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絶対攻撃力1  作者: 桜毛利 瑠璃
第一章
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2.さようなら、異世界

「痛っううーーーう?」


 身体全体が痛いと言うことは、俺は生きているってことか。


 もしかして、駅の周りは田んぼだったから、堅い地面に直接叩き付けられずに済んだのかも知れない。


 電車にひかれて生きているなんて奇跡としか考えられない。って事は、ここは病院か。周りは真っ暗だし、まだ夜なんだろう。ってことは、事故からあまり時間が経っていないのかもしれない。


 そう考えてから思い至った。病院ならナースコールをしよう。身体は痛いが、指先も腕も動く。私が気がついたことを知らせなければ。と思いながら手を伸ばすが壁があるだけだ。


 ナースコールが無いだと。ここはどんなヤブ病院だ。それにしても、堅いベットだなぁ。冷たいし、まるで地面に直接寝ているみたいだ。


 そして再び思い至る。まさか、電車に牽かれて生きているとは思われず。霊安室に入れられているのだろうか。いや。まさか。そんなことはないだろう。


 そんな思考に囚われていたので気がつかなかったが、この部屋には大勢の人が居るみたいだ。


 なぜなら、一瞬光に包まれたと思ったら、次の瞬間、唐突に声が響き渡ったからだ。その後も部屋に居る人々が、好き勝手に叫んでいる様で、殆どは単語としても拾えなかった。


 病院で叫びまくるだなんて、なんてはた迷惑なんだと思うが、全身が痛くて文句を言う気にもならない。


 よく考えてみれば、これだけ騒がしい中、文句を言ったどころで、聞こえないだろうし、何も解決しそうもない。せめて何で叫んでいるのか聞き取ろうと耳に集中していると。


「これが魔神様の祝福か」

「もう一回、あの光の玉を授けて」

「この力があれば、奴らなんて」

「スキルだ」

「魔神様はいい奴だ」

「自由だ」

「これが私?美しいザマ……」



 あれ?最後にザマスおばさんの声が聞こえたような気がしたけど。ザマスおばさんも怪我して入院したのかな。って何を心配しているんだ。


 きっと身体がダメージを受けすぎて、怒りに思考を回さないようにしているのだろう。それにしても、言っていることは判ったが、意味が解らない。


 魔神様、光の玉、力、スキル、自由、美しい。


 やっぱり意味が解らない。あの辺に魔神教系の病院なんてあったっけ?って、そもそも魔神教って何だよ。


 身体が痛いが、魔神教が気になったので、無理矢理身体を起こして声のする方を見ると。そこには、魑魅魍魎が集っていた。


 その姿を見た瞬間感じたことは、あの中の一体にでも気が付かれたらおしまいと言うことだ。


 やっぱり、俺はもう死んでいて、ここは地獄か何かなんだろうか。だとしたら、俺は何故死を恐れているのだろうか。


 矛盾する考えに結論が出せないうちに、状況の方が先に進んでいく。



「魔神の欠片を宿す者達よ、静まれよ」


 魑魅魍魎よりも奥に居るようで、姿を見ることは出来ないが、今の声は声質から想像するに女性のようだ。だが、その一言で、あれだけ騒がしかった魑魅魍魎が叫ぶことを止めた。


 口調は柔らかいのに、逆らうことが出来ない恐ろしい程の強制力がある声である。ご多分に漏れず、俺も蛇に睨まれた蛙のごとく身動き一つ出来なくなってしまった。


「魔神の欠片を宿す者達よ。先程も伝えたが、これより貴様達を転送する。転送先に着いてからは自由だ。我からは何も干渉しない。好きに生きて、好きに死ぬがよい……゛適当転送!゛」



 女性が気迫を込めて言った最後のフレーズは魔法の言葉なのか? 直後に光の輪がたくさん現れ出した。そして光の輪に包まれた魑魅魍魎が粒子となって次々に消えて行く。なるほど、あのように転送されていくんだ。


 転送には納得はしたけど、適当転送ってどう言うことなんだ。あれか。適材適所の方の適当ってことか?


 魑魅魍魎には、魚介類っぽいのも居たから、きっとそうだろう。納得だ。


 でも俺が光の輪に包まれないのは、何故だろう。あの女性が、気がついていないって事なんだろうか。


「イケメン集めて、逆ハー作るザマス」


 おや。やっぱりザマスおばさんが居たんだ。他の魑魅魍魎が居るので、姿を見ることは出来なかったが、ザマスおばさんは魔神の欠片を宿す者だったようだ。だから駅のホームからこの場所に転送されたってことか。そうなると、俺は。もしかして。


 そんな思考をしていると。女性は全ての魑魅魍魎を転送しきったようだ。


「これで、憎き天神によって異世界にまでバラ蒔かれたが、漸く魔神様の魂の欠片88個を、この世界に全て集めることが出来た。後はそれぞれの欠片が成長し、融合するのを待つだけだ」


 憎き天神? 魔神様? なんだ、どう言うことなんだ。


 でも俺が、ここに取り残されていると言うことは。一つ、はっきりしたな。やはり俺は。


「ふぅ。さすがに疲れたぞ。羽根虫どもが現れる前に、我も移動するか。だが猿が一匹残っているし、始末してからにするか」


 なんだ。見つかっていたんだ。俺を殺す理由を、わざわざ口に出して話すと言うことは、冥土の土産ってことか。


 やっぱりここは異世界で、俺はザマスおばさんの転移に巻き込まれたってことか。そして私の巻き込まれ異世界冒険譚は、これで終了ってことなのか。


 はぁ。普通、巻き込まれ系ってトンデモ能力持ちで、召喚された本人よりも強くなったりするんだけどな。


 対象者が、逆ハーを作るザマスと息巻いている、どう考えても外れのザマスおばさんだし。外れの巻き込まれ程度では、キャストとしたら巻き込まれ人Cくらいだよな。


 未だに、全身が痛くて身動きすることでさえ苦痛を伴う状況で、ラスボスっぽい奴にターゲットにされてしまったら諦めざるを得ない。ゲームでもラスボスからは逃げられないのは常識だしな。


 全身の力が抜けてしまい。起こしていた身体が再び堅い地面に触れた時に、幾つかの光の玉が迫ってきた。


 私の死亡原因は、電車に牽かれたのではなく、異世界での光の玉魔法か。


 俺は、自分を殺すであろう光の玉を見ていられずに、眼を瞑った。



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