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第十六話 逃げ帰って過去に目を向けてみる。

本日2話目




 狂戦士竹田さんから逃げるように東京に戻ってきた俺は、普通のホテルの一室を取って少しだらけた後、これまで避けていたこと。住んでいた住居を見に行くことにした。

 だいぶ余裕ができての怖いもの見たさってやつだ。


 なにせ会社を辞める時ご祝儀で大金バラまいた。弁護士も同伴させ、さも『金ありますよー!』と言わんばかりの振舞いをしてきたのだ。


 勤めていた会社自体は中小企業の中規模側の会社で、そんな会社に運よく勤められたのだが、だが、やはり中規模。大企業のようなコンプライアンスまでは求められないような会社だった。だから今村先生に個人情報の保護を頼んだのだ。

 だが弁護士に頼んだとはいえ俺の自宅がバレている可能性が無くなったというわけではない。もしかすると在職中にチラっと誰かしらに最寄り駅なんかの情報を言っていたかもしれないし、もしかすると俺に一目ぼれした女子社員がストーカーして住所をつきとめていた可能性がありません。うん。それはありません。

 が。万が一は! 万が一は誰にだって適用されるはずだ! あったかもしれない!


 金に目の色を変える人間は多い。


 会社の中にもそういった素養を持つ人間が潜んでいた可能性があるからこそ、これまでの間、用心に用心を重ねて自宅には近づかなかったのだ。


 とりあえずネットで見つけた便利屋さんに『もしかするとストーカーがいるかもしれないので一緒に家に帰って欲しい』と依頼し、友人を装ってもらいつつ戦々恐々としながら自宅に行ってみた。普通はこういう依頼は受けないらしいけれど、金を詰んだら大丈夫だったよ。



 すると。


 なんと。


 恐ろしい事に。



 ゴミ箱から悪臭が。

 冷蔵庫から悪臭が。 

 洗濯機から悪臭ががが。



 特に誰かれに待ち伏せなどされている様子は一切なく、また空き巣が入った様子もなく、郵便受けに怪しい文章の投稿もなくチラシだらけ。

 ただ平和に腐るべきものが腐った部屋に進化していただけだった。


 まぁ、それだけの期間放置していたのだから当然も当然のこと。もちろん俺は、もし誰かストーカーがいたとしても『帰ってこない……』と諦めてしまうだろう期間を考慮して放置していたのだから当然だ。うん。多分。


 その場で便利屋さんに新たに清掃依頼をかける。

 最も大事な通帳と印鑑は銀行の貸金庫の中にあるので、他の物は金さえ払えばどうとでもなる。そんないらない物の処分。それ以外の思い入れのある物は適当な倉庫かトランクルームに送る手配を頼んだ。

 通常便利屋さんは、そういった手配なんかはしないらしいが金を積んだら二つ返事でやってくれた。もうね流石。金の力。


 改めて住んでいた部屋を見回すと、金のある余裕のせいだろうか、当時は愛着があったはずの着古した服や使い古した家電。それらへの愛着がサラっと消えていた。もう一律処分しても問題ないほどに。

 おかげで捨てたくない物と捨てても構わない物の選別は早かった。どうやら本当に大事なものというのは少ないのかもしれない。


 例えばゲームのセーブデータとか。

 セーブデータとか。

 HDDのデータとか。

 後、昔の写真とか。


 意外なほど大事に感じられる物っていうのは、自分が『どれだけの時間かかわったか』というのが重要らしい。データでしかない物に対する思い入れというのも中々にバカに出来ないと思った。


 そんな捨てたくない物を実家に送ることも一瞬頭を過ったが、即、実家に送るべきじゃないと諦めた。

 いや、別に見られて困る物というか、そういうことだが、うん。そういうことではなく、金があるという状況は良い物ばかりを寄せ付けるわけじゃない。むしろ悪い物を寄せ付けることの方が多い。だからこそ俺は、ここまで用心しているわけで。まだ確固たるシェルターが出来上がっていない今、俺発信で実家などの情報を気軽に漏らすことは避けるべきだからこそ、実家には送らないのだ。


 特に俺の実家は田舎の方だから『あそこは金がある』なんて情報が誰か一人にでも知られたら、その日の内に町中が知ってしまう可能性だって考えられる。田舎の独自情報網ほど恐ろしい物は無い。あそこんとこの誰それが昨日から里帰りしているらしいとか、誰に言われるでもなく知っていたりするのだから。


 まぁ発送元がデパートとかの名前になるような形で多少の贅沢品をネット注文で家に送ったりはしているが、現状、その程度の幸せのお裾分けだけ。

 俺の土台が固まって、どうなっても大丈夫という確信ができてから実家にも幸せになってもらえばいい。


 さて、とりあえずこの以前住んでいた住所の件は片が付きそうだが、まだ郵送物の受付なんかもあったりするだろうし、住むつもりはなくとも、しばらくの間は借り続けておくとしよう。


 いや、待てよ?

 住まないにしても、ただ遊ばせておくのはもったいないぞ?


 いつの間にか俺は、また幸せのお裾分けを考え始めていた。


 家の空き……


 家……ホーム。


 ホーム……ホームレス……


 ホームレスに住ませてみるか?


 本来の契約者じゃない人間を住ませたりするのは契約違反だが、金でどうとでも解決できる内容だ。些細な問題と思える。

 着れる服や生活用品はそろっているし、水道光熱費なんかは引落し。案外ここをホームレスに提供したら、自立支援になったりするんじゃなかろうか?

 それにそのホームレスがまともに働けるような人間だったら、この住所近辺で俺のことを調べているような人間とかがいた場合、その存在を知るきっかけになるかもしれない。一石二鳥だ。



 ただ、ホームレスに話しかけるというハードルは高いな。


 考えてみれば、何かがあって、彼らは世間から切り捨てられたんだろう。そして起き上がる切っ掛けが無く、そこにいるしかできなくなった。

 それでも生きる為に、細々と耐え忍んでいる。


 もし、生きる為になら、なんでもするとか考える人は、きっと誰かしらを襲って刑務所に入ることを選ぶだろう。なにせ刑務所なら寝るところが与えられ3食食えるのだから。

 寒さに震え、怯え暮らすホームレスよりも健康的な暮らしができる。清潔な刑務所の方がずっとマシだ。


 だが、彼らは犯罪を犯そうとはしなかった。他人を傷つけるよりも自分が傷つき苦しむことの方が心が痛くないからだろう。


 まぁ、もちろんホームレスという存在の負の面は大きい。

 汚らしいし、いるだけで不快感を感じてしまうしな。


「ふむ……」


 少し悩む。

 だが、俺は思い返す。


 やりたいと思ったことは、やる。


 もしかすると、ちょっと話して部屋を貸し『人間の暮らし』をさせるだけで、立ち上がる切っ掛けになるかもしれない。住所があるだけで働けるようになるかもしれない。

 そうなれば幸せのお裾分けというよりも、幸せを運ぶことになるんじゃないだろうか。


「よし。いっちょ動いてみるか。どうせ暇つぶしでしかない偽善だけど、やってみたくなったんだから仕方ない。」


 スマホは既に支援ボランティアの情報を開いていた。

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