第四十六話 春はお花見
色々と表に出せないような事を知ったり支援したりしていても、はたまた婚約者とまったり遊んでいても時は流れるもので、気が付けば季節は完全に春になっていた。
サクラとモエの2人も3月の頭に無事に地元高校を卒業し、2人から女子高生という強大なブランドは消えた。
この『女子高生』というブランドが消えたことで安心感が感じられたのだが、それをサトミさんに意外がられた。どうにもサトミさんは男は皆、女子高生スキーとでも思っている節があるような気がする。いや、そりゃ好きか嫌いかって言われたら女子高生って響きにアレな感じを思わないことは無いことも無いけれど、リアルに女子高生が側にいると、むしろ若すぎてアレだなって感情の方が強いんだぞ? ほんとちょっとなんかアレな気持ちは、ちょっとのちょっとしか持たないもんなんだぞ? うん。成人男性&女子高生って響きに、いかがわしい気がしないでもないけれど、ことサクラとモエの二人は女子高生の中でも、かなりしっかりしてるタイプの女子高生だったし、アレな感じというよりは。アレなんだ。うん。
「やっぱり好きなんじゃないですか。」
「うん。まぁ嫌いではないですわな。かわいい? めんこい? 的な?」
「本音は?」
「妄想は捗るよね。」
サトミさんと女子高生という存在について議論しつつ、上京してきた二人を迎える。といっても出身地も来るタイミングも違うのでモエから1人ずつ迎え、2人は無事に女子高生から上京女子へと変身した。
まだ新居が完成していない為、2人にはホテルを仮住まいとしてもらい、そこで少しずつ東京の暮らしに慣れてもらっている。
ホテル暮らしで慣れるのか? と思わないでもないけれど、2人が住む新居の部屋もお掃除さんの入るほぼほぼ高級ホテルみたいなもんだから問題ないはず。
2人にとって初めての首都、東京での生活。地方民の憧れる大都会での生活の始まりだ。しかもサトミさんの手厚いサポート付き。
俺が地元からお上りさんとしてやってきた時とは全然違うけど、きっと楽しい生活になるだろう。俺も当時は電車の乗り換えとか自動改札を使う時に『東京』をヒシヒシと感じたものだ。
観光で来る東京と、住む東京は色々と違う。東京という土地は住んでこそ見えてくるものもあるのだよ。
……なんて思ってわざわざ駅でサクラとモエを其々で迎えてみたんだけど、流石の現代っ娘とでも言えば良いのか普通に電車とかも戸惑わないで使えてて、ちょっとガッカリしないでもなかった。スマホやテクノロジーよ。進化し過ぎにも程がないかい? もうちょっと都会に怯える田舎娘雰囲気を出してくれても良いのに、なんか2人とも妙に張り切ってるというか自信ありげというか、そんな感じに感じられないでもない。
考えてみれば、サトミさんに連れられて東京の中でも高級な部類を丸二日ぐらい堪能して回った経験があるから、今更電車程度で東京を感じたりはしないのか。
うーん。人は与えられた環境によって感じる事とかも変わるもんだなぁ。
さて、そんな上京したばかりなのに、あまりお上りさんな雰囲気のない二人。新居となるビルの完成も見えてきているので地元から持ってきた荷物はそっちに送られていて、今はホテルで暮らす必要最低限で生活している。
つまり、今の状態は端的に要約して言うなれば『春休み満喫エンジョイイン東京』な時を過ごしているのだ。もちろんプレゼンテッドバイ俺氏アンドサトミさん。
たった丸二日の幸せ体験では終わらせんよ。
まだまだ楽しんでもらって、これまでの苦労をねぎらってあげねば。
なにせ4月からは入社の扱いになり、それから二人には本格的に働いてもらうことになる。
ホテル仮住まいの状態であっても、入社してしまえばサトミ教官の下、2人はみっちり鍛え上げられることになるだろう。
昔、俺も働いていた時があった。
新卒で入った経験もあるし、新社会人として、どれだけ覚えなきゃいけないことがあるかも理解できる。分からないことも多いし、それでも覚えなきゃいけないことも多くて右往左往した記憶もしっかりある。
二人の場合、俺のアシスタント&サトミさんのアシスタントという特殊な職場環境ではあるけれど『高卒で働く』というのは現代では珍しくなっているし新卒で働くよりも違った大変さがあることだろう。
これから二人は、そんな道に挑み始めることになるのだから、とりあえずそれまでは楽しい思いをさせておこうと思っている。
ふっふっふ……そう。馬に餌をぶら下げるように、まずは、ぶら下がった餌が美味しいのだと知ってもらうことから始めねばならぬのだ。
楽しい事があると思えば、もし辛さを感じる日々になっても頑張れるはず。
というわけで、4月までの間は、働くでもなく、ただ東京を満喫してもらう春休み期間。卒業おめでとうのお祝い兼、親睦を深める為の期間としている。
「というわけで今日はお花見しよう!」
「あら、いいですね。時期ですもんね。」
俺の突拍子の無い言葉にも、サトミさんはいつもの笑顔で肯定。
基本的にサトミさんも俺の対応に似てしまったのか、とりあえず肯定してくることがほとんどだ。いや、俺が変な事を言わない限り100%だな。
「わぁ、東京のお花見ってどんなのですかね」
「人とか多そうですね。」
モエが少し嬉しそうな声を上げ、サクラが物憂げな声を上げた。
「タダユキさん。どういうお花見にします?」
「ん~……新山とかに場所取りしてもらっとけば良かったなぁ。」
「ふふ、今からでもお願いしてみたらいかがです? 新山さんって言うのは芸能事務所の方に居る人よ。元劇団員で劇団員の取りまとめとかしてた人でタダユキさんの友人の1人ね。」
「新山さんですか。」
「下のお名前は?」
「新山秀一さん。ある意味では、2人の同僚兼先輩みたいなものだから覚えておいてね。」
なんてこった、お休みどころかサトミさんのサクラとモエへの引継ぎは既に開始されていた。
サクラは手帳にメモし、モエはスマホでメモしている。
うーん。新山とか別に覚えなくても良いよと軽口を言っても良いもんだろうか。
「新山とか別にニーヤマの響きだけ知ってれば良いんだよ。」
「って言うくらいの仲の良い人って意味よ。」
「なるほど。」
「わかりました。」
「モエ? 『なるほど』は目上に人間に使うのは相応しくないわよ?」
「あっ! すみません!」
モエが慌てて頭を下げ、サトミさんはにっこり笑顔のまま。
「うーん。鬼教官がおる。」
「あら?」
「いや、もちろん頼もしいって意味だよ? 教えるってのも情が無いとできないことだしさ。むしろ嫌いな人間とかだったら無駄に教える労力使いたくないし、どんどん他所で恥をかきまくれば良いって思うじゃない? だから鬼教官役を買って出るサトミさんって素敵だなぁって思っただけで、別にそれ以外の他意は無いし、うん。サトミさんは素敵だなぁと思っただけだよ?」
「ありがと。」
なぜか早口の弁解をせずにはいられない気がしたけれど、まぁサトミさんは可愛いから良いか!
「それじゃあ今日はお花見しましょうね。今日は私が手配しますから2人は見て覚えてね。これから覚えることは沢山あるわよ。」
「「 はい。」」
もう2人とも働いとるがな。
有料のお花見会場の手配や、食事やお酒の手配などなど流石のサトミさんだった。
ま、みんな楽しそうだからいっか。
というワケでお花見した。
ニーヤマとか西さんとかも呼ばれてて急遽、会社のお花見っぽくなってサクラとモエの顔見せも行われ、どうやら上京女子2人も無事に仲間入りとなったようだ。
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サトミ、サクラ、モエの3人が ホテルの1室に集まっている。
サトミの頬は、ほんのりと上気しており、お酒で血液の流れが良くなっている様子が伺える。
「それではこれより女子会を始めます」
「「 はい! 」」
サクラとモエの二人は未成年でお酒を飲めないので変化は起こりえないはずだが宴会の雰囲気に当てられ場酔いしたのかサトミ同様ほんのりと頬が上気していた。場酔いの影響か返事も陽気さが混じり音量も大きい。
「いぇーい」
「「いぇーいっ!」」
多感な二人の酔い具合をジャブで確かめるサトミ。打てば響くという言葉に相応しい状態で、なかなか仕上がっている。あははと笑い声まで一緒に返ってきているのだから怖い物無しだ。
若さの持つ高い感受性の影響か、はたまた若さゆえに雰囲気に飲まれたのか、2人は花見の宴会で大人たちにチヤホヤされて可愛がられ少し自分を見失っているような状態になっていた。
夜になり飲酒不可の未成年の保護という名目で二人をホテルに送る役目を買って出たサトミだが、到着したホテルで急遽開催が決定した女子会。だが、サトミはこの機会を狙って作った節がある。
二人が以前、東京にやってきた時にも、ほぼほぼ夜通し女子会を開催していたし3人だけという状態であれば距離は近い。もちろんサトミが作為的に近寄っている距離感ではあるが、まさに『おなご三人寄れば姦しい』状態だ。
そして女子会といえば恋愛話、愚痴、そして下ネタである。諺の通り、男子禁制の姦しい話は甲高い笑い声や驚きの声が頻繁に聞こえる賑やかな会になった。
だが、どの話題にしても主導しているのは、お姉さんであるサトミだ。話題も豊富で2人を惹きつける。こと下ネタに関しては、その経験故にさらに2人を惹きつけて止まなかった。
モエは多少は隠そうとしているけれどあからさまに興味津々、サクラは興味を薄く隠しつつも絶対に耳を外すことはなく真剣に聞いているムッツリタイプ。
もし男性がいる前であれば、モエは下ネタが苦手、サクラは冷たい視線を送るタイプと思われることだろう。だが、なんのことはない。人間皆スケベニンゲンなのだ。
なお、異性との交際経験はモエは皆無でサクラは少しある。
通常、こういった女子会では男のどこがダメ、ここがダメと、ダメな話がメインになりやすいが、サトミはそういった話が出るタイミングではタダユキとタダユキ以外の男とを明確に分けて話をした。もちろんダメな例がタダユキ以外の男で。
当然のことながら嗜む程度にしか飲酒していないサトミの思考に鈍りなどなく。むしろ少し大胆な思考がとれる程度には調子が良い。つまり意図的にそうしているのだ。
こうしてサクラとモエの2人は、鬼教官サトミによりプライベートでも、こっそりと教育され始めているのだった。
ちょっとプロットとかなんも意識せず、好きに思うまま書くことに決めたので少し雰囲気変わるかもです。
エロくなったらスマンです。
いや、エルフたんの二の舞は踏まんけれども!




