すれ違い
SIDE--マリア
私は固まったままあの青年の姿を見て、不意にあの小さな我が子と重なるように見えました。
確かに リオン が生きていれば彼のような年になっているのでしょう。
しかし、リオンが生きている筈もない、何しろあの 万魔の谷 にあんな高い所から落ちたのです、だから リオン が生きている筈もない、そこに居る彼は リオン の筈がないのです。
私は軽く頭を揺らし、不要な雑念を頭から降り落とすように。
青年の腕から一人の少女が足を地に着き、しかしその少女は青年に視線を奪われたまま、青年を見て居ました。
青年は少女に話し掛け、少女はやっと気が付き周りを見回したのです。
少女の顔に見覚えがあります、あのトールのお孫さんです。
少女は バリア の上に立つ夫と夫が抱えているトールに向けて手を振りました。
どうやら青年は私達を助ける為にやって来たのです。
その後のことははっきりと覚えています、多分一生忘れないのでしょう。でも、本当に何があったのか皆目見当もつきませんでした。
その事に私は驚きました。あの青年の参戦、彼が到着したと同時に局面は一気に変わり、呆気なく終わってしまったのです。
私は一流の魔法師と自負しています。しかし彼が到着から襲撃者を倒すまで彼が何をしたのでしょうか、そもそも本当に彼が何かをしたのでしょうか?私にはそれらの問いの答えがわからないのです。
私の目には彼が唯立っていただけで襲撃者達は次々と倒れて行くのです。私は魔法の痕跡を探し、しかし痕跡所か魔力際感じ取る事が出来ませんでした。
私の隣に立つ娘も私と同じように驚き バリア を解いてしまいました。半球体の バリア の半分が消え、上に立つ夫はバランスを崩して落ちて来ます。
夫は一回転して着地する、そしてトールを床に置きました。
もう大丈夫だと私は判断し、バリア を解きました。
青年は バリア が解いたのに気づき、私達の所に歩いて来ます。
「あの、ご無事でしょうか?安心してください、もう大丈夫です!」
青年は私達の容態を聞き、安心させるように笑顔を見せる。本当に良く似ている、でも あの子はもう…
「そっそうですか?助かりました、あなた お名前は?」
紊れる心を静めて、青年に答えました。
「オレ いや 自分の名前は リオン です、よろしくお願いします。」
青年は少し恥ずかしがって左手で頭を掻きながら一人称を自分に変えて名乗りました。
私の中に死んだ筈の希望が蘇ってしまいました。
「「「「リオン(だと⁉︎)」」」」
その場にいる全員が声を揃えた。
「りっ、おん…うっ」
私は私自身際わかるくらいに震えてる声で彼の名を呼ぶ、彼は はい? と答え 私は耐えられませんでした。
私の目から涙が溢れ、そんなことを構わずに私は彼を リオンを 私の子を抱き締めたかった。私は彼に近付き、しかしジュリオが私を止めた。
「えっジュリオ?どうして止めるの!」
私は夫を怒鳴った
「落ち着くんだ!マリア!未だ彼がそうだと決まった訳じゃない!」
ジュリオは私の肩を掴み、私に 冷静になれ と言いに来ます。
私は必死に堪え、彼と夫の会話を聞く事にしました。
「リオン とか言ったな。」
「はい!」
「歳は幾つだ?」
「あの前に生活してる所は人が居ない為、正確にはわかりません。暦を教えて頂ければ、わかります。」
「今年は 創魔暦 315年だ」
「創魔暦 315年⁉︎ それでしたら自分は今年で丁度二十歳になります。…もう十五年 か」
リオンは最後に何かを囁き、しかし私には聞き取れませんでした。
「どうしてマニスと一緒にいる?ここに何しに来た?」
「はい、自分が王都に向かう途中で彼女の助けを呼ぶ声がしたので、助けました。ここに来たのはマニスがおじいちゃんと旦那様を助けて欲しいてお願いされたからです。」
ジュリオはマニスに目を向け、マニスは力強く頷きました。
「じゃ、君は何しに王都に向かうのだ?」
「自分は幼き頃事故に遭って、親と離れ離れになり、ある所から外に出られず、今はようやく出られたので離れ離れになった親を探す為に王都に向かう途中です。」
それを聞いて、私の中の希望が又膨らみました。
「君の親は王都にいるのかな?」
「はい!多分いると思います。事故に遭った日、自分は母と一緒に王都に来ています、そして帰りの途中で事故に遭ったのです。」
堪え切れずに私は密かに涙を流しながら、続きを聞き逃さない。
「じゃ最後に一つ、君はさっきある場所から出られないと言ったな、その場所の名前は?」
「はい!聖天の谷 です。」
「聖天 だと⁉︎聞いた事がないな、万魔じゃないのか?」
私の頭は停滞してしまいました、万魔の谷じゃありません⁉︎
「はい!聖天の谷 です、万魔じゃありません。ここから出てそこにっ」
限界が来て、私は気を失いました。
「もういい、十分だ!…俺達を助けてくれて感謝する、それと問い詰めるような真似して済まなかった。今日はうちに泊まっていけ、俺と家内は失礼する。」
ジュリオが倒れた私を連れて、離れていきました。