた夏織は、鼻からスゥッと一筋の鼻血を垂らしている。


「夏織さん! 」


 初めて下の名を呼んだ事を自分でも気付いていない五城は、ティッシュのボックスを手に慌てて立ち上がり彼女の元へ。


「見て、これ」


 ティッシュを受け取りながらノートパソコンのモニターを五城に向ける。

 夏織が見てと指示する場所は巨大掲示板のオカルト板のスレッドで、その中の書き込みの一つを彼女は指差した。


 ーースレッドのタイトルは【恐怖】自分の身の回りに起きた恐ろしい話。書き込み日時は昨日の木曜日ですね


 この書き込みで良いか? と夏織に同意を求める形で五城はその書き込みを読み上げた。


「昨日の夜弟が死んだ。夜中に自分の部屋でドタンバタンと騒ぎ始めたから私や両親が驚いて部屋に行くと泡吹いて床に倒れてた。通信ゲームやってる途中だったみたいだけど、悪魔を見たって言いながら意識を失い救急車が来た時は心臓止まってた」

「ゲーム実況スレッドじゃないし、ブレイブワンにも言及してないけどこの書き込みはヒットよ。弟の突然死が受け入れられず、悲嘆に暮れる姉と両親の姿が見える」

「状況からしてブレイブワンに繋げた可能性は高いですね。これは類似ケースではなく我々が探していたものかも」

「五城君、あんたならこの書き込みソースビューアか何かでIPアドレス抽出出来るでしょ? この書き込んだ者の個人情報をぶっこ抜いて欲しい。本人特定したらそのパソコンを実際に触って読みたいの」


 ちぎって丸めたティッシュを鼻に突っ込んだ夏織、愛嬌が滲み出ているものの表情は真剣。お腹がぐうと鳴るも恥じらわずに無視し、「頼む」と一言、五城の領分へと仕事を引き継がせたのだ。




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