天使が僕にくれた最後のチャンス
俺は、今日、死ぬらしい。
10月4日。
今、目の前にいるおっさんにそう言われた。
とりあえず、こうなった経緯を話そうと思う。
俺は、ニートだ。名前は佐藤 孝
毎日、部屋にこもってゲームをしている。
そして、10月4日。今日はたまたまゲームが発売日なので二ヶ月ぶりに外に出ることにした。
駅に向かう途中のことだった。
下を向きながら歩いていたので何かにぶつかった。
見てみるとサングラスをかけたおっさんだった。
「あ、すみません」
「今日、あなたは死にます」
「は?」
「私は天使です。あなたに神様からの伝言を伝えに来ました。あなたは死にます。今日」
「おっさん、ぶつかってきたからってそーゆーのはよくないんじゃないか?」
「なにをいってるんだ、佐藤孝。神が決めたことにはさからえんぞ」
「嘘だろ?天使ならもっとかわいかったり、そう!翼とか、頭の上にわっかとかさ!」
「それは、人間が作りだした妄想にすぎない。そんなに分かりやすい格好してたら、天使だとバレバレじゃないか」
「で、でも!そんなの信用できるわけないだろ!おれの人生は…まだ、始まってないんだよ!おれの人生はこれからなんだよ!だから…もうすこし、待ってくれても…」
「うるせーよ、『おれの人生はまだ、始まってないんだよ』?ちげーんだよ、てめーの人生、もう、終わってんだよ。お前のゴミみたいな人生は…ゴミは…消えろ」
この天使はヤクザみたいに怖かった。
「そ、そんなこと!おまえには関係ないだろ!」
俺は走って電車に乗った。
電車のなかで俺は窓にうつる自分を見ていろいろ考えていた。
俺の今までの人生…
中学二年生の時から、外に出るのはゲームが発売される日だけ。そんな生活を5年間続けてきた。
俺だって引きこもりたくて引きこもってるわけじゃない。
ただ…
いろいろ考えているうちに秋葉原についた。
俺は目的のゲームをかって、速く帰ることにした。
帰る途中、さっきの天使とあった場所に人が集っていた。
俺は何事もなかったように通りすぎようとした。しかし、
「おう、佐藤じゃねぇか?久しぶりだな?」
中学生の時の友達、加藤だった。
「なんか、そのへんのばあちゃんが少年が一人で叫んでてうるさいってクレームを警察にいったらそのおばあちゃん死んじゃってさ…その、通報との関連を調べてるんだってさ」
「な、なんてさけんでたの?」
「『おれの人生はこれからなんだよ!』とか、そんなことらしいよ?」
おれか…
「まぁ、そんなこと、お前でも言わないよな?お前の人生、終わってるし!あはは」
「うるせぇ!」
俺は走って家に帰った。
家につくと俺は買ってきたゲームを開けて、はじめた。
現在、12時。あの天使が言うことが本当ならば俺はあと12時間後に死ぬ。
「こんなことしてるのかよ…やっぱお前終わってんな」
駅に向かうときに聞いた声だ。
天使は俺の家にいた。
2時間後、俺はゲームを完全にクリアした。
「さて、天使、いるか?」
「あぁ、いるぜ?」
「お前はなぜ、俺に俺が死ぬことを教えたんだ?」
「お?すこしは信じる気になったか?」
「さっきのな、ばあちゃんが少年が一人で叫んでるって…お前の姿は…誰にも見えてないんだろ…なら、信じるしかねぇだろ」
「そうか…で、俺がお前に教えた理由か?それは、お前が考えろ」
「ゲームをしながら俺なりに考えたよ、神様はおれに最後にもっといい人生を送ってほしいんじゃないかってね。だから俺は俺のやりのこしたことをやるよ」
「そうか、なら、そうすればいい」
俺は外に出た。
ゲームを買いにいく以外の目的で外に出るのは5年ぶりだ。
俺は自分の通っていた中学へと向かった。五年前から俺の時計はここで止まっている。
あのとき俺は…
いや、思い出すのはやめよう。
「あ?孝じゃねぇか?」
中学の時クラスメイトの神谷だ。
「よぉ、ブサイク好きの孝!」
「うっせぇ!」
嫌でも思い出した。5年前、俺の身に降りかかった不幸を。
それは…
5年前の夏のことだ。
夏休みの陸上部の部活合宿のよる。布団のなか。よくありがちな恋ばなを神谷としていたのだ。
「なぁ、孝。お前、好きな人とかいないのかよ?」
「いても、言わねーよ」
「何でだよ、それじゃ、つまんねーだろ?じゃ、俺の好きな人言うからさ」
そういつて神谷の好きな人を聞いた。
あれ?誰だったけな?
「はい、次、お前の番!」
「俺さ、同じクラスの沼田が好きなんだよ」
「えー?あいつ?あのブス?」
「ブス?」
「男子の間では結構有名だぜ?沼田夏奈子はブスだって」
「うるせーよ、おれにはかわいく見えてしょうがないんだよ!」
「まじかよ、あきれたわ」
ここまでは普通の恋ばなだった。
夏が終わった2学期。始業式の9月1日。最悪だった。
朝礼が始まる5分ほど前だった。
神谷とその仲間たちが朝礼台に上がる。
「みなさーーん!中学2年生のA組の佐藤孝は沼田夏奈子がすきでーーす!」
いきなり、こんなことをいい始めたのだ。
「え?沼田夏奈子ってあのブス?」
「結構、見た目エグいよな?」
「ありえないわー」
そんな声がいろんなところから聞こえてくる。
その時、俺はその場から逃げ出した。
それ以降、俺は部屋を出るのはゲームを買いにいく時だけだった。沼田夏奈子が今、どうしてるのかはわからない。
あれ?俺はこの記憶に違和感を覚えた。
ぶさいくって言われてた沼田夏奈子は何をしていたっけ?
こんとき、泣いてた?落ち込んでた?あーーー思い出せない。
俺は神谷に聞いた。
「なぁ、沼田、どうしてる?」
「え?」
「沼田、沼田夏奈子」
「あー、沼田さ、沼田?あんなブス知らねーよ」
「そうか」
時計は3時を指している。
時間がない。
俺は沼田の家に向かって走った。
「お前、足、速いんだな」
天使が現れた。飛んでる。
「うるせー!そんなこと言うなら、ワープさせてくれてもいいだろ?」
「いいよ?でも、3回までだよ?」
「頼んだ」
俺は沼田の家までワープした。
ピンポーン
「佐藤です!」
「家、間違えてませんか?」
インターホンの声が言う。
「沼田さんですよね?」
「いいえ、香川です」
「失礼しました~」
俺はしばらく黙って
「おい天使」
天使をよんだ。
「なんだ?」
「てめー、ここちがうじゃねぇか」
「でも、お前が来たかったのはここだろ?そもそも、人になんかしてもらったらありがとうっていうんだろ?」
「てめーは人じゃねぇ。それに、俺のしてほしいこととずれてる!」
「わかったよ?沼田の家だろ?まってろ」
沼田の家は今、埼玉にあるらしい
埼玉についた。
「今度こそ、沼田の家だよな?」
「間違えない」
ピンポーン
「沼田です!」
返事が来た
「佐藤です」
「…孝?」
「その声は…夏奈子?」
「何よ、今さら」
「話したいことがある」
「…あがって」
5ねんぶりに沼田夏奈子をみた。
この前よりも可愛くなっていた。いや、美しい。
このとき、さらに、違和感を覚えた。
ほんとに、ブサイクだったか?
「話って何よ」
「あのさ…5年前さ」
「5年前?」
「そんとき、おれ、お前のこと好きだったんだわ。その…今さらかもしれないけど付き合ってくれない?」
「今さらねほんと」
「だめか?」
「いいわよ、べつに」
「ありがとな。それとな…」
俺は今日、自分が死ぬことを言った。天使のこと、神がどーたらとか
「そっか、じゃ、今すぐデートいこっか?」
俺は夏奈子に連れていかれるままに言った。
ついたところは大きな池のあるショッピングモールだった。
まずはゲームセンターに向かった。
プリクラ、UFOキャッチャー、いろんなことをした。
そのあと、フードコートへ言った。
このとき、18時だった。
そして、20時から映画をみた。
二人でポップコーンを食べたり幸せだった。
映画終了時点で22時を迎えていた。
あと、2時間で俺は死ぬ。
「孝?大丈夫?」
「あぁ」
「ふん、あと二時間だぞ」
天使が言う。
「なぁ、夏奈子」
「ん?」
「学校に行かないか?」
「今から?間に合うかしら」
「天使、頼む」
「あいよ」
俺たちは母校へと飛んだ。
よるの学校は不気味なものではあるが俺にはただ懐かしいものでしかなかった。
俺たちは校庭に出た。
俺は朝礼台に上がる。
「夏奈子!」
俺は叫ぶ。
「夏奈子!俺はお前が好きだ!」
「孝…ごめん…」
「え?」
「私…あなたを試してたの」
「え?」
「本当に私のことが好きなら私がブサイクでも、私のこと好きでいてくれるよねって。だから、神谷とか加藤とかあと、女子全員使って試してたの。答えは本当に私のことが好きだったみたいね…ごめんね。そして、ありがとう」
「じゃ、俺はそんなことに5年間も…」
「そう、あなたは私を5年間愛してくれたわ」
「ふざけんな!返せよ!俺の!5年間!」
「孝…」
「おい!天使!聞こえるか!」
「あぁ、」
「おれ、本当に死ぬのか?」
「あぁ、神が決めたからな」
「俺のこの5年間がゴミだったから?」
「神はそーゆー判断をしたな」
嘘だろ?
時計は23時58分をしめしている
「孝。誰と話してるの?」
「見えないのか?ここに、おっさんがいるだろ!?」
頼む!見えてくれ!
「頭おかしくなっちゃったんじゃないの?」
やっぱり、見えていなかった。これで確信した。こいつは本物の天使だ。
「やだよ…死にたくないよ…俺、今日、生きるのがこんなに楽しいと思わなかった…俺、もっといきたい!なぁ、どうにかならないか?」
「残念だな。きづくのが遅かったんだよ」
「やだ!いきる!」
「ごちゃごちゃうるせーな。この五年間、ゴミみたいな生活をしてたのはお前だろが!!お前が自分の勝手な思い込みで勝手に行動した。その罰だ!もっと回りを見ろ!感じろ!気づけ!絶望の淵にずっと立ってないで希望を見つけ出せ!それが出来なかったお前はゴミだ!生きる価値なんてない!与えられたものに幸福を見いだせ!新しいものを求めるな!」
「生きたいよ」
目の前が暗くなった。
10月5日。
0時00分。
「孝?」
夏奈子は笑って言った。
「ありがとう」
頬にそっとキスしてくれた。
「孝。お疲れさまだな」
天使の声だ。
「俺はお前に最後のチャンスを与える。お前は生きる素晴らしさを見いだした。合格だ。孝、人間はな死ぬ間際に大切なものに気づく。さて、ここでお前に選択肢を与えよう。1.俺と天使をやる。2.このまま冥界に落ちる。さぁ、どちらを選ぶ?」
「選択肢…」
「俺もな昔、ヤクザやっててよ。まぁ、弱いもんいじめてたんだ。でな、天使が現れたんだよ。あなたは死にます。ってね。そして、俺は大切なものに気づいたんだ。そして、これを他の人にも伝えたい!だから、天使になったんだ」
「俺は…」
俺は自分なりの選択をした。
10月4日。天使の日。俺にとって、最高の日だった。
「今日、あなたは死にます」