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第二十七話 人。増える


「それじゃあビジネスモデル特許は限定的な形になるんですね。」

「既存のシステムと重複する部分が今のところは多いので今後想定される複合的な面から独自性を出すしか無いですからね。」

「それな。」


「移動が覚めポイントなんですよ。もっと外に出た時とかにもファンタジー感とか欲しい。」

「いっそバス会社作った方が良いんじゃないでしょうか? その方が自由がききますね。現状東京からの移動と到着した後の移動が課題になりそうですから。」

「乗り合い馬車フリーパスみたいなものは、どこかとコラボするよりも、いっそゼロから立ち上げる方が望む形に仕上がりますし検討の価値ありですね。」

「それな。」


「広告どの程度出します?」

「現状、まだ1店舗だけだから混みすぎると悪いイメージがつくし見どころも少ない。これからの予定での発展性を考えれば、まだ『知る人ぞ知る』的な感じで近場の人が楽しむ程度の方が良いでしょう。」

「う〜ん……じゃあ、個室スペースで動画撮影OKにして純粋に料理とかの面白さと質の高さをアピールしてもらうくらいの感じでいいですかね。」

「そうですね。何もしないのはもったいない。」

「それな。」

「有名な配信者じゃなくて、撮っていいですよー。お食事サービスしますよー。くらいで来る程度の人を使って、じわじわと『こんな店あるんだ』を広める感じか。」

「他の異世界風温泉、宿、遊技場、風俗はもう改装にはかかってるけど、稼働を考えると後半年くらいは猶予があるから、連携ができた時点で少しずつ力を入れよう。」

「転生ファンタジーランドの方はまだまだ1年半くらい後の開業見込みですけど、その少し前くらいから出版物にも広告を入れていくべきですね。本の帯とかに招待券プレゼント付けたりして。」

「特定層の開拓って意味なら、ファンタジー特区を舞台にしたWEB小説賞もいいんじゃないですか? 賞金30万円プラス2泊3日の豪遊体験とかにすると、それなりに興味を持つ人がいそうだしターゲット層への広告効果も大きい。」

「それな。」


 そう。俺は何を隠そう「それな。」を言うマシーンだったのだ。


 サトミさん、西さん、竹田さん、今村せんせ、西さんの助手的よく知らない社員、竹田さんの助手的よくしらない社員、竹田さんの協力者A、B、C達。さらにそれらの協力者達と、異世界風居酒屋というハコが完成したお祝いのプレオープンパーティを楽しんでいるのだが、いやぁ、みんな仕事出来る感がすごい。とりあえず俺は理解した顔でエールを傾けながら「それな」と事ある毎に乗っておく。


「タダユキさん。実際にお店を見た印象はいかがです?」


 色々察したっぽいサトミさんが俺の横に戻ってきて声をかけてくれる。流石の安心感。


「うーん。楽しいね。なんかワイワイしながら、みんなで真剣に目標に向かうって空気がすごく良い。」

「一歩引いて見すぎじゃないですか? 中に入るともっと楽しいですよ?」


 サトミさんの言葉にニヒルな笑顔を作る。


「ふふふ。だが、それこそが俺の仕事なのだよ。分かるかね? サトミくん。」

「はいはい。そうですね社長。それじゃあ竹田さんの所に行って協力者してくれる方たちとも仲良くしときましょうねー。」


 サトミさんが腕を組んだと思ったら引っ張り始めた。

 あの狂戦士集団のいる魔境スペースに向けて。


「あ、やめて。あそこ怖い。情熱が怖いの。挨拶の時点で怖かったの。」

「たけださーん。社長からお話があるらしいですよー。」

「あ。あ。あ。」


 サトミさんが容赦なく、西さん達ブレーンスペースから俺を引っ張り出しながら狂戦士を呼び寄せている。

 やめて。西さんの隣で「それな」マシーンになるのが一番賢くみえるの。やめて。


「社長っ! おーいみんな! 集まれぇっ!」

「はいっ!」

「おうっ!」

「へいっ!」


 狂戦士が四天王に増えた。


「はい、社長。どうぞ。」


 サトミさんが腕を離して、そっと背中を押す。流石に注目が集まってしまった以上、情けない振る舞いはできない。なにせ隣にいる婚約者に恥ずかしい思いをさせるわけにはいかないのだ。

 気持ちを切り替える為に軽く咳払いをして、それらしい空気を作る。


「んっんんっ! どうも。この度は大変な尽力のおかげで素晴らしい発想の店舗となりました。有難うございます。これから、ますますの発展が目標になりますが、また皆さんには一層の力を貸していただけたらと思います。」


 四天王が首肯する。

 誰も喋らない。


 どうやらまだまだ俺が言葉を発する必要がありそうだ。


「えー…………一つ、忘れないでいただきたいのは、ここも、そしてこれから作る場所も『楽しい』を生み出す場所だと言うこと。その『楽しい』は利用するお客さんはもちろんですが、もっともっと大事なのは、そこで働く人も楽しいと思えることだと、私は思います。

 その楽しいの中からこそ、お客さんも楽しめる楽しいことが思い浮かんでくるものじゃないかと。なので、皆さんも楽しむことを忘れてしまうほど集中せず、時には寄り道をして、休み、遊んで、そしてまた楽しく働いてくださいね。」


 四天王がまたも首肯する。今度はゆっくりと首肯している。

 だが喋らない。

 お願い。なんか喋って。


 俺の能力的に思いつきで喋るのは、そろそろ限界。多分もうこれ以上喋ると、なんか色々無理が出てきちゃう。


 えーっと、でも、なんかそれらしいこと。言わなきゃ。それらしいっぽいこと。えーっと。俺らしいこと……俺らしいこと?


 金か?


 そうだ 金だっ! 俺といえば金! きらめけっ! マネーパワー!


「というわけで、俺たちこそが目一杯に楽しまなくちゃいけないっ! そして俺には、みんなを楽しませる義務があるワケだっ! 」


 いつも財布に入っている200万円を取り出して机に叩きつける。


「まずは、これを使い切るまで遊んで来て欲しい!」


 四天王が目を見開いて固まる。

 札束に向いた目が、ゆっくりと俺に向く。


 やだ怖い。

 なんか喋って。


 固まる以外の反応プリーズ!

 誰かリアクションプリーズっ! もうやだー!


「社長。竹田さん達のかかった労力をポケットマネーで癒やそうという心遣いですね。素晴らしいです。」


 サトミさんが喋り始めたおかげで四天王の視線が動き、その重圧から解放される。危なかった。もうちょっとでも視線を浴び続けていたら、きっと今日の夢に出てくる可能性があるくらいには危なかった。


 内心で冷や汗を拭っていると、サトミさんが俺の斜め後ろから前に進み出る。


「竹田さん。こちらのお金は、社長の采配の通りにお使いください。皆さんで遊び楽しむ為に使う。その為だけに使ってください。」

「……い、いいんですか?」


 机の札束を持ち、そっと竹田さんに進呈するサトミさん。

 流石に手渡されると受け取る為に手を伸ばす竹田さん。


 うん。バーサーカーに神具を与える女神の構図だな。これは。うん。さすさと。


「ですが、これは、ただの慰労ではありません……どうやら社長の視点から見て、まだまだエンターティメント性が足りていないと感じられたようです。」

「……くっ!? …………そうですね……まだまだ型に収まり過ぎてる……そういうことなんですね。常識に囚われ過ぎている。と。

 だからまずは常識を取っ払え……これは、その為に必要な金なんですね……」


 竹田さんの言葉にサトミさんは何も言わない。

 サトミさんが何も言わないので、俺に視線が向くけれど、俺も何も言わない。いや言えねぇよ。知らねぇって。


「わかりましたぁっ!! 不肖、男竹田ぁっ! この心意気に応えるべく! 目ぇ一杯遊び尽くして! 殻ぁ破ってきますぁっ!! いくぞぇい! おめぇらぁ!」

「はいっ!」

「おうっ!」

「へいっ!」


「「「「 うぉぉおおおっ!! 」」」」


 竹田さん達が出ていった。

 突如発せられた大声に、場には静寂が訪れている。


「お疲れ様でした社長。」

「あー、うん。」


 サトミさんの笑顔と言葉にとりあえず返答。

 これで良かったのかは、まるでわからない。だが、良かったと思わないと、たぶん今日眠れない。


「あ。ねぇサトミさん。ここから竹田さんいなくなっちゃったけどダイジョブなの? 彼って、店長兼調理師じゃなかった?」

「大丈夫ですよ。」

「そっかー。大丈夫ならいいや。」


 狂戦士から解放されたので人心地ついてみる。


 だが静寂と周りからの視線が集まっているのが嫌でもわかった。

 どうやら、こっちでもまだまだ俺の言葉が必要なようだ。


 だが、すまんな。

 既に俺はもうキャパオーバーだ。


「うぇーい! こっちもこっちでしっかり楽しむぞー! 小難しい話は抜きにして飲め飲めーい! まずは楽しめーい! 俺の奢りじゃあー! なんでも飲めー! 食えー! 楽しんでなんぼなんじゃー! 働いてる人もみんな飲めーい!」


 とりあえず楽しんどこ!

 楽しむことそそが俺の人生の目的なんだから!



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