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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第一章第二節 神秘庭園
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神秘庭園 中央広場 Ⅳ

 検証は未だ未だ終わらない。


 消耗しょうもう品は消費することで一覧から消える。では、消耗しょうもう品ではないストックされた物品は捨てることはできるのか。捨てたものはどうなるのか。捨てて消滅しない場合、再取得は可能か。


 それらを検証するために、スコップを使う。本や水晶球といった、消えられては困るものを検証材料にするのはリスクが大き過ぎる。事実上の一択。


 まずは捨てることができるかどうか。仕舞われた状態で念じて捨ててみる、場に出した状態で念じて捨ててみる、場に出した状態で自身の手で捨てる。その三通りがある。


 最初に試すのは、仕舞われた状態で念じて捨てる。他の二つも、その後可能であるなばら試す。


 スコップを空間に収納した状態のまま、念じてみる。スコップはもう必要ない。本を確認してみるとスコップは一覧から消えていた。


 消えたものはどこへ行くのか。最初の位置に戻っている。この世から消滅した。どこか別の場所に飛ばされた。これまた三通り。


 まあ、これは検証できないだろうと思っていたが、答えは文字通り、転がっていた。


 私が最初にスコップを拾った位置に、そのときと同じようにスコップは置かれていたのだから。捨てたものは最初に拾った位置に再び現れるらしい。


 拾ってみる。


《[ "錆びた金属製のスコップ" を手に入れた ]》


 スコップは私の手から消えた。本を見てみると、再びスコップは所持品一覧に加わっていた。再習得可能、と。






 では、あの"蛍色の液体"が触れていないのにストックされたのはどう説明する?


 ああ、そうか。


 触れていたのだ。私はあの"蛍色の液体に"。胸で接していたと判断されたのだ。ジャケット越しではあったが。


 ハンカチが突如ストックされたのは、恐らく、特権Ⅰがいつ有効になったかということが答えだろう。


 特権Ⅰが有効にになったのは、泉のふちに立て掛けたスコップを手にしたときにそれがすうっと消えるようにストックされたとき。そのときに、ストックできる状態の物品が全てストックされたのだとすると、辻褄つじつまは合う。


 それと、スコップで行った検証を踏まえて考える。


 すると、二つのことが分かる。一つ目、所持品としてストックするためには布越しでも構わないが直接触れなくてはいけないこと。二つ目は、場に出した状態の所持品を空間に仕舞うには対象の所持品が可視できる範囲に無ければならないことが分かった。






 スコップは捨てることができた。再習得も可能だったわけだが、あからさまに重要な品を捨てることはできるだろうか。


 私が持っている所持品の中で今のところ最も重要そうなもの。それは当然この本である。


 こんな本は要らない。そう念じてそれを地面に置く。やはり、消えない。


 続いて、どうせ大丈夫だろうと確信した上でのいくつかの実験を行った。


 本をしばらく噴水にけた。だが、水から出した本は全くれていなかった。


 次に、本を引き裂こうと、真ん中くらいのページを開いて、背表紙から裂くつもりで引っ張る。だが、本はびくともしなかった。


 予想通り、この本は破損、紛失ふんしつの恐れは無いらしい。


 ついでに、この本が空間から出し入れできるかどうかも確かめた。いつまでも持ち運ぶのは不便なのだから、収納可能であるようで私は胸をで下ろす。






 そうして、特権Ⅰに関する検証を私は終えた私はそれらを振り返る。大まかに言って、六つ程度、特権Ⅰにおけるルールが分かった。


 一つ目。ストックできる物品かできない物品かは、本による明記されていない仕分けに従う。その基準は、私の旅においてそれが直接的に役に立つかどうか。


 二つ目。液体はそのままではストックできない。布に沁み込ませることでストック可能。容器に入れることでもストック可能であると推測される。布や容器といった、液体を収納するための器はそれ単体ではストックされず、カウントされない。


 三つ目。ストックできる物品は、その手で触れるとストックされる。念じるだけで自由に出し入れできる。仕舞う際は、自身の可視できる範囲に存在しなくてはならない。このルールは、武器の類を見つけたときに最も本領を発揮するだろう。


 四つ目。同様の物品はスタックされる。消耗品のスタック方式の穴がやたらに大きく、あてにならなかったことから、スタック機能は信頼できない。自身で常に把握しておく必要がある。物品の痛み具合も表示されないので、自身で常にチェックしておく必要があるだろう。


 五つ目。所持品は捨てることが可能。収納した状態でも、その場に出した状態でも、念じるだけで、消える。それらはそれを最初に拾った位置に再出現する。消耗品は恐らく対象外。途中で壊してしまった物品は壊れた状態のまま初期位置に戻されると推測される。


 六つ目。重要な所持品は捨てられない。紛失からも損壊からも何やら特殊な力で守られていると推測する。それが特権Ⅰによるものか、その物品自体によるものかは不明。逆説的に、それを利用することで所持品が重要なものかそうでないかの判断が可能。






 他にも試す必要がありそうな、様々な不安要素はある。敵が現れたとして、敵に奪われた自身の所持品に、特権Ⅰは適応できるか等、挙げればきりが無い。


 だが、それらはどれもが、今は試せない。もしくは、今試す意義は薄い。


 それに、実際に必要に迫られて使ってみることでそれらは試せるだろうし、また新たな不安要素が出てくるかも知れない。


 慎重であることは重要だ。しかし、それが過剰であれば、かえって足を引っ張る。


 この旅にいて私に与えられた時間は無制限か、制限があるか。あるとすればそれはどのくらいか。それを私は知らないのだから。


 私は本を開いた。何も書かれていない白紙のページのうちの一つを開いた。


 そして、下(くちびる)み、にじみ出た血を爪の先に付けながら、文字を書き入れる。天に叫んでみても無駄だろうから。


【私に与えられた時間に限りはあるのか?】


 ……。


 返事は、無い。


 そう思って本を閉じ、空間へ仕舞おうと念じようとしたところで、本の表紙が光を放ち、また、表題タイトルに変化が生じた。


【 "revelation of imitation" 】


 そういうこと、か……。


 それは私の問に答えているようで、実のところ答えていない。その文字列の意味は、"啓示擬けいじもどき"。


 私の問いかけには一切答えないが、一方的に情報は与えるという、半端な啓示ということだ。


 つまり、特権Ⅱは、神を名乗る者から私への、完全な一方通行の情報開示、啓示、誘導でしかない。


 だから、残りはおいおい、把握していけばいい。必要最低限はこれで把握できたのだから。


 そうなると、特権Ⅲなんてものがどうして用意されているのか、私は気になった。


 以前の私はどういう意図でそれを用意したというのだろうか……。他の二つは大なり小なり、私にメリットがある。だがこれには、分かりやすいメリットの類は無い。垣間見ることもできない。唯のデメリットにしか見えない。


 諦める権利を与えられた、と考えることもできるといえば、できるが。


 契約をしてしまった地点で、自発的に積極的に降りることは本来できないが、それをできるようにこれを入れたということだろうか?


 結局のところ、推測の域を出ない。


 私は以前の私ではない。実質別人と考えてもいいだろう。その意図が分からない以上は。


 以前の私は、一体、どんな人物だったのだろう。抱いていた願いは何だったのだろう。どうして今の私に旅をたくしたのだろう。


 私はまだ、私自身をよく分かっていない。だから、まずは自身について知っていかなくてはならない。


 そして、自身というものをつかんだ上で、以前の私を知っていきたいと思う。そうしなければ、以前の私について、理解することはできないだろうと感じているから。


 特権Ⅱと特権Ⅲの性質からいって、彼が唯、私に何もかも好きにしろと放り出した訳ではないことは明らか。


 そこに意図がある。こうして欲しい、こう動いて欲しい、という意図が。


 直接的ではないが、私を何かしらの方向性へと誘導する意図が。様々な知識と、第三者視点での様々な場面の映像が残されていることからしても間違い無いだろう。


 本当に好きにさせるというなら、何も与えない状態で放り出すのが一番。そうすれば、私は自然と私の像を作り出し、把握し、好き勝手に動くだろうから。


《[ "revelation of imitation" を手に入れた ]》





 得ずして、全ての特権の検証考察を終えた私は、この旅の自分自身のための目的までも見つけることができた。


 非常に楽しめたし、予想だもしない収穫もあった。有意義な時間を過ごせたと言ってもいいだろう。


 おまけに、特権Ⅰの概要を把握したことで、扉の()()への対応策もたった今、用意できた。


 あとは、覚悟してあの困難に向かい合うだけ。苦行にならないように策を駆使して挑むだけ。

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