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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第三章第四節 精神唯存揺篭 ~断裂浮遊島群~

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精神唯存揺篭 浮遊島群 未だ尾を引く後悔の島 (秋) Ⅴ

 三つの影と食器と食事が再生され、再び場面は再開される。


 いや、少し違うか? 料理は先ほどの食べかけの状態では無い。そして、皿に乗せられている料理の種類も違う。


 先ほどとは別の時間の出来事であるようだ。前であるか後であるかははっきりしないが、そう離れた時間の出来事でも無さそうなのは、小さな影の大きさが先ほどとさほど変わらないことから明らか。


「このままでは、お前を、お露目の場に出せはしない。お前の姉であれば、たとえお前と同じ障害を持っていたとしても、今のお前のような無様な姿をさらすようなことは無かった」


 推測でもなく、断定か、これは……。


 小さな影の大きさは先ほどまでとさほど変わってはいないように見える。先ほどまでのものも含め、こんな幼な子に投げかける言葉とは思えない……。


 ガラッ、ドン!


 それは子が倒れ、


 バン!


 小さな影が、机を叩く。


「お父様、では、どうしてこれまでお姉さまをあんなにもさげすんでいたのですか! どうして、私ではなく、お姉さまを常にけなしていたのですか……。どうして、お姉さまが自由を求め、覚悟の上で出した最後通(ちょう)を無言で破り捨てたのですか。家を出ると最後に言いにきたお姉さまをどうして、止めなかったのですか……」


 ノイズが酷かったが、音が大きかったため、内容ははっきりと聞き取れた。それはきっと、悲壮な叫び。控えめな幼女、白羽根が心に封じ込んでいた想い。


「どうせ、答えて……くれないのですよね、お父様、お母様……」


 そう言って、白羽根の影は立ち尽くす。


 すると、


「気付かなかったのか、お前は。お前の姉は、お前の為に自らの持つ才能を、力を、常に抑えて」


 父親の影の言葉の途中で、時は止まった。


 そして、消え去る影と食事と食器。子も最初と同じように、絨毯じゅうたんに同化していった。


 そして、現れる扉。影がこの部屋に入ってきた位置にそれは現れた。黒茶色の木製の二枚扉。一枚当たりの大きさは、縦2メートル程度、横1メートル程度。板チョコのブロックのような模様が扉全体にられている。


 中央部の取っ手は、縦長のコの形になっていた。私はそれに手を掛けて引くと、そう重くはなかったためあっさり開く。そしてそこから出て、扉から手を放すと、すぅっととびらは消えて、周囲と同化した壁になった。


 そして、前を向くと、


「行きましょうか」


 平静を取り戻したらしい悪魔少女が立っていた。だが、その顔から表情は薄れている。まだ本調子では無いということか。ならば、変に逆らうのは不味い。


「ああ」


 だから従うことにした。


 私たちはろう下を歩き出した。






 白く磨き上げられた板状の石で囲まれた、高い天井を持つ直方体の通路を私と悪魔少女は進んでいた。幅は2メートル程度、高さは3メートル程度。前後に延々と道は続いているが、この場所での私の初期位置から西へと私と彼女は進んでいた。


 周囲は少々暗めだった。照明の類は無く、窓も見当たらない。それでいて天井がうっすら見える程度の視程がある。前後も同じように、3メートル程度先までは見えるが、その先は見えない。


 コツリ、コツリ、コツリ、コツリ――――。

 コツリ、コツリ、コツリ、コツリ――――。


 反響する私と彼女の足音。物音はそれ以外一切しない。


 すると、沈黙を嫌ったのか、ほぼ素面で、元気の無いように見えていた悪魔少女が口を開いた。


「これね、嘘なのよ」


 まるで独り言のように突然そう切り出してきた。


 私に話し掛けているのだということに気付くのに少しばかり時間が掛かった。私の方を向くのではなく、上を向いて、ぼそりとそう言ったから。


「……、嘘?」


 全く意図が分からない。だから取りえず、沈黙を避ける為にオウム返ししたのだが、


「ええ、嘘。これは、私が家を出た後の話。残った妹の話。ここでいう嘘というのはね、あの大きな二つの影の言葉」


 どういう訳か、ちゃんと会話が成立する。これまでの彼女の受け答えからして、あまり良くない手ではないかと思っていたが……。


 だがまあ、答えが返ってきたということは、どうやらこれでよかったらしい。


 コツリ、コツリ、コツリ、コツリ。

 コツリ、コツリ、コツリ、コツリコツリコツリ、スッ、ザッ。


「ねえ」


 突如、彼女が私の前に回り込み、私の前に立ちふさがる。


「どうした? 私の前に立ち塞がるように立ち止まって」


 仕方なく私は足を止めてその意図を問いただすが、


「貴方はあの場面を見て、どう思った?」


 そう疑問を投げかけてきた彼女の目の奥に憎悪が見えた。


 意図を彼女に読まれないようにしつつ、私は考える。


 これはきっと、間違ってはいけない問いだ。意に沿った答えができなければ、終わりだろう。とはいえ、そう難しい質問でも無い。彼女が求めているのは、恐らく、自身の出した結論を支持してもらうこと、補強してもらうこと、同意してもらうこと。


「君の両親は、嘘をついている。そして、それは悪い嘘だ。君や、君の妹にとって、悪影響を与える、毒のようなうそだ。そして、それが毒だと彼らは気付いているが、計り間違えて使用している」


 あそこで見せられた光景が、彼女によって編集されたものであるとするならば、これが答え。敢えて具体的なことは言わない。それは墓穴をることと同じ。


 全体的に、あの場面事態が嘘っぽかったことについては口にはしない。心の表層には浮かべない。


 だが、彼女は賢い。時間を長く与えては、色々気付かれる可能性がある。だから、


「そんなところだ。合っているかな?」


 これが質問ではなく、答えのあるクイズであると気付いていることをそれとなくにおわせた。こうすればこの話は終わる。


「……。そうよ、その通りよ。第三者から言われると、……きつい、わね」


 まだ少し引きっているが、思っていたよりは大丈夫そうに見えた。


 彼女は顔を上げることなく、下を向いたまま、先行して歩き始めた。私は、そんな彼女の横顔が視界に入ることのないように、少し後ろをついていった。





 パララララ……。


 突如、足場の断片が崩れ、落ちていくような音がして、立ち止まる。そして目に映る延々と続く通路の光景が変わっていき、現れた通路の終わり。


 断(がい)絶壁が前方には広がっていた。どこまでも続くように見えた長い通路が突如途切れたのだから。


 彼女はその延長線上に足場も無いのに、立っているかのように浮いている。青い空と、その向こうに灰色の散り散りになった雲が見える。


「あれを見て頂戴ちょうだい


 彼女が手をかざし、遠くを指差した。


 雲の中にある、石の塊のような、島というには小さすぎる浮遊島が目に入った。まるで十字架に空気を入れて膨張させたような形をしている。


「次に向かうのは、あの島。貴方は条件を満たしたの。そして、当分はあの子は復帰できない。だから、貴方一人で島々を巡ってもらう。構わないわよねぇ。詳しくは、次の島で説明するわね」


 口調の抑揚はついてきたが、表情は乏しいまま。


 どちらにせよ、その提案には従うしかない。白羽根には今は頼れない。私ができることをやるだけだ。


「ああ」


 そう言った途端、周囲の風景が割れて崩れ、


 ブゥオン!


 暗くなって、


 ブゥオン!


 転移した。

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