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第五話 休息できて、これからを考える

本日2話目




 高級感のある使い慣れない外国製のアメニティを使い倒しながら人生で初めてとなる高さ。ビルの高層階での風呂を楽しんだ。

 擦りガラスの仕切りや、大理石なのかトゥルトゥルに見える石、シャワーヘッドは多機能で、浴槽は足を伸ばして入れる。ゆったりと湯につかれば、テレビなんかの備え付けが目に入る。こんな風呂は初体験。


「ふぅ。」


 バスローブを身に纏い『どうぞお飲みください』と言わんばかりに備えられていたウェルカムドリンク。柑橘系の香りのするラグジュアリーな水を飲み、ウェルカムフルーツを口にして、ようやく一息つく。


 『安心は金で買える』


 そう心から思った。

 このラグジュアリーホテルに居る限り、なにがあっても安全だと感じてならない。


 もし例え俺が大事な通帳を部屋に忘れて置きっぱなしにしていたとしても、そのまま置かれたままの状態で返ってくることだろう。いや、もしかすると『大事なものをお忘れではありませんか?』と言わんばかりに、きちんと分かりやすい形に置きなおされているか、預けられて連絡が入るかもしれない。

 流石、1泊3ヶ月分だぜ!


 広いふかふかのベッドに横になり、思う。


 安心。

 さいこー。


 ようやくの人心地。


 人心地でふと思う。


「でも俺は、この金で……一体何をしたらいいんだろう。」


 変美人お稲荷様とのやり取りを思い出すと、あの時、俺は『金が全て』『金が正義』『金が神』『金があればできないことは何もない』そんなことを言ったように思う。


「それを証明するように動いてみれば良いのかなぁ。」


 頭を捻りつつも、どうにも考えが定まらない。

 だが、ただ贅沢を満喫しながら過ごすのは違う気がする。金があるからこそできる特別な何かをしなくちゃいけない。そんな気がするのだ。

 あの変美人をギャフンと言わせなくちゃいけないと。


「まぁ実際、金があれば大抵のことは何とでもなるよなぁ」


 脳内シミュレートで世の中の不幸を考える。だが、大抵の不幸に金は絡んでいるから、金をじゃんじゃかつぎ込めば、どうとでもなってしまう。

 逆に金ではどうにもならないと言われている事を主体に考えなおしてみる。



 よく金で動かないと言われるのは『愛』だ。

 愛は金じゃ買えないなんて言葉はよく聞くし、実に耳に良い。


 だが、実際は、んなこたぁない。

 んなこたぁないのだ。


 愛などは金で左右される代表みたいなもの。


 なぜなら愛だのなんだのと言ったところで、そんなものはただの個人の感情でしかないからだ。

 『真に愛し合っていれば苦難を乗り越えられる』とか『死がふたりを分かつまで』とか、耳に心地よいだけの綺麗事でしかない。ただの言葉遊び。

 そして人間は、その心地よい響きが大好物だからこそ、声を大にしてそれを常識のように唱える。


 だが、実はみんな知っているのだ。

 現実問題として互いが真実の愛だと思いあって結婚したはずの男女が離婚することを。そして離婚する人間が多いことを。

 結局、真実の愛だのなんだの言っても、それは人の感情の動き一つで、どうとでも変化する程度の物でしかないのだ。


 人間は感情の生き物。

 そして、自分の心ですらわからなくなる事があるという不思議な生き物だ。


 自分の気持ちすらわからない生き物だからこそ、他人の気持ちを100%理解できるはずなどない。だからこそ好意を寄せる相手ができた時には、その相手を理解しようと観察したり、なにかしらの行動を起こして反応を見たりする。そして、その時の相手の行動や反応で理解を深めるのだ。

 相手の小さな反応ひとつで『あの娘は俺のことを分かってくれる』『あの人は私の事を理解してくれている』と勘違いをして、相手の愛情や自分の愛情を信じたりする。

 愛という名の下、感情のままに自分を騙す。それが人間だ。


 そんな感情に支配されている人間。その人間のもつ感情は欲望に左右されやすい。愛情だって欲望の一つでしかいない。

 そして欲望の代名詞として挙げられるのは金だ。


 欲望は感情に直結する。だから、金がなくなって貧しくなれば不機嫌になりストレスを多く感じるようになる。そういう状態に陥ると、愛情を認めあっていた二人だったとしても、互いの嫌なところが目につきやすくなり、相手の愛を疑いたくなる心も大きくなる。そしてそれは二人同時にそう感じるのだ。

 行き違うようになった心から、とうとう自分を騙し続けることが難しくなると愛情は失われ、決別までの障害が低ければ低いほど、容易に決別に至る。


 『離婚できないだけ』で、ただ結婚関係を続けている者がどれだけ居るか、その数は考えるだけでも恐ろしい。


 愛は枯れる。

 金が無いというだけでも、容易に愛は枯れるのだ。


 それにそもそもにして、愛し合っていると言っても『自分がそう信じているだけ』の状態でしかない。


 他人の本心を確かめる術など、この世には存在しないから、もしかすると相手は、ただ打算と妥協の考えで腰掛け程度にしか思っていないかもしれないのだ。


 結局『愛』は『自己満足』という欲望の満たされ具合次第。

 『俺は愛している』『私は愛している』その思いを、どれだけ信じられるか。その心の在り方次第でどうとでもなる程度の物でしかない。俺はそう思う。


「うーん。とりあえず金で愛を買える証明をしてみるかな?」


 この考えを証明する為には、いくつかの方法が思いつく。

 例えば愛しあっている男女がいたとして金を使って気持ちが離れるかを確かめるとか、金の力を使って別人に好意を持たせるとかだ。


「でも、恨まれたりとかしたら面倒だもんなぁ……やめといた方がいいよな。」


 愛憎劇などの言葉があるように、愛を妄信する人間は憎しみとも表裏一体の存在。万が一憎まれでもしたら得をすることはないし無駄に危険やリスクを負うことになる。そんな冒険は必要ない。



 愛から別のテーマに思考を切り替える。


 次に金で買えない代表は『健康』だろうか。

 人は病気になってから、いくら払ってでも健康を買いたいと願う。これはよく理解できる。


「ん~……金で努力できる範囲が広がるし、実質『買える』ようなもんだよな。これはやってみようかな。」


 俺の今の状態を考えると、病気になる前の状態。病気を防ぐ為の行動が肝になるはずだ。


 病気の元と言えば『不摂生』『不養生』『ストレス』などなど。そんな『身体に悪そうなこと』を徹底して取り除けば良い。つまり、新鮮でバランスのよい食事。適度な運動。適切な睡眠。ストレスフリーで心豊かな生活をする。それに加えてメディカルチェックなどが入れば完璧だろう。


 管理の行き届いた新鮮で安心な食材に、栄養バランスを考え抜かれた食事。うん。金がかかる。

 適度な運動を楽しくする為には、場所や環境を整え、服や靴、道具、それに人を用意しなきゃいけない。うん。金がかかる。

 適切な睡眠をとるためには、人体構造を考え抜かれた寝具。そしてぐっすりと眠ることのできる場所がいる。うん。金がかかる。

 ストレスフリーで心豊かな生活。働かずに遊んで暮らす事だな! うん。金がかかるなー!


 つまり本人の努力が必要になるが、金で健康は買える。いや、むしろ金がないと不健康な生活を余儀なくされるともいえる。



「快適な住居を用意して、管理栄養士とかトレーナーを置く。あとは適当に遊び相手を探せば良い……これは検討の余地ありだよな。いや、むしろ『やる』を前提にして前向きに考えてみよう。あとは……」



 また『金があってもできないこと』について見方を変えて考えてみる。


 『家族』『友達』


「やっぱり他人の関わることだな。でもなぁ……基本的に人間関係って金の在り方次第で簡単に崩壊するし、やり方を考えればどれだけでも作れそうだよな。さっきの管理栄養士だのトレーナーだのも、しっかり付き合っていれば家族までにならなくても、友達にはなれるだろうしな。まぁ、雇用主と雇われ人っていう関係だと難しいだろうから、それを最初から隠すとか工夫は必要だろうな。」


 家族や親友であっても、その関係は金の貸し借り一つで崩壊したりするのが人間という生き物だ。

 借りるときは恵比須顔、返す時は般若顔とはよくいったもの。関係を信頼して金を貸しても返してもらう時には少なからず恨まれるのだ。それが人間。貸した方にすれば感謝されず態度が気に食わないと感じるのが当然だろうし、返す方にすれば親友の癖に金に細かいと感じるだろう。家族であっても遺産を巡っての骨肉の争いは、よく耳にするし、血を見るような事件だって多い。


 金は魔物。人間関係をどうとでもしてしまう魔物なのだ。

 だからこそ、使い方を演出すれば壊すのとは逆に、簡単に親友や家族を作ることだってできるだろう。


 家族に至っては、結婚すれば家族。子供を持てば家族というくくりになるから。書面上だけでならすぐにできるが、同じ時間を共に過ごし、一緒に感情を共有し続けて、やがて家族らしくなると思うし、そこに喜びもあるのだろう。


「もしかすると、これは同時進行できるのかな? まぁ後は……もっと規模の大きい事か……」


 世界から貧困をなくすだの、1日でも地球上から殺人事件をない日を作るだの、国を輝かしい未来に導くだのが思いつくが、そういうことはいくら金があっても無理だ。というか神様だってできはしないだろう。

 結果だけを求めれば人類が絶滅すれば貧困だの殺人だのの問題自体も消え去るから叶うんだろうが、それをする為には金が足りないし、それに本末転倒にもほどがある。俺は別に邪神のようにふるまいたいわけじゃない。



 う~ん……と、他にないかと唸っていると、ふと、タクシーの運転手の笑顔が思い浮かんだ。


 あの時、お釣りをあげただけでタクシーの運転手は喜んでくれたし、俺も嬉しかった。

 考えようによってはお金を無駄に使っているが、あの笑顔は俺に自信という力をくれたように思える。



「人を笑顔にする……か。」 



 なんだか、この考えは一番、自分の幸せに繋がるような気がした。

 俺は勢いよく身体を起こす。


「よしっ! 色々贅沢しながら健康に幸せに暮らす! そんで時々幸せのお裾分けをしてみる! こんな感じかな!」


 俺の方針が決まった気がした。






ようやくテーマが決まったような気がします。

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