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第二十五話 餅は餅屋、蛇の道は蛇、馬は馬方、病は医者歌は公家


「見てみてサトミさん。コレ」

「なんです? あらまぁ」


 まだ使い慣れない最新タブレットに表示される資料を、隣に、ぽすっと可愛い音を立てて座り、肩に頭を預けてきたサトミさんにも見せると、すぐに興味を惹かれたようにしげしげと眺め始めた。


「なんかプロの仕事って感じだよねー。」

「そうですねぇ。作れって言われても、とても作れそうにないです。これがセンスなんでしょうかねー。」


 表示される資料は、西さんが手配したデザイナーが作った資料。株式会社YOSHINARIのコーポレートデザインだ。

 ロゴにレターヘッドなどのグラフィカルな面だけではなく、書類で使用する書体の指定までされている。面白いと思ったのは、送られてきた案が2案だけだったこと。だけれど、どう見ても、1つの案がメインで、もう1つの案はサブもサブ。


「これって、やっぱりこっちの案にしとけって意味なのかな?」

「ふふっ、それは違うと思いますよ。『最上がコレだと思いました。いかがですか?』が正しい解釈だと思います。もう1つの案は、もしダメでも他の案も作れますから言ってください。くらいのお愛想じゃないでしょうか。」

「はー。なるほどなー。」

「もしタダユキさんがダメだと思ったら、また最上だと思う案を作ってくるでしょうから遠慮なく思ったことを伝えるのが礼儀だと思います。」


 俺が持っているタブレットをスイっスイっと俺よりも使い慣れてるような指さばきで操作し資料に目を通してゆくサトミさん。

 自分で操作しなくてよくなったので、空いた左手は、とりあえずサトミさんに回して撫でる為に使っておく。サトミさんも慣れたもので、より身体を預けてくる。


「タダユキさんは案を見てどう思いました?」

「かっこいいなーって思った。サトミさんは?」

「そうですね。なんだか少しのレトロを残しつつも現代的って感じでしょうか。」

「んー。それは良い方で? 悪い方で?」

「良い方ですね。」

「んじゃ、これでいこーか。」

「はい。西さんに連絡しておきますね。って、あら? タダユキさん。また資料が送られてきたみたいですよ? ほら。」

「ほえ?」


 サトミさんの頭頂部クンカクンカに気を取られてて気が付かなかった。

 クンカクンカを中止して新たに送られてきた資料に目を通す。


「おおっ!」


 思わずサトミさん撫でを中止しタブレットを両手で持ち直して中身の確認をしてしまう。

 解放されたサトミさんは、ぐいぐいと動き逆に前かがみになった俺に手を回し、肩に頭を乗せた。


「これは楽しそうな予感。」

「わぁ、こうして見るとワクワクしちゃいますね。」


 送られてきたのは異世界風居酒屋の店舗ラフとか、メニューや衣装、通貨の構想が煮詰められた資料だった。


 資料を読んでいくと異世界風居酒屋だけでも準備を整えるまでに、おおよそ半年はかかるだろう事が分かった。

 そしてその半年の間に、新居の計画変更の時にサトミさんから聞いたのだろう芸能事務所に所属する予定の劇団員たちにやってもらいたい事などが細かくスケジューリングされている。

 その他、狂戦士竹田さんが開拓している賛同仲間を引き込んで作る異世界風グループの展開展望や、その収支予測。それらとは別の異世界転生ランド建設構想に、東京からの移動すらもファンタジーにしてしまうバスツアー案まで。


 どうやらライトな層向けの居酒屋やレストラン、温泉にお土産屋さんといった施設の他に、コアなお客さん向けの本格的にファンタジーの臨場感を楽しめるようなアトラクション施設を作る方向で考えているようだ。

 ネックになりそうだった移動も馬車に揺られるイメージで楽しみの一つとしてカバーしてしまう。通常料金は冒険者運搬、格安は奴隷運搬、高級は貴族対応等々オプションも面白い。


 まー、よくよく考え抜かれた資料だ。

 この資料だけでも価値がある気がしてくるくらいには素晴らしい。


「あ。これ面白いですね。」

「なになに?」


 サトミさんがいつの間にか自分のタブレットを持ってきて同じ資料を見ていた。そしてサトミさんの資料読解能力はスゴイのだ。早い。

 目をサトミさんの言葉に合わせて移動させると、あったのはアトラクションなどの演技力が求められる施設での劇団員の具体的な利用案だった。


「はー。スポーツみたいに劇団員を1軍、2軍、3軍に分けるってことか。」

「競争があると、その分馴れ合いが減って実力が上がりますからね。ギスギスしますけど。」

「まぁあの劇団員みてたら、多少ギスギスしてとしても逆に仲を深めるための良いエッセンスくらいになるんじゃない? ライバル同士の友情! みたいな。」

「ふふっ、そうかもしれませんね。」


 1軍が映像なんかで活躍する花形、2軍はその予備の舞台班。3軍がアトラクションスタッフ。

 俳優、女優同士を切磋琢磨させて異世界ファンタジーの舞台を公演して回り、質の良い役者を作り上げるプロジェクトまで考えられていた。


 1軍、2軍は衣食住、トレーニングルームに栄養管理まで完備の豪華施設での暮らしの保証がある。これは新設予定のシェアハウスのことだ。現状の劇団員は2軍、3軍スタートになるけれど、どうやら好待遇から人は増えつつあり、3軍まで考えても余裕で対応できそうらしい。


 3軍のアトラクションスタッフは寮暮らしが与えられ、活躍ぶりに応じて上位に登用の可能性もあり、また来場者なんかに渡されるチケットでWEBからファン投票もできるシステムになっているようだ。まー考えられている。

 しかもその投票はアトラクションスタッフ部門とは別に、狂戦士竹田さん率いる異世界風グループの展開予定のお店の店員にも投票できるようにするようだ。


 ということは、


 居酒屋の元気娘が、応援次第で芸能人になる可能性がある。

 レストランのドアマンが、応援次第で芸能人になる可能性がある。

 温泉の頑固おやじが、応援次第で芸能人になる可能性がある。

 お土産屋さんの売り子が、応援次第で芸能人になる可能性がある。

 サキュバス店のお姉さんが、応援次第で芸能人になる可能性がある。


 ライトな層の気軽な応援の気持ちから固定ファンも増やしていこうというたくらみがあるのが分かる。


 って


「サキュバス店があるっ!?」


 どうやらムフフなお店も狂戦士竹田さんは仲間に引き入れてしまったっぽい。イカン。イカンぞ。もっとやれ。素晴らしすぎるだろ竹田さん! キャバクラなのかな? スナックなのかな? ストリップなのかな? それともそれとも?? イカン。イカンぞう! けしからん!

 

 つい喜色に染まった声を上げてしまった俺は、瞬時、氷に触れたようにサトミさんを振り返り見る。


 それはもう良い笑顔をしていた。


 サトミさんはインキュバスのお店いっちゃヤなのぉっ!

 だから行かないよ! おれ!


「ふふっ。出来たら行ってもいいですよ。これはお仕事ですし。社長がグループの展開するサービスの詳細を知らないなんてオカシイですからね。」

「ヤなのぉ! サトミさんがホストとかに接待されるとかヤなのぉ! だからいかない!」

「安心してください。タダユキさんが行っても私は行きませんから。」

「……ほんとぉ?」


「だって、もうタダユキさんが嬉しそうな顔するの見ちゃいましたし……あんまり我慢させるのも可哀想な気がしますから。」

「ほんとに? ほんとに? サトミさん行かない? サトミさん行かないのに、俺行っていいの?」

「いいですよ。だって、私もう、タダユキさんが私を好きな事を少しも疑ってませんから。」


 そう言って、チュっとしてくるサトミさん。

 うーん。好き。


 よし、ムチュムチュしよう!


「もう……ほら、その前に西さんに何か言っておかなくていいんですか?」

「そうだった!」

 

 スマホを手に取り、西さんに電話をかける。

 2コールもしない内に電話が取られる。


「はい。西です。」

「西さん! やっぱりあんた最高だよっ! ロゴもオッケー! 構想もオッケー! もうがっつりこのままの勢いで進めちゃって! なんも言うことないよ!」


 もう万能西さんに全部振った。

 芸能事務所関係もやってくれちゃいそうな勢いだから任せちゃう。なんか運営する為の陣営も当たりを付けられるらしいし、もう西さんならできると確信したよ俺は。確実に俺が下手に口出しするよりも結果は良くなるとしか思えない。

 俺はただ予算を承認して金を出すだけ! 俺の役割はこれでいい!


 そして俺は空いた時間の全てで寛容なサトミさんと、ただ甘い時を過ごすのだっ!


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