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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第二章第五節 原始の箱庭 ~禁忌を犯した者~

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神秘庭園 中央広場 Ⅶ

 私は荒野を通り、庭園への長い通路を通って、庭園の中央広場にいた。


 あの王の間から私が出た途端、あの場所への出入り口はすぅっと消えた。そういうものだったのだろう。あの悪魔が消えたから、あの空間が維持できなくなったのだろう。


 だが、それでいいかもしれない。二人の遺品は永遠に共にあり続けるのだから。


 庭園と原始の箱庭をつないでいた通路の庭園側にあった件の門。ここに生えていた人形たちは跡形も無く消えていたのには安心した。


 あれは本当に気味が悪く、心乱されるものだったのだから。


 そんなことを考えながら、ハンカチへの蛍色の液体の補充を済ませ、次の目的地への準備を進める。


 そして、これがやっておくべき最後のこと。私は噴水ふんすいふちを背もたれにして座り、神から授かったあの本を開いた。流石に何か追加の記述があるはずだ。






【demon of "physiological" (not devil)】


【他とは隔絶せし思考形態を持つ、集団より弾かれし異質の男。】


【転生者たる彼女との解遁かいとん。】

【彼女の出現による集団の変貌へんぼう。】



【その二つが鍵となり、彼の運命は変わる。】

【彼は彼女によって許容されることで、その閉塞へいそくした運命から救い出される。】


【己が道を開いてくれた彼女に報いる為、彼は能力の限りを尽くす。】

【やがて彼と彼女は結ばれ、生涯互いを支え合うことを誓う。】


【彼女と出会うまでに彼が負った心の傷、いやすことができるのは彼女のみ故。】

【彼と出会うまで誰にも心を開けなかった彼女の孤独、埋めることができるのは彼のみ故。】


【しかし、彼の思いは長い年月をかけて肥大化し、変質する。】


【大きく成長し過ぎた自身の思い。】

【彼はいつしかそれの制御を失い、暴走を始める。】


【彼女のために彼女を利用するという矛盾。】

【彼はその正体に気付けない。】

【自身のために彼女を利用していることに気づけない。】


【土着の原始宗教の概念に彼女の世界の宗教概念を混合する。】

【巨大化した集団内にそれを浸透しんとうさせ、信奉させた。】


【悪魔召喚術、代価を伴った契約による悪魔の使役という法。】

【彼は曖昧あいまいであったこの世界の悪魔概念を強固に浸食し、定義した。】


【故に彼は悪魔契約者へとつ。】


【その後も一方的かつ妄信的に、彼女の為として事を成す彼。】


【過ちは止まらない。】


【契約せし本能の悪魔の権能、自ら作りし契約の穴をき、奪取する。】

【彼は人としての生を捨てた。】


【彼女と永遠を共にしたいと願った彼は、彼女に朽ちぬ肉体を与える。】

【だが、彼女にその想いは理解されず、拒絶される。】


【自明の理たるその理由に彼は気付けない。】

【彼は彼女の前から逃走した。】


【彼の心に入りしひび。】

【それに加え、本能の悪魔の権能。】


【二つは彼に気づかせる。】

【遅ばせながら、全てが手遅れながら、気付かせられる。】

【何をどこで間違えたのかを。】


【彼女という理解者との解遁、本能の取り込み。】

【それは彼に心を理解させてしまった。】

【愚かにも彼はそれに気づいてはいなかった。】


【彼女との決別により、彼はひび割れ感じた。】


【そして気付いたことで、砕け散った。】


【そうして虚ろで空っぽになった彼。】

【異形の城で己を亡ぼす裁きを待つ。】


なんじ、彼女の言葉と想いを彼に届け、壊れし彼に永遠の安寧と終わりをもたらした。】






 それを見て考え込む。"devil"ではなく、"demon"。"悪魔"という意味のこれら二語は、厳密には違う意味を持つ。


 "devil"とは、神と人の間に位置する、間の存在としての悪魔。人と神の間に位置する存在であるという意味である。


 "demon"は、神と悪魔の対比としての悪魔。神に対する悪魔。神と同様、悪魔は人とは隔絶した存在であり、神に敵対する者であるという意味である。


 敵対者、つまり、私のターゲットそのものの一体であったということを強く示す為に、わざわざ、"demon"と記したのだろう。


 私は一度本を地面に置き、大きなめ息を吐く。すると、本が光を帯び始め、


 パラパラパラパラ――。


 ひとりでにめくられ、それが止まったところで開かれていたページ。そこには、


なんじ、"physiological"の権能、我が手に回帰させた。】

【よって我、なんじ褒美ほうびを授ける。】


【最後のページを見よ。】


 そう書かれていた。その言葉に従い、最後のページを私は開こうとする。そこはストックした道具の種類と量が示されているはずだが――――大きく変化が生じていた。






【所持品一覧】

 |__【道具】


    【"revelation of imitation"の書"】

    【"青の水晶球"】


 |__【武器】


    【"錆びた金属製のスコップ" 耐久度3/8】

    【"原始の弓" 耐久度98/122】


 |__【使用可能限度保有消耗品】


    【"灰色の小石" 10個】

    【"緑の代用紙片" A4用紙両面12枚相当】

    【"黒曜石の抜けない短矢" 18本】


 |__【補充可能消耗品】


    【"蛍色の液体" 残量100/100 使用容器耐久4/8(ハンカチ)】

    【"インク" 残量100/100 使用容器耐久46/50(黒枝樹液筆)】


 他のページくま無く確認してみた。しかしそれ以外には、新しい記述は何もなかった。私の知りたかった、次の目的地である青の台座の先に待っている場所の情報を何か知りたかったのだが……。


 どうやら私はまた手探りでの探索を強いられることになるらしい……。






 だがそれでも、変(ぼう)を遂げたこのページはかなり有用。新たに手に入れたそれを私は考察する。


 前よりも格段に見やすくなっている。まるで私の意思でも反映したように丁寧に几帳面にまとめられている。しかし、アバウトなところはアバウトになっている。紙の分量表示とかは特に。


 そして明らかになった私にとって都合の悪い事実。


 耐久度……。


 つまり、武器はこれまでたまたま壊れなかっただけ。耐久度があるということは、もうこれまでのような無茶な使い方はできないということだ……。


 今私が所有する武器はスコップと弓しかない。矢も石も心もとない残数しか無い。基本スコップに頼ることになるのは間違いないだろう。


 だが、耐久度を見る限り、そんなスコップよりも弓のほうがはるかに丈夫……。逆ならよかったのだが。


 いや、だが、そもそも耐久度1が物によって尺度が違う可能性もある。


 スコップの耐久度1は弓の耐久度50に相当するとか。


 だから耐久度は現状、あくまで目安にしかならない。できることはおそらく、頻繁ひんぱんに耐久度の確認をするようにすることぐらいだろう。


 だが、このスコップ。あとどれほど持つ? この耐久度の1がいったいどれだけ使用すれば減るか分からない。また、それをテストするなんて余裕もない。


 壊れたらそれで終わり? 補強するなどして耐久度を上げることは可能なのだろうか? 耐久度を回復、つまり修理する方法はあるのか?


 疑問は挙げればきりはない。そしてこれらの疑問を早期に解決しなければ、私に常に不意の危険が付きまとうことになるのだ。





 泉の水で頭を冷やし、今一度考える。


 よくよく考えてみると、全ての品に耐久度がついている訳ではない。耐久度がない品もある。


 道具と補充可能消耗(しょうもう)品の中身がそれにあたる。消耗しょうもう品の容器に耐久度が設定されているのには参る。


 補充回数に制限があると言っているようなものなのだから。この耐久度は補充時に減るのか、使用時に減るのか、時間経過で減るのか。


 それによってだいぶ意味合いが変わってくる。一先ず、今度補充するときに耐久度の変動を確認して見極めることにしよう。


 使用可能限度保有消耗品は時間経過での劣化や破損、消失は無いだろう。そう思いたい。


 条件次第では再回収できない形に壊れることは、"灰色の小石"をもん様を書き込んだ断片で粉々にしたときに確認済みだ。






 総括そうかつすると、本の内容が私の望む方向に補足され、不自由が減った。


 だがそれでもまだ色々と不十分だ。


 てっきり所持品の効果などが表示されるくらいあってもおかしくないと思っていたが、そんなに都合よくはいかなかった。


 蛍色の液体の効果でも表示してくれれば、だいぶ不確定要素が減るのだが。拾ったものの効果が分かるようにでもなってくれれば有り難かったのだが。


 め息を吐いて、気持ちを切り替える。ただくよくよ悩んでいても答えが降ってくることなどないのだから。それに無いものねだりに意味は無い。


 私は本を閉じて仕舞って立ち上がり、青のくぼみのある台座へと向かった。

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