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絶対攻撃力1  作者: 桜毛利 瑠璃
第一章
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4.さようなら、天神の使い

 辺りが静かになり、漸く頭を上げることが出来た。同じ姿勢でいることが、こんなにも苦痛だと思いもしなかったが、色々と知ることが出来たから良しとするしかない。だが。


「【絶対攻撃力1】かぁ」


 魔神に封印されて、天神の使いにも、憐れられてしまったこのスキルが、あまりにも強力で絶望的過ぎる。


 簡単に言ってしまえば、相手の防御力を無視してダメージを1与えることが出来る能力である。


 例えそれが神であっても、攻撃が当たりさえすればダメージになると言う、とんでもなく強力なスキルなのだが。


 1度の攻撃で与えることが出来る与ダメージは1固定。素手で殴ろうが、ナイフで斬ろうが、大金槌で潰そうが、魔法で雷を落とそうが、与ダメージは1。


 仮に生命力3の体長1ミリメートルのアリが居て。そのアリを倒す為には3回攻撃しなければならないことになる。異世界で生き延びる為に力を付けなければならないのに、このスキルは……


「絶望的だ」


 きっと魔神は天神に一矢報う為に、このスキルを得たのだろうが、使えなすぎて封印したのだろう。そして魔神の力を求める魑魅魍魎に弾かれて、何も知らずにその場に居た私に宿ったと。


 駄目だ、ネガティブな思考に囚われている。ここは開き直って、戦闘は無しの方向で生き延びる術を見いだすしかない。


 それにしても、天神の使いめ、好き勝手に言いやがって。巫女さんの対応を思い出すと、もしかしたら天神サイドの方が悪なのかもしれない。なぜなら。



「あれってアレかな。新種の虫」


「確かに。まるで土下座している様だな」


「土下座虫かな」


「きっとそうだ。そうに違いない」


 土下座だって? いやそんなわけない。俺がしているのは、正座してからひれ伏しただけなんだから……Orz……なんてこったい。端から見れば確かに土下座だ。


「動かないかな。動けば顔が見えるのに」


「いくら新種の虫だとしても、テイムしたら駄目だ。連れていく訳にはいかないからな」


「ケチ」


「ケチって、私達は天神の使い。魔神の魂を宿す者を滅ぼさなければならない。そんな虫なんて、邪魔にしかならないぞ」


 天神の使いは、顔を……いや、目があったらテイム(調教)する事が出来るのか。もしかして、設定によくある魔眼とかか?


「むぅ。なら使える虫か確てやる……゛観察日記゛」


 観察日記って。夏休みの宿題かっつぅの。



「で、どうだった」


「残念。土下座虫かと思ったのに、ただの猿人だった。でもこの猿人。雑多なスキルの中に一つだけ凄いスキルを持っているよ。それも【絶対攻撃力1】のスキルだよ。こんなスキルを持ってて、よく今まで生きてこれたね」


「うわっ【絶対攻撃力1】だって。凄いレアスキルだな。神に一矢報える事も出来るけど、所詮ダメージ1。ミミズにもオケラにも、ダメージ1しか与えられない、デメリットしかないスキルじゃないか」


「こんなスキルを持っているのに、ここまで大きくなれたなんて、どんな人生を歩んできたのかな。想像するだけでも哀愁を感じるね」


「そうだな。本来なら、魔神の使いが居たこの場所に居ただけでも滅殺の対象だったけど。天神の使いに対して土下座し続けるその態度&不敏なスキル持ちって事で無罪放免」


「きっと、この場所が魔神の使いの地と知らず、巻き込まれだけだろうからね。でも運が良かったね。魔神の使いにも土下座し続けることで生き抜いたのだろうから。それがこの猿人の処世術なんだろうね。私も無罪放免で良いと思うよ」


「触らぬ神に祟り無しだ。私らにも慈悲の心があることを覚えていて欲しいものだ」


「そんなことより。魔神の使いったら、転送先がわからないようにしてあるよ」


「そうか。猿も消滅してしまっていることだし。ここには、もう用は無いな」


「あの猿は使い勝手が良かったのに残念だね。また調教(洗脳)しておこうね。それじゃぁ。助かって良かったね猿人。私たちは、もう行くよ……そうだ良いことを思い付いた。最後に顔を見せてくれたら。天神の使いの名に於いて、不敏なスキルから解放してあげるよ」


「……」


「……」


「残念。それで正解よ。なんだ世界の理を理解していたんだ。甘言に釣られて私らの姿を見たら、それだけで天誅出来たのになぁ」


「触らぬ神に祟り無し。これからも、不敏なスキルと共に生きて天寿を全うしな」


「「゛座標指定゛゛適当転送!゛」」



 天神の使いも適当に転送するんだ。何だろうねこの世界は。


 それにしても、危なかった。もし【絶対攻撃力1】のスキルの詳細を事前に知っていたら解放して貰うために間違いなく顔を上げていたところだ。


 そして解放は解放でも、死んで解放して貰えるって、なんて酷い罠だ。


 でも天神の使いの話を聞いて、スキルの詳細を理解するのに、時間が掛かって良かった。天誅されずに済んだのは、正直運が良かった。そうでなければ、間違いなく終わってた。


 俺からすれば、巫女さんの助言を守っただけで、生きていられた様なもんだ。姿を見ただけで即終了なんて、どう考えても死亡フラグ満載の天神サイドは正義とは思えない。だからと言って魔神サイドも手放しで正義とは言えないけど。


 でも、あれこれと考察していたけど。実は意味って無いんだよね。なんせ、もっと切実な事を考えなければならないからだ。それは。


「ここって食べられる物があるのか?」


 俺は、背広のポケットをまさぐったが、出てくるのは財布、名刺入れ、定期入れ、クシ、息爽やかの錠剤だけだ。家に帰るだけだったから鞄は持っていない。あと携帯電話があったはずだと周囲を探すが見つからない。


 どうやら、ザマスおばさんに体当たりされた時に手放してしまったようだ。


 あったところで異世界では、電波を受信出来ないし、不要だと考えることにした。


 だが腹は立つ。ザマスおばさんに会うことがあれば、文句を言ってやろうとは思った。


 結局食べられるのは、息爽やかの錠剤だけだ。こんなんでは一食分にもならない。何か食べられる物がないか、洞窟内を探索することにした。

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