表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第二章第五節 原始の箱庭 ~禁忌を犯した者~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/184

原始の箱庭 人肉臓骨血殿 不干渉闘技空間 Ⅰ

 私はすっと目を覚ます。そして立ち上がると、腕組みした悪魔が、砂時計の傍に腕を組んで立っているのを確認したので、私はそこまで歩いていった。


「【眠る時間があるとは。さぞ準備は十全にできたようだな。】」


 いつの間にか正面に立っていた悪魔の問いに、座り込んだままの私は縦に首を振った。出来る限りの範囲でやり尽くしたという意味では十全だ。嘘は言っていない。


「【では、決闘の場へ、案内しようではないか。】」


 そして、


 ブゥオン!


 その音と共に視界が真っ暗になり、


 ブゥオン!


 再びしたその音とともに、新たな光景が広がっていた。


 真っ黒な空間が広がっている。何もない。私と目の前の悪魔以外には。地面まで、周囲の風景と全く同じ、黒色。


 だが、何もない空間に浮遊しているという訳では無く、地に足ついている感覚はある。 悪魔の姿がくっきりはっきり見えることから、視程の短い暗黒空間ではなく、真っ黒で広さの分からない空間にいるのだと考えることにした。


「【おっと。足元が見にくいか。】」


 悪魔が私の意図をみ取ってそう言うと、灰色のどこまでも平坦な、一切の凹凸の無い灰色の地面が広がった。そして、すっと現れた砂時計。


「【ここには()()()()()我と汝の二人のみよ。我が主の目も、ここには届かぬ。他の悪魔の目も当然届かぬ。人形共が突然現れ、なんじを襲うことも無い。だから、気兼ねなく、存分に戦おうではないか。ふははははははは!】」


 えらく丁重な配慮(はいりょ)を私に明かして、悪魔は笑っていた。






「【不安が晴れたようで、何より。気合十分、準備万全のようだな。】」


 私はそれを肯定こうていするようにうなづく。


「【予め決めていた通り、お互い背中合わせに立ち、6歩進んだ地点で停止。そして、振り返り、6秒を測る砂時計の砂が落ちった瞬間が開始の合図。それで問題無いな?】」


 私は頷いた。そして、私と悪魔は背中合わせに立つ。そして、離れていくところで、悪魔の前へと回り込んで待ったをかける。


 そして、急いで紙片と筆記具を出し、文字を走らせ、手渡した。


「【それくらいであれば、よかろう。100秒後に開始。その間、相手に攻撃しなければ何をしてもいい、ということだな。確認するが、もう追加で組み込みたいことは無いか? 次はもう受け付けぬぞ。】」


 通ったのだ、直前での変更が。私はこくんと、口角を上げながらうなづいた。


 背を合わせてそこからそれぞれ、6歩進んで、向かい合って。砂時計の砂が落ち始めると共に、私は動き出した。悪魔は唯、私の様子をその場から見ているだけ。


 悪魔の目的は、私と十全を尽くしてたたかうこと。私は、唯、勝つだけでいい。どのような状態でも、勝ちさえすればいい。


 私は勝ちさえすれば肉体の欠損すら回復する条件だ。契約という形でそうなるようにされている。唯の口約束でも、唯の書面上の約束でも無い。魔術的な、契約なのだから、あれは。


 さらに、悪魔は私にとどめを刺す気はない。だからこそ、当然のように勝たなくてはならない。


 こいつを倒した先に待っている本体は、こいつより手強く、このような都合良い状況でたたかうことはかなわないだろうから。






「【汝の勝利だ。】」


 地面にうつ伏せに倒れ、かろうじて顔を上げながら悪魔は満足げにそう言った。私は悪魔の前でしゃがみ込んでそれを聞いている。


 勝負は決したのだ。一瞬で。あまりにあっけないようにも見える、わずか開始数秒での決着。だが、それで決められなければ私は負けていただろう。


 決闘開幕に手の甲に付けておいた傷が消えていたことからも、勝利が確定したと確信した私は悪魔の目の前でしゃがみ込んでそれを聞いていた。


「【力が尽きるまで、しばらくは消えることも出来ぬ。済まぬな。我が消えることが、汝が主の御前に転送される条件となっておるのだ。もうしばらく付き合ってもらうぞ。】」


 私はすささと、距離を取って、肉刀ナイフを構える。


「【何故、そこで距離を取る? なんじも分かっておるだろう。もはや我に、なんじを攻撃する意志は無い。】」


 悪魔の肌に数mmから数cmの小さなひびがぱきぱき音を立てながら入っていく。きっと、少しでも体を動かそうとすれば、動かした部位は崩れ落ちるだろう。


 それを見て、私は再度悪魔のそばでしゃがみ込んだ。しばらく時間が掛かりそうだ、と私は思った。






「【我が消えるまでのその間に聞かせてもらおうか。なんじが何を考え、何を仕込み、私を無傷で倒したのかを。】」


 悪魔はそう言って灰色の紙切れを数枚出し、


「【これらに書いてくれ。】」


 そう言ってきたが、私は躊躇ちゅうちょする。紙に残す。それは記録に残すということ。この悪魔が消えたとしてもこれらの紙が残るとすれば、この悪魔由来のこれらの紙は、きっと、こいつの本体や他のけん属や分体にも情報として伝わってしまうかも知れない。


 そんな私を見て、悪魔はかなしそうに言う。


「【これでは、死に切れんではないか……。どう自分が終わりを迎えることになったか知ることなく、消えるなぞ、我が権能の名に恥じる……。何とか、頼めないか……?】」


 私はその灰色の紙切れの一枚を掴み、書き殴る。


【条件次第だ。】


 こいつから上手いこと、今後のために情報を引き出したい。だからここですぐさまくたばられては困る。


 私から条件を提示するのは簡単だ。だが、こいつから出させることにする。私の予想だにしない好条件が引き出せるかも知れない。


「【なんじの筆記具のインクを最大値まで回復させてやろう。】」


 それはいい。だが、私は首を縦には降らない。


【それだけでは足りない。】


「【では、こいつではどうだ?】」

 フゥアン!


 そのような音とともに、悪魔はあり得ないものをその掌の上に出して、私に提示する。


 "砕黒紋肉刀(ナイフ)"だと……。


 私がそれに向かって手を伸ばすと、引っ込められる。


「【但し、私が消えるまでに、汝が子細包み隠さず、我が納得するまで教えてくれれば、だ。その暁にはこれをなんじに渡す。どうだ?】」


 私はそれでも、躊躇ちゅうちょするそぶりを見せる。こんな感じで色々渡してもらえるなら限界まで引っ張り出すべきだ。


 だが、それは甘かったようで――――ズゥブサァァァァ!


 何か鋭いものが、一瞬で、私をずさっと切り付け、通り過ぎていった。振り向き、それが何かを確かめると――――、奴の尻尾しっぽが巻き付くように持った、"砕黒紋肉刀(ナイフ)"だった。


 そんな……、莫迦ばかな……。そう思ってすぐさま前を向いてみると、悪魔の手から肉刀ナイフは消えていた。


「【ふははははは、げほっ、ごほっ。我は悪魔。我から授かりたくば、代価を捧ぐべし。汝の捧ぐ代価。それは、汝が我に如何にして勝ったのか示すこと。肉刀ナイフの特殊効果は遅延させておいてやっている。無事成し遂げた暁には、先ほどの条件に加え、肉刀ナイフの特殊効果によるちり化、無かったことにしてやる。それとも、このままちりになるか? ふはははははは! げほっ。 ふははははははは!】


 とうとう、末端部が砕けてちりになり始めた悪魔が、黒い血反吐ちへどき、笑みを浮かべながら私にそう言った。


 流石、悪魔。そう甘くはない、か。


「【では、それに加え、貴様が消える直前にこれらの灰色の紙切れはちりに変え、その内容が外にれないようにして貰えるか? これに同意してもらえなければ、私はどうあっても言わない。】」


 灰色の紙切れにそう書いて、悪魔に私は提示した。えげつない時間制限を付けられ、私はもう断れなくなった。


 だが、これだけは飲んでもらわないと不味い。さもなくば、これは実質私の負けなのだから。先ほどの場とこの場で、多くの手の内を出してしまったのだから。"本能"の悪魔に対して打つことができる手が枯れてしまう。


 悪魔がその右端に、指先を傷つけて出した黒い血で、(なつ)印した。すぐさま私もそうした。そして、新たな追加の契約が成る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ