表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/49

第十八話 川相さんの川相さんによる可愛い川相さん攻撃

本日2話目




「金の力ってしゅごい……」


 俺は横になりながら心からそう思う。

 今日は川相さんと一緒にラーメンを食べて、ちょっと一杯飲んできたのだが、確実に好意を寄せられていると思える態度だった。


 なんていうか、ふとした時の気の許し方とか、そういう時の対応でしっかり感じたわ。

 ビジネスな部分はビジネスビジネスしながらも、ふとした時に見せる表情っていうの? 微笑み方一つとっても、あー、好意を持ってくれてるだろうなってのが分かりやすかった。

 あと、普段の服装と私服のギャップね。普段はパリっとした中に可愛さがにじむような印象だけど、柔らかさの中に可愛さが見えるような感じだった。ふんわり感のあるスカートと髪型だけで、あんなに印象変わるとは思わなかったわ。正直可愛い。


「まぁ、金目当てってわかってるんだけどね。うん。楽しかったから良い良い。」


 川相さんは西さんと一緒に俺の会社を動かしているから入ってくる金の動きをその目で見ている。なので俺がウン千万や、億といった金をポンポン出しているのを実際に確認しているのだから、彼女のような人からすれば俺は格好の獲物だろう。


 むしろ俺が逆の立場だったとしたら、もっとガツガツ既成事実作りにいくと思うけど、やっぱり賢い人は違うな。自分が必要な立場をしっかりと作り上げようとしているように思う。というか、これまで行動に移ってなかったのは、その根回しが必要だったんだろうな。

 彼女無しでは仕事が回りにくいとか、ふとした時には頼りやすいとか、ちょっとしたことでもお願いしやすいとか。川相さんは俺のアシスタントだけど、実際の仕事は西さんのアシスタントのような動きをしているから、西さんも彼女無しでは動き難い状態になっているかもしれない。なにせ、そもそも西さんは彼女の紹介だからな。西さん自身が有能だったから全然良いけど、西さん自身、元から彼女の派閥にいる人間という感じだ。つまり西さんに頼りまくるようになった俺は、既に、彼女無しでは動きにくい状態になっていて、俺が当初の計画の住居建設だけじゃなく竹田さんの異世界風居酒屋とか寄付とかで本格的に色々動き始めたことで、完全に俺の中に『川相さんが必要』という居場所を作り終えたと判断したワケだ。

 だから今日、本丸の俺をジワジワと精神的にも肉体的にも落としに来たのだろう。


 多分、今日のデートはあくまでジャブ。これからジャブをガンガン打ちながら、ストレートやフック、アッパーカットが俺に襲い掛かってくる事になるんだろう。

 正直ジャブだけでも俺はクラクラ揺れるくらいのダメージを受けているような気がする。いやぁ、まいった。まいった。


「ぶっちゃけ楽しみ過ぎるわ。」


 そもそも俺は抵抗する気が無い。

 金目当て。いいじゃない。金は大事だよ。抵抗も反論もしない賛成賛成。仰る通りさ。そういう好意の動機は人間らしいさ。受け入れるとも。


 なぜなら川相さんは可愛いからな。


 これまで俺は『落としてやる』と感じられるような熱いアプローチなんかかけられたことが無い。

 なんとなく付き合ったりしたくらいの経験しかないから、女の人が本気で落としに来る攻撃をそのまま受けられること自体が嬉しかった。なにせそんな経験もしてみたかったのだ。俺、今、モテ体験してるよ。ひゃっほう!


 川相さんのような女性からしてみれば、大層やりやすい相手だったことだろう。なにせ俺はノーガード。もう初めから好きにして♪状態だ。

 実際、今日のさりげない可愛さなんかで川相さんが昨日よりも二割増しで好きになってる自分がいる。我ながらチョロイにもほどがあるなぁ。


「やっぱ、誰かを好きになるって楽しいなー!」


 やりたいことはやる。

 俺は寂しいご飯を食べたくないし、過ごす日々に恋愛の色が付くのは歓迎だ。ドンと来い! 恋愛だってカモーン!


 川相さんのアタックの先に俺が落とされ、結婚になったら結婚になったでいいし、恋人状態が続くなら恋人状態が続くでいい。なにせ向こうから別れると言い出すことはあり得ないだろうからな。

 いやはやこれからが楽しみだなぁ!



--*--*--



 一人暮らしの自宅に帰り、メイクを落としながら川相かわい仁美さとみは鏡の向こうの自分の表情をじっと見つめ、しばらく睨みつけた後、小さくため息を漏らした。


 メイクを落としたスッピンの状態でも、きちんと優しげな眉が形づくられ、目もぱっちりとした二重瞼。純粋さと可愛さを感じられるように磨き上げられている顔。メイクは顔のつくりを誤魔化すのではなく元々の顔のつくりの良さを活かす為の一助程度のメイクでしかないと素顔が語っている。完璧なまでに、男受けを考えぬかれた素顔に化粧。その素顔は今、曇っていた。


 今回食事したチョロそうと思っていた男。やはりチョロかった。


 しっかりとビジネス部分にあたるホームレス保護の支援団体の寄付については、詳細を確認し、会社のことを心配する忠告と小言をハッキリ伝えた。そして、その後には個人の優しさを呆れたふりをしながらも褒めてみせた。

 ビジネスのオンオフの切り替えやメリハリのある信頼できる人間である演出と、個人としての優しさを持ち合わせている演出だ。


 食事の時も男との食事に外出する事や、ラーメンを食べる事などが初体験であるように印象付けを出来たし、食事の内容も煽て褒め、良い気分にさせることが出来ていた。

 これは身持ちの固い印象の演出に、ラーメン程度の食事でも喜んでみせる初心うぶさの演出。総合的に男の大好きな『初体験を独占する』という欲求を満たす事のできる相手であるという演出だ。


 支払いの際にも、自分の分をしっかりと払うようにしながら空気を読んで「こっそり経費になりませんか?」とか茶目っ気を出しながら花を持たせる。個人の金銭を当てにしていないイメージと融通がきき、気配りができる人間である演出。


 『ついてましたよ』と、さりげなく頬に触れたり、違和感のない場目で接触を繰り返し好意の演出もできていた。

 バーでは自分の学生の時の勉強しかしていなかったことがコンプレックスになっているなどの事実に基づく弱みを見せ、弱い人間であるアピールと、そしてなにより世間知らずである演出、酒に強くない風も見せ、隙がある女の可愛らしさも演出して見せた。



「完全に想定外だわ……」



 狙った全ての演出時の対応を見れば、完全にどの演出にも好意が返ってきていた。


 でも、その好意しか返ってこなかった。

 好意が返ってきても、その好意以外、なんのアクションも無かったのだ。


 これまで手管を学んできた男は、皆、血気盛んに『チャンスがあればモノにしてやろう』という気概が感じられていた男たちで、なにかしらの演出をすれば、好意と共に、何かしらのアクションを伴う行動があった。でも、今回はまったく違う。『わーいわーい! 次はなに? 何をしてくれるの? 何したらいいの? ワーイ!』とでも言わんばかりに完全に受け身に回っていた。つまり全てがこちら次第。


 普通であれば、まずは身体目当と分かる反応が見られるから、相手の望む内容を分析しながら最適なお預け方法を作りあげて制御し操作する。

 でも今回は『くれるなら貰うよー』と言わんばかり。自分からはまったく動かず狙ってこない。


 恋愛感情を持たせようと錯覚を積み重ねるさせても、向こうは錯覚すること一切恐れない。『わーい! 好きかもー!』というのを普通に全面に出してきた。


 きっと2件目に誘えば、どこにでも連れて行ってくれただろうし、甘えて買い物を強請ねだればなんでも買ってくれただろう。

 今から北海道の夜景を見たいと無茶を言えば、ヘリを飛ばしてでもそこまで移動してくれただろう。もちろんホテルに誘えば当然ホテルに来た。

 さらに言えば結婚を前提にお付き合いをと言えば、喜んで結婚していたかもしれない。そう思ってしまうほどの完全な受け身。


 ここまでこちらの思い通りの対応をされると、もう返って罠を張られているようにしか考えられず、こちらのやり方の全てが見通されているような気になってしまい、今回はバーの後、読み切れない気持ちから引いてしまった。


 暖簾に腕押しのように反応が無いのではなく、クイズで何を言っても正解になるような状態。何をしても正解という状態が気持ち悪かった。

 そして完全に主導権をこちらが握ることを委ねられてしまっているからこそ、本当に手綱を握っていいのか戸惑ってしまった。


 完全にこれまでに経験したことのない相手。


「まったく……やりにくい。」


 川相かわい仁美さとみは疲れたように溜息を吐き、今日の経験から攻略方法を改めて検討するのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ