仮想/現実
仮想/現実
笑って楽しんで恋をして。そんな高校生活を送れないようなやつは負け犬だ、そう考えてるやつなんて、いっぱいいると思う。俺は高校最後の夏を、海で友達とビキニの女の子たちと満喫している。SNS映えのする人生だ。
調子に乗って、缶ビールを飲んで海に入った。気分は、ハイテンションで負ける気なんてしなかった。沖まで泳いで、足をつってバタバタともがいても沈んでいく、そんな風になるまでは。
「俺は死にたくない死にたくない・・・。」
と、どんなに思ってみても意識は遠のいていく。音は聞こえない、何も見えない、もうダメなんだ、と思った時、光がぱぁっと差し込んで派手なファンファーレみたいな音楽が聞こえてきた。そして、遠くの方から
「来い。来い、来い来い来いーっ」
という声がした。「助けてくれ。」俺は声にならない声で叫んだ。次の瞬間、
「爆死!」
と聞こえたんだ。
光と派手な音楽が消えた途端、真っ暗闇が広がった。ここはどこだ、誰か助けてくれたのか、誰か、誰か、とやみくもに歩き回った。
「落ち着けよ。」
と誰かに肩を叩かれた。そいつは、俺の方を見て、こう言った。
「落ち着けよ。お前、ああ、星1個だな。爆死だな。」
「ばくし?ばくし、ってなんだよ」
俺は、肩を叩いたやつにつかみかかりそうになった。
「爆死は爆死だよ。星1個だろ。」
暗闇に目が慣れてきて、そいつの顔がうっすらと見えてきた。驚くほど、俺に似ていた。
まわりを見渡すと、よく似たやつがたくさんいた。
「ここは、どこなんだ?」
俺は、俺によく似たやつに聞いてみた。
「倉庫、みたいなもんかな。とっておいて、素材に使うんだろ。」
無限のように感じる時間が過ぎていく。俺は勝ち組のはずだったのに。SNS映えする写真アップしてみんなに自慢してやろうと思ってたのに。
気が付くと俺によく似たやつが減っていた。もっとたくさんいたはずなのに、どこに行ったんだ。真っ暗闇でよく見えないが、向こうの方に光が見えた。
「助けてくれ」俺は光の方へ走った。その時、
「これとこれと、これも。強化、大成功しろ。」
「爆死」と同じ声がして、俺の体は引っ張りあげられた。どこに行くんだ、また死ぬのか、ところで「素材」ってなんだ、何に使うんだ、俺はどうなるんだ、死ぬのは嫌だ、。
「しっかりして。しっかりして。」
ビキニの、一番かわいい女の子が、俺の方をゆすっていた。まわりには、いつもの学校の仲間もいる。
「死ぬとか、本当ないわー。」
「まじ、ヤバかったんですけど。」
死にそうになってる人間に言う言葉が、それかよ、と思ったけど、俺は笑ってやり過ごした。とにかく俺は生きてる、悪い夢だったんだ、人間の命は地球よりも重いんだ、そんなことを考えていたら、俺をゆすっていたかわいい子が、
「無茶しないで。どんな人間だって、素材にはなるんだから。」
と、そっと言った。
FIN.