宝剣
ルイスの謎にズームインします。 新キャラ登場します。 そして家から一歩も出ません。 引きこもりです。
がやがやと家の中でも外の様子がわかる。 それほど五月蝿いが、嫌な気はしない。 なんせ、俺をもてなそうとしてのことだ。 待ち遠しい、というより、待ちきれない。
ハマルとマルタはお茶を淹れると言って席を外した。 俺はポツンと椅子に腰掛けて待っている。
俺が今腰掛けている椅子は、ハマルお手製のものだったらしい。 擦り傷だらけで、新しい家具には劣るかもしれないが、マルタ曰く「誰かを想って作るものには何にも負けない価値がある」だそうだ。
なんでも、父エドガーの為に作ったものだそうで、彼の身長に合わせて何度も採寸したらしい。 俺が座ると壊れそうでムズムズする。 しかも、俺の尻で椅子が埋まる。 椅子より俺の方が大きいから仕方がないが。
何故か俺の故郷らしき記憶が浮かぶ。 と言っても、経験した筈なのに、その経験したという記憶が無いから、俺のものだと断定できるわけじゃない。 しかし、俺が一体何者なのか、探るための唯一の手がかりなのだ。
なんとなくでしか思い出せないが、父と母らしき人物が見える。 俺は、ここの家のように温かみのある家庭ではないのだろう。 広い部屋に押し込められた記憶があった。
思い出した分だけ謎は深まる。 あの、パンを齧るまでの時間は一体なんなのだろう。 そもそも、パンを齧るきっかけはなんだったのだろう。 何故、俺は自分自身のことを知らないのだろう?
・・・・・・うだうだと阿呆らしい。 わからないから、こうやって自分の足で踏み出したというのに。 今は、ハマルたちの淹れるお茶を楽しもう。 もうそろそろ来るはずだ。
「―――――――!」
パリーンと割れる音がした。 ティーポッドにしては、大きな割れ物だ。 ふたりは無事・・・・・・だとは思えない。
俺は、恐ろしくなってマルタたちが向かったであろうキッチンに走る。 確か、このドアの筈だ!
「ハマル、マルタ!」
「きゅぅ―――――――」
そこには、若葉色ではなく、真っ黒な物体がぴくぴくと痙攣していた。 ハマルたちの仲間か?
それはキッチンの窓から入ってきたようで、割れる音の正体はこれで間違いないだろう。 しかし、ハマルたちの仲間ならこんなところから入ってくるか?
いや、然しここの連中は楽しければなんでもいいやー、という度を越した快楽主義者もいるわけで。
「―――――――」
謎の黒いブツは、失神しているのか、痙攣こそすれど、反応はないようだ。 こいつが仲間にしろそうでないにしろ、やることは一つ。
「・・・・・・縄・・・・・・縄・・・・・・縄」
キョロキョロと人の家で堂々と縄を探し漁る。 最低な行為だが、命は惜しい。 万が一凶悪な奴だったら困る。
俺は、狩猟用の縄を見つけた。 なぜキッチンに物騒なものがあるかはこの際気にしていられない。 おっかなびっくりで近づき、しゅるしゅると体を縛り上げる。 うっ血する程はきつくしないが、身動き一つで更に締まりそうだ。
縛ったのを起こし、顔を見てみる。 黒い髪の少女・・・・・・なのだろうか。 こいつは卵から生まれたのか小さい。 ハマル達よりは大きいが、それでも子供みたいだ。 黒髪はとても長く、少女の背より長い。 俺の身長程あるんじゃないだろうか。
少女のうめき声は恨めしげで、罪悪感が募る。 ぐーと鳴る腹の音が、彼女が飢餓状態にあることを教えてくれた。
「・・・・・・お腹、空いてるのかな」
「うわああっ?!」
後ろからひょっこりと顔を出した二人。 どうやら無事だったようだ。
「そ、そんな驚かないでほしいな」
「ハマル・・・・・・」
「さっきの音、この人から?」
「あ、ああ・・・・・・そうみたいだ。 知り合いか?」
「全然。 黒髪なんてここいらじゃあ見ないよ」
「・・・・・・恐らく、刻限木」
渋い顔でそう語るマルタ。 二人は父親のことがあるから、刻限木とやらはきっと好きではないのだろう。
「例のアレか・・・・・・」
「刻限木は不思議な木でね。 見知らぬ人がいきなり現れたら刻限木だと思いなさいって、お父さん言ってた」
「・・・・・・厄介事を持ち込む木に、俺も関係あるのかな」
「うん、あると思う。 だって、ウエストウェリアから来たんだったら、超近場だし」
さらっと断言した。 まあ、俺の知っている知識と照らし合わせると、そうとしか考えにくいし。
「うえ・・・・・・なんだって?」
「ウエストウェリア・・・・・・。 ここの集落、もとい属種は妖精の家系の、細かくいうとディラヴっていう、割と長命な種なんだ。 ウェストウェリアの人たちは、ディラヴとはそんなに仲が良くないの」
「私たちはこの大地を転々としているのは、ウェストウェリアの人たちに迫害されたのがきっかけなんだ。 なんでも、戦争になった時、私たちの住処を勝手に戦場にしたからなんだって。 戦争なんか他所でやれってこと」
「まあ、あの街の人たちのことを除けば、いちばんここが住みやすいし、帰ってきちゃったんだけどね」
「なあ・・・・・・その前に一ついいか?」
「どうぞ」
「どうして俺がウェストウェリアっていう街出身だってわかったんだ?」
「・・・・・・ああ、そっか。 記憶ないんだもんね。 んー、長くなるけど話した方がいい?」
「えー・・・・・・わかった。 お願いする」
「おっけー、じゃあ、どうしてわかったかっていうとねー、その服だよ」
おっけー、とやらは了承した、の意味でいいんだろうか。 居住地を転々とした属種ゆえか、俺の知らない言葉が時々出てくる。 俺が無知なのがいけないのだが、俺にもわかるようにおねがいしたい。
「ルイスが着てる服ね、ウェストウェリアでいちばん大きい、教会っていうとある宗教の大きな建物があるんだ。 そこの人たちね、特別な日にその服を着るの」
「・・・・・・確かに、俺の記憶にもこの服がある。 これを着た人たちがいっぱい居た」
「しかも、ウェストウェリアはそんなに裕福な街じゃないから、それを着れるのは一部の人だけ。 ルイスは、その人たちの中では優位で、なおかつ若い」
「・・・・・・若いから、珍しいのか?」
「うん・・・・・・さっき話した迫害の件にね」
「迫害のきっかけとなった戦争でね、お年寄りと子供を守るために青年層から中年層の人たちはほとんど亡くなってしまったんだ。 ルイスのご両親くらいの年齢の人たちはあの街に居ないと思う」
「・・・・・・俺、多分親二人共生きていると思う」
「そっか・・・・・・じゃあ、あの街には戻らない方がいいよ」
「何故?」
「―――――――その大きな教会、孤児院も兼ねてるんだ。 そんな中で、ご両親に育てられている子供なんて、いい顔されないだろうし。 しかもね、ルイスは、その教会の神父さんの・・・・・・」
「ちょっと、やめなよ」
「・・・・・・? いや、大事なところだから、聞かせてくれよ」
「・・・・・・ルイスは、なんにも知らないんだね」
「・・・・・・ああ」
「・・・・・・神父さんは、子供がいちゃいけないものなの。 そんな人に子供がいるってバレたら、えらい目にあうよ」
「つまり、俺はその・・・・・・。 簡単に言うと、存在するはずもないししてはいけないやつなのか」
「・・・・・・そ、そんなこと」
「いや、情報は多いほうがいい。 もっと教えて欲しい」
「・・・・・・わかった。 じゃあ―――――――」
ずもももももももも―――――――。
「なんっっっっっじゃああああこりゃあああああああああ!!!!」
轟く怒声。 この世の全ての憎しみをぶつけられた様な、パワフルなものだった。
「んなっ、なんであたし縛られてるの?! わけわかんない!!」
「・・・・・・ねえ君、どこから来たの? 名前は?」
一瞬怯んだが、怖気付くことなく歩よろうとするハマル。 手を指しだろうとしたその時、嫌な予感がして、俺はハマルの腕を引いてこちらに引き止めた。
「いっ・・・・・・なにし―――――――て」
黒髪の少女の縄は、鋭利なもので切り裂かれたように切れていた。 刃物を隠し持っている。 しかも、ものすごく早いスピードで扱えるようだ。
しかし、彼女は腕も手も使えないようにしていた。 それならば、他に誰かいるのだろうか?
―――――――ああ、信じ難いことだが、一目瞭然じゃないか。
彼女は、俺の身長程あると思われる自分の髪の毛で、縄を切ったのだ。 魔法のように、髪を鋭くして。
それは自由自在に形を変えられ、操れるようで、よろめく足取りで転びそうになるのを、髪の毛を床に突き刺し、なんとか立っている。
「あたくしをだァれだと思ってるのかしら・・・・・・? 一体なんの真似?」
うぞぞぞぞぞ・・・・・・。 うぞぞぞぞぞぞ・・・・・・。
ただでさえ長い髪の毛が、伸びていく。 彼女の目には光が入る余地なんてないほど淀みきっていた。
「まって、あなた―――――――!!」
「おい、やめろ―――――――ハマル!!」
ハマルは少女に近づこうとする。 手をとろうとしたが、躱される。
「は、ハマル―――――――!!」
「あたくし―――――――クィンディアをご存知なくて?」
黒髪は、宝剣の如く輝く。 何かを傷つけるためか、己を守ろうとするか。
髪の毛で己を余すとこなく覆うと、彼女は剣になった。 とびきり怪しい輝きを放つ、宝剣に。
続く
クィンディア・・・・・・身長135〜140くらいの少女?
自身の髪の毛を自在に操る。 硬質化し
た髪の毛で自身を覆い防御&攻撃する。
詳細は次話以降で。