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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第二章第五節 原始の箱庭 ~禁忌を犯した者~

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原始の箱庭 人肉臓骨血殿 不干渉闘技空間 Ⅲ

【おかげで、あの部屋に居た場合よりも簡単な条件で、100秒の間に勝利への線を引くだけでよくなった。】


 悪魔は延命のためにとうとう声も出さなくなったが、私の文章から目をらす気配は一切なかった。首にひびが大きく入っても、頭を下げるつもりは無いらしい。頭だけになっても最後まで私の作戦を聞くつもりのようだ。


 この空間に来て初めて、粉砕断片の試験運用をしたことも当然伏せた。


 ここであれば目の前の悪魔以外の視線は存在しないのだから、安心して試すことができる。だが、それ以外にもやることがあったため、そうゆっくりはできなかった。


【100秒カウントが始まり、私は貴様から50m程度の距離を取った。そこで靴(ひも)を結び直した。転倒し、失敗しましたなんてことは絶対に避けたかったからだ。距離を取ったのは、貴様にじっと見られるのは嫌だったからだ。こういう、しょうもない意図で行動するということも、相手を攪乱かくらんさせるには有効だ。】


 そういう意図もあったが、それは主目的では無かった。


 私はしゃがみ込んで靴のひもを結び直しつつ、右手に"灰色の小石"、左手に、もん様を書き込んだ断片をひっそりと出した。当然、断片はもん部分に触れないように、端を握っている。


 かかとを浮かせる振りをしつつ、靴の下に小石を置き、その上に断片のもん様を触れさせる。すると、小石は瞬時にちりとなった。


 私は賭けに勝ったのだ。


 私の契約の書の白紙の断片は、特殊効果を持ち、それは"黒砕紋肉刀(ナイフ)"の特殊効果と酷似こくじしている。


 そう判明した。そして、当初の理想の予定通り、その残数は2つ分確保できた。だが、その様子は一切顔に出さない。薄灰色の地面で、基本白地の断片は目立つため、回収した。それは念のため、使わないことにする。効果が何度持続するかまで実験する余裕は無かったから。


 石はそのままちりとなって消えたので特に問題は無い。






【思ったよりも時間が掛かってしまったよ。砂時計の砂は既に3分の1程度落ちてしまっていたからな。】


 悪魔は首に入った大きなひびにより、首を動かすことができなくなっていた。だから私は、悪魔の目の前に文章を書いた紙を垂らすことで読ませた。


 悪魔は読み終わったことを紙から目をらすことで私に伝えた。


 砂時計で時間を把握していたのではなく、自分でカウントしていたことも、時間間隔が鋭いということを隠すために伏せる。


 伏せ札はできるだけ多い方がいい。意味無さそうなことでもできるだけ伏せておくべきなのだ。


【ここからが時間の勝負。もんを叩き込んで、私は貴様を仕留めなくてはならない。そのためには、貴様の気をらすための手段を用意しなくてはならなかった。また、貴様が尻尾の槍を使って私を貫こうとする動作を阻害する手段も必要だった。】


【はじめは二つ同時に満たす、えた一つの方法を考えていたが、砂時計が100秒カウントを始めたとき、片方を満たす方法を二つ並べてばいいということに気づいて、それを採用した。】


 えた一つの方法何ぞ、最初から最後まで私は用意していなかったが、そう言っておくことにする。まあ、聞かれたらそれっぽいことを言えばいい。それも、穴のあるやつをな。


【一つは、見せ札。もう一つは切り札。私は、見せ札で貴様の気をらし、切り札ですことにした。】


【貴様が召喚したカウント用の砂時計へ、靴(ひも)を結び直した私が向かっていくのは貴様も見ていただろう? 残り時間全部を使って、矢を開始と同時に発射するためだけに動いている振りを私はした。一切の仕込みをしていない振りを。今やっていることが、決闘開幕の初撃の全てである風に見せ掛けた。】


【私は私は直感していたのさ。勝負が始まると砂時計が消えるだろうと。砂時計は貴様の所持品なわけで、私が利用するとは思ってもみなかっただろう? 私はその陰で準備を進めた。貴様は砂時計から私を知覚して監視するなんてこと、絶対にしないと確信していたからだ。】


【だが、それが仇となった。貴様は何も気付けず、開始早々、強力な矢に襲われ、それを防ぐために動き出すのが遅れた。おかげで私は、見せ札の設置と並行して、切り札の設置まで済ませることができたのだから。】


【後はもう、分かっているだろう? 弓に一本セットした矢。その矢に例のもん様を、自身の手の甲を切って出した血をのり代わりに、矢の先端辺りと、矢の柄中心辺りに張り付けた。】


 するとそこで、


「【いや、一つ分からぬ。どうして貴様はあのような方法で矢を放った?】」


 悪魔はしばらく閉じていた口を開いた。そして、悪魔の首は、胴体から取れて、ごろんとその場に落ちる、首から下は全て、ちりへと変わった。


 "砕黒紋肉刀(ナイフ)"が地面に転がるが、私はそれをすぐさま拾い上げるのは念の為、控えた。






 悪魔が投げかけた疑問に素早く回答する。


【見せ札である、弓矢頼りの一撃奇襲(きしゅう)をより大袈裟おおげさにする為だ。"白の髪縄"を使って矢を上手いこと砂時計の支柱と支柱にくくり付け、びくりともしない位に強く固定し、弦に矢を引っ掛けて、普通に引く場合の限界よりも遥かに強く、全身を使って私は矢を引いた。しかも、砂時計の影となって、貴様に見えない位置取りでな。】


【砂時計に実態があることは、あのときの矢の一撃で確かめてあった。そして、決闘が始まると、きっと砂時計は消えると私は予想していた。】


【砂時計の位置は、貴様から20m程度しか離れていなかった。つまり、これで狙いの向きさえ定めておけば、始まった瞬間の砂時計消失と同時に、私が引くよりもずっとずっと早い速度で矢が放たれる。】


【決闘条項二によって、貴様はそれを避けるか掴むか払い退けるか、尻尾槍で迎撃するかしか無かったが、貴様はまさかの、私の想定の中で二番目程度に都合の良い、手で直接掴むという方法を採った。】


【だからこれは、当然の帰結。それに私はこの紋がこれまでの他の悪魔に例外無く通用したことから、貴様にも当然通用すると思った。とはいえ、その効果の程度は分からない。】


ちりにする、若しくは、石にして光に返す、それかはたまた、別の効果が出始める。どれであるとしても、貴様をその状態にするまでにどれだけ時間が掛かるか分からなかった。】


【要するに、貴様が何やらの方法でもん様に触れて、貴様がちりになり、貴様の負けと、契約が判断するまでにどれだけ時間が掛かるか、それまで私が時間を稼げるかが問題だった訳だ。】


【砂時計を利用した不意打ちによって、飛んでいく矢。それと並行して、私は緩やかに地面方向に向かって時間稼ぎの策を追加した。】


【砂時計が消える直前、弦の端で弾くように、メインで引いている矢とは別に、密かに前もって、2本同時に、ひっそりと矢を放ったのだ。2本であれば紫雷は発生しない。だから、メインの矢に気を取られて、確実に私の姿を見落とす。そう思った。】


【後は、それが、貴様の元へメインの矢が到達する前に着弾し、矢の速度を変則させる。減速させることなく、加速させる。メインの矢も、発射した者の一部と判断していたのだから。二本の矢が放たれる段階では、まだメインの矢は私が触れていた。】


【だから当然、二次的影響な、吹き飛ばす風の影響を受けて、矢は加速。その上、私の姿は完全に覆い隠され、私も吹き飛ばされる。】


【まあ、他にも策はあったが、そこまでであっさり終わった。貴様の迎撃策次第ではまだまだ続いたかも知れないが、それならまた別の手でほうむるまでの話。そういうことだ。】


【さてと。代価は支払ったぞ。"砕黒紋肉刀(ナイフ)"を渡せ。】


 私は悪魔の生首に向かってそう言った。






「【抜かしおるわ! 貴様は二箇所、意図的に嘘といえる発言をした。よって、そいつは渡せん! 欲を出すからそうなるのだ。弁解の時間はもう残されておらぬから、あきらめよ。】」


 砕けていきながら、悪魔はいきる。


 全部では無いがばれていたか……。少々欲張り過ぎたかも知れない。さすが悪魔というべきか。嘘には鼻が利くらしい。


 だが、まあ、仕方ない。最低限果たさなくてはならない目標は達成した。それに、


「【ふははははははは……】」


 そう悪い気もしない。


 それなりに楽しかったぞ、私も。


 そう、心の中で私はつぶやく。そうして、高笑いと共に、"闘争"の悪魔は砕けてちりとなって消え去った。






 私は周囲の風景が歪んで変わっていくのを見て、ぱっと気持ちを切り替える、頭を冷やし、客観的になる。


 そうしてこの悪魔との対決を俯瞰ふかん的に重い返し、思う。


 強者はこれだから駄目なのだ。勝率を高める努力を放()する。


 そうやって、自身が冷静になっていることを確かめながら、肉刀ナイフを出して構える。そして、新たな場所、"本能"の悪魔のいる場所へ転移し終わるのをじっと待った。

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