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夢の生活~1日1000万円のお小遣い~  作者: フェフオウフコポォ


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第三十一話 いざ行かん約束の地へ


「むふー!」


 サトミさんに財団法人とやらの事細かな何かしらを丸っと投げた俺は、意気揚々と狂戦士達の闊歩する東北へと向かっている。

 狂戦士の居る東北に一人で向かうのは久しぶりのこと。いつもサトミさんが隣にいたし、サトミさんがいない時には西さんがいた。だが今は一人だ。今回は一人でなくてはならないのだ。

 この一人になるまでに、どれ程の苦難があった事か。


 まぁ嘘ついた。

 苦難など微塵もなかったでござる。


 今回一人で行動している大きな理由は、俺がやってみたい要望をアレもコレもとあげて、サトミさんが『はいはいわかりました』とまとめた結果。サトミさんに『よし。お前どっか行ってろ』されたのだ。


 要は、サトミさんのこなせる仕事量の限界を超えそうな程に仕事を振ってしまい、限界を超える前に仕事発生源が隔離されたワケだ。

 考えてみれば、ただでさえサトミさんは株式会社YOSHINARI、株式会社YOSHINARI芸能事務所、ホームレス支援などなど、それぞれメインで動く人は居るにしても、その全てに関わっている。

 さらにそれらの主要メンバーである西さんや竹田さん、新山に山さんから逐一上がってくる要望を処理したり、内容によって俺に繋いだりするのもサトミさんの重要な仕事。繋ぐか繋がないかを判断するからには、どれもある程度理解している必要がある。

 そんな忙しいサトミさんに、まったく予想外の方向から財団法人の設立や学生支援、将来的なヘッジファンド的システム構築の新規立ち上げをお願いしたのだから、これは隔離処置されるのも当然と言える。


 もちろん、できる女サトミさんは隔離と分かるように隔離しない。


「タダユキさん。そういえば異世界風サキュバス店がある程度形が見えてきたらしいですよ?」

「行くー!」


 だ。


 できる女は違うぜ。

 多分、サトミさんの性格的に奥の手として取っておいた手段だろうけれど、こんなところで使わせてしまって、ちょっと罪悪感はある。


 でも、俺。

 サトミさんから行ってもいいとO.K.をもらっているだけに、是非行ってみたかったのだ!

 狂戦士竹田さんが開拓し、繋がり、引き込んだ風俗店が一体どんなお店なのか知りたかったのだ!


 別にサトミさんが『これ以上仕事を振られたらたまらない』と感じる程に仕事を振るつもりもなかったのだが、結果としてサトミさんから奥の手にしていたサキュバス店の訪問をもぎ取ることができたのは俺としては幸運も幸運。小躍りするくらいの好運だ。


 やはり良いことはするものだ。

 良い事をすると良い事が返ってくるというのは本当だったんだ。

 交通遺児支援をしようとした結果、サキュバス店に行けるようになった。やったぜ!


「オホン。」


 盛り上がる気分を鎮める為に咳ばらいを一つ。


 なにせ俺はグループ企業の運営する専門店を確認に行く社長だ。

 そう。サトミさんが言っていたように、運営する会社の社長が、その実態を知らないなどあってはならない事。


 俺が専門店を訪れ、サービスの内容を確認する。

 これは必要なお仕事なのだよ。

 いや、欠かすことのできない仕事なのだ。


 カキョっと手元で音が鳴る。


 新幹線のグリーン車に乗ったら手元でカキョ音が鳴っても仕方ない。

 なにせ新幹線だ。


 手元でバリっと音が鳴る。


 柿の種の袋が開くのも仕方ない。

 なにせ新幹線だ。


 ピーナッツを一粒、柿の種を三粒つまんで口の中に放り込めば、ボリボリと心地よい音が頭蓋骨にまで響き渡る。この食感がたまらない。

 柿の種の塩辛さをピーナッツの脂質が包み込み、ちょうどよい塩梅に変化する。

 だが、それでも口の中は少し辛い。そんな口内を救う為に黄金の麦汁を投入する。


「っくー……っ!」


 口の中が爽やかな苦味でスッキリ爽快。

 口内が洗い流されていく快感は、まるで晴れた日に、汚れた車を洗車したような清々しさを思わせてくれる。


 麦の香る溜息を一つ漏らし、窓から外を眺めれば近くは高速に、遠くはゆっくりと流れていく独特の風景。まだまだ建物が沢山見える都会の雰囲気だが、数時間もしない内に窓から見える景色は大いに変わってしまうだろう。移動速度に人類の凄さを感じる。


 そんな景色をつまみにビールをちょいと飲む。

 ビールが喉を過ぎると、口の中にはほんのりホップの苦さが残った。


 この苦さを楽しめるのが大人になった証拠なのだろうなと、どこか面白く思いながら、すぐに柿の種だけを口の中に放り込む。やはり辛い。ここでビール。


 う~ん……気持ちいい! そしてお仕事だから仕方ない!



 旅の始まりのワクワク感を十分に堪能し終え、流れる景色に飽きて少しの暇を持て余しはじめたので、向かう先の現状を知るためにタブレットを起動する。

 向かうに当たって改めてサトミさんが送ってくれた西さん当たりがまとめたであろう資料に目を通してゆく。


 現在、異世界風居酒屋は無事に開店して二か月が過ぎている。

 宣伝はちまちまとした形で行っており、通常の居酒屋としてみれば、そこそこ繁盛しているような印象だ。観光客がメインだが、地元の人も、その真新しさに一度は行ってみたいと感じてくれている。そんな集客に感じられる。だが、これまでかかった人材や設備など投資した金額で考えれば、全然回収には程遠いレベルでしかない。


 ただ、それでも狂戦士竹田さんの心は燃えあがっているようで他のサービスと連携し始めてからが本番と決心し、その本番の時に万全の体制が組めるよう様々な実験を行っているようだ。

 それが分かりやすいのは一週間ごとにイベントを区切って、イベント毎のお客の反応を集めていたりするのも、現状は『実験場』と割り切って情報収集に専念している証拠だろう。


 その貴重な情報に目を通すと、若い人達には意外と『接客しない接客』や『現金な接客』とかのイベントデーでも受けが良いのがわかって面白い。逆に年配になると受け入れ難いようでクレームになる率が上がっている。もちろん『無愛想な接客をする日』と予めアピールはしているし、最低限のマナーは守っているのにだ。


 大きく問題にならないのは演者兼労働員として働いている劇団員たちが、元々がバイトで生計を立てていた人たちが多いだけにバイト慣れしていて、居酒屋的なクレーム対応に慣れているからのようだ。存外に適材適所だったようだ。よく回っている。

 

「えっ!? 野戦デー!? 劇マズ中世料理デーっ!?」


 戦いの最中に急遽あつらえられた食事処イベントや、本場の中世料理を再現したイベントなんかもやったらしい。

 野戦デーは、ノリの良いお客の回転率が滅茶苦茶上がり、ノリの悪いお客から見ると大層居心地が悪いイベントだったようで、反応が分かれたが、元々野戦のノリの店として作られていれば利益が見込めそうな店になる可能性を感じたようだった。異世界風ファストフードもアリと記してある。

 劇マズ中世料理デーは、史実の料理をどこまで再現したかの解説メモを添付したらしく予想以上に好評だったらしい。可能な範囲で再現したスパルタの黒のスープなんかは品切れにまでなったそうだ。


「はー……美味い! だけじゃなくてマズイ! も売りになるんだなぁ……確かに一口くらいは食べてみたくなるし、友達同士すっごく盛り上がりそう。

 それにしても頑張ってるなぁ竹田さん達。」


 ただ面白居酒屋をやるだけじゃなく、常に新しい楽しさを求めてイベントデーを組み込み、そのイベントがかなりの工夫を凝らされているところからも、どれだけ本気でやっているのか意気込みが伝わってくる。

 平均点を狙うよりも0点か100点を狙うような思い切りのある決断もされていて報告を読んでいるだけで楽しい。


 うん。素晴らしい情熱。

 素晴らしい行動力。

 素晴らしい連帯感。


 楽しく働いてくれていそうだし、どうやっても成功に収束しそうなイメージしか見えない。


「むふーっ!」


 こうなるとサキュバス店に期待するなってのが無理ってもんですよ! んふーーっ!


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