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7 捜査

 医師からの許可は出た。今回、看護師の同行は無い。政人は松木戸の助手席に乗って、街の風景を眺めた。時刻は22時である。できるだけ遅い時間にして欲しいと政人が頼んだのだ。


「最初の被害者と次の被害者がいた居酒屋とカラオケ店は、坂森にあります」

「坂森ですか」


 政人の知る坂森は扇状地にある地域だった。しかしこの世界の坂森は平地にあって、多くの居酒屋が道路沿いに建っている繁華街となっていた。今日は木曜日である上に、雨が降っているためか、人の数は少なかった。


 松木戸は日本酒を売りにしている居酒屋の前で車を停めた。


「最初の被害者は、ここでお酒を飲んでいたらしいです。最近、彼氏と別れたとかで、酒を飲むペースが早く、店を出るころには相当酔っていたそうです。それで、友人たちがタクシーを停め、彼女を乗せた。そしてここから車で10分ほど走った場所にある酒屋の駐車場で、タクシーの運転手は彼女を降ろしたと証言しています」

「なるほど」

「あとでその酒屋まで行ってみましょう」

「ありがとうございます」

「次は二人目の被害者がいたカラオケ店に行ってみましょう」


 そのカラオケ店は、居酒屋から車で三分ほどの場所にあった。繁華街の端にあって、大きな看板が照明で照らされている。


「ここから彼女は、友人の家の前まで徒歩で移動しました」


 松木戸は車で二人が歩いた経路を説明する。景色は繁華街から住宅街に変化し、街灯も減って、暗くなっていく。被害者が友人と別れたのは、一本の街灯だけが、足元を照らす十字路だった。


「ここから、被害者の家まで歩いて20分ほどあるそうです。行ってみますか?」

「お願いします」


 松木戸は、友人が推測する帰宅ルートに従って、車を走らせた。そのルート上の道も、やはり暗く、さらに家屋の密集地帯を通っていたりして、道幅も狭かった。


「襲われやすそうと言えば、襲われやすそうな道ですね」

「そうですね。だからこの道の途中でさらわれたのではないかと考えています」


 二人の車の前をパトカーが横切った。政人はパトカーを見送りながら言った。


「パトカー。多いですね」

「はい。やはりこうも物騒だと、自然と巡回の回数も増えます」


 パトカーの他にも、タクシーや運転代行の車が目についた。


「タクシーとかも多いんですね」

「ええ。最近は、飲み会を早く切り上げて帰る方が多いそうですよ。だからこの時間帯は、タクシーや代行の車がこの辺も多いみたいなんです」

「へぇ。そもそも飲まなきゃいいのに」

「本当ですよね」松木戸は苦笑して言った。「あっ、こちらが被害者のアパートです」


 政人は、車内から被害者のアパートを眺めた。白い外壁の、二階建ての建物だった。とくに気になるものはない。


 政人は車のシートに身を沈め、ここまでの経路で、どこか怪しい場所が無かったかを考える。


「被害者は一人であの道を通っていたんですよね?」

「友人の推測が正しければ」

「なるほど」


 正直、女の子が夜一人で歩くのには適さない道であるように感じた。だから危ない箇所は何か所かあった。


『自分は大丈夫。そんな根拠のない自信を持っている』


 少女の言葉を思い出し、政人は眉根を寄せた。


 しかし待てよ、と政人は考えを改める。


「でも、もしかしたらこのルートを通っていない可能性もある」

「そうなんですよね。だから今、聞き込み中です」

「……なるほど」


 二人がいる車の隣を、パトカーが過ぎた。


「当日は、この辺もパトカーが巡回していたんですか?」

「はい。ただ、今ほどは多くありませんでしたが。連続性のある事件だとは、考えていなかったので」

「……そうですか」

「どうしますか? 今度は最初の被害者が降りた酒屋の駐車場に行ってみますか?」

「お願いします」


 車が走り出す。シートに深く身を沈め、思案していた政人は、気になるものを見つけ、身を乗り出した。ボックス車の後ろにパトカーが停車していた。そばで警察と話しこむ運転手と思しき男の姿があった。


「事故でしょうか?」

「多分、事情聴取ですよ。怪しい車や人物がいたら、声を掛けるように、言われているんです」

「大変ですね」

「ええ、まぁ」


 車を見送ったところで、政人は松木戸に目を向けた。


「そう言えば、俺が捜査に協力するのは、あの警部から許可は得ているのですか?」

「とってませんよ」

「えっ、それってまずいんじゃ」

「はい。まずいですね」

「大丈夫なんですか?」

「まぁ、減給くらいの罰は受けるでしょう。しかし私からしたら、その結果、あの男と別のチームになれるのなら、願ったり叶ったりですね」

「嫌いなんですか?」

「むしろ好きになる要素はありましたか? 鬼島さんもあの男のクズっぷりにはすでに気付いているでしょう?」

「まぁ、はい」

「だから私はあの男の下から離れたいと思っているんです。でもまぁ、次の上司も波風のような人物である可能性は高いんですけど」

「と言いますと?」

「端的に言えば、やる気がないんですよ、皆。本気で事件を解決しようなんて思っていない。何かやっているように見せることで、その努力を評価してもらおうとしている。巡回が増えているのも、それが理由です。巡回を増やし、次の被害を未然に防ぐことで、事件は未解決のままですが、人々の記憶から消えていくのを期待している。事件は解決していないけど、自分たちが努力した結果、事件は起こらなくなった。だから自分たちは仕事をした。そんな風に評価して欲しいんです」

「……辛辣ですね」

「ここで働いて、私が感じたことです」

「でも、松木戸さんは事件を解決したいと」

「もちろんです。殺された被害者や遺族の方々が報われません。でも、彼らの気持ちも少しは理解できるんですよね。この街の事件は、いかんせん、謎が多すぎる。だから投げ出したくもなる」


 松木戸はもどかしい表情で語る。自身の正義を執行できない現状を、嘆いているように見えた。


 車が酒屋の駐車場で止まる。


「降りてみましょう」


 松木戸の提案に従い、政人は車から降りた。雨が降っていたので、傘を差し、辺りの様子を伺う。酒屋は大きな通りに面した場所にあった。酒屋の横に、車が一台しか通れないような脇道があって、アパートなどの家屋が密集して建っていた。


「タクシー運転手の話によると、被害者はここで降りた後、自分の足でアパートの方へ歩いて行ったそうです」

「ここからアパートまではどれくらいの距離なんですか?」

「50メートルくらいですね」


 政人は脇道の中央に立って、道の先を眺める。


「それじゃあ、さらわれるとしたら、ここから家までの間ですよね?」

「はい」

「被害者はどうしてここで降りたんですかね?」

「友人の話によると、いつもこの酒屋の駐車場で降ろしてもらっているらしいですよ。説明が簡単だとか」

「なるほど」


 政人は酒屋の方へ歩み寄る。酒屋はシャッターを下ろしていて、中の様子は伺えない。道路に面する外壁も見渡してみるが、カメラのようなものはない。


「防犯カメラはないんですね」

「はい。何か気になることでも?」

「防犯カメラの映像に被害者の姿が残っていないのかな、と思いまして。あと、タクシーの運転手が嘘を吐いている可能性もありますし。だから、タクシーの運転手が本当はここに来ていないこともあり得るな、と思ったわけですよ」

「タクシーの運転手がここに来ていることは、タクシー会社の記録にちゃんと残っていました。どのタクシー会社も、GPSで自車の移動記録を残すようにしているんです。そして警察が確認したところ、ちゃんと残っていました。それに、タクシーの運転手のDNAは検出されたDNAと一致しませんでしたし」

「……なるほど」


 政人は思案顔で頬を撫で、地面に目を落とした。


「まだ何か気になることが?」

「……いえ。何でもないです」

「そろそろ帰りましょうか。時間です」

「はい。明日は、第三の被害者と、そして、萌子さんの話を聞かせてもらってもいいですか?」

「もちろんです」


 政人はもう一度、辺りを見回してから、車に乗り込んだ。

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