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悠久チェイン  作者: 四季 ヒビキ
1章
3/6

天敵

エドガーさんのおうちにお邪魔しました。 その子供たちがもてなしてくれるようですが、ルイスは一体何を思うのでしょう?

エドガーに案内され、俺は家に上がった。

 

 

 木製の家具が置いてあり、シンプルではあるが使いやすそうなものばかりであった。

 

 家具や物には年季が入っていて、ところどころ傷がある。 ・・・・・・新調すればいいのに。

 

 

 

 「何も無い家ですが、どうぞごゆっくり。 もてなしは、我が子供のハマルとマルタが用意しますゆえ、少々失礼致しますぞ」

 

 

 

 「ありがとうございます」

 

 

 

 「・・・・・・はじめまして、マルタです」

 

 

 「もー、マルタは声が小さい! ・・・・・・姉のハマルです。 お初にお目にかかります!」

 

 

 

 「はあ、はじめまして」

 

 

 ショートカットの妖精が二人、対象的な態度で出迎えた。 ひとり、マルタと名乗った方は、俯き、不安げに眉を下げて顔色を伺うように向かってきた。

 

 ハマルと名乗る方は、明るく胸を張って喋った。 マルタの姉だそうで、確かに何方かと言えば女性的なのだろう。 マルタは・・・・・・どっちだかわからない。

 

 ハマルはニコニコと笑顔を浮かべるが、マルタは引きつった笑みで、不器用な愛想笑いを浮かべていた。

 

 

 

 「じゃあ、頼んだよ」

 

 

 そう言って家を出たエドガーに手を振る。 後ろのふたりも気をつけてね、と声を揃えて見送った。

 

 

 

 「じゃあ、あなたのお名前、教えてください」

 

 

 

 ハマルが紙とペンを手に取り、俺に差し出してきた。 俺は、それに名前を書いた。

 

 

 

 「・・・・・・ファミリーネームは?」

 

 

 

 「ファミリーネーム?」

 

 

 

 「・・・・・・ミョウジ、っていうの? 他の国では」

 

 

 

 「うーん、世界ではいろんな名前があるからねー。 どうだか」

 

 

 

 「とにかく、俺はルイスだ」

 

 

 

 「わかった、ルイスさん」

 

 

 

 「・・・・・・なんだか、寒気が」

 

 

 

 「えっ・・・・・・ご病気」

 

 

 

 不安そうにマルタが囁く。 今知り合ったばかりなのに・・・・・・。

 

 

 「あー、多分違うと思うよ」

 

 

 「そうなの・・・・・・」

 

 

 「ごめんね、馴れ馴れしかった?」

 

 

 

 「いや、別に」

 

 

 

 「ボクたちの集落では、元気で明るいひと、多いから・・・・・・」

 

 

 「・・・・・・うん」

 

 

 

 ニコニコしていたハマルが、何故か眉毛を八の字にした。 別に、マルタは変なことを言っていないと思うが。

 

 

 

 「あのね、私達は一度知り合った人とは、家族みたいに接しなさいって教わってるんだ。 だから、ルイスともこれで家族!」

 

 

 

 そう言って、グーで腹をぽんと小突かれた。 特に痛くはないが、こんな小さいのに意外と力がある。 エドガーよりも小さいのに。

 

 ・・・・・・そういえば、ふたりの羽はとても綺麗だ。 限りなく透けているが、綺麗なピンクとブルーの模様が入っていて、ぴらぴらと動くたびに光を反射させている。

 

 

 

 「なあ、ふたりは似ているけど双子なのか?」

 

 

 

 「・・・・・・ううん、ボク達は卵から生まれるから、一気に生まれるし、みんな兄弟だし」


 

 「そうなのか・・・・・・」

 

 

 

 見た目は人なんだがなあ・・・・・・。 卵から生まれるなんてちょっと意外だ。

 

 

 

 「・・・・・・ルイスは、どうやって生まれたの?」

 

 

 

 「・・・・・・わからない」

 

 

 

 「わからないの? あなたを知る人はいないの?」

 

 

 

 「・・・・・・あ、エドナ」

 

 

 

 「・・・・・・エドナさん?」

 

 

 

 「でもなあ・・・・・・」

 

 

 

 「なになに? 教えてよー」

 

 

 

 目を輝かせながら迫るハマル。 マルタと違って、ハマルは好奇心旺盛でグイグイ来る。 正直、苦手かもしれない。

 

 

 

 「あー、その・・・・・・なんていうか。 エドナは俺のことを知っているって言ってるんだけど、俺は、エドナの事は何も知らないんだよ。 名前も初めて知ったし、エドナがどういう人なのか、全く知らないんだ」

 

 

 

 「へー、それって刻限木のせいじゃない?」

 

 

 

 「こく・・・・・・なんだって?」

 

 

 

 「刻限木こくげんぼく。 ここからまっすぐ行った丘の上に、大きな木があるんだ」


 

 

 「・・・・・・もしかしたら、刻限木にいたずらされたんじゃない?」

 

 

 「・・・・・・こんなたちの悪い悪戯するなんて、なんて性格のいい」 

 

 


 「あ、あんまり言わない方が・・・・・・」

 

 

 マルタが怯えた様子でそう話す。 どうやら、ここの集落では変なやつしかいないのかもしれない。

 

  

 

  「・・・・・・なにかあるのか?」

 

 

 

 「・・・・・・あのね、ここだけの話、今からするね。 ナイショだよ?」

 

 

 

 ハマルが真剣な顔つきで俺の目を見つめる。 その瞳には、俺が映り込むほど綺麗な目だった。

 

 

 俺の顔を、こんなところで見るなんて。 俺の顔を、生まれて初めて見た。 色はハマルの銀色の瞳に染められわからないが、俺は、実に無愛想で、眉一つ動いていない、人間味を感じられない男だった。

 

 

 ・・・・・・俺は何も知らない上に、何も生きる意味を持っていないことに気がついた。 ハマルの瞳は、真実を写す鏡であることにも気がついた。 俺は、少し見とれていたようで、気がつくと顔を赤らめたハマルが目の前にいた。

 

 

 「もう! 恥ずかしいから見つめないでよ!」

 

 

 「ゴ、ごめん」

 

 

 「はあ・・・・・・いい? 刻限木にはね、根も葉もないけど、変な噂がたってて、みんな怯えてるの」

 

 

 「噂・・・・・・」

 

 

 「うん、えっとね―――――――」

 

 

 

 

 

 

 「ああ、ウィンディ・・・・・・どうして、まだ15なのに!!」

 

 「くそ、どんどん俺たちの寿命が短くなって・・・・・・!」

 

 

 

 

 私達はね、元々百年は普通に生きる属種だったの。 でもね、いきなり寿命が短くなっていったんだ。 流行病でもないのに、老衰だったり、自然死だったり、時には刻限木の定めによって、事故死したり・・・・・・。

 

 

 あ、刻限木の定めっていうのはね。 どうしても避けられない事とか・・・・・・例えば災害とか。 そういうのって、定期的に来るように思えるでしょ? でも、それは私達には知りえない。 例え、それぞれが信じる神に祈ったって、善行を積んだって助けてももらえない。

 

 それは、自身の信仰が足りなかったわけでも、知識や才能、体力がなかったわけじゃない。

 

 

 ―――――――『刻限木の定め』。

 

 

 そういうのもあって、私達は長くても40年しか生きれなくなった。 ・・・・・・お父さん、エドガー・フィリッポは今年で42歳。 ・・・・・・正直、いつ死んでもおかしくない。 すごく心配なんだ。

 

 

 病死とか事故死なら、完全には防げなくたって、手を尽くすことが出来る。 でも、刻限木の定めなら、そうはいかない。 私たちじゃ、どうにもならない。

 

 

 ・・・・・・でも、それに抗おうとした人がいるんだ。 結果、その人は『刻限木の定め』から、逃れられた。

 

 しかし、それ以上に悲惨な出来事のトリガーになるなんて、誰も予想つかないよね。 その人は、ただ生きようとしただけなんだから・・・・・・。

 

 

 それを皮切りに、みんな死んでいった。 ある人は氾濫によって、ある人は台風に巻き込まれて。

 

 そこから、この異変はすべて「定めに抗った人が原因」だって決め付けが始まったんだ。 ―――――――次は、自分の番かもしれないから、心の拠り所が欲しくて、根も葉もない噂が信じられるようになっちゃったんだ。

 

 

 

 

 「・・・・・・可哀相、だな」

 

 

 

 「・・・・・・ありがとう。 そう言ってくれるだけで、誰かは救われる」

 

 

 

 「・・・・・・だから、刻限木に意識があると思う人はね、そういうのよく思わないんだ」

 

 

 

 「・・・・・・気をつける」

 

 

 

 「ありがとう」

 

 

 

 ふたりは、よく似ていた。 正反対なふたりは、父親を心配する気持ちが真っ直ぐで、綺麗な羽と瞳。 よく見ると整った顔立ちで、若葉色の艶やかな髪。

 

 誰かを思う気持ち。 それは、二人に共通した同じ志なのだろう。 「父を助けたい」という思いの中に、他者への気遣いが透けて見えた。

 

 

 

 

 「俺、みんなのこと、すごいうるさいと思ってた」

 

 

 

 「・・・・・・はは、確かに、嫌そうな顔してた」

 

 

 

 「でも、本当は違うんだな。 ・・・・・・短い命かもしれないって怯えながらも、もしかしたら受け入れるつもりで、命を謳歌しようとしているのかもな」

 

 

 

 「うーん、もしかしたらただの快楽主義者かもよ?」

 

 

 「・・・・・・アリエラおばさんは、ただ今が楽しいからわらっているんだろうね」

 

 

 

 

 

 「・・・・・・はは」

 

 

 

 

 

 「あーっ! やっと笑った!」

 

 

 

 「・・・・・・ルイスさん、さっきと違う顔になった」

 

 

 

 「・・・・・・俺、笑えた?」

 

 

 

 「うん! ルイスさん、その方がニマイメだよ!」

 


 

 「なんだよ、にまいめって・・・・・・。 あと、寒気の正体がわかった」

 

 

 

 「ご病気じゃないなら・・・・・・」

 

 

 

 「ルイスって呼んでほしい。 それで、治るから」

 

 

 

 「・・・・・・ルイス?」

 

 

 

 「寒気、する?」

 

 

 

 「いや・・・・・・しないな」

 

 

 

 「やったあ!」

 

 

 

 ・・・・・・彼らの天敵は、刻限木に踊らされた自分自身のようだが、きっと彼らはそれに気がついているのだろう。 だが、俺は悪い事だとは思えなかった。

 

 

 今を精一杯生きる。 俺が今まで、パンをかじるまでの間、過ごしてきた時間は、そういうことだったと思うから。

 

 美化しているのかもしれない。 だが、それでもいい。 それで、明日という未知の時間を歩む原動力になるなら、それでいいと思った。

 

 

 

 

 「・・・・・・ルイス、さっき以上に騒がしくなるけど、大丈夫?」

 

 

 

 「ああ、気にしないでくれ。 それに、俺・・・・・・」

 

 

 「それに?」

 

 「それに?」

 

 

 

 

 

 なんだか、楽しみで仕方が無いんだ―――――――。

 

ハマル・・・・・・ピンクの羽を持つ、女性よりの妖精。 瞳はシルバーで、髪の毛はエドガーと同じく若葉色である。 明るく笑顔を絶やさない。 マルタの姉で、マルタをいつも心配している。 好きなものはいつも座っている椅子の座り心地と氷菓。


マルタ・・・・・・ブルーの羽を持つ、比較的男性的な妖精。 しかし、どう見ても女児なのが悩み。 今はまだ性別がはっきりとしておらず、自分にあり方に悩みを抱えている。 いつも不安げな顔をしているが、以外とはどっしりと構えている部分もある。 好きなものは今使っている枕と毛布と氷菓。

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