revive
ザラつく砂の感触があった。
自分が倒れていて、地面に這いつくばっているという事が分かる。
全身に被さっているのは簡素なボロ布、目に映るのは砂と灰ばかり。
自分が何者かも、ここが何処なのかも、何一つ分からず、どうしてここで倒れているかすらも、何も分からない。
目覚めたそれは、ゆっくりと立ち上がろうとして、思わず立てた自分の腕を二度見した。
そこにあったのはただの骨だったのだ。
筋肉も何も無い、本当にただの白骨のみ。
何故動いているのか、そもそもこれが本当に自分の腕なのか。
困惑しながらも、何とか立ち上がる。
そして、己の身体を見渡してやはり骨しかない事を認識した。
「あ、あぁ・・・声は・・・出るのか」
言いながら、辺りを見回す。
石英で作られたかのような白の枯れ木が数論並ぶだけの、辺り一面鈍色に染まった大地。彼方に見える山稜に覆いかぶさるように見えているのは建造物だろうか。
「ここは何処なんだ・・・俺は誰なんだ」
何も思い出せないが、自然と言葉だけは口から出てくる。ぼろ切れを纏い直して妙に熱い砂と灰の感触を感じながら歩き出せば、段々と不明瞭な記憶が脳裏にちらつき始めた。
恐らく、己は人間であった事、今、自分は人間達の言うところの《スケルトン》と呼ばれる魔物であるという事、家族は両親が死んでいて、妹が二人いた事、成人の男性であった事。
思い出す度に分からない事も同様に増えていく、例えば己の名前、妹の名前、両親の名前に、自分の住んでいた国。
魔物になってしまった理由や、そもそもどうしてこんな所にいるのか。
考えながらひたすらに歩き続けていると、ようやく山の麓に至ったのか、辺りに黒々とした幹を持つ大木や、廃墟のような物が多くなってくる。
「全く何も分からん・・・そもそも俺以外の生物にも出会わんから、話も聴けそうに無いし、それに・・・意思を持つ生物に出会ったとして、こんな外見で話を聞いてもらえるのか?」
思わず愚痴ってしまう。独り言など言うような人間では無かったと思うのだが、思わず不安が声に出てしまった。
とりあえずという事で、適当に動き回ってはいるが、果たしてこれが正解なのかどうかは分からない。
とりあえずという事で、唯一見えた建造物に向かい始めたが。
「あれは、城、なのか?」
見えてきたのは聳え立つ燻んだ白の城壁だった。
崩れかけたそれは、内部が丸見えで、その内部も既に朽ち果てており、まさか人が住んでるとは思えない。
一応、何箇所も空いた穴の一つから城内に侵入してみるが、案の定人の気配は無い。
城の内部に置かれた机の上には埃が積もっており、人が居なくなって少なくない時間が経っている事がわかる。
「ここは管理棟・・・だよな?」
錆びついたレバーや、灯油缶を見てそう判断しつつ、奥にあった木製のドアを押せば、蝶番毎外れてドアが倒れてしまい、埃が舞い上がった。
差し込んだ光が埃によって可視化され、部屋の奥にあった物を照らす。
「剣・・・てことはここが武器庫か」
恐らく一振り幾らもしない粗雑な鉄剣が数本壁に立て掛けられており、他にも木の盾や弓に、矢などがある。
「・・・一振り貰う。お代は許してくれ」
剣を拾い上げてから外に出ると、そこには数匹のスケルトンの姿があった。
それらはそれぞれが曲剣や槍を構えており、どう見ても自分に友好を示してはいなさそうだ。
「お前らは誰だ?」
念の為に声をかける。
だが、スケルトン達は何の返答もする事なく、襲い掛かってきた。
「話は出来ないかっ!」
槍を躱しつつ、剣でもってそのまま槍を持ったスケルトンの頭蓋を粉砕しようと振り抜く。
「なっ!?」
が、大した筋力の無い、というよりそもそも筋肉の無いスケルトンの腕で、しかも鈍の剣では、逆に弾かれてしまう。
お返しとばかりに槍を突き出してくるが、それを剣の腹で受けると、お互いにその衝撃で弾かれあい、相手はそのまま地面に倒れこんだ。
(くっ、記憶が確かならスケルトンなんて下の下・・・それと互角か)
反動を何とか耐えつつ、仰向けに地面に転がったスケルトンの頭に剣を叩きつけて、今度こそその頭を粉砕、横合いから割って入ってきた曲剣持ちのスケルトンの攻撃を何とか避ける。
そして、曲剣のスケルトンと向かい合った瞬間、信じられない事が起こった。
槍のスケルトンの残骸から光のような物が飛び出してきて、避ける間も無く自分の胸に飛び込んできたのだ。
「っ!何だ!?」
次の瞬間、自分の身体が淡く発光して、直ぐに収まり、同時に胸の辺りに少しだけ暖かい何かを感じる。
「これは・・・くっ」
だが、それが何かを考察する暇は無い。
曲剣のスケルトンと自分と似たような剣を持ったスケルトンが攻撃を仕掛けてくる。
それをバックステップで躱してから一歩前に踏み込んで彼は漸く気づいた。
(さっきより動き易い?)
それは微かな違和感だったが、その直後振り抜いた剣が剣のスケルトンの頭を一撃で叩き壊したのを見て、確信に変わる。
「まさか、強くなっている?」
曲剣のスケルトンの攻撃にカウンターで合わせてその胴体を斬れてしまえば、最早疑いようが無い。
二匹のスケルトンの残骸から飛び出した光を取り込んで、先程と同じような現象が起きると、持っていた剣が軽く感じられる。
剣を握る腕を見つめていると、突然声を掛けられた。
「ヘッヘッへ、お見事」
「誰だ?」
振り返れば、そこには小さな老婆のような身体に蜥蜴の顔をくっつけた者が居た。
杖をつきながら折り曲がった腰に手を当てるそいつは、ニヤニヤとしながらスケルトンの身体を見渡すと。
「合格だ。ついてくる事を許すよ」
そう言って、さっさと歩き出した。