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第二十六話 露往霜来


「これ美味しいねぇサトミさん。」

「ほんと。ビックリするくらい美味しいですね。」

「摘みたては、やっぱり違うんだねぇ。」

「この雰囲気も美味しさにプラスですよね。」


 サトミさんがシャインマスカット美味しいって言ったから。

 シャインマスカット狩りした。もちろん、どこもやってないから特別にお願いして。


「サトミさん……それ多すぎない?」

「……狩りってなると、つい。」

「おー。狩猟民族。」


 特別にお願いしたので、狩り料金の他に狩った分だけ言い値で買取なのだが狩猟民族は狩りと名がつくと燃えてしまうらしい。また新たな一面を知れて良かった。楽しいし美味しい。最高。


「いやーたのしかった。有難うございました。」

「無理なお願いを快く引き受けていただき有難うございました。」

「これ料金とは別にお礼の気持ちです。」 


 農家さんに狩りさせてもらえた料金と、葡萄代とは別に10万円包んでおく。

 無理を聞いてくださったお礼と幸せのお裾分けだ。



--*--*--



「もう……登山はいいかな。」

「尾瀬って……違う。全然イメージとちがう。もういや。いや。」


 サトミさんが静かに尾瀬に切れた。


 観光地だと思って、山小屋宿泊のプランを組んでもらったら、がっつり登山&登山系山小屋だったのだ。久しぶりにラグジュアリーとは一切関係ない気分を味わったわ。

 もちろん俺がよく調べなかったのが悪かったので、とりあえずめちゃくちゃ謝っておいたけど運動音痴のサトミさん。相当な山嫌いになった模様。


 いや、綺麗は綺麗だったのよ? ほんとに。


「ガイド有難うございました。」

「アリガトウゴザイマシタ。」

「これ料金とは別にお礼の気持ちです。」 


 しっかり付き合ってくれたガイドさんにお礼の気持ちで10万円包んで幸せのお裾分け。


「イヤ。」

「うんうん。もう山はいかないいかない。」



--*--*--



「うーん。見所なにもないねぇ。」

「タダユキさん? あの建物、文化財ですよ?」

「えっ? あぁ。うん。確かに味わい深い建物ですなぁ。うん。」

「えぇ。ほんとそうですね。古い建物ですから味わい深いですね。

 ちなみに、今タダユキさんが見ている奥の方のが文化財です。」

「えっ?」


 俺の無知が、また煌めいた。

 サトミさんの見識の深さに感動。アンドこの博識な人、俺の婚約者なんやで? という満足感も味わえた。

 たまには二人でのんびり観光もする。


「あ。団子売ってる。」

「さっき、お餅たべたでしょう?」



--*--*--



「あぁああ……いた、いたい、いたた、痛い。」

「ふふふ。マッサージしましょうねー。」


 運動しようと、やったことないボルダリングに誘ってみた。

 そしたらサトミさん。俺がボルダリングしてるのを笑顔で遠巻きに見てるだけだった。

 「どうやっても無理と分かってることは最初からしません」だってさ。うーん、いさぎよし。


「たたたた……あたたー!」

「こってますねーお客さん。」


 なお今回のお裾分けはサトミさんが俺が四苦八苦してる間に、お店の人と話をしてて、なにやら器具や資材の寄付になっていたようだ。

 一緒に楽しめなかったけど、まぁ、マッサージしてもらえたから良し。



--*--*--



「山さんたち、やっぱりいい仕事が無いみたい。」

「そうですか。」

「うん。住所ができて働けるようにはなったみたいだけど、ブランクとか年とかで、いい仕事はできてないらしい……」


「タダユキさん。タダユキさん。」

「んっ?」


「タダユキさんは、山さんがどうなったら満足なんですか?」

「そりゃあ……うーん。俺の家が必要なくなって、金とかの支援をしなくても好きなように一人で生きられるようになって、そんで幸せになってくれたらって思う。」

「素敵ですね。」

「えへへ。」


「では、それは山さんの目的ですか?」

「んっ?」


「私は想像しかできませんけど、ホームレスになった方って『幸せになる』よりも『とりあえず生きる』という目標の方が強いと思うんです。」

「ふむ。」

「だから、あまりいい仕事じゃなくても、それでも前よりもずっと良いと満足してしまう。それで目的が叶ってしまっているかもしれない。」

「ほう……」


「でもタダユキさんは、それだと満足しない。」

「むぅ……高望みしすぎなのかなぁ俺?」


「現状でタダユキさんが満足する為には、タダユキさんのハードルを下げる事もアリですけど、それは多分望まないでしょうから、山さん達に『幸せになって良いんだよ?』って教えてあげることが大事なんじゃないかと。」

「ほ?」


「意識改革ですね。」

「うーん。山さんたちに意識高い系になれってのは無理がないかなぁ……」

「意識改革が難しければ、放っておいても幸せを掴めるように人並みにお金を稼がせる職を用意するしかないですね。」

「そこそこ人並みに儲かる職の用意か~……そうなると、まー難しそう。」


「タダユキさん。タダユキさん。」

「んっ?」

「タダユキさんは、何の施設を作ってるんでしたっけ?」

「異世界風居酒屋?」

「その他は?」

「あ。異世界風ファンタジー特区。」

「そこって清掃員とか雇ったりしないんですか? 劇団員じゃ出せないリアルさの演出とかしたりすることはないんですか?」


「お、おお、おおおっ! そっか! 仕事作れるのか俺! それに痩せ細った悪役魔法使い役とかアリだわっ!! 銅貨を恵んでくだせぇ……的な人がいて、恵んだら実は名のある人物で金貨が返ってきた的なサプライズファンタジーもできるっ! いいわ!」

「西さんに会議準備させますねー。」


 ホームレス支援策が立案できた。



--*--*--



「これ……どうやって食べたらいいの?」

「ふふっ、わかりません。」

「こうかな?」

「すごい顔。ふふっ。」


 めちゃくちゃ幅の広いうどんを食べに行ってみた。


「あ。でも結構好き。なんか美味しいよりも面白いが勝つし。」

「ふふっ、そんな、無理に啜らなくても、ふふふっ。」

「いや、やってみると楽しいよ? どう?」

「やりませんよ?」

「ほんとにぃ?」

「ええ。」

「おひひひよ?」

「ふふふっ。」


 西さんとか竹田さん、新山にお土産でうどん送る手配してもらった。

 愛想のよかった店員さんに『素敵な応対でした。ありがとう』と1万円のチップ付きメモを残して幸せのお裾分け。



--*--*--



「あ。あ。辛い。」

「変な声ださないでください。タダユキさん。」

「はい。」



「あ。あ。」

「ふっ。」

「ごめんなさい。」



 サトミさんの要望でホットヨガやってみた。身体が柔らかい人はいいよな。

 熱いわキツイわで、なかなかハードやで。ホットヨガ。


 でも終わってみると、身体が柔らかくなった気もするし、汗も大量にかけて結構いい気分。


 貸し切り料金とは別に、新たな楽しみを指導してくれたインストラクターに幸せのお裾分け。



--*--*--



「なるほど。こういう気分なのか。」

「……」

「なにか言ってよサトミさん。」

「『恥ずかしい』っていう感情は、通り越すと面白くなっちゃうんですね。私、初めて知りました。」


 お店でアベックストロー使って一緒に飲み物を飲んでみた。

 そして、アベックストローって、なかなか飲むのが難しいストローなんだって事を知ったよ。

 サトミさんも初体験だったみたいで俺も微妙に嬉しい。


 悪ノリに笑顔で対応してくれた店員さんに『グッジョブ』の1万円のチップ付きメモを残して幸せのお裾分け。



--*--*--



「いや、なんかすごかった。」

「ほんとですね。『生』って感じがしました。」

「これを、これからはもっと良くできるようになるんだよね。」

「えぇ。私たちがバックアップしますからね。」

「すっごい楽しみになってきたよ。」

「私もです。」


 新山たちの公演を見に行ってみた。

 資金面で後援したから、いつもよりも良い小劇場でやれたらしい。と言っても観客が百人も入らないような小舞台だけど。


 実際に見て、時々遊ぶ時の姿と違い、夢に向かって歩いているような姿は、なんだかちょっと感動した。


「なんか妙なしてやられた感があるから、打ち上げの時にサプライズとかたくらんじゃおうか?」

「いいですね。何しましょうか?」

「サプライズといえば……ドッキリ?」

「ドッキリ?」

「ゾンビの特殊メイクした人が打ち上げを襲いにくるとか?」

「あー……楽しそうですけど、誰かしら可哀想な感じになる可能性もありません?」

「あるね。うん。」


「うーん……もっと単純にお母さんを会場に呼んで頑張ってる姿を見てもらうとかでいいんじゃないですか? よければ打ち上げにも参加してもらうとか。」

「あ。流石サトミさん。それ良い。絶対に新山超嫌がるわ。」

「えっ?」

「それでいこう!」

「いや、えっ? 私、別に嫌がらせする目的じゃあ――」

「流石サトミさん!」


 千秋楽に強制親孝行させてやった。

 いやぁ素晴らしいサプライズ。超悶えてたよアイツ。

 みんなでグルになって打ち上げにも呼んで一緒に楽しんでやったわ。流石サトミさん。さすさと。


 そして、どうにも思っていたのと違う対応になった事を不服に思ったらしいサトミさんから、サトミさんの両親に挨拶に行くことを打ち上げの最中に約束させられたのも。さすさと。もちろん即、挨拶に行ってやったけどな。んで、その足でサトミさんにも俺の親と会わせてやったったわ。サプライズ返しじゃ。

 まぁ、サトミさん。俺の行動を予想してたのか全然動じてなかったけどな。ほんと、さすさと。

 


--*--*--



「なるほど。」

「なにその感想サトミさん。」

「いえ、タダユキさんが面白いと言っていたのが分かったので。」

「サトミさんはアニメとか見なさそうだもんね。付き合って見てくれてありがと。」


「異世界風居酒屋の話があった時に小説は読んでみたんですけどね。これまでなんとなく良いイメージ持ってなかったのでアニメとか見てなかったですけど、そういうフィルターを外して見てみると楽しめるものですね。」

「あー、アニメってなるとオタクとかマイナスイメージ強いから拒否感でても仕方ないからねー。」

「一度見てしまうと不思議と『面白い物は面白いで良いじゃない』って気持ちになりますね。」


「ようこそオタクの世界へ。」

「やめてください。」

「うぇーるかーむ。おたく。あ、でも腐女子にはライトな感じまでで堪えてくれると嬉しいです。」


「なるほど。それじゃあ掘り下げてみましょうか。一緒に。」

「えっ?」

「私がアニメを見たんですからタダユキさんが同じ気持ちを味わう為には、そういった拒否感のありそうな方に振るしかないのかな? と。」

「えー……そんなぁ、やってやろうじゃないかぁ!」


 サトミさんが腐りかけた。

 なお、俺も腐りかけた。あぶない。辛うじて致命傷で済んだ。



--*--*--



「死ぬまでに一度、見てみたかったんですよオーロラって」

「俺も。一度くらいはって心にあった。」


 二人で夜空を見上げる。

 海外旅行もサトミさんが英語喋れるから強い。

 俺は日本語喋れるガイドをピッタリ付けて対応してるけど、やはり直接相手とやり取りできる姿は無性に羨ましかった。


「さむいね。」

「ほっぺた痛いくらい寒いです」

「どれどれ」


 ほっぺたくっつけてみる。


「うーん。冷たい気がする。」

「ふふっ、でもあったかいです。」

「あ。」

「オーロラ……」




「サトミさん。いつも一緒にいてくれて有難う。」

「こちらこそ。」


「好きです。」

「私も好きです。」


 良い雰囲気に、気を利かせてくれたガイド達に色々クレジット決済でプレゼントして幸せのお裾分けしておいた。



--*--*--



「うーん。素晴らしい。」

「そんなにじっと見ないでください。」


「見てません。はい。」

「めちゃくちゃ見てるじゃないですか。」

「はい。見てます。」


「もう……私もタダユキさんみたいに、じっと見ましょうか?」

「あ。なんか恥ずかしい。」


「じー。」

「あ。あ。」



 露天風呂で貸し切り混浴してみた。

 うん。なにも言うまい。


 とりあえず貸し切り料金に10万円プラスして支払っておいた。



--*--*--



「なんか緊張感あるな。」

「おう、なんだろうな、この違和感というか、非日常感。」


「そうなんですか?」


「普段男だけでやってるからなー。」

「うん。サトミさんという美人が入るだけで空気がまったく変わった。」

「な。」


「ふふっ、有難うございます。」


 新山達と麻雀する時にサトミさんも混じってくれた。


「えっと、これ、こっちから取れば良いんですよね?」

「そうそう。今、サトミさん起家だから、そっちの山から右回りの順番で引いてくの。」

「ちーちゃ?」

「あ。親ってこと。今、サトミさんが上がると点数高いよ。」

「じゃあ頑張らないとですね。それじゃあ引きますね……わぁ、なんだか自分が麻雀とかしてることに凄く違和感があります。」


「サトミさん、やらなそうだもんねー。」

「やらないだろうねー。」

「完全に同意。」


「そうですねー。私もタダユキさんがやってなかったらやろうと思わなかったですし。」


 適当なダベりでの打ち回し。

 これぞ麻雀の醍醐味なり。


「なんか麻雀って、この話しても話さなくても良い感じが良いんだよなー。」

「わかるわかる。長考も気にならないしな。」


「あ。ちょっと待ってくださいね。ちょっと役を思い出すんで。」


「どぞどぞ。しかし初心者なのに思い出すっていうのがスゴイな。」

「サトミさん昨日麻雀のルール本読んでたしな。」

「俺、読んだことねぇ。」

「俺も。」

「俺たちとは地頭が違うんだよ。比べるな比べるな。」


「お待たせしました。うん。ツモでした。

 門前清自摸和メンゼンチンツモホー役牌ヤクハイ混全帯幺九チャンタ混一色ホンイツの役。1、1、2、3の役なので7翻。親なので跳満18,000点ですね。」


「……」

「……」

「……」


「あってますか?」


「あ。」

「どした。」

「ドラ……のってる。」


「あっ、本当ですね。頭がドラだったので合計9翻。9翻だと倍満24,000点ですね。有難うございます。8000点ずつですね。」


「……」

「……」

「……」


「思ってたよりも麻雀って楽しいですね♪」


「「「 やべぇ 」」」


 良い笑顔で新居の多目的ルームに全自動卓の設置が決定された。




--*--*--




 時々上がってくる確認や、要望や予算の承認のしたり、使える費用を会社の役員借入で貸付したりはしたけれど、仕事は完全に西さんや竹田さんにまかせっきりにして、俺はサトミさんと過ごし、仲はどんどん深まる日々。


 気が付けば異世界風居酒屋が完成するくらいに、日が過ぎていた。






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