役を奪われた演者
クィンディアちゃんは可愛いですよ、髪の毛で襲ってきますけど。 根はいい子なんですよ。
あと、今回ダークファンタジー臭強いです。
怪しい輝きを放つ宝剣。 しかし、自身を宝剣になんて作れるなんて考えられない。 彼女から、目に見えないものが、今まさに具現化されている。
すべてを呪った思念、聞こえずとも感じる悲鳴、何度も何度も見せられたかのようにはっきりと視認できた。
「―――――――ねえ、あなたもしかして」
無鉄砲にもハマルは宝剣に問う。 意思を持つ宝剣に話し合える余裕があるとは思えない。 ハマルを引き留めようとした腕を払われ、マルタにその腕を掴まれた。
マルタは俺の横でひたすら俺の腕にしがみつく。 ぎゅっと目を瞑り、頑なに開けようとしない。
「あのとき、行き倒れてた女の子?」
「―――――――」
ぴし、と髪の毛の一部に亀裂が入る。
ぼろぼろ、と崩れ落ち、髪の毛だったものは床に散らばっていく。
「・・・・・・だ、だ、だァれが女の子じゃあっっっ!!」
噛み付くように吠えかかるクィンディア。 口には犬歯のような鋭い歯が生えていた。 ただ、クィンディア自身のサイズが小さいので、ただの八重歯に見える。
女性に歳を聞くべきでないとは分かっていたが、若すぎても老けすぎていてもいけないらしい。 女の世界は怖い。
「えー、だって私よりちょっと大きいくらいでしょー? それに、あなた人間っぽいし」
「だからさっきクィンディアって名乗ったでしょう!? ちっぽけな人間ごときに与えられた名前じゃないの!! 二千年くらい生きてるし!! 」
「えー・・・・・・見えないよ」
同感だ。 人であれば十二歳くらいだ。 大人びた顔つきではあるが、やはり子供だ。 くまがひどく、衰弱しているため若々しくはないが、きっと美しいのだろう。
「んぬ、んなななな・・・・・・!!」
「・・・・・・あ、あのとき道端で髪の毛で移動していたあの子」
「言うな!! 弱小妖精に言われたくない!! 羽ひんむくわよ!!」
「や、やめてよ・・・・・・この羽、肩甲骨から生えてるんだから、取れたら生え変わるのに四年かかるんだよ」
「あたしは!! あんたらよりも!! 強いんです!! 生きてるんです!! 知恵もあるんです!!」
「どこから来たの? 刻限木の近くで倒れてたから、もしかしてと思ったんだけど」
「・・・・・・は?」
「うーん、見ない顔だけど、旅人には見えないし」
「え、ちょ、刻限木?」
「うん、刻限木」
「・・・・・・」
おいてけぼりの俺、考えこむクィンディア、それを心配そうな目で見つめるハマル達。 刻限木というやつは、俺たちの世界に深く関わっているようだ。
「―――――――パラレルからの招かれざる客、か」
「・・・・・・おとうさん?」
静かに、エドガーがそこにたっていた。 幼い容姿からは想像もつかない渋い声で、淡々と、俺たちを無視して語った。
「ねえお父さん、ぱられるってなに? どういうこと? 知ってるの?」
「・・・・・・クィンディア、なぜここにいる」
「うっさいわ、こっちが知りたい」
「・・・・・・前ほど、力はないようだな」
「ふん、ズルしてるあんたに言われたくないね」
子供みたいに拗ねたふりをするクィンディア。 険悪そうに見えて、そこまで仲は悪くないのかもしれない。
いっぽうエドガーは、伏せがちに視線を逸らす。 なにか、隠しているのだろうか?
「・・・・・・三人は外でアリエラおばさんのお手伝いを頼めるかな。 この子は、私に任せてほしい」
「お父さん、クィンディアに何するの・・・・・・?」
「・・・・・・彼女は、方向音痴でね。 彼女の故郷に送ってくるよ」
「・・・・・・あっはっは、故郷、ねぇ」
「あんたの故郷なんて、もうどこにもない。 あたしの故郷は、いつだってなかったわね」
「私のことなぞ、どうでもいい。 クィンディア、お前はここにいるべきじゃない」
「あんたが知らないだけかもしれないじゃない。 それに、あんたもそうでしょ?」
「・・・・・・子供たちの前では、やめてくれ」
「やーよ、あんたにはいっぱい借りがあるからね。 ま、いいわ。 チビ共、さっさと出てきな」
「・・・・・・うん」
そういって、チビ共は家をあとにした。 時々、不安げに目を伏せながら。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「なんであんたいるのよ!!!! 何? あたしより背が高いからって当てつけ?!」
「えっ、俺は小さいのか・・・・・・」
こんな俺より小さくて頼もしい種族もいるんだ。 その逆だっているだろうさ。 クィンディアの知っている種族に、そういう者はいないのだろうか?
「ああああああもう、ほんっとはらたつ!! キエロ!!」
「よせ、クィンディア。 ルイスはお前とは別な生き物だ。 お前がかなうはずもない」
「何・・・・・・?」
クィンディアが、顔を歪ませる。 怖い。 だって、エドガーの言葉は俺がクィンディアよりも上だというものだ。 襲われるんじゃないのか。
それに―――――――俺が、別な生き物? 当たり前じゃないか、だって。
「ルイスは・・・・・・刻限木付近で発見され、あの森を頃くさまよった。 大体二年ほど。 そして、あいつがルイスを生かした」
・・・・・・刻限木付近で発見された。 その後・・・・・・パンをかじるまでの時間を二年繰り返した。
「じゃあ、あたしみたいに何度も生きてないってこと? そんなのが、あたしにかなわないですって?」
「エリス・・・・・・。 あいつに深く関わる人物に近いのかもしれないな。 ルイスは」
「待ってくれよ・・・・・・たしかに俺は自分がわからないが、俺は普通の人間だ!」
「!! ・・・・・・で、でも、なんで今」
「ルイス、お前は知らないのか? 本当に」
「し・・・・・・知らない」
「そうか」
「あ、ああ」
「クィンディア。 お前は、私と同じようにズルをした。 だから・・・・・・ 」
「共に消えよう」
固唾を飲んだ。 俺は。 俺は、本当に、生きていてはいけない人物だったのか―――――――?
わからない。 なんだ、この気持ちは。 どうして、やるせなくて・・・・・・こんなにも腹が立つんだ?
よくしてもらったエドガーに殺すと宣告されたから?
ハマルとマルタを置いて消えようとしたから?
クィンディアを消そうとしたから?
「・・・・・・いやだ」
「いやだ・・・・・・死にたくない」
「ルイス・・・・・・?」
「俺は・・・・・・俺は・・・・・・自分がわからないが、知るまでは・・・・・・死ねないんだ!!」
感情の突出。 吹き出すように溢れる恐怖。 その影に、潜む殺意、憎悪。 いったいどこから湧き出るのだろう。 俺の体に、何も意味を持たない俺に、どこからそんなもの湧いてくるのだろう?
「エドガー、早く逃げなさい!! コイツ、あたくしよりも強いんでしょう?!」
「・・・・・・いや、強いんじゃない」
「消えないんだ。 彼は、あの人の想い人だから」
続く
エドガー・・・・・・良い奴だったよ(白目)