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絶対攻撃力1  作者: 桜毛利 瑠璃
第一章
12/35

12.さようなら、森の管理者

「な、なんだ。なにが起きたんだ。いきなり壁に穴が空いたぞ……あれ塞がってる」


 壁に突然穴が空いた時に、シュンがパニック気味に叫んだのもわかる。なんせ、俺もパニックを起こしていて、とにかく塞ぐことしか考えなかったからだ。


 チモシーの言葉から、明確に石小屋を狙っている相手が居ると、わかっているのに。


 俺達は顔を見合せて頷き、それぞれの部屋に戻る。石小屋の中にいるとは言え、ここはまだ魔神の守護竜の元領土だ、水風呂を浴びている時間以外は、常に武器防具を装備している。だが背負い袋とかは、それぞれ部屋に置いてある。なので、取りに戻る事にした。


 石壁に穴を空けるような相手が、弱い訳がない。こんな場所で、興に乗って体力切れを起こすくらいゲームをしていたのは、迂闊としか言えないのだが。


 ミリィを守りながら戦うのは得策ではない。なので、逃げることを前提に行動することになる。


 反省は次回に活かすべく、今は、この窮地を乗り越えることに専念すべし。


 全員が、素早く行動して、元のエントランス兼リビングに戻ると、シュンが目配せをして、壁を開けろと指示してきた。


 俺は、片手で指折りしてゼロになった瞬間に壁を素材である砂に戻した。


 するとそこには、全裸の女性が居た。その女性は深緑の緑よりも更に濃い長い髪を逆立たせて、ミリィやチモシーの魔法なんて目じゃない、大玉転がしの玉ぐらいある巨大な光の玉を振りかざしていた。


 もし、石小屋の強度を信じて籠城を選択していたなら、あの巨大な光の玉により、気がつかない内に俺達は、消滅していたのではないだろうか。


 だが、壁を開けただけなので、状況は変わっていない。逃げる場所が無い今、アレを放たれたら結果は変わらない。


 どうする、どうしたら良い。頭を働かせて、この窮地を逃れる術を考える。その時、閃いた。


 そうだ天神の使いだ。


 俺は(ワラ)をもすがる思いで、ジャンピング土下座を決めた。そして。


「美しいお方。私は、貴女程美しいお方を見たことはございません。これ程までに美しいお方になら殺されるのも本望ですが、もし私たちが、美しいお方に何か粗相をしてさまったのなら、この通り謝ります。私達は、突然の大雨に、身動きが取れずに留まっておりました。この地に私達のような愚者が居ることが原因でしたのなら雨が止んだこともあり、朝には立ち去ります。他に理由がありましたのなら、ただちに改めますうえ、何卒、何卒、この愚者に理由を教えて頂けませんか。お願い致します」


 天神の使いが、これがこいつの処世術と、バカにしたかの様に言っていたが、土下座ぐらいで生き残れるのなら、いくらでも頭を下げて見せよう。殆ど考えもなしで長台詞を吐いたが、何もしないで問答無用に殺されるよりは、よっぽどましだ。かなり強引だが(サイ)は投げた。


 後は野となれ花となれである。


 この裸の女性に、美しいお方と口では言ったが、学校でクラスに女子が20人居たとしたら、トップ5でもアンダー5でも無い、10人並の容姿の普通女子だったりする。美人過ぎるのは苦手としているので、俺の好みからすれば丁度良いが、今は関係無い。この女性が話の通じる人かどうかだけだ。


 因みに、ミリィもチモシーも美人である事は間違いない。ミリィはシュン一筋っぽいから安心して話せる。理由は察してくれ。チモシーは背が高いので身体は大人に見えるけど、精神は子供なので、それこそ安心して話せる。こちらも理由は察してくれ。30過ぎればわかるはずだ。10代のミリィにしてもチモシーにしても見ているだけで眼福となるのだから。


 おっと、土下座に集中しなければ。女性って言うのは、(ヨコシマ)なことを考えていると見抜くものだからな。


 それにしても、土下座をしていると目で見ていない分、良くわかるものだ。巨大な光の玉から放たれるのは、とてつもなく大きなプレッシャーだ。虎視眈々と俺達の命を狙っているような気がする。次の瞬間には死んでいるんじゃないかと思うと心臓が竦み上がりそうだ。


 俺の行動が理解できていないのであろう。背後の4人は、立ち尽くしたままのようで、話し声さえしない。いや。ミリィから「あわわわわ」と震えた声が漏れているか。


 ミリィとチモシーから教わり、魔法の力の片鱗を知ったばかりの俺でもわかるくらいなのだから、魔法使いの二人がこの状況に絶望するのは理解できる。


 出来るが、チモシーは何のリアクションもしていないようだ。不思議に思ったが、場を掻き回されるよりよっぽど良い気がするので土下座に集中することにした。


 何秒、何分、何十分経ったのだろうか、俺は依然として土下座中だ。すると、プレッシャーが消えた。そして。


「ふむ。理解した。貴賤の者達よ。わらわは、この森の管理者。先程まで天使とやらと魔使とやらが覇を競っていたのだが。勝敗の理由は、良くわからぬが魔使が天使を退けた様だ。この森は、わらわの地。魔使はわらわに不干渉を宣言して立ち去ったのに、異物が残っていた。わらわは、異物を排除しようと、ここに立ち寄ったのみ。だが、惰弱な猿人が脅威から身を守る為に造ったのならば、話は別だ。わらわは、森を慈しむ者、弱き者に制裁を与える者ではないからだ。好きにするが良い」


 どうやら今回も藁を掴めたようだ。俺は土下座を継続したまま。


「美しいお方よ。感謝いたします。明朝、この石小屋を撤去し、早々に立ち去ることを約束致します。」


 ここは一気に畳み掛けて、森の管理者の気が変わらない内に、立ち去ってもらおう。


「ふむ。わらわが美しいか。そなたは、見る目があるようだな。赦す。名を名乗れ」


 しまった。余計な冠なんて付けなきゃ良かった。どうする。偽名を使うか、それとも……。


「私の名はジンと申します。この度は、ありがとうございました」


 偽名を使う事にした、偽名と言っても、この世界で名乗ることにした、嘘偽りの無い俺の名だ。


「ふむ。ジンと名乗るか。理解した」


『わらわの名はアリス・タニアだ。この声は異世界人のジンと名乗る者にしか聞こえていない。吹聴するでないぞ』


 今のはファンタジー御用達の念話か。って言うか、異世界人って言うのも偽名を使ってるのもバレてるし。


「久方の客人。もう少し話をしてみたかったが魔神の守護竜が倒された今、わらわも忙しい身。だと言っても、お主達を恨む気なぞ無いぞえ。惰弱な身でよくぞ倒した。逆に誉めてつかわす。褒美に、この巣を残すことを認めてやる。ジンとやらも、また引き込もりたくなったら、いつでも来て良いのだぞ」


 もしかして思考を読まれてるのか。街の生活が合わなければ、引き込もろうと考えていたことさえも、知られているなんて。


「ふむ。別れの前に助言を一つ。2日もすれば水が引く。二足歩行の猿人も少しは歩きやすくなるだろう。では、ゆっくりしているが良い。去らばだ」


 森の管理者ことアリスさんの気配が消えたところで、俺は土下座を解いた。ほんとこれが俺の処世術になるとは、思いもよらなかった。そんな感想を胸に留めて、振り返ると。どうやら緊張の糸が途切れたようで、4人とも脱力した感じで座り込んでいた。


 そんな4人に「話の通じる人で良かったな」と気軽に言えば。


「あのタイミングでアレを撃ち込まれてたら、防ぎようがなかったぜ。ジンはよく動けたな。賢者ってスゲーぜ」


「ぬう。恐るべき相手であった」


「ジン様。私達の窮地を再び救って頂きありがとうございます。あの魔法を見た瞬間、恥ずかしながら頭が真っ白になってしまいました。一番冷静に物事に対処しないといけない私が、取り乱していた事を反省致します。賢者様なのに、魔法を使えないなんておかしいと、ほんとに賢者なのかと疑っていましたが、賢者とは魔力ではなく、智力と判断力が優れた者がなれるのですね。お見それいたしました」


 そんなに誉められると恥ずかしいじゃないか。でも、一か八かの賭けに打って出ただけだから、運が良かっただけだと思うよ。


「でも、無事に生き残れてほんと良かったよ。」


 どうやら俺も緊張の糸が途切れたみたいだ。爺さんロールプレイの事を忘れていた。しっまったと思った時はもう遅い。


「モジャ爺……じゃがないとモ爺」


 何だかんだで一番鋭いチモシーの突っ込みが入ってしまった。


「そう言えば、森の管理者と話してから、声が若々しい気がするぜ」


「ぬう。御老体でないのなら力比べを」


「ジン様。森の管理者の容姿を誉めていたのは、お爺様流のリップサービスではなくて、本気だったのですか」


 しかたない本当の事を言うか。10代の少年少女からすれば、40歳なんてオッサン通り越して、じじいだろうし。問題ないだろう。


 深夜には、まだ時間があるし、取り合えず壁を直してから話そう。


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