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第十話 やめなされやめなされ


「やめなされやめなされ。むごい税問答はやめなされ。

 のう、忠幸ただゆきよ。ワシはお主の用心深さをとやかく言うつもりはない……じゃがのぅ、じゃが、せっかく夢の生活が始まったというのに、その夢を自ら乏しめてしまうというのは、いかがなものじゃろうか?

 どうじゃ? 一度ワシの立場から考えてみい。折角、骨を折って世のしがらみを飛び越える羽を用意してやっているというのに、その相手が自ら足に枷をはめ柵に収まろうとしているのじゃぞ? 面白くなるかと思って見ているというのに自分から面白くなさそうな雰囲気を発し始めたのじゃ。映画で言えばなにもかもハリウッドで作れるくらいの準備をしてやったのに「手持ちのカメラでB級映画とりまーす」とでも言っているようなもの。どうじゃ? 酷いことじゃと思わんか? 思うじゃろ? じゃからのう。1,000万円は、まるっと貰えるのだと納得して、税だのなんだのと野暮な事を考えるのはやめなされ。

 やめなされやめなされ。むごい税問答はやめなされ――



 ――んがっ!」


 明るい部屋。

 左右に首を振れば、ラグジュアリーホテルのベッドの上であることがすぐに分かった。

 窓から差し込む光が、朝を感じさせる。


 目を擦り、頭を掻きながら記憶を辿ればシャンパンをラッパ飲みしてから意識が途絶えている。どうやら俺は、|高級現実逃避記憶消去剤シャンパンの威力に負けて眠ってしまったようだ。


「……なんか変な夢を見たな。」


 なんともリアリティのある夢だった。

 修行僧姿の変美人が「税など気にするな。面白くない」と説教してくる。そんな夢だった。


 俺は昨日、1日1,000万円もらえても、その中で使える金額は450万円までと決めた。これは日本で得た金である以上、税金の対処を避けられないからだ。


 贈与税であれば55%。所得税であれば45%。もし所得の処理の場合、健康保険とか年金とかの支払いも考える必要があるかもしれない。ちなみに給料的な所得だと仮定した場合、会社と折半じゃない全額負担するとしたら、健康保険が年、約165万。国民年金、約136万円も忘れちゃいけない。

 金をもらうということに対して支払う罰金は、とかく多いのだ。


「とりあえず今日は、このホテルの延泊処理して税理士を探すかな。」


 夢は夢。

 変美人が出てこようが関係ない。


 使える金額は450万円なのか確かな情報を確かめる為、専門家を探して相談することにした。

 もちろん頼りにするのは『NO』の言葉を無くしたコンシェルジュ様だ。


 尚、延泊はグレードを1泊俺の住んでる家賃1月分並みに下げた部屋でお願いする予定。



--*--*--



「ななあナナにニニににもモモモモもももモモンんんんだイイいなナナなナナなあいイぃィいい」

「今村せんせーっ!」



 大変だ! 今村先生がバグった!


「ななナイいイナイいイナイナなナ」


 怖い怖い! 小刻みな人間らしからぬ震えが怖いっ!

 俺の正体不明な収入と税について相談した途端、せんせがバグった!


 俺はただ、可児名楼法律事務所の会議室で慌てることしかできなかった。


 弁護士は税理士の業務も行って良いらしく、知っている弁護士がいれば相談しても問題ない事がコンシェルジュに相談して分かった。

 そして退職でお世話になった今村先生の法律事務所は日本屈指の法律事務所だけに税務面でも強い人間が揃っているらしく、内容だけの相談であれば、新たに税理士を探すよりも今村先生に相談する方がハードルが低かった。

 もちろん弁護士と税理士であれば、弁護士の方が報酬が高くなるため、税理士を探した方が安くできる。だが、俺は、そこまで気にしなくても良い現状があるのだ。なにせ金がある。些細な事を気にしなくて良いのも金の成せる技。

 なにより、退職についての報告など、また会う必要もあったから、そのついでに一石二鳥だ。


「ないないナイナイないナイナナナイないないなイナイイナイナイナナナ」

「分かった! わかったから! 税は問題ない! はい! わかりましたっ! 理解しました!」


 機械の振動のような小刻みな震えが唐突に止まる。


「あれ? あっ、吉成よしなりさん。すみません。相談内容を聞き逃してしまったようで……えっと、なんのご相談でしたっけ?」

「あ。はい………………え~。会社設立?」

「法人についてですか。現在、営まれている事業の法人化ということでしょうか? それとも新規立ち上げで?」

「……新規……かなぁ?」


 突如まともに戻った今村せんせに戸惑いつつ、適当な言葉を返す。

 どうやら今村先生は普通に戻ったようだ。


「ちょっとすみません……お手洗い行ってきていいですか?」


 先生との会話を、すぐに中断して席を立つ。

 先生は1時間5万円の人だから、このトイレタイムは世界一高いトイレタイムとなるだろう。だが、そんなことはどうでもいい。


 俺の住んでいた部屋よりも広いトイレの洗面台のあるスペースで、両手に水を溜めて顔を洗う。

 こんなハイクラスなお手洗いの洗面スペースで本当に洗面したのは俺くらいだろう。手に優しい温水だから、冴えわたるようなサッパリ感は感じられなかったが、それでも顔が濡れれば多少はスッキリする。


 口から勢いよく息を吐きだす。


 今村先生のバグりは、まるで人外のような存在に見えて、とても怖かった。

 だが俺は似たようなバグを聞いた覚えがあった。

 それは銀行の電話。


 あの時、銀行が問題視しそうな受け答えをすると、電話先の相手がバグった。

 そして問題視しないような受け答えをするまで、それは延々と続いたのだ。


 俺は今村先生がバグった時、とっさに相談内容を撤回したように思う。

 これは電話バグの経験に習ったように思える。『俺が質問を止めるまで終わらないぞ』と肌で感じたのだ。


 無駄に柔らかいティッシュタオルを数枚とって顔を拭く。


「ふー……」


 さっきよりも穏やかな息を吐きながら鏡に映る自分の顔を見る。

 酒で睡眠が浅かったのか、少しのクマがあるような顔だ。


『やめなされやめなされ。むごい税問答はやめなされ』


 変美人の夢。

 いつも夢を見ても、そんなに覚えていないのに、なぜかあの夢はハッキリと覚えている。

 それに出てきたのが変美人だったとも確信している。そもそも変美人の存在が朧気になっていてあまり思い出せないのに、これは辻褄が合わない。


「……触れるなってことなのかな。」


 心情的にはスッキリしない。


 だが、弁護士の先生までもバグらせてしまう不可思議現象だ。

 例え徴税が来たとしても担当者をバグらせてしまうんじゃないだろうか?


「スッキリはしない。

 しないけれど……どうしようもない。か。」


 俺は夢と不可思議現象という曖昧な物を根拠に、不可解な収入に対する税金という項目を無視する事にした。


「使えばいいんだろう。使えば! 全部よう!」


 自棄になったともいう。







私、中々中は、狐ロリババァを尊敬しております。

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