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絶対攻撃力1  作者: 桜毛利 瑠璃
第一章
18/35

18.アフロディーテ女王国へ

 俺はジュピター王国から、魔王の出現位置に一番近い、水の都を擁するアフロディーテ女王国に向かう馬車に乗っている。


 そう、俺はチモシーとの戦いに敗北したのだ。

 チモシーの精神は、まだ8歳の子供だといくら認識していても。見た目は柳の木じゃなくて、超スリムな大人体型の美女だ。

 そんな美女に女性経験なんてあまりない男があんな風に攻められ、そして告白紛いなことをされたら「はい」としか言えないだろ。


 そう、あれって告白紛いなんだ。


 俺の同行が決まったことで、ブリーフィングは終了。順番が逆になったが下準備は済ませていた夕飯を軽く食べてから寝ることになったのだが、チモシーは普段通り夕飯を食べて普段通り部屋に戻っていった。

 逆に俺は、40歳と8歳との年の差恋愛かと意識しまくってしまい、夕飯の後片付けの時に皿を割ってしまったし、夜も殆ど眠れなかった。


 そして翌日。普通に朝飯を食べた後、シュンとバロンとミリィは俺とチモシーを残し、どの国に救援に向かうのか聞きに、王城に行ってしまった。


 その際、ミリィから「ごゆっくり〜」と茶化されていたのだが、今考えればそんな事をさえ、まったく理解できないくらい、朝もまだ混乱していたみたいだ。


 3人を見送ったあと、普段通りにチモシーは部屋に戻っていったのを見て。

 あれだけ熱烈な告白をしたと言うのに、直後から普段通りの行動に戻っているチモシーに疑問を覚え、俺はようやく冷静に考えられるようになった。


 チモシーは見た目通りではなく8歳の子供なのだ。8歳の子供が恋愛感情を持てる訳がないとは言い切れないが、もしかしたら子供がお父さんやお祖父さんに対してもつ親愛感情での発言だったのかもしれない。


 そう言うことなら、その後のチモシーの行動は理解できる。そして、チモシーは色々と省略して話すのだから、言われた言葉をそのまま受け取ってはいけない。


 そこまで思考が進めば、パズルを解くようにチモシーの発言の意味が理解出来た。


 理解出来たことは嬉しいのだが、逆に俺は又かとがっかりしてしまった。

 今更どうでも良いことだが。元の世界では、片想いなら何度もした。だけど決まって『何かの時に頼れるお友達だよね』とか『お父さんみたいな人とは』とか言われて最後を迎えるのだ。

 確かに、俺は庇護欲が強いから、頼ってくる人がいると過剰に保護に走る性格だったりする。


 元の世界では、そのことを重く感じる女性と、そのことを利用して金をムシり取ろうとする女性としか出会いがなかったから、30歳を越えても独身だったのだろう。


 この世界に来て8年、考える時間はたっぷりあった。そのことを後悔する事もあったが都合40歳にもなれば、すべて受け入れられる。


 だから、異世界に来たのだと言っても出来るだけ人と、特に女性と関わり合わない様にしようと考え、行動していたのだ。

 なので俺の交遊関係に居る女性は、1ヶ月も王都に居るのにミリィとチモシーだけだ。


 それでも、自分としては庇護の対象にしないように最低限のことしか接触しないでいたのだが。 シュンが居るとは言え大人の考えを持つミリィはともかく、精神は子供のチモシーに対して心の隙間が開いていたようだ。


 チモシーが見た目通りの精神年齢だったら、打算を感じ取り、昨夜はきっとそれでも行かないと、拒絶出来たと思う。




 その後、答え合わせの為だけに、チモシーに声を掛けることが出来なかったが、昼御飯の時にようやく回答を得ることが出来た。


 チモシーの知っている俺の秘密とは。魔神の関連でも、錬金術の事でも、異世界から来たと言うことでもなく。


 やはり、スズメさん達のことだった。


 スズメさん達に取捨選択を覚えさせるために、はたまた情報収集の結果を纏めるために、1ヶ月近くの間、顔を付き合わせて話し合いをしていたのだから、何かのタイミングでチモシーが見てしまうことは十分に考えられたことだった。


 その事に気が付けたのは、やはりチモシーの謎かけだ。

 俺が毎日のようにスズメさん達と真剣な顔をして話し合っていると聞けば、シュンは抱腹絶倒し笑い転げることは想像できる。バロンは知らなかったが、ビックリすることがあると、自分を落ち着かせるために、逆立ちして腕立て伏せをするそうだ。そしてミリィは何故そんな可愛い存在を秘密にしていたのかと怒り、最後はみんな笑顔になると言う内容だった。


 でも幸いなことに、スズメさん達との会話の内容までは解らなかったようで、鳥と話が出来るのかと逆に聞かれてしまった。

 どうしようか考えたが、気がつかれてしまっているのなら、本当の中にあるウソと秘密の共有でチモシーの口を塞ぐことにした。


 「これは絶対に秘密にしないといけないことなのじゃが、チモシーなら悪いことはしないと信じて話すことにしたのじゃ。ワシはの、チモシーの考えた通り、鳥と話すことが出来るのじゃ。でも残念なことに話せる鳥と話せない鳥がいたりするのじゃがの。鳥の話すことの殆どが、あそこの木の実は美味しいとか、逆に不味いとかなんじゃが、たまにキラキラ光るものを見たと言うので、行ってみれば宝石が落ちてたりするのじゃ。なので、たまに聞ける珍しい話を聞くために、鳥と話しているんじゃ」



 鳥と話せると聞いてからのチモシーは、髪を掻き分けなくてもわかるくらい、興味津々で俺を見ている。


「もじゃ爺……いいな」


 この言葉を引き出すことが出来れば、俺の勝ちだ。


「チモシーが、ワシが鳥と話せることをミリィにも秘密にしてくれるなら、チモシーが鳥に聞いてみたいことがあるなら聞いてあげるよ」


 精神が子供のチモシー相手に騙すようだけど、これだけで交渉は成立する。とは言っても子供の約束だ。けど例え誰かに話してしまったとしても、鳥と話せると言うことくらいで大問題に発展することなんてないだろうし。問題ないだろう。


 そして俺にとどめを刺した告白だが。


 単刀直入に「あれってチモシーは、ワシの作るサラダが大好きだから、食べられなくなるのは寂しい。だから、一緒に行こうってことだよね」と聞いてみたら。


「んん? …………そう」


 正解だったようだ。


 チモシーが子供だと認識して冷静に考えれば、答えと言うのは案外簡単なものなんだ。昨夜、バカみたいにパニクってしまった自分に後悔するも、精一杯サポートしようと思った。


 その後、チモシーに『じゃ』がないから、また『も爺』になってると、少々機嫌悪く突っ込まれたりもしたが、話せる鳥がいたら通訳すると誘い2人で屋敷の庭に行けば、運良く鳩がいたのでパンくずで餌付けしつつ話すことが出来たので、最後は御機嫌だった。


 異世界の鳩は日本の都会の鳩と違い、警戒心が半端ない。これ以上は近寄らないから、食べ物をあげるからと、メイを通じて説得してやっとのことで話をすることが出来たと言うのは裏話だ。



 それにチモシーの「雲は……柔らかいの?」と言う純粋無垢な質問に対して鳩は『知らん、食べ物くれ』と実も蓋もない回答を返すから、俺が「雲のある所まで行ったことがないからわからないって」とチモシーに返しながらパンくずを投げる。


「空は……何故青いの?」

『知らん、食べ物くれ』

「黒、紫、赤、黄、青と空の色は変わるけど何故かは知らないって」

 パンくずを投げる。


「空は……何処まであるの?」

『知らん、食べ物くれ』


「何処までもあるって」

 パンくずを投げる。



「花……好き?」

『食えない花は嫌い。食べ物くれ』

「食べられる花は好きだけど、食べられない花は嫌いだって」

 パンくずをなげる。


「……好き?」

『……。食べ物くれ』

「……」

 パンくずをなげる。


「……好き?」

『……。食べ物くれ』

「……」

 パンくずをなげる。


「……好き?」

『……。食べ物くれ』

「……」

 パンくずをなげる。


 パンくずをなげる。


 パンくずをなげる。


 パンくずをなげる。




「お腹一杯だから、そろそろ帰るって」


「ん……天神と魔神どっちが好き?」

『知らん。もう行く』

 そう言い残して鳩は、飛んでいってしまった。

 これは難題だ。なんてチモシーに返事したら良いんだ……そうだ自分が鳩になったつもりになればと考えて。

「天神だろうが魔神だろうが、人だろうが、鳥だろうが、食べようとしてくる相手は、みんな嫌いだって、でも食べ物をたくさんくれた2人は好きだってさ」


 嫌いだと聞いた時、チモシーはビクりと震えたが、2人は好きだって聞いた瞬間に嬉しそうだったから。きっと俺の選択は間違っていないと思う。


 チモシーの謎かけや勘違いはすべて解決したので、その後は俺も普段通りの態度が出来るようになった。

 それを見てミリィが不思議そうにしていたから「ワシのサラダが大好きなんじゃとさ」と教えてやったのに。「ふ〜ん、そういうことなんだ」と一応は納得はしていた。



 だと言うのに、アフロディーテ女王国に向かう馬車では、今は馭者をバロンが勤め、シュンは仮眠をしており、俺の対面ではミリィがニヤニヤしながら俺達を見ている。


 そう、俺じゃなくて俺達だ。何故かと言えば、俺の横に座っているチモシーが、俺の肩に頭を乗せて眠っているからだ。


 しかも、いくら勇者チームの馬車だとはいえ、道のでこぼこに合わせて揺れるのにも関わらず、ずっとこの体勢のままだ。

 仮眠をとっているはずのシュンが、揺れた拍子に頭をぶつけて痛がったりしていることがあると言うのにだ。


 この状況で俺は眠れるわけもなく、馬車の柱の節を数えるなんて事をしていたが、それも20回目が終わり全部で15個だと確定した。


 現実を無視して、次は何を数えようかと、視線をさ迷わせているとき、迂闊にもミリィと目を合わせてしまった。


 その瞬間、ミリィはニヤニヤから人の悪い笑顔に変わり。


「ふ〜ん、そういうことなんだ」


 冷静になり、状況を把握した今の俺に、チモシーとの恋愛だなんて気持ちはまったくない。

 強いてあげれば、庇護欲からくる父性愛だ。チモシーと関わるのはヤバそうだが、子供に頼られた大人は、その子供を守らなければならない。それが自然の流れってことだ。

 後は俺が自制して必要以上に過保護にならないように意識して行動すればよい。


 ミリィにあんなことを言われても、何も起きていない状況で、気持ち良さそうに眠るチモシーを起こすなんて出来ない俺は、ため息をつくしかなかった。


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