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絶対攻撃力1  作者: 桜毛利 瑠璃
第一章
6/35

6.石の上にも3ヶ月。あれ3年か。

『チュンチュン』


「ん。朝か」


 ザマスおばさんに巻き込まれて、巫女さんや天神の使い達に来襲されてからって言うか、この世界に来てから100日が経った。


 正確に100日かと言われると、実は良くわからない。なにしろ、俺は未だに日の光のささない、洞窟に居るからだ。


 あれから、すぐに出入口を探したが、出入口は一ヶ所しかなかった。これで地下道ではない事がわかったし、出入口なんて一ヶ所あれば十分だ。そう考えて、そこから出ようとしたが、出られなかった。なにしろ、一ヶ所しかない出入口の先には、なんと。


 (ドラゴン)が鎮座していたからだ。体長10mを越える巨大なトカゲ型の竜。


【能力閲覧】で探ったところ。


名 前:閲覧不可

種 族:地竜

生命力:100%(健康)

スキル:閲覧不可


 こんなことしか解らなかった。だが、尖った歯が並んでいるだけで、肉食だと判る。体長10m越えの肉食竜となんて、ただでさえ【絶対攻撃力1】スキルのせいで与ダメージは1なのに勝負になるわけがない。


 しかも観察していた俺に気が付いたのか、この部屋に入ったら食うぞとでも言っているように、威嚇の咆哮までされてしまい、俺はその場で気絶までしてしまった。


 おかげで【咆哮耐性】スキルを得られたので、その後は、徐々に気絶することも無くなってきたが、怖いものは怖い。竜が居なくなる時間があれば良かったが、何時覗いても竜は同じ場所に鎮座している。


 俺は早々に自力で出ていく事を諦めた。


 出ていく事を諦めたのなら、出来るだけ快適に暮らしたい。快適に過ごすためにも衣食住は大切だ。


 住は、ここを番犬付きのワンルームマンションだと思えば、ここほど安全な場所は無いだろう。なんせ、番犬は竜である。そんじょそこらの生き物が突破出来るとは思えない。もし突破してきたなら、俺がどうこう出来る訳がないからだ。


 食は、とうぜんだが野菜がある。ベジタリアンになるしかないが、知識を総動員して食生活を向上させて行こう。


 衣は、俺のスキルに【裁縫術の才能】とか合ったから、訓練すれば、その内なんとかなるさ。


 指標は決めたが、一人ぼっちは寂しい。だから【疑似生産(小鳥)】スキルでスズメを生産したら気絶していたらしい。気がついたら地べたに倒れていた。どうやらスズメを生産するには魔力がギリギリだったみたいだ。


 ファンタジー小説のセオリーとして、魔力が無くなるまで使うと、魔力量が増えるって描かれている事が多い。なので俺は、それを信じて寝る前にスズメを1羽生産し続けた。俺の体内時計が狂っていなければ1日1羽だと思うけど。




 スズメも今や100羽となり、洞窟内を飛び回っている。いくら小さなスズメだと言っても闇雲に飛び回られたら、俺自身の訓練に邪魔だし、スズメ同士がぶつかるかもしれない。だが、さすがは疑似生物。簡単な命令なら聞いてくれることがわかった。


 なので、財布に有った小銭を使って地面に線を引き、俺の訓練場所には入らない事と、飛ぶときは左回りに飛ぶ事の二つの命令をした。


 元気に飛び回るスズメを見ていると、俺も元気になる。さすがに100日も経てば【疑似修繕】スキルで仮初めの健康体であった身体も完全回復していた。今日も一日元気に訓練しよう。俺は自身に宿っている才能をスキル化する為に、訓練を続けた。





 ある日の朝、ふと思いついて。スズメを数えると1100羽になっていた。


 俺は、3年もこの場所に居たことになる。もはや立派な引き篭りだ。ただ、普通の引き篭りと違って、スキル訓練と言う名の職業訓練所に通いつめていた引き篭りだ。


 なので3年の歳月を無駄にした訳ではない。今やただの洞窟と言う名のワンルームマンションは、荘厳な雰囲気を醸し出していた。


 平らな場所を作ろうと、そこいらに転がっている石と財布に入っていた小銭を使って洞窟の床を削っている内に【採掘】スキルを得た。このスキルを得たことにより、簡単に石を削れるようになった。その後、壁も削っている内に【石工】【彫刻】【細工】……と、次々にスキル化していったのだが、それらのスキルは、突然【石細工術】スキルに統合された。


【術】と言うスキルは、特別なようで、【術】がついていないスキルとは、使い勝手がまるで違った。なんせ道具不要なのである。手をかざすだけで、思った通りの事が出来るようになったのだ。


 ならばと思い、野菜から繊維を抜き取れれば、糸が出来ると思いついて、やってみれば簡単に抜き取れた。きっと【石細工術】に統合される前に【細工】のスキルが合ったので、その効果が影響しているのだろう。


 取り出した繊維を糸として、指編み、棒編みと訓練している内に【裁縫術】スキルを得て、更にそこから派生で【練巾術(レンキン)】スキルも得た。


 今では野菜の山があれば、スキルで簡単に服を作ることが出来るようになったし。サイズもデザインも思いのままだ。なので、普段着として浴衣を作った。温泉旅館とかに置いてあるアレだ。着るのも楽だし、異世界だし、背広なんかよりは、おかしくないと思っている。


 【石細工術】【練巾術】スキルのおかげで、ベッドが出来た。野菜の繊維で作った布をたくさん重ねただけだから、フカフカとは言えないが、地面に直接寝転がる事に比べれば、雲泥の差である。


 事実、寝る時は、スズメを生産することによって気絶するから、地面とベッドの違いは無いけど。初めてベッドから起きた朝は、あまりの快適さに二度寝したくらいだ。


その後【石細工術】を使いまくって、石鍋、石皿、石包丁を造り、収納する為に、石棚や石クローゼットなど、生活便利品をも造った。


 合間に石剣、石槍、石斧など、武術の才能に合う武器も造った。そして訓練して各種武術のスキルを得ることも出来た。


 でもいくら武術を磨いたところで【絶対攻撃力1】スキルのせいで与ダメージは1なのだから、スキルコレクション的に得ただけで続けて訓練はしていなかったりする。


 武術を磨くより、物造り。すっかり物造りの魅力に引き込まれていた。


 だからと言って、やり過ぎた感は拭えない。今やこの洞窟の内装は、ヨーロッパの宮殿を思わせるくらい贅を尽くした雰囲気を醸し出している。


 時間だけはたっぷり有ったので、床も、壁も、細やかな彫刻を施した。調度品も嫌味がない程度に配置してあり。ここが洞窟の中だとは、とても思えない程だ。特に中央の台座の上に立つ巫女さん像は、この洞窟の象徴として作った、今の俺の最高傑作だ。


 頼るもの全てを受け入れてくれそうな表情が心を癒してくれる。本物はもう少し、キツい感じがしていたような気がするが思い出さない様にしよう。でも圧巻なのは、奥にあるスズメの木である。


 総勢1100羽のスズメが留まっているのにまだ余裕がある金ピカな木だ。


 一見すると、金の枝葉に水晶の果実が実のっているように見える。これが全て本物であったのなら、一生遊んでいられるくらいの価値がありそうだ。だが、この木は、木の石像に金箔を貼り付けただけであり、水晶に見えるのはガラス玉だったりする。とは言っても、手間の掛かった逸品であることは間違いない。俺の自信作だ。


 ちなみに金やガラスは【石細工術】スキルで鉱石を分別する事により得られた。でも石の加工は出来ても鉱物の加工は出来ない。


 そんな時に、何となく壁が寂しいと思い、気分転換を兼ねて、アニメ風だが巫女さんの姿を彫刻していたら、何故かスキルを得ていた。


 得たスキルは、驚きの【錬金術】。


 驚いた事は驚いたのだが、今さら感が拭えない。何しろ、【石細工術】スキルで石くずから金を分別しているのだから。実際これって、錬金術だよね。


 そう考えていたのだが、【錬金術】スキルは、俺の想像を越えた術だった。なんと手をかざすだけで鉱石を加工することが出来るようになったのだ。


 このスキルを利用して、彫金による意匠を凝らし、一見贅を尽くしたように見える洞窟が出来上がった。


 出来上がった後、何度も手直しをしている。どっかの寺院じゃないけど、何年掛けても完成する気がしない。竜もあの場所から動かないし。俺のライフワークになりそうだ。


 そして寿命で俺が死んで、この地を守る竜も死んで、数百年後かに発見された時に、洞窟宮殿として観光地になるのだろうか。


 そんな夢想をしなから変わらない日々を過ごしていた。だがそんな変わらない様な日々にも変化が起きる事を、その瞬間まで気が付きもしなかった。


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