谷の底から--2
青年は真っ直ぐに進む。
万魔の谷 の地形は複雑で、その上青年は ジ・オーク を追い あちこちを回っていて更に複雑にするのだが、青年は周りを確認すらしないままただ目指す目的地のある方角に向かっていた。
歩くから十数分、青年は一つの洞窟の前に立ち止まり。どうやら、そこが青年の目指している目的地のようだ。
その洞窟の入り口のすぐ横には一振りの剣が鞘に納めたままで地に刺さっている。
「ただいま、マギウスさん」
青年はその地に刺さってる剣に向き、まるで挨拶をする様に言った。
挨拶が終わって、青年はその剣の反対側に向けて数歩歩いた。そして再び足を止めた。
青年の今立っている隣に複数の石が転がっている、いや 転がっている て言うのは不適切で、それらの石は一つの円になる様に囲んでいて、明らかに人の手によるものだ。
その石が囲んでいる円の中に 何かが燃やされ、その燃え滓と土があり、それらは全部が此処に 人が火を起こしそして消す それを何度も繰り返していたことを物語っている。
そんな石の方陣を前に、青年は ジ・オーク の死体を放り上げ、微かに構え、右手を腰にある剣の柄を握りそして左手をその鞘を掴み、一瞬に剣を抜き、ジ・オークの死体に剣閃を放った。同然のように一滴の血も着いていない剣を素早く鞘に納めた。
そして青年は構えを解き、落ちて来るその死体の尻尾を左手で正確に捉え 掴む。更に左手が掴んだと同時に右手が 腹を割かれた ジ・オーク の死体に突っ込み、その中の内臓を全て引き出し、その勢いに乗って足元にある石の方陣を正確に投げ入れた。
青年の動きは素早くて正確だ。内臓を石の方陣に投げ入れたのは ジ・オーク の内臓は食えない程不味いが、血抜きした後の内臓は多くの脂肪があり非常に燃えやすいのだからだ。
青年はその死体を洞窟の中まで持って行き、洞窟の中にあるバケツに入っている清らかな水で洗い、ついでに手も洗った。
そして青年は ジ・オーク の死体にある数箇所の汚い部分を切り、切り落とした部分をさっきのバケツの中に入れた。それから洗い終わった死体を地面にある少し太く先端が尖った木の棒で串刺して、さっきのバケツとそれぞれ片手に持ち、洞窟から出てあの石の方陣に向かった。
青年はバケツを置いて、串刺しにした ジ・オーク をそのまま石の方陣の真ん中に差し立てた。そして懐から二つの 石の玉 を取り出した。
その二つの石の玉は二つで丁度青年の手の平に収まる大きさだ。
青年は石の玉を左手と右手に一個ずつで五本の指で持ち、しゃがんだ。
青年は左手を前に伸ばし、右手を胸口の少し前に置いた。そして左手を引き右手を勢いよく擦り落とすように、両手にある石の玉をぶつけてさせ、その衝突に火花が飛び散り、更にその火花を石の方陣の中の内臓に移し、火を起こした。
串刺しにした ジ・オーク がメラメラと燃え上がる火に包まれた。青年はそれを見て地面に置いているバケツを取り、離れて行く。
青年はバケツの中の水とさっき切り落とした不要な部分をある一つの大きくない落とし穴に流した。その落とし穴はもちろんかつて青年が掘ったものだが、青年はバケツの中身を全部穴に流した後、その落とし穴を埋めた。
青年は空になった木作りのバケツを持って洞窟に戻った。
青年はバケツを火の隣に置いて乾かし、彼自身は洞窟の中に入って荷物をまとめた。
万魔の谷 にいる、この青年の名は リオン、かつて最強の名を手にした 剣神マギウス を超えると誓った少年であった。