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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第二章第五節 原始の箱庭 ~禁忌を犯した者~

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原始の箱庭 人肉臓骨血殿 不干渉闘技空間 Ⅱ

 悪魔が私に疑問を投げ掛け、それに紙切れを使って答えるという形で種明かしを行うこととなった。これは少々都合が悪い……。


「【汝の左手の甲の中央部。決闘開始直後から、決着が付くまでのわずか数秒の間であったが、少々血が出る程度の新しい切り傷がそこにはあったな。】」


【ああ。】


「【右手の爪を立ててさっとつけた傷であり、私を打ち倒したかどうかの判定のためであろう。】」


【まあ、半分正解というところだ。これは、分かりやすい視線の誘導でもあったのだが、それには気付いていなかったようだな。】


「【では、最初から、ざっとでいいから話してくれないか。何か分からないことがあれば中断させるが構わないな?】」


【ああ。】


 そうして、何とか、子細を全て話さなくていい状態へと持って行くことに私は成功した。私は全てを悪魔にさらけ出すつもりはないのだから。


 この悪魔が情報封鎖できると豪語しているとはいえ、この悪魔が知らない穴が無いとは限らない。特に、こいつの上位、主である"本能"の悪魔。そこに幾らか情報が行くことは実際のところ、免れないだろうと私は厳しめに見積もっている。


 どうしてもらしたくない情報は隠し、その上で悪魔を納得させて生き延び、あの肉刀を手に入れなくてはならない。






【では、順を追って説明していく。】


 紙に書いたことだけが、悪魔の知る情報となる。


【私には、正攻法で貴様に勝つ手段は無いと思った。だからこそ、からめ手でめたのだ。その始まりが、決闘の申し込み。決闘の申し込みが通り、条件決めが終わった地点で勝利への道筋はできていた。】


 間を開けることなく、詰め込む。


【色々なものを組み合わせて、不意の一撃を与える。そう決めていた。だが、それは一撃で勝利をつかめるものでなくてはならなかった。】


 一際早くペンを走らせ、私は一つの絵を描いた。そしてそれを悪魔に渡す。


【そのための手段が、これだ。】


 私が悪魔に提示したのは、1辺3cm程度の正方形の紙の断片。そこに"砕黒紋肉刀(ナイフ)"の紋様を筆記具で書き込んだものである。


「【成程成程、ふはは……。確かにそれであれば私を仕留められるな。】」


 悪魔は大きくわらった為、あごに大きなひびが入る。


「【だが、紋様を触れさせなくては不可能だろう。どうやって私に気付かれないようにそれを付着させた? まさか、あの矢か?】」


 それなりにある程度は察しがいいようだが、それでは足りない。届かない。だからこそ、貴様は負けたのだ。


 私は心の中で勝ち誇る。


【それなら、開幕私によって放たれた矢を貴様がつかんだ地点で勝負は終わったはずだろう?】


 紙切れにはそう書いて、私はにやりと笑った。






もん様を刻んだ断片を作ったのは、今にも私に襲いかかろうとしてきた貴様に対し、決闘の申し出をするために筆を走らせる直前のこと。】


 私は悪魔に、私の契約の本の白紙の、端が千切られたページを見せた。


【ここから千切って用意した。】


【私は紙片とペンを出した後に貴様の前へ回り出た。つまり、その直前、仕込みをするすきがあった。そういうことだ。】


【あのとき私は、このページの端を千切り、そこから一辺3cm程度の断片を2つ作成した。"砕黒紋肉刀(ナイフ)"の刀身に刻んであった文様を思い出しながらそれらに書き入れ、さっと空間に仕舞った。そして、貴様はそれに結局気付くことは無かった。】


「【ほう。成程成程。勝負は始まる前から始まっていた、か。】」


【ああ。その通り。】


 どうやら私の心の中は上手いことばれていないらしい。今のところは。


 ぶっつけ本番での、もん様を書き込んだ紙片の作成。それは腕一本失うかも知れない、いやそれ以上の被害が生じるかも知れない危険な行為だった。


 私はもん様について詳しく知っている訳ではなく、契約の書の白紙のページに書き込んだとき、どのような効果があるかどころか、効果の付与がされるかされないかすら、知らない状態だったのだから。


 しかも、それらに効果が付与されたか、その効果が何であるか検証する必要があったため、私は契約の本の他のページからも、もん様を書き込んだ紙片を作成していたのだ。


 契約の本の更に他の頁からも千切って断片を作ったことと、この後、断片の効果をひっそり実験して、それが成功してようやく、それを切り札として使える状態にできたということは、悪魔から秘匿ひとくした。


 こういったとっておきを常に幾つも抱え込んでいると思っておいて欲しいから。






 悪魔の手足がすっかりちりと化して消えていた。私は少々説明の速度を上げる。思っていたよりも時間が無いのだから。


 あの肉刀ナイフが手に入らないだけではない。


 説明を終わらせ、悪魔を納得させなければ、私は死ぬ。自身がちりになっていく様子なんて見せられ味合わされたら、心がきっと、自身の死を強く認識してしまう。そしてきっと、私は消える。


【1時間もの決闘準備時間の間には、これまで試せなかった弓矢の効果範囲、他の所持品との組み合わせによる効果の向上などを試した。折角の機会だったからな。これを活かさない手はなかったよ。】


 紋様を書き込んだ断片の試験運用を密かに行ってしまいたくてたまらなかったが、我慢していたことは当然伏せた。


 そして、あそこで人形相手にした実験は全て見せ札であり、その際()()()()()()()()()()()()()()()見せ札としての派手なものであったことも伏せた。


 それらは、決闘相手であるこの悪魔の警戒けいかいと、本体への情報を極力伏せるためのものであることも当然伏せた。


 これは私にとって、これは"闘争"の悪魔との決闘であり、それと同時に、この悪魔の主、"本能"の悪魔との情報戦であったから。






 決闘が成立し、1時間の準備期間を得た私ではあったが、紙に書いたもん様の効果を先ほどの空間ではどうしても試すわけにはいかなかったのだ。


 私がこの世界で手に入れたものについてどこまで知っていてどこまで知らないか。それを知られるのは何よりも不味かった。特に、こういう、一度もまだ見せていない切り札として使う場合は特に。知られていれば対策されてしまう。


 そして何より。私がこんな賭けのような方法で切り札を作り出す者であるということが本体に知られることだけは何があっても避けたかった。


 私はこの、"闘争"の悪魔にではなく、"本能"の悪魔への不意打ちのチャンスを減らしたくなかったのだ。


 この悪魔自身の意志に反する形で、私がぶっつけ本番の実験をしている様子を見られ、知られてしまう可能性は大いにあると感じていた。


 そもそも、あの場にあった人形。あれは誰が作ったものだ? それが答え。


 人形を破壊した際に人形が目に映ったものや体に受けたダメージの種類など、体に刻んだ情報を悪魔たちが受け取るようなフィードバックがある可能性を一番警戒けいかいしていた。


 人形経由から何かばれる。そう私は踏んでいたのだ。


【決闘場所があの人形保管庫でなくて良かったよ。大量の人形があそこには未だ残っていて、それらが襲ってくる可能性が消えたのだから。】


「【ふっ。心配せずとも、あの場にもう人形たちは居らぬ。全て、貴様の為の実験空間に放り込んだからな。あの部屋だけでなく、ここの全ての人形共を放り込んでおいた。主がまた人形作成しない限り増えることは無い。そして、その材料はもう無い。だから、安心しておけ。】」


 予想外の、私に都合のいい計らい。だか、私はそれを受けて警戒けいかいゆるめたりしない。無為に情報をいたりはしない。

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