表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対攻撃力1  作者: 桜毛利 瑠璃
第一章
1/35

1.さようなら、この世

『まもなく、快速電車が通過致します。危ないですから黄色い線までお下がりください』


 踏切の遮断機が降りていたので、電車が来ると思い、慌てて走ってホームまで来た俺であったが。次に来る電車は快速電車だった。まったく、せっかく走って来たと言うのに意味がなかったようだ。


 この駅は、この路線で唯一、快速電車が通過する駅。俺が学生の頃は、もっと通過する駅があったのだが、都心のベットタウンとして駅の周りにマンションが増え、次々に停車するようになったのだが、とうとうこの駅だけ取り残された。


 鉄道会社さんよ。どうせなら、この駅も快速電車を停車させて、各駅電車路線にしてしまえば、管理とか楽になるんじゃないかい。と思うのだが。快速電車である15両編成の長い電車を停めるには、駅のホームが短すぎるために物理的に無理なんだとか。


 まぁ、そんな話は、どうでも良い事なんだけどね。


 時計を見ると、時刻は22時05分。思わずため息が出てしまったが、気を取り直して、次の各駅電車が来るまでの20分を有効活用するべく、ホームの隅っこで携帯ゲームをすることにした。


 このゲームは、ファンタジー系武器作りRPG。錬金鍛冶屋に素材を提供し、求める性能の武器が出来るまで何百本も作ってもらい。更に、その武器を限界まで鍛え上げた上、特殊素材を使用して更なる性能アップを目指し、一般市民を守るゲームなんだけど。


 守るのは、国や世界ではなく村。


 何故なら、魔物から守ってくれと言ってくる依頼主は村長さん。


 セリフ欄に村長と名前が出てくるので、村の長であると思っているが、可能性は低いが、もしかしたら村長(ムラナガ)さんなのかもしれない。そんな妄想も有りだろう。


 そして、襲来してくる敵は、魔物だけではなく。悪魔や怪物はもちろんの事、四聖獣や過去の英霊など撃退しても良いのか判らないような敵まで襲来したりする。


 どんなに考えても、ただの村を、そんな大物達が襲う理由が判らない。だが襲ってくることは間違いない。なので襲来してくる敵に合わせた最強武器を用意して仲間と一緒に撃退していくゲームなのだが。


 そこまでして守るのは、やっぱり村ってところが、シュールで気に入っている。



 それにしても、快速電車が通過するとアナウンスがあってから、随分と間があいたな。


 まさか手前の踏切で事故でも発生したか? だとしたら最悪だ。下手をすれば1時間くらい待たされることになる。


 そんな事をゲームの画面を見ながら考えていたら、目の隅に光が見えた。


 どうやら事故ではないみたいだ。ただたんに構内放送が早かっただけみたいだ。


 それでも私的には、待たされていた気がしていたので、漸く快速電車が通過するのかと思ったが、何かおかしい。なぜなら、電車の前照灯なら強い光の筈なのに、ぼんやりとした光だったからだ。


 疑問を感じて、ゲーム画面から視線を横に向けると、そこには光るおばさ……おねえさんがいた。


 まぁ。そう心の中でも言い直した俺も、32歳。立派なおっさんだ。長年の経験で、どんなに歳上でも、女性をおばさん呼びしてはいけないことは熟知している。


 なんて、落ち着いて考えているけど、実は慌てている。なにせ、光るおねえさんが「この光は何なんザマス。動いても付いてくるザマス」とパニック寸前の体で、俺に近付いて来ていたからだ。


 光るザマスおば……おねえさんが迫ってくれば、光ってなくても誰でも慌てるだろ。しかも、俺の立ち位置はホームの隅だから、これ以上逃げることも出来ない。


 そして、俺がホームの隅で電車待ちしている事に気がついたのか「そこのおっさん。この光は何なんザマス。言うザマス」と、駆け寄ってきた。


 おばさ……おねえさんからおっさん呼びされてしまった。失礼な奴だ。これからはザマスおばさんと呼んでやろう。


 だからと言って、心の中でザマス、ザマスと、呪文のように唱えても、とうぜん何も起こらない。


 でも少しだけ落ち着く事が出来た。出来たが、何ザマスと聞かれても、知らないし判らない。よくよく見ると、ザマスおばさんの全身が光っているのではなく。足元から周囲2mくらいの範囲で光の輪がたくさん見える。


 まさか。これってもしかして魔方陣か。


 普段の俺なら、そんな事を思い付きもしないが。今現在、ファンタジー系のゲームをしている最中であったからかもしれない。反射的にそう思ってしまった。


 そう思った事を自分自身が受け入れた瞬間、背筋が凍った。なぜなら、この魔方陣から得体の知れない雰囲気を感じたからだ。


 その光を見ているだけで恐怖を感じ、更に気持ちが悪くなってくる。


 こんな時、機敏に動ける胆力もない俺は、あれこれ思考は進んでいても、身体はまったく動けずに、ただただ茫然と立ち尽くすだけだ。



 ぼんやりと光っていたザマスおばさんに、後光が差し、強烈な光が眼を焼いてきた。魔方陣が発動しようとしているのか。いや違う。これは快速電車の前照灯か。


 眩しさに、つい眼を瞑ってしまった瞬間、駆け寄ってきていたザマスおばさんに突き飛ばされた。って言うか、体当たりを受けてしまった。


 体当たりされるなんて考えてもいなかった状況で、眼を瞑ってしまったのだから。とうぜん、踏ん張ることなんて出来ない。反動を吸収するために、一歩、二歩と後ずさる。


 これ以上後ずさるとホームから転落する。そう思った瞬間、身体をなんとか180度回転させる事に成功した。この事によりホームの端で転落を耐えることが出来たのだが、あと半歩分の勢いを吸収できなかった為、上半身は、前のめりにホームから出てしまった。


 転落を耐えられたのだから、助かったと考えたのは早計であった。なぜなら、駅を通過する快速電車が来ている時に、ホームから上半身だけでも出ていると言うことは……。


 走馬灯って、必ずしも見られる物ではないんだ。思ったことはそれだけであった。


 次の瞬間、強い光を感じると共に、強い衝撃を受けて意識を失ってしまった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ