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第一話 夢のはじまりはお説教から

「よぉし分かった! そんなに金を信じておると言うのならば実際に金のある生活をさせてやろうではないか!」

「おーおーそりゃあ望むところですねぇ! ありがてぇありがてぇ! そんな生活させてもらえりゃあ、それこそ金こそが正義、且つ全てだと証明できらぁ! 現代はなぁ! 金が全てなんだよ! 金こそが神なんだよ! やれるもんならやってみろい!」


 美人に向けて啖呵を切る。

 普通であれば、こんな怒りに任せた言動をするなど俺の性格的にありえない。だがしかし、この美人、あまりに綺麗事ばかりをぬかす頭ハッピーセットな上、初対面にも関わらず上から目線説教などなど、とことん腹に据えかねる態度。更にオブラートを買い忘れるにも程があるズケズケとした物の言い方も相まって、つい俺らしからぬ態度になってしまう程にエキサイトしてしまった。

 俺はただ、神社に来て手を合わせただけだというのに……


 いや拝む際に

「宝くじの一等前後賞が当たりますように、いや、当たらない確率の宝くじを買う予定は無いので、一等前後賞に当選した宝くじを拾えますように! あ、別にそれじゃなくても良いので、とにかく目の覚めるような大金が欲しいです!」

 とか声に出ていたかもしれない。


 だけれど、それに対していきなり

「浅ましいにも程がある!」

 とかキレながら絡んでくるのはおかしいだろう。

 初対面の人に対してキレるとか酔っ払いのおっさんか、もしくは本物の変人だ。だからこの美人は変人美人だ。変美人だ。


 もちろん変美人の存在を見逃して欲深い願いを神聖な神社で声に出してしまっていた俺は悪い。でもそれは誰もいないと思っていたから、つい声に出ちゃっただけなわけで、常識を弁えている俺は「あ、すみません。声に漏れちゃってましたか、てへへ」と、多少ばつの悪い顔をしながら、そそくさと帰ろうとしたんだ。帰ろうとしたんだよ! それくらいの常識は弁えている!

 それがこの変美人「待てぇい」と、背を向けた俺の肩をがっしり掴んで引き止めるじゃないですか! んでもって「その腐った性根は見過ごせんわ、そこに直れ!」とか言うんだものやだー。


 いや俺だってちょっとばかし、その瞬間は『うほっ、美人からの説教とかご褒美です』とか思った時期がありましたよ。なんせ変美人でも美人だもの。


 でもねぇ、ネッチネチネッチネチとクドクドクドクドと……小一時間も綺麗事ばかりを並べられてみろ。ウダウダ、あーだこーだ、ぶつくさと説教されても全然気持ちよくもないわ。まったくもってイケない。不快。んでもって極めつけに『これだけ有難い言葉をかけてやれば、それだけ可哀想なおつむを持ったお前でも分かったじゃろ?』的な目を向けられてみろ。いい加減、温厚な俺でもキレるってもんですよ。


「……ご高説あざぁすぅー。でもぉ、今の話ってぇ? べつにぃ? ただの綺麗事並べただけですよねぇ? 綺麗事じゃ腹は膨れないし、この世の中、綺麗事なんか気にしないって人間が、いや、むしろ進んで悪い事をしている人間の方が幸せそうに生きてますよねぇ? んでもって綺麗に生きてる人間ばかりが搾取されてますよねぇ? あれぇ? 言ってることが矛盾してないっスか? そんな奴らと比べて、まっとうに生きてる俺が、ただちょっとお金欲しいって願い事しただけじゃないっスか。それがそこまで悪いことなんスか?」


 って、軽くキレて反論してみたら




 変美人

 もうね



 ブ


 チ


 ギ


 レ



 ですよ。


「まーだ分からんというか小童が! 因果応報があるじゃろが」とか「恨みは孫の代まで染み込む」とか、なんか悪い事したらバチが当たる的な古臭い事をヒートアップしながら並べ続けるんですよ。

 もうね。俺。すかさず「だから俺、そもそも拾うとか誰にも恨まれなさそうな形で金が欲しいって言ってんじゃないッスか。論点ずらすの止めてもらえませんー?」とか適当に扱っちゃって、益々美人の怒りの火に薪くべちゃったのね。そしたら変美人。俺の性根というか拝金主義というか人格否定、性格否定の雨あられ、もうね。話通じない。


 その結果


「よぉし分かった! そんなに金を信じておると言うのならば実際に金のある生活をさせてやろうではないか!」

「おーおーそりゃあ望むところですねぇ! そんな生活させてもらえりゃあ、それこそ金こそが正義、且つ全てだと証明できらぁ! 現代はなぁ! 金こそが全てなんだよ! やれるもんならやってみろい!」


「では小童! 問うが、お前はいくらあれば満足するという? どうせお前ほどの欲深小僧のこと、どれだけあろうとも「足りぬ」というのであろ? なんと業の深いことか。」

「そんなん言うかい! まー宝くじで3億円とか…………いや待てよ。」


 金額を声に出してみると、ちょっと冷静になりすぐに頭がそろばんを弾き始めた。

 今、口にした3億円という金額について、一日いくら位使えるのかを、とりあえず約3年。1000日で割って考えてみる。


 あれ? 以外と桁が多くて計算が難しいぞ。


「ちょっと待ってね。」


 変美人を手で制しスマホを取り出して電卓を起動する。


「えーっと、いち、じゅう、ひゃく、せん――」


 0の数を確認しながら300,000,000を打ち込み、1,000で割る。


「えっ、1日30万円しか使えないじゃん! 3億円あっても3年くらいの日数で考えたら全然使えないんだなぁ……」


 現金の儚さ。夢の儚さを遠くを見据えながら想う。


「はよ言わんかい!」

「あ、ごめんごめん。」


 叱責の声に思考を取り戻し再度、自分が満足しそうな金額について考え始める。


「意外と現金ドーンってのも夢がないもんなんだなぁ、そう考える1日100万円もらえるとかの方が、まだ夢があるよな。1日100万でも1月で約3000万だし、3ヶ月で、ほぼ1億円になるじゃん。」

「ほう。では小童、お前は1日100万円あれば、金が全てだと証明できるのじゃな?」

「あ?」


 変美人のどこか見下した物の言い方にカチンときた。

 カチンときつつ考える。どこぞの大企業の役員が年20億円とかの報酬でニュースになっていたように思う。その報酬を月額で考えてみれば月額でも1億円を超えている。ということは現実に、月1億円以上貰う人間はいるということ。であれば、1日100万円もらえるとしても、そこにはまったく夢がないじゃないか。どうせ妄想丸出しで数字を上げるのなら、もっと現実離れしているくらいじゃないと、なんだかもったいない。


「いーや! 1日1,000万円だね! これくらいあれば、いや、これくらい無いと金が全てだと証明できないね。」


 俺は勝ち誇った顔を変美人に向ける。

 勝ち誇った顔に特に意味はないが、なんとなくだ。どうせ妄想の話でしかないことなど誰しもが分かる。逆に本当に用意されたら震えながら返納する自信があるわ。


「ふん。やはり小童。その程度で勝ち誇った顔を見せるなど可愛いものよの。よかろう。1日1,000万円。くれてやろうではないか。」

「んっ?」


 あれ?


「所詮、金など、金でしかないという事を理解するが良い。」

「んんっ?」


 あれー? なんか流れおかしくね?

 ここは『って、そんなん用意できるか―い!』ってツッコミとか、『ほら1000万円!』とか言っておもちゃの紙幣渡してくれるとか、そういう流れが普通じゃないの?

 そんな疑念が頭を駆け巡る中、変美人の手が俺の顔の前へ伸ばされた。


「では眠れわっぱ――」


 変美人の指が俺の額に優しく触れると同時に俺の意識は薄れていった―― 





「――ふぉっ!?」


 目が覚めた俺の視界に飛び込んできたのは、いつもの自室。

 一人暮らしのワンルームの万年床と化した布団の上だった。


「あれぇ?」


 どこか寝ぼけている頭を働かせるが、思い起こされるのは出かけたついでに見かけた神社で変な美人に言いがかりをつけられた所まで。でもその美人の姿も、どこか朧気な記憶しかない。


「あれぇ? どうやって帰ってきたんだ?」


 着ている服は外出着のまま。靴は脱いでいるようだけれど上着は羽織っているし、上着を着たまま布団に寝ているなんて違和感しか感じない。そしてすぐ右手の違和感に気がつく。

 何かを持っていた。何を持っているのかと目を向ければ、それは見慣れた通帳。通帳にしおりのように指を挟みこんでいるので、なんとはなしに指を挟んでいるページを開いてみた。


 開いたページに目を通すと最新の記帳がされている状態になっており、給料の入金の他には、家賃や携帯料金、カードの支払いなど、どんどん引かれている出金の数字ばかりが目立つ残高の通帳。そんな貧しい通帳のはずだった。


 はずだった。


『入金 オイナリサマカンパニー 10,000,000』



「あれぇ?」










もちろん変美人のイメージは『よさぬかベ――

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