芸術文化省モリゾの旅!
天界最高議会運営事務局が発足して以降、芸術文化省のモリゾは地上界へ旅に出ていた。
モリゾが事務局出向の内示を受けたのは、12月1日だった。芸術文化大臣のドラクロワに呼び出しを受け、生命管理大臣と破壊大臣が12月15日に人類滅亡議案を提出すること、そして、同日付で運営事務局が設置されることを告げられた。
ドラクロワ大臣はモリゾの前で終始、「参りましたねー。」と言って頭を掻いていた。
芸術文化省は、人類の発展とともにできた省庁なので、その人類を滅ぼす議案が提出されるとなると、たしかに大臣としては参ってしまう。
そして、ドラクロワ大臣はモリゾに告げた。
「現状、我が省始まって以来の危機的な状況ではありますが、なんとか出来るとしたら、君くらいですから。よろしく頼みますよ」
こうして、モリゾの事務局出向が決まったのであった。
モリゾはその日の晩、ある男を行きつけのバーに呼び出した。
モリゾがひとりバーのカウンターでお酒を飲んでいると、その男は約束の時間に15分ほど遅れてやってきた。男は、悪びれた様子もなく、モリゾの隣の席に腰掛けた。
「珍しいね。モリゾちゃんからおれを誘うなんてさ。あっ、マスター生ひとつね。」
モリゾが呼び出したのは、天地調整省のホクサイだった。
「あなたは、受けたの?」
モリゾがホクサイに尋ねると、ホクサイはビールを一口飲んでから答えた。
「もち。モリゾちゃんも断らなかったんでしょ。」
「ええ。」
2人はお互いが事務局出向になることを知らされていなかったが、お互いに事務局に行くとしたらあいつしかいないと考えていた。お互いがお互いに省を代表するエースだったのだ。
「それで、今日はお願いがあるの。」
「なに?」
「天地調整省から極秘のパスポートを発行しほしいの。」
モリゾの依頼にホクサイは黙ってビールのグラスを傾ける。
「誰が使うの?」
「私よ。」
2人の間にしばらく沈黙が流れたが、ホクサイが口を開いた。
「同期のアイドルからの依頼じゃあ、断れないな〜。わかった!3日後には用意しておくよ。」
ホクサイの軽口に、モリゾは静かに微笑んだ。
「ありがとう。」
「でも、何しに行くんだい?」
「探しに行くの。人類存続の切り札になる何かを。」
モリゾはそう言うと、ホクサイの分も会計を払い、店を後にした。
ひとり残ったホクサイは、「だよな。固く指してて勝てる盤面じゃあないもんな。」と小さく呟いた。
モリゾは人類存続に向けた答えを地上界に求めた。
彼女は、この危機的状況を覆せる何かがあるとしたら、それは、きっと天界ではなく、地上界にあるに違いないと考えたのだ。
その後、モリゾの旅は、彼女が当初想像していた以上に長く続くものとなる。