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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第二章第二節 原始の箱庭 ~痛悔機密~
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原始の箱庭 黒洞窟 小広間 今に至る後悔の過去 Ⅱ

「【二足で立ち、満足に走り回れるようになり、自身の声の出し方を覚えた頃、私は初めて能力を使うことを決意し、振るいました。対象は、この世界にける私の両親です。】」


「【やってみれば非常にあっけないものでした。私の住んでいた洞窟の近くのオアシスの水が飲みたいと両親に許可を求めただけ。】」


「【しかし、私の父は長であった訳で、本来これは通らない要求の筈でした。私はこの地点では、水を飲みに行きたいという意思表示のこの集落内での方法を教えられていなかった訳ですから。】」


「【父は原始人にしてはとても先進的で頭が切れました。そのときの私をしかるのではなく、めたのですから。そして父は、母と協力し、集落内のリーダーを私に任命しても認められる状況を作り出した上で、私をその集落のリーダーにしたのです。】」






「【そこからはもう、好き放題できましたね。】」


「【徐々に集落を広げていきました。】」


「【烏合の衆以下の野生集団でしか無かった私の集落内で能力を使いまくっていると、予想外のことが起こったのです。一言で言うと、原始人が、人になりました。私とコミュニケーションを行う上で必要な知識が、彼らの頭にインプットされていき、定着したのです。】」


「【もしやと思った私は、直近にあった、長が死んで空中分解寸前だった集落を吸収し、能力を活用しました。そんなことを繰り返し、老若男女問わず、この能力を通じて、彼らが人としての必要最低限の知を得ることを確認したのです。】」


「【言葉を知らない、概念を知らない人たちに、ただ念じるだけで意図が伝わる。自分で望んだ能力はありましたが、不思議で仕方ありませんでした。その上、一度彼らに能力を使えば、能力を使わなくても、会話が最低限ですがちゃんと成立するのですから。】」


「【この世界の原始人たちは、洞窟どうくつの穴一つ一つを一集落単位でのみ家にしていました。で、私の住んでいた洞窟の近くには、洞窟が山のように沢山あったのです。】」


「【そうなれば、やることは決まっています。彼ら全員、かき集め、唯の集落以上にするのです。能力の検証も一通り済ませていたため、破竹の勢いで私は周辺数キロ圏内の集落を一か所にまとめ上げたのです。】」


「【能力使用頻度が最も多かった父よりも、母の方が能力の伸びが大きく、より優れた人材になっていたのは驚きでしたね。それを踏まえて、能力による知識付与にはかなりの個人差があることが分かりました。父と母に副官として動いてもらったため、百人程度の集団を維持することができるようになっていました。】」


「【後は、時折遠征したり、向こうからやって来たりで、集落は村といえる大きさにあっさりなりました。ついでに農耕も始めておきました。知識があるということがここで大きく活きてくる訳です。私が村人と農耕の話をしようと思えば、最低限それに付いてこれるだけの知識が常識が、彼らの頭にインプットされるのですから。】」


「【そして、洞窟を出ての屋外での定住生活を始める訳です。水も土も確保できていましたので、食べても大丈夫そうな植物を見つけてきて、それらを植えて育てるだけでいいのですから。どうせ雑草。そうしっかり面倒を見てやらなくても育つのです。】」


「【そこが山に囲まれ、空飛ぶ恐竜以外出てこない盆地であったのが非常に幸いでした。対策するのは、それら、空を飛ぶ恐竜だけでいいのですから。】」


「【バリスタを私の知識伝搬(でんぱん)を利用して作り、備えておきました。】」






【そんな風でしたので、私はまるで生き神のようにあがめられていたと思います。自分で言うとやはり、恥ずかしいですね。】


「【村人たちは、無邪気でした。ドス黒い悪意なんてものは持たず、それでいて人としての感情はしっかりありました。思うがままに喜び、思うがままにありがたがる。】」


「【彼らの感情表現はとても豊かで、直情的で、私の心に響いたのです。】」






「【だからでしょうか。私は自惚れていました……。無差別に無作為に知識を散蒔ばらまきました。知恵の実を散蒔ばらまきました。】」


「【人が悪性を持っているのは何故だと貴方は思いますか? 私は、人が知恵を持つから故だと思っています。知恵を持ち、ヒトから人になった。知恵の実を口にして。私は知恵の実をヒトに与えてしまった、純粋無垢(むく)なヒトに悪性をもたらした蛇だったのかも知れません。】


「託された使命のことなど、すっかり頭から消えていました……。知恵を与えた人間の中に、それを絶対に与えてはいけない者が紛れ込むことになります。そのことに、私は()()()()気付けなかったのです。】」






「【そうして、私の命運を分ける最初の分岐点が訪れました。当然私はそれに気付くことはありませんでした。】」


「【ある日、新たな集落が私の村に合流しました。その集落は人数は原始人基準で並みでしたが、持っている狩猟用武器の水準が異様に高かったのです。その集団の長だった者に尋ねたところ、ある一人の少年がその全てを作ったと言ったのです。】」


【彼は道具作りの達人でした。それも、道具作りに携わる人たちの中で、ずば抜けていたのです。技術が。発想が。】


【この時代の彼以外の人たちの道具作りの技術、それは、落ちている素材をただ、組み合わせるのみだったのです。


【例えば、石槍。まず、巨大な動物の骨の一部数十センチくらいで片手で握れそうなのを拾います。そして、扁平へんぺいとがった石を探してきて、つたでぐるぐる巻きにします。】」

「【使っている途中でくくっている部分からつたが切れたり、石自体がもろかったりして、運よく使えたらまだいい方。そうであっても使い捨て、という、悲しいものができ上がる……。この時代の水準でそれを作るとなるとこんな風になってしまいます。】


【巨大な骨を折って適当な長さにする程度でしたら思い付くようでしたが、つたなどを使って適度に長くするという発想はありません。つたに切れないだけの強度があるか、どれくらい巻けばしっかり固定できるか、という判断もままなりません。】


【石も、落ちているものなら拾えますが、巨大な岩場から切り出したり、落ちているものを研磨するという発想はありません。】


【試行錯誤。原始人たちの中で最も先進的な者だけがそれを始めたばかりの段階だったのです。経験が足りない。経験を多少積み上げても、それを分析できない。それらの経験を他の人には教えず、秘匿する。出してくるのは粗雑な製作物だけ。】






【そんな中、突如才能を発揮したのは彼だったそうです。というのは、彼は物心ついた頃から少し経つ頃には、道具作りの達人として一目置かれていて、そして孤立していたのです。】


「【彼は常に一人で、自身の技術による品を提供するのと引き換えに食料や水を得るためだけにその集落に所属しているように、その長だった者の話を聞く限り、私は感じました。】」


「【これはどう見ても異常です。狩猟中心の原始時代に、独り、知恵で立ち回っていたのですから。それも、唯の子供が。それだけ他から外れていたのに、弾かれることも、排除されることも無く。そうなるように意図的に振る舞っているとしか思えませんでした。】」


「【そして、どうも、私からも距離を意図的に取っているような気がしてなりませんでした。】」


「【彼は集落が私の村に合流してからもそうしているようで、私の前に一度も顔を出したことは無かったのです。そんな人はこれまで居ませんでした。孤立しているようでありながら、この原始的な人間関係の世界で辛うじて弾かれることなく生きている彼に、私は興味を持つのは当然のことだったかも知れません。】」






「【それなりに迷ってのですが、結局私は彼に会いに行きました。危険を承知で。誰にもその場を見られたくなかったため、細心の注意を払いつつ。】」


「【彼の居た洞窟は、彼の手によって作られた罠で満ちていましたが、ぼろぼろになりながらも私はそれをやり過ごしました。この世界での体のおかげですね。基礎体力が圧倒的に違いましたから。映画のような動きもたやすく可能でしたし。】


「【ですが、それでもきつかったです。ただの落とし穴などの単純な罠だけではありませんでした。】」


「【獲物を感知する数々の仕掛け。感知に連動して動く罠。ある場所をある一定以上の力で踏むと転がってくる丸い巨大な岩。暗いため、注意深く見なければ認識できない糸。それが切れると振ってくる、槍。】」


「【何よりきつかったのは、水攻めですね。遅延性の罠で、平坦な通路がきつめの下りになる場所がありました。】」


【下りの直前が少し山になっていたのですが、それがスイッチのようでした。踏んでしまい何が起こるのかと思えば、何も起こらず、の下り道を進んでいっていると、後ろから大量の水が流れ込んできて、足がつかないほどの深さになりました。】


【私の集落では、泳げる人はいませんでした。私は前世の記憶のおかげでおぼれることは免れましたが。この罠を見て初めて気づきました。これは、人を標的にしたわなだと。】」


「【この世界のあらゆる動物種って水浴びするんですよ。人以外は。あなたもこの世界で見ませんでした? その辺の湖とか池とかで。】」


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