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絶対攻撃力1  作者: 桜毛利 瑠璃
第一章
11/35

11.小休止な日々

 時折現れる魔物は、勇者御一行が瞬殺している。俺は勇者御一行に護衛して貰い、戦いは見ていただけだった。


 その歩みは滞ることなく、順調に進めたのだが、街道まであと2日の距離の地点で止まってしまった。洞窟を出発して、10日で街道に出られる予定であったが。今日で15日目。要するに、1週間俺達は森の中で足留めをさせられている。


 その切っ掛けは雨だった。小雨や普通くらいまでの雨ならまだしも。今回降られたのは、水魔法を受けたかと思うくらいの、滝のような雨だった。だが雨ぐらいと侮るなかれ、森の処理能力を越えた雨は、極大解釈では災害をもたらす。極小でも地面がぬかるむし、岩場なら滑る。


 ぬかるんだ地を足場にして、まともに戦うことが出来る訳がない。これが進まなければならない状況であれば、命を捨てる覚悟で進むが、今はただの帰り道。急ぐ必要はないので石小屋で様子を見ていたのだ。


 その滝のような雨は、すべてを吹き飛ばすが如く風を呼び込み、耐えきれなかった地面が地崩れを起こしたであろう地鳴りが響き、地震が発生した。


 こんな天変地異な状況に、地面に置いてある程度の簡易石小屋では持たないと考え、俺は地中深くの岩盤層まで柱を伸ばして石小屋を安定させた。


 ワンルームの石小屋では狭いし、外に出られないとトイレにも困るし、女性が個室を要望してきたので、拡張することにした。


 今では5LDKバストイレ付の立派な一軒家になっている。因みに滝のように降る雨を利用した水洗トイレだったり、バスと言っても同じく雨を利用しただけなので水風呂だったりする。排水先は気にしていない。どうせ滝のように降る雨が、何処かに流してくれるからだ。


 俺からすれば満足な出来の、この石小屋だが、窓が無いから陰気臭いとか、石の扉が重たいとかクレームが付いていたりする。でも下手に窓なんて造れば突風に飛ばされてきた何かに、窓を破られるだろうし、石の扉の代わりは錬金術を駆使すれば何とか出来るが、材料が足りない。


 結果、諦めてもらったが、洞窟からやっと出られたのに、またもや穴蔵暮らしとなってしまった。


 そんな穴蔵暮らしも無駄にしないようにと「賢者様なのに出来ないって……」と呆れられてしまったが、頭を下げてお願いして、ミリィとチモシーに魔法の手解きをしてもらった。するとあっさり初級レベルの魔法を放つことが出来た。


 8年も訓練していて出来なかったこの世界の魔法は、指先から直接火や水が放てるのではなく。魔神の守護竜戦で二人が放っていた光の玉(魔力の塊)に属性を付加しなければならないと言うことだった。


 この世界にとって基本的な事を知らなかったが為に、出来なかった魔法が放てるようになって嬉しかったが、理由が理由だけに、直後は虚しさも感じた。


 その後俺は、自室に引き込もって魔法の訓練を続けていた。おかげで【××魔法の才能】を全てスキル化することが出来た。


 中級レベル以上の魔法も出来るような気もしたが、室内では危険と言われたので、自重している。俺は訓練を続けた。



 暴風の力が乗った何かが、ひっきりなしに壁を叩いている。今日もまだ嵐は続いているようだ。でもこんな状況が続いているので、俺を除いて皆は、暇をもて余しているようだ。


 トランプやボードゲームとか現代知識を利用すれば、いくらでも暇潰しさせてあげることが出来るが、異世界に行き過ぎた現代知識を使って下手に干渉しても、良いことがないのは、ネット小説を読んでいればわかることだ。だからそれは自重しよう。なので、独り身の俺には目が痛いが、ここは俺が一肌脱いで、良い雰囲気にしてやるかな。男女5人も居るし、ストレスも発散出来るだろうしな。






「はぁ、はぁ、そんな……シュン、ダメぇ。くぅ。激しすぎる。そんなに攻め立てないで」


「ぬぅ。ミリィはもう限界の様だ」


「ん……興奮」


「オラオラっ。まだまだ俺の限界は、こんなもんじゃないぜ。ミリィの弱点発見したぜ。こう言うのが弱いんだろ……ほら」


「ひぃー。なんでそんな体勢から、することが出来るのよ。相手は私。私が、か弱い女の子だってわかってやってるよね」


「勝負に男女はないんだぜ。オラオラ。ここからは本気で突くぜ。ミリィに耐えられるかな」


「そんな。私。もう。ダメー」


「ぬう。勝負ありか」


「ミリィ……逝った」


「ゴールじゃ。10対8で、この勝負シュンの勝ちじゃ。ミリィも、もう少し体力があれば勝てたかもしれんのに、惜しかったのう。」


 俺の造った、室内用のストレス発散具。お手製エアーホッケーは、大好評だ。


 石で出来た机の表面をミスリルコーティングして、1ミリにも満たない小さな穴を全体に施した。机の下は、込めた空気が穴からしか出れないように覆ってあり、チモシーに、お願いして魔法を使ってもらい円盤を浮かせる風を送っている。


 玉である円盤は、植物から取り出した繊維を固めて、ミスリルコーティングしたものだ。スマッシャーと呼ばれる円盤を弾く道具で、とにかく相手のゴールに円盤を入れれば得点となると言う簡単仕様のわかり易い遊びだ。


 わかり易いだけあって、すぐにルールを覚えてもらえた。


「ふはははは。俺の勝ちだ」


「なによ。今回は、たまたま勝っただけでしょ。私の方が圧倒的に勝ち越してるんだから」


 今までの戦績を見れば確かにそうだ。総当たりを4回やって。


シュン:3勝10敗

バロン:2勝6敗

ミリィ:12勝1敗


 勝敗が合わない?


 それは最初の総当たりで、シュンとバロンは2勝2敗の五分。いち早く両サイドの壁を使ってのカウンターが有効と気がついていたミリィが、8連勝で優勝した所で、丁度夕飯の時間だし、片付けようとしたのだが。


 ミリィに一度も勝てなかったシュンから、泣きが何度も入って、追加の5連戦。体力切れしたミリィに対しても、容赦なく怒涛の攻めを見せた、シュンが漸くミリィに勝ったのだ。


 因みに俺とチモシーは、練習の時点で、三人の弾く円盤のスピードに着いていけず不参加。シュンと言い、バロンと言い、ついでにミリィも、あいつらの動きは何なんだ。残像しか見えないぞ。シュンの弾いた円盤なんて軌跡しか追えない。勇者チームは伊達じゃないってことか。


 俺は目の訓練を兼ねて、観戦に徹して。チモシーには、風魔法の制御に集中してもらっていた。


 ミリィに黒星を点けて、満足したのかシュンはミリィの挑発には乗らなかった。ミリィも疲れきっていたので、今日のゲームは終了になった。なので、さっさと素材に戻して片付けた。


 あの4人は気が付いていない様だが、このエアーホッケーでミスリルコーティングが、とんでもなく有用だと知ることが出来た。なぜなら、あんなに酷使されたのに、台も、円盤も、スマッシャーも、へこみどころか傷一つ付いていなかったからだ。


 手持ちのミスリル材は僅かだが、使い勝手も良いし、いざと言うときに重宝しそうだ。その事に俺はほくそ笑みながら、疲れきっているミリィに代わり、夕飯の準備を始めた。


 お前ら、今夜は肉無しの野菜尽くしだぜ。野菜の旨さを、とことん引き出してやるから覚悟しな。




 野菜尽くしの夕飯が終わり、それぞれが寝るために、部屋に戻ろうとした時、チモシーが急に立ち止まって周囲を見回していた。


 どうしたんだと声を掛けると。何時もの短文で。


「雨……止んだ」


 そう言われると、風に吹き飛ばされて四六時中、壁をノックしていた何かの音がしていない。少なくとも風は止んだのだろう。でもチモシーは雨が止んだと言っている。


 なにで雨が止んだのがわかったのかと聞いたら。


「雨……わかる」


 何だかわからないが、チモシーにはわかるらしい。


「風……集まってる」


「ん?……来る」


 その瞬間、ただ室内に居るだけだと言うのにも関わらず、耳鳴りがし始めた。


 これって気圧が変わったって事か。そしてチモシーの言葉を、そのまま受け取れば。この石小屋がピンポイントで狙われた事になる。


 石小屋の強度を信じて無視するか、状況を見るために外に出るか、瞬巡している間に。


 轟音と共に石小屋の入り口である壁に、穴が空いていた。


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