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絶対攻撃力1  作者: 桜毛利 瑠璃
第一章
10/35

10.洞窟から出られても、やっぱり

 交渉の結果、俺は8年振りに日の光を浴びられる日々を得ている。異世界だからと言って、お日様が二つあるとか、色が白いとか、逆に赤暗いとか、そんな事は無く、元の世界と同じお日様だった。夜になっても変わらない、月と見慣れた星座を見ることが出来た。この世界が異世界だと認識していなければ、元の世界の秘境に誘拐されただけだと思ってしまいそうだった。


 竜との戦いの後、俺は幾つかの条件を飲んでもらった。


 簡単に言えば、助けた上に、魔神の守護竜を倒した名誉と死体を譲るから、治安の良い場所まで護衛した上で情報と(カネ)をよこせって話だ。


 もちろん、命令口調で強要した訳では無い。4人組も、目的のひとつである、魔神の守護竜が守護していた宝玉を手に入れることが出来たので、人の居る地域に戻ると言うから便乗するだけだ。


 情報と言っても、国家機密に関わるような情報なんて要らないから、帰りの道すがら、ごく一般的な事を雑談で聞くだけである。でも、それだけでも、この世界のことをまったく知らない俺には、竜の死体より価値がある話しとなった。


 あと(カネ)? まったくの無欲だと信用して貰えないだろうし、でも価値がわからないから、街で3ヶ月くらい生活出来るくらいの金と求めたら、変な顔をされた。


 もしかして高すぎたかな? 異世界生活事情がわからないから、なんとも言えないけど。街に居て、3ヶ月で何とかならないなら、安全そうな場所を教えて貰って、おとなしく山籠りでもしてよう。



「ジンさん。今日は、この辺りで夜営するから、アレやってくれ」


「ふむ、任せるんじゃ」


 爺さんロールプレイが、すっかり板に付いてきてしまった。ちなみに俺はジンと名のることにした。初めから偽名を使うつもりだったから、幾つか名前の候補を考えていたのだが。出会った当初から『爺さん』と呼ばれまくっていたので、響きが似ているジンとすることにしたのだ。


 因みに今の見た目は、20台後半から増え始めた、父親譲りの若白髪が目立つ伸ばしっぱなしの黒髪だ。腰まで届いている。髭にも白いものが目立っていて、こちらはお腹まで着ていたりする。スリムと言えば聞こえは良いが、単に痩せぎすだったりする。


 この4人組は、勇者様御一行だから、洞窟から出たら街まで魔法で一っ飛びかと思っていたが、そんな魔法は無いそうだ。なので朝からずっと歩きっぱなしだ。だが、まだ森から抜け出せないでいる。さすが、魔神の守護竜が居るような洞窟。近くの街道に出るまで10日くらい掛かるそうだ。逆にそんな場所を良く見つけた出したと、感心してしまった。



 ここいらで4人組。もとい勇者御一行の事を整理しよう。


 まず始めに、気安く話し掛けてきたこのイケメンの男は、稲妻の勇者ことシュンである。やや長めの茶髪を後ろで纏めている。背は185センチくらい、体操の選手の様な体躯だ。


 防具は鎖帷子に青色の部分鎧だから、機動力重視の軽戦士タイプに違いない。武器は両手持ち可能なバスタードソード。年齢は16歳。猿人族。



「ぬう。いつ見てもお見事としか言えぬな」


【石細工術】スキルで、長方形の石小屋を造ると、大男であるバロンが感嘆の声を上げた。


 バロンは、赤髪をソフトモヒカンにしており、背は2メートルを越えていてプロレスラーの様な体躯の持ち主だ。


 防具は赤色の全身鎧に、同じく赤色の大盾。守備力重視の重戦士タイプで間違いない。武器はロングブロードソードと言うべきか。重そうな武器なのに、片手持ち用だなんて使用者を選びそうだ。年齢は18歳。猿人族。


「ジン様。落ち着いた所で、野菜とハーブを頂けますか」


 求める野菜を【食物生産】スキルで出して手渡すと、さっそく夕飯の準備を始めたのはミリィだ。


 ミリィは、金髪に見えるが、黄髪だと言う。魔力の質により色が違うらしい。


赤髪:火

青髪:水

黄髪:土

緑髪:風


 茶髪のシュンは色んな魔力が混ざっている時に発現する色の一つとのこと。


 俺の黒髪も、魔力が混ざっている時に発現する色だが、混ざりすぎているらしく個々の力に難があると言う。


 何にしろ髪の色で、得意魔法の傾向がわかると言うのは良いことだ。


 少し脱線したが、ミリィは土魔法を使う魔法使い。長い黄髪を後ろでお団子にしている。ゆったりとした法衣を着ているので良くわからないが、身長170センチくらいのスリムな体躯っぽい。


 防具はアイボリー色の法衣を着ているだけにしか見えないが、特殊な繊維を使っていて、並の革鎧よりは防御力が高いらしい。武器は、長めのロッドと長弓。年齢は16歳。猿人族。


「夕飯……サラダ」


 最後に夕飯にサラダを要求しているのが、チモシー。


 チモシーは、風魔法を使う魔法使い。緑髪を伸ばすに任せたような髪型で、掻き分けて貰わないと表情が見えない。超スリムな体躯で身長はミリィより少し高い175センチくらい。


 防具は木製の部分鎧を茶色いマントで覆っている。髪の毛が緑なので、体躯と相まって、柳の木にしか見えなかったりする。武器はロッドに見えるが刺殺武器が仕込まれていたりする。年齢は8歳。天魔神族。


 あの身長で8歳って意味がわからないけど、異世界だからか? その上、天魔神族とは何だと聞きたい所だが【能力閲覧】スキルでこっそり観ただけだから、どちらも聞きづらい。それに知ってしまったら、何故かとんでもない事に捲き込まれそうな気がする。


 まぁ、異世界転移に捲き込まれてる時点で、とんでもないことだけど。更に捲き込まれて混沌とするのは避けたいって事が本心だったりする。


 そんな勇者御一行は、冒険者ギルドで、ワンピースと言うチーム名で登録されているという。意味は『求めるのは平和。ただ一つ』だそうた。勇者御一行らしい意味と言ったららしいけど。


 この世界にも普通にワンピースの服があるらしいから、紛らわしい気がするのは俺だけか。


 ちなみに俺は167センチだから、この中で一番背が低かったりする。日本人の平均身長だから、俺がことさら低いわけではないぞ。あとあえて言及しなかったけど、4人とも顔は小さいは、足は長いは、とんでもない奴等だ。日本人の平均的な俺と……比べたら負けだと思うから比べないぞ。


 それよりも残念なお知らせだ。俺は8年間の野菜生活のせいで、肉が食えなくなっちまったんだ。いや食えないって言うのは正確じゃないな。この世界の肉を初めてくちにいれる時に感じた脂の薫り、噛み締めた時に染み出す肉汁の味、元の世界で食べた肉に比べれば硬いし、獣臭が強いけど十分に旨かった。だが、肉が胃に入った時に身体が拒否反応を起こしたんだ。詳細は省くが、リバースしたと言えばわかるだろう。


シュンには『爺さんには肉は重かったか』と言われるし、バロンには『賢者は霞を食べると言う言い伝えが……』ってそれは仙人だろと突っ込みたかったが、新参ものゆえ自重していれば。チモシーに『ん……好き嫌いダメ。大きくなれない』と長文を頂き。ミリィには『この辺りの植物は、魔神の守護竜の強い魔力の影響で、食に適さない筈なのですが、何を食べていたのですか』と冷静に突っ込まれてしまった。


 栄養を補給しなければ生き物は生きられない。なのに、肉を食べられないのは証明してしまったし。この辺の植物を食べていたなんて言えば、実際食べた時に、嘘をついたとすぐにバレてしまう。これは隠しきれないと考え。1日に少量だが野菜を産み出すことが出来ると、秘密にしておきたかったカードを切ってしまった。


 この事に喜んだのはチモシーだ。肉はあまり好きでは無いが、こういった場所の植物は食べられないことが多く、街で買い貯めたとしても植物はかさ張るし普通に日持ちしない。なのでしかたなく食べているのだそうだ。


『カッカッカ。ワシに一生着いてくれば、野菜食べ放題だぞ』と、誰にでも気軽に言えるようなら、俺はきっとハーレムを築き上げることが出来るだろう。だけどそんな度胸もないヘタレだし。天魔神族なんて言う、爆発したらなにが起こるかわからないフラグを懐に入れられる器量もない。


 そんなこんなで、今日も洞窟に居た時と同じくサラダを食べる俺であった。


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