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第二十二話 急転直下


「うひっ、ふひひっ、ふへっ」


 アホな俺のような笑い声。

 だが、この笑い声は俺じゃない。


 俺のような変な笑い声を西さんでもするんだなぁ……そんなことを電話口から漏れ出る声を聞きながら思う。


「すみません社長。もう一回だけ言ってもらえませんか?」

「はぁ、いや別に何回でも言いますけど」


 伝えた1回目の反応は『はっ? えっ? 聞き間違えた?』だった。

 聞き直されて2回目の反応が『えっ? マジかよ? 嘘でしょ?』的な感想を孕んだアホな俺のような笑い声。

 こうなると3回目の反応が少し楽しみになってきた気もする。


 少し間を溜めてから、もう一度、電話に向けて同じ言葉を発する。




「川相さんと婚約することにしました」

「ふひっ!」


 どうやら本当だと確信した上でも面白かったようだ――



 俺は今、川相仁美さんと婚約することになり、婚約指輪を選んでいる。

 婚約指輪は給料3か月分というから、もちろん俺の場合、90日×10,000,000円で9億円の指輪を贈りません。流石に贈りません。


 なぜこうなったかについては至ってシンプル。

 俺がサトミさんを好きで、サトミさんも俺を好き。

 そして、その上で『お互いがお互いを裏切らない』と約束したからだ。


 そんなのもう事実上の結婚ですやん。

 事実上の結婚なら結婚したらいいですやん。

 いっつ、そー、べりーシンプル。


 結婚は当人同士の問題じゃなく、家と家の問題ともいうが、俺には金がある。そして金の前で家と家の間で生まれる問題など問題にもならない。だから大事なのは俺たち二人の意思だけなのだ。


 サトミさんに、すっごくいい顔で「幸せになりましょうね。二人で。」と言われた後、喜びつつも、なんかちょっとその前の「私はあなたを裏切りません。だからあなたも私を裏切らないでくださいね。」って言葉が気になったので聞いてみた。

 やりたいと思ったことはやるのが俺だからな。聞きたいと思ったことは聞く。それが正義ジャスティス。なにせ俺はサトミさんを裏切るつもりはないからな。知らずの内に裏切るようなことだけは避けたいのだよ。


「ちなみに、どういった事が『裏切り』になるの?」

「タダユキさんが『裏切り』だと思うことが裏切りですよ。それ以外は裏切りじゃないです。」


 そうすごくいい笑顔で言うんだ。


 でも、この回答に俺、思わず『なるほど!』って思ったね。

 んで、一拍遅れて『ん?』ってなった。


 そんな俺の様子を見て、またまたすごくいい笑顔でサトミさんは言うわけですわ。


「ええ。全てあなた次第です。

 例えばの話ですが、異性との関わり方とかにしても、タダユキさんは様々な女の人からアプローチを受けることでしょう。付き合いでそういったお店に行く必要があるかもしれませんし、もしかするとそういう事業を営むかもしれません。そんな中、通常であれば『浮気』に当たるようなことがあったとします。でも私は、それを責めるようなことをするつもりはありません。タダユキさんの思うままにしてください。」


 一瞬『浮気公認だ!』と嬉しくなる気が起きつつも、そのすぐ後から『浮気を許す程度の好き加減か』と、ちょっと寂しい気持ちが沸き起きる。

 そんな俺を見ながらサトミさんは言葉を続けた。


「私は貴方を知りたいと思ってます。深く理解したいし、そして裏切りたくない。そしてタダユキさんが私を裏切らないと信じています。だから私は、タダユキさんの行動から学びます。貴方にとって何が裏切りで、何が裏切りじゃないのかを。」

「へっ?」


「タダユキさんが女の人からアプローチを受けて、その女性と関係を持ったら、私は裏切りだと思いますがタダユキさんは『異性と関係を持つのは裏切りではない』と考えていると理解することにします。

 付き合いや事業でそういうお店に行く必要がある場合、私にすれば微妙な気持ちになるところですが『付き合いや事業などの事情があれば、そういうお店に行っても裏切りではない』と理解します。そして私は貴方が裏切りだと思う行為はしません。」


 この回答に俺、また、思わず『なるほど!』って思ったね。要は『浮気すれば浮気するぞ』と言ってる。つまるところ『自分がやられて嫌な事はするな』だ。浮気をしてほしくないと思うなら浮気するなと。うん、道理だな。

 

「もちろん、タダユキさんを陰ながら支えられるように頑張って行くつもりなので、個人的には浮気なんかしないで私だけを見ていてほしいんですけどね。」

「しませんよーっ! 好きですもん!」


 手を握って、そう答える。

 そして、なんか割と結構重いお願いだったのだと気づく。


「なんか恋人同士の割りに重いお願いですな。」


 思った端から口に出てた。


「重い女は嫌いですか?」

「サトミさんは好きです。」


「よかった。でも、本当に、それくらいの気持ちでお付き合いしたいんです。」

「まぁ、このお願いは『お互いが対等な立ち位置で一緒に歩もう』ってのが大元にあるんでしょうし、それにサトミさんが浮気したら俺も浮気するってことになるから……喜んで約束しますよ!」


「ふふっ、私は一途だから浮気なんてありえませんよ。」

「いやいや、だってサトミさんモテそうだし。」

「『主観を元に相手の好意を疑うのは裏切りではない』っと。タダユキさんも私が好きになったくらいにモテるから浮気するのかなぁ……やだなぁ。」

「すみませんでした。サトミさんはモテても浮気しない。」

「タダユキさんはモテても浮気しない一途な人なんですね。嬉しいです。」


 なぜか『たぶん勝てない』という若干の諦めのような気持ちが生まれると同時に少しの面白さも沸いてきた。いっちょどのくらい本気で言ってるのかカマでもかけてやろうと。


「ははっ、なんかもう恋人同士の約束って言うよりも、ほぼほぼ結婚の誓いみたいな気がしてきた。」

「ふふっ、そうですね。」

「どうせお互い裏切る気が無いなら、もういっそのこと結婚する?」

「喜んでお受けしますよ?」

「んー。じゃあ結婚しちゃおう。」

「はい。いいですね。」


 という流れで。お互いの結婚の意思があったので婚約成立。

 カマかけなんて、サトミさんの前では、なんの意味もなかった。一瞬の焦りも戸惑いすらなかった。

 恋人になった当日中に婚約。俺も大概おかしいけれど、サトミさんも俺以上に大概おかしい人だったよ。


 でも他に相手を探す気にもならなかったし、夜ごはんを一緒に楽しく食べてくれるようなや家族も欲しかったし丁度よかった。

 入籍とか結婚式は新居の建築なんかのサトミさんの関わってる諸々が終わってからにする予定。



 俺とサトミさんの内緒話を劇団員に聞かれていたせいで学校ごっこも急遽中止。婚約成立パーティ開催ですわ。

 いやはや劇団員の方々、フラッシュモブやってみよ! とかノリノリ。なんかわちゃわちゃした勢いだけで突き進むのがリア充っぽくてめっちゃ楽しかった。大人数に祝われるって、ほんと素敵なことだわ。


 サトミさんも楽しんでくれてたし、俺がつい「この劇団員の人たちバックアップしたいね」なんて言ったら「私が案をまとめてもいい?」って言うくらいには彼らを気にいったようだ。

 そんな風に楽しい夜もけ、劇団員たちが『バカップル』というくらいにはサトミさんとの婚約者としての仲も深まった。


「ふひっ! お、おめでとうございます。っ!」


 そして、今、サトミさんと一緒に婚約指輪を選びながら、俺とサトミさんを知る西さんに報告しては笑われているという流れ。

 伴侶が見つかった俺は笑われようが幸せだから気にならない。笑え笑えー! 俺はその倍以上笑えるくらい幸せだぞー!





 ……ちなみに学校ごっこが中止になって俺とサトミさんはイチャイチャするくらいしかしていない。なにせ祝ってくれる人が周りにいっぱいいたから仕方ない。

 それに時間は沢山あるから、今の状況を楽しんでみたい気持ちもあった。だから学校ごっこに相応しいイチャイチャレベル。


 ただ、その間に盛り上がった劇団員カップルが体育準備室でオイタしていた。

 仲の良い役劇団員が『なんか他にも盛り上がってるヤツがいるらしいぞ』と教えてくれたので、サトミさんを置いて仕方なく様子を見に行くことにした。なにせ、事が事。クライアント的に状況を確認しなくてはならない。これはお仕事。クライアントのお仕事だから仕方ない。体育準備室だから仕方ない。体育準備室だから。ね。



 とりあえず仲の良い役劇団員と一緒に様子を見に行って、そして仲の良い役劇団員を本気で叱っておいた。


 『お前は、なぜ一山超えた後に報告してくるのか』と。

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