第二十三話 ムチュムチュと法人
本日2話目
川相仁美さんという人生の可愛い伴侶を得た俺氏。
この世の春を謳歌しつつ、サトミさんにゲロゲロに甘えつつもサトミさんを甘やかし、盛大にムチュムチュしていたところ、気が付けば、いつの間にか芸能事務所の社長もすることになった模様。
「はて? どうしてこうなった?」
書類に実印を押しつつ呟く。
書類を手に取り、俺の押した印を確認しつつ微笑むサトミさん。
「疑問があればなんでも聞いてね? タダユキさん。」
「うん。特に不安はないんだけど……俺、このペースだと、いくつの会社持つことになるんだろか。」
サトミさんに犬が如く甘えムチュムチュしていると時々「そうそう、あの劇団員の人たちなんだけど――」といった感じで話があって、その都度「サトミさんの一番良いと思う方向でいーんじゃない? 資金が必要なら出すよ?」と答えていたらこうなった。うん。俺のせいだな。
サトミさんは、万能西さんを通して俺がやろうとしてることとか狂戦士竹田さんを通してやろうとしていることに関係していたから、その全部を知っている。そしてその二人が知らないホームレス支援とか劇団員バックアップとかまで知っている。
つまり俺のやろうとしていることは、現状俺の次にサトミさんが一番知っていることになる。
そして、そのサトミさんは俺よりも知識が豊富だし決断力もあり賢い人だから、そういった面で信用しているし、そして俺の婚約者として一緒に過ごす時の態度から信頼もしている。もちろん俺がサトミさんを信用や信頼していないとサトミさんも安心できないだろうから、俺自身、彼女に信用信頼されるように犬のように頑張ってる。ゲロゲロに甘えムチュムチュするのも、その一環……なわけではない。いや、あるのかもしれないけれど、単純に可愛いサトミさんにムチュムチュできるのは好きなのだ。ムチュムチュされるのも好きなのだ。
色々好きなので任せていたら、こうなっただけのこと。
うん。これは仕方ない。回避しようがないな。
「それじゃあ、建築予定の新居での会社スペースに芸能プロダクション事務所も増設。その他、劇団員たちの撮影ブース、練習場を兼ねた小劇場を新規に増設。トレーニングルーム、多目的ルーム、食堂は50人程度が利用できるような形へ修正。会社スペースやその他スペースについては急な増設が必要な場合に対応できるよう余裕を持った作りにして、あと劇団員たちの住居となるシェアハウスも離れに新規建設しますね。なんだかシェアハウスって言っていいのか微妙なくらい立派な建物になりそうですけど。予算は今のところ総額20億円程度を見込んでます。」
「んー。予算はオッケーかな。かなり大規模な修正になりそうだけど、これまで立ててた計画とか大丈夫かなぁ?」
「ふふっ、まだ土地の買収検討している段階ですから修正なんて当然あるものですよ。それに何か問題があったとしても大丈夫にするのが西さんの仕事ですし。しっかり働いてもらえば良いんです。」
「まぁ、そっか。」
「それに、タダユキさんは管理栄養士やトレーナーも雇うつもりなんですから、利用者が増えれば、その人たちのやりがいにもなると思いますし……なにより――」
「なにより?」
「タダユキさん、新居で友達とかと楽しく過ごしたいって仰ってましたから……劇団員たちがトレーニングルームや多目的スペースを使えるようにして、そこでは敬語禁止とかルールを作れば、それに近い楽しみをタダユキさんが味わいやすいと思ったんです。彼らもオーナー兼社長には当然、下手な事しないでしょうし。」
うーん。俺に甘く優しく他人には厳しいサトミさん。好き。
「それに彼らにとっても、もの凄くラッキーなことなんですよ?」
「そうなの?」
「ええ。前にも少し話したと思うんですけど……学校ごっこの時、タダユキさんがいない間に聞いた劇団員さんたちの話をしたの覚えてます?」
「あー、うん。朧気に。」
俺が仲良し役劇団員を叱っていた時にサトミさんが他の劇団員から聞いていた話だ。一度聞いた気がする。
ぶっちゃけ、その時は、叱りにいった? 一山を見に行こうとした? ことを怒られるような気がして、そこに気を取られて、さらっと流してしまっていた。
なにせ、叱った仲良し役劇団員役の新山秀一君と『なんか保険室とかも、そういうの怪しくねぇ?』『だよな』と一緒に潜入調査に行ったのはサトミさんには内緒の話なのだ。これは男の秘密なのだ。
「もう……今の劇団って名ばかりの劇団でしかなくて、みんなが持ち出しでやってるだけ。公演をしても公演にかかる費用の回収が目的で、生活は休みの自由がききやすいようにバイトが中心。芝居が好きだけど、ただ暮らす為の家賃を絞り出しているような状況なんですって。で、現状は辛いのを好きだからの一言で我慢している状態なんです。」
「あら、そうなのー」
「仲の良い新山さんから、そういうの聞かないんですか?」
「き、聞いてないよ! なんせ新山と会う時って話すより遊ぶのが目的になるし!」
あれから新山とは時々、遊んだりしている。アイツも学校ごっこの影響で「よしなりー」とか呼ぶし気易くていい。遊ぶときの費用は俺持ちだがな。
もちろん遊ぶと言っても当然サトミさんに言えないような遊びではなく、バドミントンしてみるとか、ボウリングしてみるとか人数集めてもらって麻雀とか健全な感じ。
サトミさんとのイチャラブな日々も良いけど、やっぱり男には男同士のじゃれ合いも必要なのだ。
「と、まぁ、そんな現状があるので、彼らからしてみれば衣食住の心配なく好きな事だけに打ち込めて、公演で収益を見込めるようになるかもしれない環境は、それこそ喉から手が出る程欲しい物なんです。それに芸能事務所という後押しが生まれることでチャンスが広がりますし。」
「そっか。それは良いね。よし、是非すすめよ! 幸せばら撒きの為に社長業頑張るよー。」
「私も精一杯支えますね。それにこの事業はタダユキさんの事業的に見ても、そこそこのメリットが見込めると思うんです。異世界風居酒屋のエキストラとか冒険者ギルドで絡むチンピラ役とかを派遣できますからね。プロモーション用の動画作成の時に俳優の用意もしやすくなります。」
「そっか。俳優さんとか女優さんを使えるってことになれば、なんか色んな思いつきをしやすくなるんだな。それにウチ切っ掛けで有名人が出てくるかもしれないってのも夢があって楽しいなぁ。」
「映画、テレビ、ラジオ、動画サイトに広告、出版。それらに関わるのが芸能事務所の仕事ですからね。むしろ、その有名人を『作り上げる』のが仕事だと思ってます。」
「あ。なるほどなー。作り上げるまでに随分金がかかりそうだけど、できそう。そっか。有名人は作れば良いのか。」
「有名人の名前だけで集客効果がありますからね。でも既存の有名人は契約に縛られることが多いですし……折角大金をかけて作ったCMが契約で放映期間が決められてしまうのも惜しいですから。」
「うんうん。それに有名人の本性ってのは分からないもんねー。麻薬やってたり、ヤクザみたいな恐喝してたり、女癖や男癖、枕営業。有名になってから、そういうのが知られるとマイナスイメージしかつかないもんな。それなら自分たちが衣食住まで把握してコミュニケーションが取れる人間を有名人にして、しっかりコントロールする方が良い。なるほどなー、流石よく考えられてる。」
「ええ。普通なら難しいでしょうけれど、タダユキさんのバックアップがあれば有名人は簡単に作れると思ってます。」
「うん! 芸能事務所! やってみよう! んで、有名人作っちゃおう!」
「流石タダユキさんです…………それにあの学校ごっこみたいなのもやりやすくなりますよ?」
「あー、あれね。ただの思いつきでやってみたけど、いざやってみると結構楽しかったからなぁ。」
「えぇ。当時はどうであれ『懐かしい』っていうのは大人になればなるほど、どんどん綺麗に見えるんだなって思いました。」
「うん。体育館とか特別感もあったしなぁ。ああいうのも、事業としてやってみると楽しそう。」
「事業化もアリかもしれませんね。本当に楽しかったから。
でも……一度、西さんとかにも体験してもらった方が良いかも。」
「そだね。俺たちだけじゃなくて、他の人の感想もきいてみないとだーね。」
「えぇ。私、タダユキさんとこういう関係になれた切っ掛けってイメージが強いから、どうしても良いイメージでしか見れないから……」
「サトミさん……」
「タダユキさん。」
「好き。」
「私も好き。」
この後、滅茶苦茶ムチュムチュした。
&
株式会社YOSHINARI芸能事務所が設立し、そこの社長になった。
【オマケ】
書きにくくて入れられなかったけど、今回の話の前後にあっただろう二人のやり取り。
「サトミさんは取締役とかにならなくて良いの?」
「私はタダユキさんを支えるので、ならなくて良いです」
「役員報酬とか当たるよ?」
「タダユキさんは私がそばに居なくていいんですか? クスン。」
「そばにいてー!」
「好き。」
↓ 言葉の裏
「サトミさんは取締役とかにならなくて良いの?(もし別れたとしてもやれる仕事があるよ?)」
「私はタダユキさんを支えるので、ならなくて良いです(別れないのでいりません)」
「役員報酬とか当たるよ?(完全に自由に使える自分のお金という保険が手にはいるよ?)」
「タダユキさんは私がそばに居なくていいんですか? クスン。(金目当てを確認しようとしすぎ。)」
「そばにいてー!(うん! 金目当てじゃない! 大丈夫だった!)」
「好き。(だから安心しなさい)」