森の先にある軌跡
ルイスが頑張って踏み出すようです。
エドナから離れるべく、ひとり元いた森へと足を運んだルイス。 その森には見たことのない道があって―――――――?
「ルイス、どうしたの? 帰らないの?」
「・・・・・・」
ルイスは考え込みました。 ルイスは、物静かな性格なので、口数が少ないのです。
「うーん、今日は何を考えてるの?」
「・・・・・・なんでもない」
しかも、ルイスはあまり自分を表現するのが得意ではありません。 何かを考えていても、おじさんやおばさん、幼馴染のエドナにさえ、考えを話すことは珍しいことでした―――――――。
俺は、ひとりで森へ向かっていた。 少し、ひとりになりたくて。 俺は困惑している。 だってそうだろう?
今まで、誰にも合わず、話さず、関わらずで生きてきた。 でも、突然変わってしまった。 謎の少女エドナと、不可解な記憶にかどわかされ、既視感に包まれた知らない場所にいるのだ。 逃げたくて、仕方がない。
矛盾しているのはわかっている。 しかし、そうとしかいいようがないのだ。
怖い、というものを初めて体験したような気がする。 どうして、俺がこんな気持ちになっているのだろう。 一体、俺は何が怖いんだ・・・・・・?
「ルイス、どこいっちゃったの・・・・・・」
「・・・・・・おれは、どうしたらいいんだ」
初めて、自分の言葉が、漏れた。
しばらく森を歩いていると、森の外へと繋がる道が見えた。 実に単純な一本道で、何事もなく通れそうだ。
・・・・・・ここを越えれば、俺はどうなってしまうのだろう。 怖い。 でも、それ以上に―――――――。
「知りたい、行ってみたい」
俺は、森を抜けて、肌で風を感じた。 撫でるように大地とその上の空を駆け抜ける風は、通ってきた道の匂いを纏い、俺なんかと違って、しっかりと、自分が辿った道を体で表していた。
いや、俺も、そのうち―――――――。
抜けた森の先は、湖と花に囲まれた集落のような場所に出た。 ・・・・・・俺の記憶には、ない場所だった。
花の香りが、俺を渦巻いた。 歓迎されているのか、拒まれているのか。 わからないが、俺はどちらでも構わない。
ばさばさと鳥が俺の周りに着陸し、土の上の何かを啄んで、どこかへと飛び立つ。 なんとなくそれを見届けると、何かの軌跡に沿って、雲が裂けていく。
これは、よくあることなのだろうか。 自然にできたものだとしたら、とても珍しいものなんだろう。 少し、見とれていた。
「―――――――あっ! なんかいるよ! 」
雲を裂いて出来た軌跡が途切れた。 と思ったら、雲を裂いていた何かが、俺の方へ向かってきた。
それは、恐ろしいほどの速さで来た。 空とここまでの距離がどれほど離れているかわからないが、とても遠いのだろう。 それは、ぐんぐん大きくなっていく。 さっきは、形すら見えなかったのに、少しづつ形を露わにしていく。
羽がついた、何か。 それは複数いた。 羽は、鳥類のものではなく、虫のように透けた羽だ。
しかし、その羽は、人の体についている。 正直気味が悪い。 幼い子供のようなそれに、体以上に大きな虫の羽があり、感情があるのか、楽しそうに笑う声が聞こえる。
性別はわからない。 そもそも性別という概念がある生き物なのかもわからない。 人に例えるなら、中性的な容姿だ。
すとん、と一つが俺の前に飛んできた。 くりくりとした瞳でこちらを色々な角度から覗き込んでくる。 背は低く、俺の腰までしかない。
一つに続き、すとんすとんと軽い音を立て次々俺の近くに着陸し、これらもまた、俺を凝視してくるのであった。
「・・・・・・あなた、どこから来たの?」
「いったいどんな人なの? 」
「ボク達のこと、知ってる?」
いっせいに話しかけられ、聞き取れた質問はこれだけだ。 一度に100以上から話しかけられて、聞き取れた方がすごいと思うが。
「俺は・・・・・・ルイスだ。 これら? うーん、君たちの事は、知らない」
―――――――。
―――――――。
―――――――。
しんと急に静まり返った。 きゃいきゃいうるさかったのが、すっと口を閉じ、互いに顔を見合わせている。
しまった、と思った。 そもそも、意思疎通を目論む時点で、モノじゃないのに。 これら、なんて言ったから、きっと怒りに触れたのだろう。 俺が無知だなんてこと、相手は知りもしないだろう。
俺だって、ものじゃない。 人間だ。 俺だってそう言われれば怪訝に思うだろう。 相手は、しきりにひとりに視線を注いだ。
「・・・・・・ほう」
静かに、群れの中央のひとりがつぶやく。 円を作るようにそいつから離れ、囲うように整列する。
「皆の者、宴を開け。 精一杯おもてなししたまえ」
ひとりの大きな瞳が開くと、みんなはわあっと波ができるように手を上にあげ、喜びを体で表した。
「やった! お客さんだ! 」
「久しぶりのお客だ!」
「ああ、忙しい! 何を召し上がって頂こうかしら!」
わーと叫びながら、各々が準備をすべく散り散りになっていく。 こうして、取り残されたのは、俺と宴の発案者だ。
「いやはや、姦しい奴らですまなかった」
「あ、いえ」
「ルイス殿、ようこそお越しくださいました。 私はエドガーと申します。 この集落の長をしております。 お気軽に、エドとでもお呼びください」
エド・・・・・・そう名乗る小さな生き物は、どこかで見覚えがあった。 ―――――――エドナ、だ。
「エドナ・・・・・・」
「エドナ・・・・・・?」
「あ、いえ、こっちの話です」
「いやいや、エドナというのは、我々にとっては縁のある少女ですから」
「エドナが・・・・・・?」
「・・・・・・ええ、そのことも含めてお話させていただきます。 ですので、どうか宴にご参加してくだされ」
「あ、ああ、ありがとう」
その村長も、エドナと同じ、若葉色の髪の毛だった。 エドナのように髪をお下げに結ってはいないが、もう少し伸ばせば結えそうな長さだ。
「・・・・・・さあ、準備ができるまで、私の家でお待ちください。 子供たちがあなたを歓迎してくれるでしょう」
「・・・・・・はい」
俺の背では腰を折らないとくぐれないドアを潜り、村長の家でしばしの間過ごすのであった―――――――。
続く
森の妖精たち・・・・・・基本うるさい。 背は大人で120〜135くらいである。 中性的な容姿で、性別という概念は申し訳程度にしかない。 (性格や適性などで振り分けられる)
次回は、妖精達のもてなしを受けるようです。